ZEH賃貸住宅、オーナーと入居者のメリット・デメリットとは?大手ハウスメーカーが続々と着工
- ZEH =net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、住まいの収支エネルギーを実質ゼロ以下にする住宅
- 積水ハウスのシャーメゾンZEH、大東建託など賃貸ZEHがぞくぞくと登場。大和ハウス工業も実証実験に取り組んでい る
- 入居者にとっては光熱費削減が期待できるなどのメリット、オーナーにとっては快適な暮らしをアピールでき差別化が図れるなどのメリットがある。ただしデメリットも
大東建託株式会社が2017年11月に国内で初めてZEHを竣工して以来、積水ハウス株式会社のシャーメゾンZEHなど賃貸住宅市場でもZEH・ZEH-Mが増加傾向にあります。
ZEH・ZEH-Mはどのような住宅なのか、大手ハウスメーカーの取り組み、入居者やオーナーにとってのメリット・デメリットを解説していきます。
ZEH賃貸住宅とは
「ZEH(ゼッチ)」はnet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略したもので「住まいのエネルギー収支をゼロにする」という意味です。
【画像出典】経済産業省資源エネルギー庁「省エネポータルサイトZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html
高断熱で省エネ性能がある家を建て、エアコンなど家庭で使用するエネルギーを削減し太陽光発電などでエネルギーを生み出すことで、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする住宅です。
経済産業省資源エネルギー庁の「ZEHの定義(改定版)集合住宅」では以下のように定義されています。
【画像出典】経済産業省資源エネルギー庁「ZEHの定義(改定版)集合住宅」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/assets/pdf/general/housing/zeh_definition_shugou.pdf
ZEHの特徴は、「高断熱」「省エネルギー」「創エネルギー(再生可能エネルギーなど)」の3つです。具体的には以下4つの要件を満たす必要があります。
① 強化外皮基準(1~8地域の20168 年省エネルギー基準(ηAC値、気密・防露性能の確保等の留意事項)を満たした上で、UA値 1、2地域:0.40[W/m2K]相当以下、3地域:0.50[W/m2K]相当以下、4~7地域:0.60[W/m2K]相当以下)
② 再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から 20%以上
の一次エネルギー消費量削減
③ 再生可能エネルギーを導入(容量不問)
④ 再生可能エネルギー等を加えて、基準一次エネルギー消費量から 100%
以上の一次エネルギー消費量削減
出典:経済産業省資源エネルギー庁「ZEHの定義(改定版)集合住宅」より
ZEHと似た用語に「ZEH-M」「ZEB」などがあります。
- ZEH-M (ゼッチマンション)
ZEHの集合住宅で、再生可能エネルギーを導入・強化外皮基準をクリアするなどの4つの要件に適合したもの - ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)
ZEHのビルバージョンで、年間の一次エネルギーの収支ゼロを目指した建物
大手ハウスメーカーでは、近年ZEHやZEH-Mの竣工数が増加しており、賃貸住宅としても市場を拡大しています。
大手ハウスメーカー3社のZEH賃貸の取り組み
- 大和ハウス工業株式会社
- 積水ハウス株式会社
- 大東建託株式会社
1.大和ハウス工業株式会社
大和ハウス工業株式会社は、2023年9月に同年12月27日からネット・カーボンマイナス賃貸住宅の実用化に向けた実証実験の開始を明らかにしました。
大和ハウスグループでは以前から「すべての建物の脱炭素化によるカーボンニュートラルの実現」を重点テーマの一つとして掲げ、戸建住宅への高効率設備の導入による省エネや太陽光発電システムの搭載などの創エネにより、ZEHへの対応を推進しています。
今回は大和ハウス工業・大和リビング・サンワのグループ3社で、賃貸住宅の脱炭素・最適なエネルギー設備の運用・導入コストの削減などを目的として2023年12月27日から2025年12月26日までの2年間、データ収集・分析に関する実証実験を行います。
実験を行う「(仮称)エコンフォート前橋駒形」は、全戸ZEH仕様であり住棟単位で「ZEH-M」の基準を満たし、建築物省エネルギー性能表示制度「BELS」による第三者認証を取得しています。
2.積水ハウス株式会社
積水ハウス株式会社は、2018年に賃貸住宅ブランド「シャーメゾン」で全住戸がZEHの基準を満たす日本初の賃貸住宅を金沢市で竣工して以来、全国で賃貸ZEHを増やしています。
シャーメゾンZEHはCO2排出削減の効果に加え光熱費削減の効果も期待でき、2018年には年間受注戸数が年間380戸でしたが、2022年には年間2,976戸で2018年のおよそ7.8倍です。
同社は2025年までのZEH普及目標としてZEH比率をA登録(北海道)は75%、B登録(北海道以外の都府県)は90%に掲げています。
2022年度のZEH比率の実績は、A登録が72%でB登録は93%ですので北海道以外の都道府県ではZEH普及目標を達成しました。
3.大東建託株式会社
大東建託株式会社は2017年11月に国内初となるZEHを静岡県で完成させました。
