AIで契約書を審査?! レビューサービスとは? 不動産業界への影響、ガイドラインを解説
AI契約書審査とは?
AI契約書審査とは、AIを利用して締結前の契約書の漏れやリスクの高い文章などをチェックするサービスです。AI契約書レビューとも呼ばれています。
AIを活用した契約書の審査は、弁護士法72条違反にあたる恐れがあることが指摘されていました。
弁護士法第72条では弁護士資格を持っていない者(または法人)が、報酬を得るために契約書作成を含む法律事務を行う、トラブルの仲裁や代理人として交渉することなどの「非弁行為」を禁止しています。
弁護士法第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
出典:弁護士法:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC1000000205
2022年10月には、日本経済新聞で「政府は士業支援サービス企業の照会に対して『違法の可能性が否定できない』と回答した」と報道されました。
しかし、2023 年8月に法務省は「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」という資料を公表しました。
同資料では「サービスによっては『非弁活動』に当たるかが問題となるが、企業の法務機能向上を通じた国際競争力向上や、契約書審査やナレッジマネジメント(知識やノウハウを共有して活用すること)における有用性等に鑑み、弁護士法72条の趣旨を踏まえつつ、同条とリーガルテックとの関係の予測可能性を高めるため、本ガイドラインを作成」した旨が記されています。
【画像出典】法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.moj.go.jp/content/001400674.pdf
サービスの導入を検討している場合、公表されたとともに法務省のガイドラインに沿った運用を心がけましょう。なおChatGPTなど生成AIを用いたサービスも「原則として同様の枠組みで判断されるべき」と記されています。
法務省の契約書レビューサービスのガイドラインとは
法務省のガイドラインの内容は弁護士法の〔①報酬を得る目的、②「その他一般の法律事件」と事件性、③「鑑定・・・その他の法律事務」、④サービスの利用者〕に分かれています。
概要は以下のとおりです。
【画像出典】法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.moj.go.jp/content/001400674.pdf
契約書の作成・審査・管理サービスについては、③「鑑定・・・その他の法律事務」に具体例が記載されています。詳しく見ていきましょう。
契約書審査サービスを使っても大丈夫? ガイドラインで法律違反に該当する事例・しない事例
不動産管理では、管理委託契約書や賃貸借契約書 など契約書を取り扱う機会が多いです。
契約書のチェックで、AIレビューサービスを利用しても良いのでしょうか?
ガイドラインでは契約書の作成・審査サービスについて以下の記載があります。
③弁護士法72条「鑑定」についてのガイドライン
弁護士法72条の「鑑定」とは、法律上の専門的知識に基づき法律的見解を述べることをいう。「その他の法律事務」とは、法律上の効果を発生、変更等する事項の処理を指す。契約書等の作成業務を支援するサービスで「鑑定…その他の法律事務」に該当し得る例
(ア) 非定型的な入力内容に応じ、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示される
(イ) あらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し(または選択肢から希望する項目を選択する)場合であっても、極めて詳細な項目・選択肢が設定され実質的には利用者による非定型的な入力がされている。入力内容に応じて、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理し、処理に応じた具体的な契約書等が表示されるものと認められる「鑑定…その他の法律事務」に該当せず、弁護士法72条に違反しないと考えられる例
(ア) あらかじめシステムに登録された複数の契約書等のひな形から特定のひな形が選別されてそのまま表示される
(イ) 複数のひな形の中から特定のひな形が選別され、利用者が入力または選択した選択肢の内容がひな形に反映され内容が変更されて表示される契約書等の審査業務を支援するサービスで「鑑定…その他の法律事務」に該当し得る例
(ア) 審査対象となる契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される
(イ) 契約書等の記載内容について、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な修正案が表示される契約書等の審査業務を支援するサービスで「鑑定…その他の法律事務」で違反しないと考えられる例
(ア) 審査対象となる契約書等の記載内容と、サービスの提供者・利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で相違する部分があり、その部分が文字・語句の意味内容と無関係に表示される
(イ) 審査対象となる契約書等の記載内容と、サービスの提供者・利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で、法的効果の類似性とは関係なく言語的な意味内容の類似性のみに着目し、該当部分が表示される
(ウ) 審査対象となる契約書等にある記載内容について、サービスの提供者・利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容やチェックリストの文言と一致しひな形・チェックリストの文言との言語的な意味内容が似ている場合で、以下のいずれかに該当する
・一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示されるにとどまる
・ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例・一般的な解説や裁判例等が、個別の修正を行わずに表示される。または言語的な意味内容のみに着目して修正・表示される
いずれも「個別の事案に応じた」具体的な修正やアドバイスは、弁護士法72条に違反する恐れがあります。
よって契約書レビューのサービスでは、イレギュラーな事例や特別な事情が背景にある契約書については審査が難しいですが、一般的な契約書であれば大まかなチェックができるでしょう。
不動産業界への影響は?
不動産業界では2021年3月からオンラインの重要事項説明がスタートし、2022年5月から不動産取引の電子契約が解禁になりました。
不動産業界では契約書を取り扱う機会が多いことから、契約書レビューサービスも今後現場に導入される可能性があります。オンライン内見のように浸透するかもしれません。
サービスが導入されると、従業員が契約書をチェックする時間の削減が見込めます。経営的には、業務効率化や省人化が期待できます。
ただし、使い方によっては弁護士法違反にあたる恐れがありますので、上記のガイドラインを参考に導入を検討しましょう。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
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