不動産系スタートアップの登竜門「Onlab Resi-Tech」第一期を振り返る

- デジタルガレージの不動産関連スタートアップ育成プログラム「Open Network Lab Resi-Tech」が第二期の募集を開始。
- 同プログラムを通して成長したスタートアップの事業や最新動向を紹介。
- 第一期参加スタートアップと大手企業との共同で実施された実証事業から、今後の不動産テック業界のトレンドを予想。
新規参入が続き、ますます盛り上がる不動産テック業界
「不動産テックカオスマップ」の変遷からも分かるように、ここ数年で不動産テックサービスを手掛ける企業は着々と増加。起業家やそれを支援する企業や団体からも注目される領域へと成長しています。
以前SUMAVEでも取り上げた、デジタルガレージが手掛ける不動産関連スタートアップを対象とした育成プログラム「Open Network Lab Resi-Tech」も2019年8月1日に第1期Demo Dayが開催された後、第二期(2nd Batch)の募集を開始しています(2020年4月現在)。
国内の大手不動産・建設・ライフライン業界を牽引する優良企業と連携し、人々の生活を豊かにするプロダクトやサービスを手がける全ステージの有望なスタートアップの支援とオープンイノベーションを推進する同プログラムには、三井不動産や東京建物、野村不動産ホールディングスといった業界を代表する大手企業がパートナーとして参加。業界のキーマンとのパイプを作り、一気に成長したいと考える不動産・建築系のスタートアップにとって魅力的な挑戦の場となっています。
また、こちらで取り上げた置き配サービス「OKIPPA」を展開するスタートアップYperは同プログラム第一期に参加していました。同社は2020年1月24日に環境省の「令和元年度CO2 排出量削減に資する新たなラストワンマイル配送モデル調査」の実証実験に採択されたことを発表するなど躍進が続くスタートアップ企業であり、今後もOpen Network Lab Resi-Techを通じて優良な新規企業が発掘されていくことが予想されます。今回は同プログラムを通じて脚光を浴びたスタートアップや、パートナー企業とスタートアップが共同で実施した実証事業について見ていきましょう。
注目スタートアップの最新動向
「Open Network Lab Resi-Tech」第一期では、AI不動産管理サービス「管理ロイド」を運営する株式会社THIRDがコーポレート部門最優秀賞を、オフィス間取り図の自動VR化サービス「AutoFloor」を展開するBULB株式会社がシード部門の最優秀賞を獲得しています。ここでは業界大手のパートナー企業から高い評価を得た上記2社と、同じく第一期プログラムに参加していた注目スタートアップ、宅配型トランクルーム「sharekura(シェアクラ)」を運営するデータサイエンスプロフェッショナルズ株式会社の事業内容や最新動向をご紹介します。
管理ロイド(株式会社THIRD)
従来紙で行なわれていた不動産管理業務を効率化するサービス。点検や検針の現場では、メーターを撮影するだけでAIが点検内容をサポートしてくれるスマートフォンアプリを利用できます。万が一異常が発生した際も、アプリを通じて動画撮影や異音を録音し、不具合報告書も自動で作成される仕組みを提供。
またPC上では、自動化された各作業の履行管理や進捗管理の確認、ボタン一つで報告書の出力といった機能を利用可能。各種報告書の作成やスケジュール管理、不具合内容の確認・転記や報告書のPDF化といった単純業務や紙ベースの管理による煩雑な業務を自動化することで、作業の立ち会いや修繕工事の提案といった本来の管理業務に注力できるよう支援するサービスです。
管理ロイド【出典】「管理ロイド」サービスサイトより【URL】https://third-inc.co.jp/product/kanriroid/
AutoFloor(BULB株式会社)
オフィスの図面を読み込むことで、そのオフィスのVR空間を自動生成するサービス。CADデータの図面だけでなくPDFや画像ファイル、手書きの図面も認識。専用のオンラインエディタを使い、自動生成された3D空間上に自分で家具やオフィス用品を配置したり、自動的に提案されるレイアウトパターンを選択したりすることも可能です。
AutoFloor【出典】「AutoFloor」サービスサイトより【URL】https://autofloor.jp/lp/service/
