バーチャル空間に「不動産」? “デジタルツイン”の可能性

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バーチャル空間に「不動産」? “デジタルツイン”の可能性

【画像出典】KDDI株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000048230.html

渋谷区公認「バーチャル渋谷」オープン

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、オンライン上でのバーチャルな体験を可能にするテクノロジーに大きな関心が寄せられています。不動産業界でもVR内見など、非対面での接客をサポートする不動産テックの需要が高まっていますが、今回は行政や大手不動産会社も参画する、新たな都市運営に関する取り組みをご紹介します。

2020年5月19日、自宅からさまざまなイベントの開催・参加を可能とする渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」がオープン(※)しました。KDDIや渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会を中心とした参画企業50社で組成する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が手掛ける同プラットフォームは、コロナ禍によりさまざまな活動が制限される中、自宅に居ながらも活動を止めることなく、アーティストのライブやアート展示、トークイベントといった「渋谷」らしいコンテンツを発信・体験できることをコンセプトとしています。なお、渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトには、東急不動産や三井不動産といった大手不動産会社も参画しています。

「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」参画企業「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」参画企業【出典】KDDI株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000048230.html

バーチャル渋谷が可能にする体験は主に2つ。1つ目はバーチャルSNS「cluster」上に構築されたバーチャルイベント会場(ワールド)において、さまざまな「渋谷」らしいオンラインイベントに参加できること。自宅からスマートフォンやPC、VRデバイスを使い、自分の分身となるアバターを通じて会場内を自由に動き回り、たくさんの観客と同じ空間を共有することができます。5月19日のオープン時には、こちらを使ったオープニングイベント「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」が開催されました。

「バーチャル渋谷」オープニングイベント「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」「バーチャル渋谷」オープニングイベント「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」【出典】KDDI株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000048230.html

そしてもう1つが、現実の渋谷の街と連携して同一コンテンツを表現する「デジタルツイン(ミラーワールド)」の世界を実現すること。具体的には、現実の渋谷で展開するXRコンテンツと同一のものを、バーチャル空間上に構築された「渋谷」の同じ場所で展開。これにより、デジタルとリアルが融合する世界を再現しようという試みで、2020年夏にイベントを実施する予定とのことです。

ここで注目したいのが、今多くの企業が注目している「デジタルツイン」という最新技術。以前こちらの記事で取り上げたVRサービス「SYMMETRY」のSymmetry Dimensions Inc.も、デジタルツインの研究開発を行うスタートアップとして高く評価されている企業ですが、そもそもデジタルツインとは一体どのような技術なのでしょうか?

5Gの普及やコロナ禍の影響を受け、今後ますます話題の中心になっていくと考えられるこの言葉について、もう少し詳しく見ていきましょう。

※出典:KDDI株式会社のプレスリリースより(2020年5月15日発表)

5G×IoTで実現する「デジタルツイン」で何ができる?

デジタルツイン(Digital Twin)とは、簡単に言えば、リアルタイムで収集したデータを用いて、現実(リアル)空間にある設備や環境を仮想(デジタル)空間上で忠実に再現する技術のことです。

世界的な調査会社である米ガートナーが毎年発表している「戦略的テクノロジ・トレンド トップ10」において、「デジタル・ツイン」が2年連続(2018年、2019年版)で注目すべきテクノロジーとして取り上げられたことも、この技術がビジネス界で注目される一助となりました。

これまでの「シミュレーション」と異なるポイントは、リアルタイムの空間に何か変化が起こった際は、仮想空間にも同時に同じ変化が起こること。つまり連動性を持っている点です。デジタルツインの基板を支えるのは、IoTやAI、フォトグラメトリーや5Gといった先端技術。こうした技術の進化・普及が、膨大な量のデータの取得・送信を可能にし、現実の「双子(Twin)」ともいえるほどの精密なコピーによる動的、かつ現実的なシミュレーションを実現するのです。

仮想空間上で、現実さながらの試算を行うことを可能にするデジタルツイン。この技術に、企業は何を期待しているのでしょうか。例えば製造業では、設備に取り付けたIoT機器を通して生産ラインをモニタリングし、そのデータを仮想空間上の設備にリアルタイムに反映させるといった使い方が考えられます。環境や人員、設備の稼働状況等、さまざまな要素が複雑に絡み合う生産工程のデータを仮想空間に一元化して見られるようにすることで、生産ラインに問題が発生した際の原因究明も容易になります。また開発の段階で、実際にコストをかける前に設計や製造工程の試算を行い、それを現実に反映させることができるので、リードタイムの短縮や人員配置・コスト配分の最適化が期待できるでしょう。

また、ガートナーのディスティングイッシュト・バイスプレジデントのデイヴィッド・カーリー氏は、2018年の「戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10」発表時、次のようにコメント(※1)しています。

