物件と人を守るヒントはここにある? 高齢者を孤立させない新たな見守りサービス

2019.11.12
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物件と人を守るヒントはここにある? 高齢者を孤立させない新たな見守りサービス

高齢者の孤立を防ぐ「見守り」の必要性

社会構造の変化により核家族化が進んでいる日本の現代では、家族と離れて暮らしている高齢者も多く、普段の生活におけるサポートや、万が一の場合に「孤立死(孤独死とも)」とならないよう、いかにして高齢者を見守るのかが大きな課題となっています。

孤立死とは、一人で暮らしている方が事故や病気などで突然亡くなった場合に、長期に渡って気付かれないことを指します。孤立死の問題は、本人や家族だけの問題に留まらず、社会的にも大きな負担となります。発見されるまでの期間が長ければ、衛生面においての近隣への影響や、部屋の原状回復のための人的、金銭的負担も大きくなります。

孤立死が起きた物件はいわゆる事故物件として扱われてしまうこともあり、賃貸の場合はなかなか次の賃借人が決まらないケースもあります。分譲の場合も、売却が難しくなるケースもあり、家族や親族が永続的に固定資産税や都市計画税、管理費、修繕積立金などを支払うことになることも。

このように、高齢者を見守り、社会から孤立させないことは、不動産業界にとっても重要な課題となりつつあります。

社会としての見守りを実現する見守りサービス

このような問題の解決を目指し、近年ではIoTによる見守りサービスが試みられています。例えば、高齢者の家に人感センサーを設置してネットワークにつなぎ、異常がないかをモニタリングしたり、緊急呼び出しボタンを配布して、ボタンを押せば家族や親族、関連施設に連絡が送られるなど、さまざまなサービスが模索されています。

テクノロジーを活用すれば、今よりも少ない人手でより多くの高齢者の安全を確保できるはずです。ここでは実際にサービスや実証実験が行なわれているIoT見守りサービスを紹介します。

凸版刷による医療施設向け見守りサービス

2019年1月、凸版印刷はセンサー検知とAI解析でトイレや風呂場・個室における転倒や利用状況を可視化、医療施設での実用を目的にした屋内見守りサービスを開発し、埼玉県総合リハビリテーションセンターの個室トイレにて実証実験を開始しました。

カメラやサーモグラフィを使用しないこのサービスは、扉の開閉や人の動きを検知するセンサーを複数組み合わせることで、個人情報を取得せずに、利用者の状況を知ることができます。取得した情報は別の場所からPCでモニターすることができ、体調の急変や思わぬ事故を個室の長時間利用の点から把握できます。また、AIにより蓄積された情報を解析することで、緊急時の早期発見も可能になります。

凸版印刷ニュースリリースより 医療施設向け見守りサービス(トイレの場合)医療施設向け見守りサービス(トイレの場合)【出典】凸版印刷ニュースリリースより【URL】https://www.toppan.co.jp/news/2019/01/newsrelease190110.html

otta(株式会社 otta)

「otta(オッタ)」は広域の見守りネットワークを低コストで成立させるIoTサービスです。

見守られる人の位置情報履歴をアプリやメールで保護者や家族に通知してくれるサービスですが、地域のサービス基地局だけでなく、地域の見守りに参加している人の端末とすれ違うときにも、位置情報が記録されます。

つまり、見守りに参加してくれている人が多いほど、広い地域を見守るネットワークがつくられるということです。端末を持った人とすれ違っても見守り参加者には通知はされませんし、端末番号や検知時間、位置情報のみを暗号化して基地局に送信するため、個人を特定することはできないという個人情報に配慮したセキュリティが確保されています。

リアルタイムで位置情報を検索する従来型のGPSは、消費電力の大きさや位置情報の誤差、端末価格の高さがデメリットでした。しかし「otta」は、位置情報履歴を通知するだけのシンプルな機能のため、精度の高い位置情報や低価格、携帯性、長い電池寿命などを可能にしています。 

ottaサイトトップページottaサイト【URL】https://www.otta.me/

加古川市の見守りカメラによる取り組み

兵庫県加古川市は、ビーコンタグ(BLEタグ)検知器を内蔵した見守りカメラの設置を行なっています。

通学路や学校周辺、公園や主要道路・交差点にカメラを設置し、ビーコンタグを持った子供や高齢者の位置情報履歴を保護者や家族に知らせています。見守りカメラは、設置されていることによる犯罪抑止の目的と、捜査機関による行方不明者の捜索を目的として、市民の安全確保のために設置されています。

見守りカメラは、広範囲をフルHD1080P(1920×1080ピクセルの画像解像度)で2週間に渡る連続撮影が可能な上、視認性・認識性の向上を目的とした画像処理技術のSONY iPC(intelligent Picture Controller)技術を採用しており、見えにくい夜間などでも最適な画像処理を自動判別で行います。また、玄関や窓・ベランダなどの撮影箇所を黒く塗りつぶすマスクが任意で適用され、肖像権やプライバシーにも配慮されていることが特徴です。

加古川市サイトトップページ加古川市サイト【URL】http://www.city.kakogawa.lg.jp/soshikikarasagasu/kyodo/shiminseikatsuanshinka/ICT/mimamori.html

WEAR+i(株式会社オートバックスセブン)

高齢ドライバーの安全確保への高い関心から、オートバックスセブンは高齢者の運転ケアサービスを行なっています。

「WEAR+i(ウェア アイ)」と名付けられたサービスは、センサーを内蔵した車載機器により、位置情報や急ブレーキなどの危険運転情報を家族に通知します。運転情報を可視化、家族に共有することで、高齢者が起こす危険運転のリスクを回避する狙いがあります。また、専用のコールセンターを設置し、万が一事故が発生した場合は警察への連絡を代行してくれます。

同社はカー用品の販売だけでなく、高齢者の運転に対するケアの分野でのニーズもビジネスの視野に入れています。オートバックスセブンサイト

オートバックスセブンサイト【URL】https://www.autobacs.co.jp/ja/sustainability/activity/iot.html

社会問題は新しい市場の可能性

今回紹介したIT機器やIoTネットワークなどの見守りを、監視社会と捉える見方もあるかもしれません。しかし、個人のプライバシーに配慮しつつ、社会で高齢者を見守っていくことが、少子高齢化が進む現在では必要とされています。
高齢者の見守りという社会問題も、考え方を変えれば大きな需要を見込むことができる新しい市場といえるかもしれません。現在はまだ実験段階の取り組みも少なくありませんが、様々な業種からのアプローチにより、今後さらに成長の可能性があるでしょう。

管理会社や物件の大家など、不動産業界の関係者にとっても、高齢者の見守りは関連の深い問題です。この問題を新たな市場と捉え、不動産業界も市場参入することができれば、不動産業界ならではのテックサービスが発展するかもしれません。

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