契約を決める前に、オフィスのレイアウトやデザインを手軽にシミュレーションできる機会を設けることで、入居者側には検討機会の拡大や成約までの期間短縮、仲介業者側にも内覧などの手間を短縮することによる仲介コストの削減、仲介スピードの向上という価値を提供するサービスです。
sharekura(データサイエンスプロフェッショナルズ株式会社)
月額保管料1箱100円から利用可能な宅配型トランクルームサービス。スマートフォンやPCで預けた荷物をクラウド管理できるため、まるで自宅クローゼットの延長であるかのような使い心地を実現しています。宅配型のため、荷物を運搬するための自動車を所有する必要がなく、荷物を取り出す際は自宅以外にも配送することができるので、出張先やレジャー施設などでも利用可能。最近では2拠点・他拠点生活者の間でも活用されているそうです。
sharekura【出典】「sharekura」サービスサイトより【URL】https://sharekura.com/
また、同社は2020年1月14日、イタンジ株式会社との業務提携を発表しています。イタンジ提供するセルフ内見型お部屋探しサイト「OHEYAGO(オヘヤゴー)」とsharekuraの提携によってスムーズな引っ越しをサポートし、年々増加する春の引っ越しシーズンにおけるトラブル解決に向けた取り組みを後押ししました。
大手×スタートアップによる実証事業から見る今後のトレンド
ここまで主に各企業やサービス単体に注目してきましたが、Open Network Lab Resi-Techでは2019年8月1日より、大手不動産・建設・ライフライン企業7社とスタートアップ5社の共同による実証事業を実施していました。各企業・団体の連携図と、各実証事業の概要は以下の通りです。
実証事業における各企業・団体の連携図【出典】株式会社デジタルガレージのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000156.000023393.html
・IT活用による集合住宅等の不在時宅配受取の検証(Yper株式会社)
オートロック集合住宅等での宅配について、不在時の受取手段を提供しサービスの需要および利用満足度を検証する。・先進技術を用いた、高齢者介護の支援の可能性検証(Origin Wireless Japan株式会社、Tellus You Care, Inc.)
電波によるセンサリング機器を用いた高齢者の健康状態モニタリングによる、高齢者介護の質向上と効率化の可能性を検証する。・先進技術を用いた、施設の在籍状況モニタリングによるセキュリティ対策の可能性検証(Origin Wireless Japan株式会社)
家庭用Wi-FiとAIを用いた夜間のオフィスの在籍状況モニタリングについて、セキュリティ対策としての可能性を検証する。・建物管理業務における点検および記録報告等の効率化の検証(株式会社THIRD)
業務支援ITツールの導入により、不動産アセットの管理にまつわるコストが軽減されるか検証する。・小規模トランクルームサービスの需要及び利用満足度の検証(データサイエンスプロフェッショナルズ株式会社)
段ボールひとつから利用できる独自集配型トランクルームサービス(収納サービス)について、宅配BOXを備えた集合住宅居住者の需要及び利用満足度調査や、シェアハウス居住者の、サービスの需要及び利用満足度を検証する。
Open Network Lab Resi-Techを運営するデジタルガレージとパートナー各社は、複数のパートナーが同時にスタートアップとの実証実験を進めることで、実証事業で確認する仕様の標準化に向けたリードタイムを短縮。ビル管理業務の人手不足や高齢者の見守り、再配達問題といった、不動産業界共通の課題解決が焦点とされました。
今後もこうした既知の課題解決、特に見守りや再配達のような業界外からも社会課題として広く知られる問題の解決を図るサービスに注目や支援が集まっていくと考えられます。SDGsやスマートシティ、地域コミュニティの醸成といった視点が入った事業も大手企業の目を引きやすく、協業のチャンスが増えていくかもしれません。不動産業界でビジネスの芽を探している起業家だけでなく、不動産業界・不動産テック業界のトレンドを追うためにも、第二期プログラムの動向を興味深く見守っていきたいところですね。