不動産業界にも押し寄せるオープンイノベーションの波

2019.03.12
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不動産業界にも押し寄せるオープンイノベーションの波

はじめに・用語解説

ここ数年で「オープンイノベーション」という言葉を目にする機会が増えた、という方は多いのではないでしょうか。企業外の知見を取り入れることで革新(innovation)的な製品やサービスを生み出そうとするオープンイノベーションの手法は、ニーズが多様化・細分化していく現代における有効な打ち手として注目されており、不動産業界にもその波が押し寄せてきています。

各社の事例を見ながら、業界におけるトレンドやオープンイノベーションの意義について考えていきましょう。

はじめに、この記事で使われているいくつかの単語の意味を解説しておきます。

アクセラレーター/アクセラレータープログラム:「アクセラレーター(accelerator)」は「加速装置」を意味する言葉。起業家や創業直後のベンチャー企業に対し出資や投資を行なう組織を指す。アクセラレータープログラムは、大企業が有望なベンチャー企業を募集し、協業や出資を行なうことで自社の新規事業を創出することを目的に開催されるプログラム。ベンチャー側は大企業が持つ資金や知見といったリソースを活用することで、成長速度を「加速」させることができる。

メンタリング:ここでは「メンター」と呼ばれる成功した経営者等が創業間もないベンチャー企業に対して自身の知見を提供し、成長を促すこと。

イントレプレナー:独立せず、所属する企業内で新しいビジネスを立ち上げる「社内起業家」のこと。新規事業立ち上げの際、リーダーとして活躍する人材。

アイデアソン:「アイデア(Idea)」と「マラソン(Marathon)」を組み合わせた造語。グループワーク等を通して、ある特定のテーマについての新たなアイデアやビジネスモデルを創出するために行なわれるイベントを指す。

ハッカソン:「ハック(Hack)」と「マラソン(Marathon)」を組み合わせた造語。エンジニアなどがチームを組み、互いにアイデアを出し合いながらある特定のテーマに関連するサービスやアプリケーションを開発するために行なわれるイベント。

ビジネスアイデアコンテスト(ビジネスコンテスト):ユニークな事業アイデアやプランを持つ起業家が参加し、その先進性等を競い合うコンテスト。成績上位者や優勝者には起業資金だけでなく、メンターによるサポートや主催企業との協業チャンスが与えられることも多い。応募資格を学生に限定しているコンテストも。

それでは、国内の「オープンイノベーション」事情について見ていきましょう。

多様化・激化する消費者ニーズの変化に共創で備える

不動産テックなどのテクノロジー分野に限らず、様々な業界で注目されるオープンイノベーション。国内事例では、「ユニクロ」で知られるファーストリテイリングと、繊維メーカーである東レの共同開発によって生まれた機能性肌着「ヒートテック」(2003年販売開始)や、軽さと暖かさを両立した「ウルトラライトダウン」(2009年販売開始)の成功が分かりやすいかもしれませんね。この2社は2006年に戦略的パートナーシップを結んでおり、素材開発段階から最終製品の完成までを共同で進めていく独自の商品開発体制を構築することで、次々にヒット商品を生み出しています。

分かりやすいように大企業同士の成功例を挙げましたが、ここ数年、大手企業が自社と共創できる有望ベンチャーを発掘・支援する「アクセラレータープログラム」が頻繁に開催されており、大企業とベンチャー企業との協業事例も増加の一途をたどっています。

また、内閣府は模範的かつ社会的インパクトの大きいオープンイノベーションの取り組み事例を表彰する「日本オープンイノベーション大賞」を設立し、経済産業省は『オープンイノベーション白書 第二版』を発行(2018年6月27日)しており、政府を挙げてこの流れを推進していることが分かります。
Concept.

「オープンイノベーション」という言葉が提唱者のヘンリー・チェスブロウ氏によって世に出たのは2003年と、今から15年以上前にまでさかのぼります。欧米ではオープンイノベーションは特段「最新のトレンド」というわけではありませんし、国内でも「新しい価値を生むために他社の知見を得る」こと自体は、「オープンイノベーション」という言葉が生まれる前から行われていました。ではなぜ、今オープンイノベーションが国内で注目されているのでしょうか?