(前略)都市計画担当者、デジタル・マーケティング担当者、医療従事者、産業計画担当者は、デジタル・ツインによる統合的な世界への長期的な移行から、恩恵を受けるでしょう

デジタルツインによるメリットを享受するとされる業界は多岐にわたりますが、上記の通り最近はものづくりや企業経営だけでなく、都市計画にデジタルツインを利用しようという動きも盛んになってきています。

5月30日、国土交通省はデジタルツインを実現することによって、業務の効率化やスマートシティ等の国土交通省の施策の高度化、産学官連携によるイノベーションの創出を目指す「国土交通データプラットフォーム(仮称)整備計画」を発表(※2)しています。

これは、国土地理院が持つ3次元地形データに建物・地盤のデータ、そして人や物の移動といった民間が保有する経済活動に関するデータ、そして気象等の自然現象に関するデータ等を連携させた「国土交通データプラットフォーム(仮称)」を構築する計画です。その目的は、同プラットフォームを使い構築したサイバー空間上でシミュレーションを行い、その結果を現実世界に反映させようというもの。いわば、バーチャル世界に「もう一つの日本」をつくり出すことで、都市計画にまつわるさまざまなシミュレーションを行えるようにするということです。

似た取り組みとして有名なものに、シンガポール政府が2014年にスタートした「バーチャル・シンガポール」構想がありますが、日本の取り組みはいわばこれと同じ。実現すれば、さまざまな課題の解決や暮らしの安全性向上、物流の効率化、交流人口の拡大など多くの効果が期待できます。

「現実世界と連動する仮想現実」というと、SF映画のようで現実味がないように思えるかもしれません。しかし、このように政府や民間企業によって、既に本格的な利活用へ向けた取り組みが始まっている技術なのです。

※1 出典:ガートナー(Gartner, Inc.)「2018年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10」(2017年10月26日発表)
※2 出典:国土交通省の報道発表資料より(2019年5月30日発表)

“ニュー・ノーマル”の時代、変わる不動産の価値

仮想空間上に現実と同じ世界をつくり上げるデジタルツイン。5Gの商用サービスがスタートした2020年、ますますの進化が期待される最新技術です。

そして、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響により、多くの企業が現実世界での移動や、経済活動に多くの制限を受けることとなりました。この経験により、これまでに無く「移動せずに人とつながる」ための仕組みが求められるようになったことで、冒頭で取り上げた「バーチャル渋谷」のように、行政が後押しする取り組みも増えていくと予想されます。

移動の必要性が薄れていくことで、必然的に時間や距離も意識されなくなっていきます。そうなれば、土地や不動産の価値基準も変わっていくでしょう。まず、都市部であるか否かということや、駅からの距離は問題にならなくなっていくはずです。そして、「時間や距離の制約を意識する必要なく、誰もがその時々の気分で好きな場所に移り住む」ことが可能になれば、「これと決めた場所に長く住み続ける」ための家を選ぶ、という価値観は今以上に薄れていくと考えられます。そうなれば、築年数等もさほど問題にされなくなっていくのかもしれませんね。このように今の常識とはかけ離れた、全く新しい不動産の価値基準が生まれてくるのではないでしょうか。

また、バーチャル空間上に「もう一つの日本」が完成し、そこにあらゆる情報が集約されるようになれば、実際にその物件に人が住んでいるか否かがリアルタイムで分かるようになりますし、空き物件についても、いつでも自宅から内見を行えるようになるのかもしれません。従来、実際に現地へ出向かなければ体感できないとされてきた、イベント等に参加した際の「体験の共有」等も、自宅から感じられるようになっていくのかもしれませんね。

このような、デジタルツインのもつ可能性には大手不動産会社も注目しています。バーチャル渋谷で使われているイベントプラットフォーム「cluster」を運営するクラスターは、2020年1月6日に個人投資家やKDDI、テレビ朝日ホールディングス、Wright Flyer Live Entertainment、そして三井不動産が組成するコーポレートベンチャーキャピタルファンド「31VENTURES Global Innovation Fund 1号」から、総額8.3億円の資金調達を実施しました。

バーチャルイベントプラットフォーム「cluster」のイメージ【出典】クラスター株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000017626.html

クラスターへの投資にあたり、三井不動産ベンチャー共創事業部 統括の加藤慎司氏は次のようにコメント(※)しています。

リアルな空間を創造する三井不動産に対し、バーチャルな空間を様々な様態で創造するクラスター社には無限の可能性を感じます。リアルな空間では制約がある『場所と時間』を容易に超越するその技術に、驚きと興奮を隠せません。未だ誰も成しえていない新しい『場』の創造に期待するとともに、三井不動産としても最大限の協力を行ってまいります

現実空間と仮想空間の境界が薄れていった時、現実空間の「場」を構築する不動産の役割はどう変わっていくのでしょうか? 興味深く見守っていきたいですね。

※ 出典:クラスター株式会社のプレスリリースより(2020年1月6日発表)

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