「スマート東京」プロジェクトで進む首都のDX 国内スマートシティの現在時刻

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「スマート東京」プロジェクトで進む首都のDX 国内スマートシティの現在時刻

2020年は「スマート東京」元年

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響により、DX(デジタルトランスフォーメーション)やスマートシティの有用性に関心が集まっています。

特に、IoTやAI、ビッグデータなどを使って社会課題の解決を図り、持続可能な都市づくりを進めていくスマートシティプロジェクトは、不動産業界にとっても重要なトピックです。

2020年7月17日には、東急不動産や鹿島建設、ソフトバンク、竹芝エリアマネジメント、そしてCiP協議会の5者が共同で推進している「Smart City Takeshiba(スマートシティ竹芝)」プロジェクトが、東京都の「スマート東京」実現に向けた先行モデル3つのうちの一つに採択されました。

今回は、この「スマート東京」に注目します。今、東京都が急ピッチで進めようとしている施策とはどのようなものなのでしょうか。日本の首都が目指す「未来都市」の姿について見ていきましょう。

「デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送ることのできる」という「スマート東京」。これは、東京都が2019年12月に策定した「『未来の東京』戦略ビジョン(以下、戦略ビジョン)(※1)」の中で、都が目指す未来の姿の一つとして示された概念であり、「東京版Society 5.0」ともされています。

スマート東京の全体像スマート東京の全体像【出典】東京都戦略政策情報推進本部「スマート東京実施戦略」より【URL】https://www.senryaku.metro.tokyo.lg.jp/tokyodatahighway/index.html#smart

「戦略ビジョン」を基にして、2020年2月7日に策定された「スマート東京実施戦略 東京版Society 5.0の実現に向けて(以下、実施戦略)(※2)」では、スマート東京の目指す姿がより具体的に記されています。これを見ると、小池都知事は「2020年度は、首都東京のデジタルトランスフォーメーションという挑戦に着手する、『スマート東京元年』」であると位置づけています。このコメントを裏付けるように、2020年度はスマート東京実現に向けた「ムーブメントを起こす第一歩」の予算として、前年度の約8倍となる158億円を計上(既存のシステム経費等は除く)。今後の財政需要の増加に備え、500億円規模の基金も創設されました。スマート東京実現プロジェクトは名実ともに、2020年を皮切りに本格始動したのです。

※1 出典:東京都政策企画局「『未来の東京』戦略ビジョン」(2019年12月発表)
※2 出典:東京都戦略政策情報推進本部「スマート東京実施戦略」(2020年2月7日発表)

都がDXを急ぐ理由は?

東京都がデジタルトランスフォーメーションを急ぐ意義、理由とは何なのでしょうか。2020年が重要な起点と考えられていた背景にはもちろん、同年に開催が予定されていた東京オリンピックの存在があったことは確かでしょう。しかし、決してそれだけではありません。

実施戦略では、「東京・日本が直面する4つの歴史的な転換点に対して、デジタルテクノロジーの力で課題を解決し、地域の魅力向上と都民サービスの質の向上させ、東京の更なる進化を後押し」するためだと記されています。東京、そして日本が直面する歴史的転換点とされているのは以下の4つです。

気候変動(自然災害の激甚化や猛暑日の増加等、世界規模の危機が発生)
人口と労働力(人口減少に突入/労働の担い手が不足/コミュニティ存続の危機)
国際競争(ITへのシフトといった産業構造の転換に乗り遅れ、日本経済は存在感が低下)
テクノロジー(世界中でAI,IoT等の新技術の実装が進展/日本は世界から大きな後れ)

都市生活の維持やコミュニティの存続、経済市場などに様々な影響をもたらすこうした転換点と向き合い、「従来、『人』が担ってきた役割の一部をデジタルテクノロジーの力で補い、そのものを改革するなど、様々な課題を克服」することにより、地域の魅力向上と都民サービスの向上を実現できるとされています。確かに、空き家問題をはじめとする人口問題、交通網や経済活動に関する社会課題は、行政がリーダーシップをとって解決に当たるべき課題と言えるでしょう。

加えて、日本の都市は世界諸都市と比べてデジタル化が遅れていると言われています。世界のスマートシティ政府ランキング(※)を見ても、東京は日本の都市の中で唯一トップ50位入りを果たしてはいるものの、順位は28位。先進国の中では決して高いとは言えない位置にいます。日本は韓国や中国、欧米に比べキャッシュレス決済の普及が遅れていることなどは広く知られていますが、都市全体のデジタル化についてもあまり進んでいないのです。

この後れを取り戻し、世界の都市間競争を勝ち抜いていくためには、東京都が「他都市よりもスピード感をもってデジタルトランスフォーメーションを加速度的にすすめていかなければならない」とされています。