理由は一つではありませんが、上で挙げた『オープンイノベーション白書 第二版』等では、従来のクローズドイノベーション(自前主義)が限界に達したこと。そして、前掲したアクセラレータープログラムに代表されるような「大企業が抱える課題や足りないピースを、ベンチャー企業が持つ発想力や技術力で補完する」ためのプラットフォームが整ってきたこと。そして、独自のデータベースやネットワークを構築し、課題を抱える大企業と解決策を持つベンチャー企業とをマッチングさせることに特化した企業や団体が登場してきたことなどが挙げられています。

各企業がオープンイノベーションを行なうための環境が整い、先行事例によってその有用性が広く知られるようになったこと。そして何より、自社の知見だけでは多様化・細分化する消費者のニーズに対応しきれなくなってきたこと。さらに、激化する国際競争を勝ち抜くには、イノベーションの創出が必要不可欠であるという認識が広がったことが、日本でオープンイノベーションの重要性が説かれるようになった主要因と考えられそうです。

不動産業界でも進む事例

不動産業界でも、オープンイノベーションを推進する取り組みが活発に行なわれています。今回は不動産テックに特化したアクセラレータープログラムや、業界内でも早くからオープンイノベーションや不動産テックに注目し、推進してきた三井不動産の取り組みを中心に、事例を見てみましょう。

Open Network Lab Resi-Tech

不動産やインフラ・街開発やスマートホームといった「生活者を起点とした住宅・暮らしの隣接領域」に関連する技術やサービスを取り扱うベンチャー企業の育成と、オープンイノベーションを支援するアクセラレータープログラム。傘下にカカクコムを持ち、ベンチャー支援に力を入れていることでも知られるデジタルガレージが手掛けるプログラムの一つ。竹中工務店、野村不動産、三井不動産など不動産・建設・ライフライン業界といった分野で国内外に存在感を示す大手企業がパートナーとして参画し、メンタリングや事業ノウハウのレクチャーを行ないます。

Open Network Lab Resi-Techホームページキャプチャ

【出典】ホームページより:https://onlab.jp/programs/program-resitech/

 

BASE Q

2015年にベンチャー共創事業部を設立し、本格的なベンチャー支援と協業推進を開始するなど、早くからオープンイノベーションに取り組んできた三井不動産。同社の取り組みは国内における推進事例として『オープンイノベーション白書 第二版』でも紹介されています。
「BASE Q」はそんな同社が東京ミッドタウン日比谷6階に設置した「ビジネス創造拠点」。2018年5月15日にサービスを開始して以来、ベンチャー企業やNPO、官公庁や大企業のイントレプレナーといった、新たな価値の創出や社会問題の解決を求めて集まった多様な人材の交流を支援しています。さらに企業の新規事業担当者に向けて、専属のコンサルタントによる支援制度を用意。第一線で活躍するイントレプレナーとなるために必要なビジネス基礎知識やプロジェクトの進め方、最新のベンチャー動向や知見が学べるワークショップも提供しており、新規事業担当者が直面する「組織・制度の壁」「人材の壁」「コミュニティの壁」を越えていくためのサポートを行なっています。
BASE Qのホームページキャプチャ

【出典】ホームページより:https://www.baseq.jp/

三井デザインテック×リビングスタイル

リビングスタイルは、家具の「試着」を可能にするインテリア3Dシミュレーターを開発するベンチャー企業。同社のサービスは「無印良品」の良品計画やインテリア小売大手のニトリにも採用されており、三井不動産のCVCファンドの投資第1号案件の企業です。同社の技術を使うことで間取りの検討等をより具体的に行うことが可能となるため、結果的に顧客の購入意欲を高めることにもつながります。
さらに、三井不動産の連結子会社である三井デザインテックとリビングスタイルは、共同でAR技術を搭載した家具配置シミュレーションアプリ「iLMiO AR」を開発。現実空間に原寸大のインテリアを3D表示することで新居への引っ越し時はもちろん、家具の買い足し・買い替え時に手軽に検討できるサービスを提供。販売店への送客率や販売額の向上につなげ、手数料収益を拡大する狙いです。

