次世代のビルメンテナンスを実現する最新テックサービス

- ビルメンテナンス業界は堅調に成長しているものの、人手不足が深刻化
- 限られた人員で多角化・高度化する業務に対応するため、AIやIoTといった最新技術を使ったサービスが導入されはじめている
- 技術やアイデアを掛け合わせることで、従来の業務を効率化する以上の効果も見込めるのでは
好調だが人手不足のビルメンテナンス業界
不動産業界と密接な関係にあるビルメンテナンス業界。株式会社矢野経済研究所の調査※によれば、ここ数年やや減少していた市場は回復傾向にあります。同調査を見ると、国内のビル管理市場規模(元請金額ベース)は2018年度に3兆9,952億円と前年度比106.8%の微増が見込まれ、さらに2019年度には同100.8%の4兆272億円に達すると予測されており、堅調な成長を維持する見通しが発表されています。
※出典:株式会社矢野経済研究所「ビル管理市場に関する調査(2019年)」(2019年10月17日発表)
さらに、ビルメンテナンス業界ではM&Aも増加し、再編成が進んでいます。実はビルメンテナンス業界は、経済状況に左右されにくく安定収益が見込みやすいことから、M&A市場において人気が高い業種の一つとされているのです。
近年の例を挙げると、建物管理に実績のある日本管財は、2016年に沖縄県内のオフィスビル・ホテルを管理する沖縄星光を子会社化。沖縄県における新規営業の開拓や業務の効率化を進め、地元経済への貢献を目指しています。2018年には業界トップのイオンディライトが、インドネシアの清掃事業会社PT Sinar Jernih Saranaの株式取得に成功。ASEAN最大かつ世界第4位の人口を抱える有望な市場規模を誇るインドネシアで、不動産総合サポート事業の拡大が期待されています。
このように事業を多角化しながら、日本国内におけるビルの清掃や設備の管理・維持業務にとどまらない、総合的なサービスを提供することで、施設の効率的利用やコスト削減を図りテナント(入居者)の満足度を高める動きが見られています。
一方で、不動産業界でも働き手の不足が深刻化する昨今、ビルメンテナンス業も人手不足と無縁ではありません。原因の一つとして、若者の就職率の減少や離職率の上昇が挙げられることはもちろんですが、例えばビル清掃のような肉体労働である点や、危険を伴う仕事という点も敬遠される一因になっているようです。
ますます高度なサービスが求められるようになる一方で、人手不足が叫ばれるビルメンテナンス業界。どのように業務の最適化を図り、人手不足に対応しているのでしょうか。最新テクノロジーを使った取り組みを見ていきましょう。
人手不足の「ビルメン」業界を救う最新テクノロジー
ビルメンテナンス業は、ビルの清掃や保守、設備の管理・運転を一括して請負い、これらのサービスを提供するのが主な仕事です。この中でも、機械警備やエレベータをはじめとした設備の保守・点検業務などは、AIやIoTの進化によって急速に効率化・高度化が進められています。
県の推進事業に採択された次世代ロボット「ugo」による清掃サービス
2019年12月3日、大分県でビルメンテナンス事業を行う株式会社千代田と、アバターロボットの開発を手掛けるMira Robotics株式会社は、アバターロボット「ugo」によるビルメンテナンス実証事業を行うことを発表しました。この事業は、こちらの記事でも紹介した次世代アバターロボットugoをビルメンテナンス業界に導入し、人とロボットの協働による新たなビルメンテナンスサービスを開発しようという試み。産業活力の創造につながる先進性が評価され、アバターを活用したプロジェクトを支援する大分県の「アバター戦略推進事業」にも採択されました。
具体的には、2本のアームと高さ調節機能を備えたugoを遠隔地にいるオペレーターが操作できるようにすることで、居住地域を問わない就業が可能になります。さらに、そうした清掃業務の遠隔操作データをAIに学習させることによって、ugoを完全自動で稼働させることも可能です。
大分県の「アバター戦略推進事業」に採択された事業【出典】Mira Robotics株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000034305.html
ロボットの遠隔操作担当者は、現場への移動が不要なため移動コストが掛からず、就業に居住地域が問われることもありません。人間とロボットの協働によって、人手不足の深刻化が予想されるビルメンテナンス業界に新たなサービスや雇用を創出し、人材の有効活用を目指しています。
「5G」×「ドローン」×「AR」が実現した遠隔での点検業務支援