2021年11月からは、138支店でZEHを標準とした賃貸事業の提案をスタートします。
開発・普及促進に向けた取り組みの結果、2022年4月~11月のZEH賃貸住宅の新規契約戸数は、22,240戸(全契約数の75%以上)に到達しました。
今後もSDGs(持続可能な開発目標)の一環として大東建託グループは、ZEH基準を満たす賃貸集合住宅の商品化と普及に取り組む予定です。
大手ハウスメーカーも推進するZEH賃貸は、オーナーや入居者にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
ZEH賃貸住宅、オーナーにとってのメリット・デメリット
- メリット①快適な暮らしをアピールできる
- メリット②家賃収入に加え売電収入も得られる可能性がある
- メリット③補助金制度がある
- メリット④高値の売却が期待できる
- デメリット①建築コストまたは取得価額が高い
- デメリット②マンション取得が難しく、利回りが期待できないことも
メリット①快適な暮らしをアピールできる
ZEHは断熱性能を大幅に向上させた住宅ですので、通常の住宅に比べ冬は暖かく夏は涼しいというメリットがあります。
近年の気候変動は猛暑日が増えるなどの影響を及ぼしており、快適さをアピールすることで物件の差別化が図れます。
メリット②家賃収入に加え売電収入も可能性がある
ZEH賃貸住宅には、太陽光発電装置など創エネルギーの設備があります。
発電収入をオーナーが受け取るタイプと入居者に還元するタイプがありますが、前者の場合は家賃収入に加え売電収入も期待できます。
ただしZEH賃貸は、消費エネルギーをおさえながら太陽光発電などでエネルギーを生み出し収支を実質ゼロ以下にする住宅ですので、余剰電力が生じなかった際には売電収入は得られません。
メリット③補助金制度がある
ZEH-M(ZEHのマンション版)には、経済産業省・国土交通省・環境省の3省が連携した補助金制度があります。
外皮性能や一時消費エネルギー量などが一定の要件を満たすと、補助金が支給されます。
一般社団法人環境共創イニシアチブでもZEH支援事業を公募していますが、直近の公募は戸建て住宅が対象です。補助金を申請する際にはあらかじめ条件を確認しておきましょう。
メリット④高値の売却が期待できる
ZEH賃貸は資産としての価値が高いため、通常の物件より高値の売却が期待できます。
売却時に現在よりもZEHの需要が高まっている場合には、さらに売却価格が上がることも期待できます。
デメリット①建築コストまたは取得価額が高い
ZEH賃貸住宅は、太陽光発電設備などを導入し断熱性能・省エネ性能を向上させなくてはいけません。
よって建築費(または取得費)が、通常のマンションと比べ高い傾向があります。
デメリット②マンション取得が難しく、利回りが期待できない可能性がある
日本で初めてZEHが完成したのは2017年11月ですので、他のマンションと比べZEH賃貸はまだ供給戸数が少ないという現状があります。
市場に出回る戸数が少ないということは取得が難しく、新しく建設する場合でもZEH賃貸を取り扱うハウスメーカーに依頼しなくてはいけません。
取得費・建築費が高いので、築年数が古いマンションに比べ利回りは低いことが予測されます。
ZEH賃貸、入居者側のメリット・デメリット
入居者にとってのメリット・デメリットもおさえておきましょう。
- メリット①光熱費の削減が期待できる
- メリット②断熱性の高い住宅で暮らせる
- メリット③売電収入が還元される住宅がある
- デメリット①家賃が高い傾向がある
- デメリット②通常のマンションより物件数が少ない
メリット①光熱費の削減が期待できる
ZEHは、断熱性能・省エネ性能がある住宅ですのでエアコンやストーブなど光熱費削減が期待できます。
メリット②断熱性の高い住宅で暮らせる
ZEHのメリットの1つは断熱性の高さです。外皮(建物の外側)性能が一定の基準をクリアしていますので、熱が出入りしにくく日射が入りにくいという特徴があります。
※ηAC=冷房期の平均日射熱取得率
U=外皮平均熱貫流率
【画像出典】国土交通省 審議会「住宅における外皮性能(参考資料)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kenchikubutsu_energy/pdf/014_s01_00.pdf
メリット③売電収入が還元される住宅がある
ZEH賃貸の中には、太陽光発電といった創エネルギーの売電収入を入居者に還元するタイプの住宅もあります。売電収入の恩恵を享受できるのは、再生可能エネルギーでエネルギーを創るZEH賃貸ならではのメリットといえるでしょう。
デメリット①家賃が高い傾向がある
ZEH賃貸は資産価値が高く築年数の浅いマンションが多いため、家賃も通常のマンションより高くなる傾向があります。
デメリット②通常のマンションより物件数が少ない
ZEH賃貸は近年急速に供給戸数が増えているものの、通常の住宅より物件数は少ない状況です。
よってZEH-Mに絞って部屋探しをすると、物件が決まるまでに時間がかかる可能性があります。
まとめ
近年大手ハウスメーカーの供給数が増えているZEH賃貸は、オーナーと入居者にとって上記のようなメリット・デメリットがあります。
ZEH賃貸の特徴やメリット・デメリットをおさえ、今後に活かしていきましょう。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
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