三井不動産×アクアビットスパイラルズ

アクアビットスパイラルは、薄いカード型のデバイスにスマートフォンをかざすだけで特定のアプリやWEBサイトを開くといった任意の操作を行うことができる「スマートプレート」を開発するベンチャー企業。三井不動産は同社との協業により「マンション購入者への広告として、従来使われていた立て看板では効果が不透明である」という既存事業の課題解決を図りました。
アクアビットスパイラルズの技術を使い、NFCチップを埋め込んだ屋外広告にスマホをかざすだけで物件ホームページにアクセスできるサービスを導入したのです。これによって定量的な効果検証が可能となりました。

WeWork

同名の会社が展開する、起業家向けのコワーキングスペース。アメリカ発のサービスですが、2018年2月に初の日本拠点がオープンし、話題となりました。単に場所の提供を行うだけのコワーキングスペースと違い、そこに集まった異業種の人々の出会いや交流を推進し、新たなビジネスが生まれやすいオフィス環境を提供しているのが特徴です。ベンチャー企業やフリーランスの個人事業主だけでなく、マイクロソフトやKDDI、みずほ証券や日経新聞といった、多くの社員を抱える大企業も法人メンバーとして参画していることからも、従来のコワーキングスペースとは別種の期待が寄せられていることが伺えます。
weworkのホームページキャプチャ

【出典】ホームページより:https://www.wework.com/ja-JP/

不動産的なオープンイノベーションの特徴

こうして見ると不動産業界では、有望ベンチャーを獲得して業界に新たなサービスや製品を打ち出そうとする動きのほかに、さまざまな業界人がオープンイノベーションを行なうための「場」を提供しようとする動きがあることが分かります。特に後者はWeWorkの登場によって注目が集まっています。シェアオフィス市場は、政府による「働き方改革」の推進等の後押しもあって盛り上がりつつある市場ですが、前出の通り単に「場所貸し」としてのシェアオフィスは、「プラットフォーム」としての役割を意識して運営されているWeWorkのような存在によって淘汰されていくのかもしれません。これまで以上に立地や利用者層を意識しなければ、安定した継続運用は難しくなっていくでしょう。

他社の知見を生かし不動産をアップデートせよ

前出の『オープンイノベーション白書 第二版』では、国内企業のオープンイノベーションの目的は大きく以下の2つに分けられるとされています。

・事業における欠けたピースの補完(主に業務提携、買収、協業によって実現)
・社内リソースでは出ないアイデアや発想の補完(主にアイデアソン/ハッカソン、ビジネスアイデアコンテスト、アクセラレーターによって実現)

オープンイノベーションを成功させるには、初めに目的はどちらなのかを明確にしておく必要があります。その上で、今自社が求めるアイデアや技術を持っている企業を探す必要がありますが、この時の調査対象は不動産(テック)企業に限定する必要はありません。

2つの目的のうち、どちらの場合も同業界に限らず他業界に助けとなる知見が眠っている可能性は大いにあり得ます。少子高齢化が進み、消費者が減少すると同時に社会課題が増えていく日本において、消費者の期待に応え続けて生き残っていくには他社・他業界と連携が必須となります。自社や既存市場だけで解決できることは限られていることを忘れずに、幅広い視野を持っている必要があるでしょう。

まとめ

今回紹介した三井不動産のように、自社の課題解決や収益拡大のため、積極的に有望なベンチャー企業との協業を行う企業も存在します。一方で現状、国内不動産業界において「ヒートテック」のように分かりやすいオープンイノベーションの「大成功事例」は未だ存在しません。

オープンイノベーションは、取り組み始めてすぐ売り上げに直結するものではありません。だからこそ早いうちに取り組み始めること、そしてトライアンドエラーのサイクルをできるだけ早く回していくことが成功への近道です。
そして企業の規模や業界にとらわれず、「相手企業が持つ知見や技術を、自社の事業に活用できないか」ということと、「自社の知見を相手に提供することで、新たな価値を生むことはできないか」という両側からの視点を持っていることが大切です。

また、WeWorkのように「空間を提供できる」という不動産業界の特徴をヒントに、この風潮そのものを事業拡大に生かすこともできるかもしれません。

オープンイノベーションは一過性のブームではなく、時代が生んだ必然の流れです。自社の課題を明確にし、もとより不動産と相性の良い技術やサービスだけでなく、全く関係の無さそうな業界の技術に目を向けることで、イノベーションのきっかけを掴めるかもしれませんね。

 

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