2019年11月、株式会社TTK、サン電子株式会社、エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社、スプラッシュトップ株式会社、株式会社NTTドコモ東北支社によって、ドローンとARスマートグラスを活用した遠隔ビル外壁点検の実証実験に成功したことが発表されました。
現在、ビルメンテナンス業界では働き方改革の一環として、特に高所での作業が必要な業務にドローンの導入が進められています。しかし、ドローンを使った点検業務を行うにはドローンの操作技術に加え、点検作業のノウハウも求められます。両スキルを併せ持つ人材は多くない上に、それぞれの担当者が作業現場に赴く場合もあるため、コスト面での課題がありました。また、点検熟練者の高齢化による後継者不足も課題となっています。
今回の実証実験は、現実に仮想空間を重ね合わせて表示することができるARスマートグラスや最新の通信環境を用いることで、こうした課題を解消しようという試み。熟練作業者による遠隔支援を可能にすることで、熟練作業者が現場へ赴く移動時間の削減や、複数現場の並行対応、そして効率的なノウハウ継承などへ寄与できると考えられています。
実証実験のイメージ【出典】株式会社NTTドコモのホームページより【URL】https://www.nttdocomo.co.jp/info/notice/tohoku/page/2019/191118_01.html
成功の決め手となったのは、高速大容量・低遅延・同時多数接続が特徴の5G(第5世代移動通信システム)。作業現場のドローンカメラ映像や飛行データを遠隔地の管制センターへリアルタイムで送信し、それらを基にした管制センターから作業現場への指示や必要なマニュアルをARスマートグラス上へ表示することが可能となったからです。
ビルメンテナンス業界のさまざまな課題を解決するドローン。今後も5GやAR等、他のテクノロジーと掛け合わせることによって、新たなビジネスの発見や業界の発展、社会課題の解決につながる使い方が見つかるかもしれませんね。
クラウド上で一括管理ができる「SPIDERPLUS」
「SPIDERPLUS(スパイダープラス)」は、クラウドサーバーに保存した図面・写真をiPadやiPhoneで管理でき、社内で情報共有が行えるアプリケーション。初期費用4万円に加えて1IDにつき月額3,000円で利用可能。2019年11月時点で全国450社以上で採用されており、約2万8,000人以上が利用。建築業・メンテナンス業に特化した業務効率化ツールです。
また、基本の機能のほかに業種別オプションパックも用意されており、例えば「設備パック」に含まれる風量測定機能を使うと、風量測定器で計測したデータをSPIDERPLUSに送信・記録し、管理画面から記録帳票として出力できます。従来は多くの時間を割いていた、検査の後に事務所へ戻り、帳票を作成する手間を大幅に削減。また、近年の建築設備には欠かせないBIM(Building Information Modeling。建物の3次元モデルを作成し、そこへ様々な情報を集約することで設計や建築工事の生産性向上を図る)データを施行・検査記録にも使用できるので、別途図面データを用意する必要はありません。
「SPIDERPLUS」利用イメージ【出典】株式会社レゴリスのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000030510.html
実際に導入した建設会社からは、“勤務時間外に行なっていた書類整理の時間を削減できた。クラウド上に施行計画書などのデータを入れることができるため、紙の荷物を運ぶ機会が減った。さらに現場での反響も良かったことが社員のモチベーションアップにつながった“という声が挙がっています。こうした便利なアプリを使うことで、直接的な業務効率の改善だけでなく、社員の意欲向上という副次的な効果も期待できるかもしれません。
最新テクノロジーがアップデートするビルメンテナンス業界
不動産業界と切っても切れない関係にあるビルメンテナンス業界。多角化する業務に限られた人員で対応するため、様々なテクノロジーやアイデアの積み重ねによって生まれた最新サービスが、ビルメンテナンス業界の常識を変えています。
労働者の負担を軽減し、安定した質の高いビルメンテナンスサービスを提供できるようにすることで、顧客満足の向上やコストダウンも期待できます。業界のテクノロジー活用が進むにつれてビルの運営・保全の品質が高まれば、ビルメンテナンス業も活発化し、結果としてビルという不動産の長期利用や新たな利用法も促されるのかもしれません。