日本の首都である東京都を一刻も早く、国際競争力を持った持続可能な都市にする必要があり、そのために持ち上がったのが「スマート東京」計画である、ということですね。

※ 出典:Eden Strategy Institute and ONG&ONG「Smart City Governments in the world 2018/2019」(2018年発表)

実現に向けた施策の「3つの柱」

都はスマート東京の実現に向けた取組方針として、次の3つの柱を立てて施策を展開することを発表しています。これを見ていくと、別名「東京版Society5.0」といわれるスマート東京の目指す姿が浮かび上がってきます。

1.「電波の道」で「つながる東京」(TOKYO Data Highway)

・戦略ビジョン:「電波の道」で、いつでも、誰でも、どこでも「つながる東京」を実現する
「TOKYO Data Highway(TDH)」とは、21世紀の基幹インフラである「電波の道」のこと。24時間365日、観光客やITリテラシーの低い人でも、郊外でも。そして、人だけでなく行政施設・サービスや街灯や地下鉄、都バスに至るまで「何でも」が、災害が発生したときでも問題なくつながる、世界最速のモバイルインターネット網を民間と協力して構築するための取り組みです。

(2020年度の主な事業)
・東京2020大会競技会場等における観客用Wi-Fi
・TOKYO Data Highway構築に向けた会議等の運営

2.公共施設や都民サービスのデジタルシフト(街のDX)

・戦略ビジョン:データ共有と活用の仕組みをつくり、行政サービスの質を向上させる
行政が有する様々なインフラや政策に、デジタルテクノロジーを活用した最先端技術を取り入れることにより、都民サービスのレベルを高め、都民のQuality of Life(生活の質、QOL)を向上させるためのもの。教育とデジタルを掛け合わせた「スマートスクール」や、医療×デジタルの「スマートヘルスケア」。交通×デジタルの「スマートモビリティ(MaaSなど)」に関する取り組みが含まれます。

(2020年度の主な事業 ※一部
・民間空き家対策東京モデル支援事業
デジタルツインの推進(都市の3Dデジタルマップ化に向けた検討等)
・自動運転の社会実装に向けた取組の推進
・官民連携データプラットフォームの構築

3.都庁のデジタルシフト(都庁のDX)

・戦略ビジョン:都庁のデジタルトランスフォーメーションを強力に進める
都庁全体をデジタルガバメント(行政のIT化・デジタル化)へと変貌させ、CS(都庁の満足)とES(職員の働きがい)の相乗的な向上を図ることで、都民の幸せを実現するための取り組みです。行政手続きのデジタル化やICT人材の確保、グローバルスタンダードな開発スタイルやワークスタイルの確立がこれにあたります。

(2020年度の主な事業)
・オフィス改革(Web会議、スマートフォン配備等による職員のICT環境改善)
・ICTを活用した児童相談所業務の改善に向けた検討
・主税局ホームページAIチャットボットサービスの導入
・5G環境の整備を見据えた新たな広報公聴事業の展開

先行モデル3プロジェクトに期待される都市OS構築への一歩

冒頭でも触れた通り、2020年7月17日には地域に密着したリアルタイムデータ・AI等を活用した複数分野のサービス展開のモデルを構築するため、3つのスマートシティプロジェクトが選定されました。今回選ばれた「大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティプロジェクト」、「Smart City Takeshiba」、「豊洲スマートシティ」の3つについて、都はプロジェクト実施にかかる費用を補助(最大3年を予定)するとしています。各プロジェクトの概要は以下の通り。

大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティプロジェクト

主な実施主体は大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会。
同地区では、公民協調によるまちづくりの目標等として「まちづくりガイドライン」を策定しています。これをより良く達成するために、ビジョンオリエンテッド(将来あるべき姿を重視すること)によるスマートシティ化に取り組むと発表しています。
公民協調、エリアマネジメントによって、ユースケースから導き出した課題を解決するサービスを実現することで「既存都市のアップデート」と「都市のリ・デザイン」を推進。他地域のエリアマネジメント活動や東京都・行政とも連携していくとのことです。

大手町・丸の内・有楽町エリアのDXイメージ大手町・丸の内・有楽町エリアのDXイメージ【出典】一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会のプレスリリースより【URL】http://www.otemachi-marunouchi-yurakucho.jp/event-info/1376/

東京駅と皇居の間に位置する同エリアは、約120ha(ヘクタール)の区域に約28万人の就業人口・約4,300社もの企業が集積している国内屈指のビジネスエリアです。2019年5月には国土交通省の「スマートシティモデル事業」の選考モデルプロジェクトにも選ばれており、スマート東京実現に向けて、汎用性のある都市OS(※)構築への寄与が期待されるところです。

Smart City Takeshiba

主な実施主体は竹芝エリアマネジメント。共同推進事業者は東急不動産、鹿島建設、 CiP協議会、ソフトバンク。
スタートアップを含む民間企業や関係団体等との連携による最先端技術、およびリアルタイムデータ等を活用したサービスを実装するために竹芝版都市OSを構築し、将来的な他地域への横展開も視野に入れて、世界に先駆けたモデルを目指しています。
地域や分野を横断した事業の拡大により、竹芝および周辺エリアの社会的課題解決と経済的発展の両立を目指すプロジェクトです。

竹芝地区におけるスマートシティのイメージ竹芝地区におけるスマートシティのイメージ【出典】東急不動産株式会社(竹芝プロジェクト)のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000054402.html

対象エリアの面積は約28ha。他2つに比べるとコンパクトに見えますが、東京湾ウォーターフロントに位置し、羽田空港へのアクセスをはじめ交通利便性に優れた浜松町駅からも近く、世界自然遺産を有する都の島しょ部への玄関口としても機能しています。東京の国際競争力強化に資する拠点として恵まれた地理的要因を備えているといえるでしょう。

再開発による人口や来街者の急増が見込まれているエリアでもあり、課題として回遊性の向上や安心安全、混雑回避、防災力の強化等が求められています。そこで、同地区内から収集するリアルタイムデータと外部データ、他システム・他都市のデータを都市OSへ集約し、それによる複数の領域を横断したサービスの社会実装を下支えすることが、地域課題解決につながると期待されています。

豊洲スマートシティ

主な実施団体は豊洲スマートシティ推進協議会(IHI、NTTデータ、清水建設、東京ガス不動産、東京地下鉄、TIS、日本総合研究所、日本電気、日立製作所、三井住友銀行、三井住友カード、三井不動産、三菱地所)。
「課題解決+未来志向型スマートシティ」「ミクストユース(複合利用)型スマートシティ」のコンセプトのもと、「職・住・遊の全ステークホルダーのQOL向上」「地域連携・地域参画による先進的まちづくり・エリアマネジメント」という目標実現に向けて、豊洲版都市OSとデータ取扱ルールを構築し、データを活用した観光・モビリティ・イート・ヘルスケア・防災など複数領域横断型サービス実装を推進しています。

豊洲スマートシティのプロジェクトイメージ豊洲スマートシティのプロジェクトイメージ【出典】東京都の報道発表資料より【URL】https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/07/17/03.html

対象エリアの面積は約246haと、今回選ばれたプロジェクトの中では最大規模。居住人口は約3.8万人、就業人口は約4万人となります。ベイエリアの一角に位置し、業務・商業・住宅・市場等が立地する複合市街地です。近年の開発により、住民・就業者ともに飛躍的に増加している地域で、2018年に豊洲市場も開場した注目エリアです。コンセプト通り、分野の異なるさまざまな団体や企業、サービス間で相互に協力し合い、効果的にデータを利活用していくには、より汎用性の高いルール設定や都市OSの構築が不可欠です。同エリアでの試行錯誤の結果が、スマート東京実現を大きく後押しすることになるかもしれませんね。

ここでポイントとなるのが、各モデル事業に求められているのが「都市OS」の構築であるという点。それぞれのプロジェクトを通して、スマート東京・スマートシティの基盤となるプラットフォームのひな形を作り上げていくことが期待されているのです。

データの流通やサービスの連携、システムの拡張性はスマートシティの肝。それを考えると、東京都やその一部といった特定の地域のみの最適化に特化した仕組みづくりではなく、将来的な横展開も踏まえた基盤づくりが求められていることが分かると思います。

スマートシティ事業における都市OSの重要性は国内でも少しずつ知られるようになってきており、2020年7月6日にはアクセンチュアと会津大学が、都市OSや都市OSを活用する際の標準のアプリケーション・プログラム・インターフェース(API)についての共同研究を開始したことを発表しています。この2団体の取り組みにより、全国の自治体や民間企業、まちづくりに関わる人々が活用できる、アプリやデータを連携するためのコード(API)一覧をWebサイト上で参照できるようになれば、各地域で標準APIの採用が進み、都市OSの相互接続が可能になっていくでしょう。

こうした動きからも、スマート東京をはじめとする日本のスマート化へ向けた取り組みが加速してきていることが分かります。

異なる特色を持つエリアのスマート化から、東京都のスマート化へ。そして首都東京のスマート化から、日本全体のスマート化へ。2020年を契機に、包括的な都市のDXが進んでいきそうですね。

※都市OS:都市で創出されるあらゆるデータを収集し、他地域と連携することを前提で整備した、都市運営のベースとなる共通プラットフォームのこと。

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