高まる「ひとり」需要、不動産の新ニーズは

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高まる「ひとり」需要、不動産の新ニーズは

「シェア疲れ」やコロナ禍で加速する「ひとり回帰」現象

不動産業界では近年、遊休スペースを物置や宿泊施設として貸し出すスペースシェアリングサービスが登場し、話題をさらいました。ビジネスの世界でも、さまざまな企業や政府がオープンイノベーション施策によってイノベーション創出に励んでおり、「何事も“みんなでシェア(共有)”しよう」という風潮が広がってきています。

一方、その反動からか常に他者とオンラインで繋がっていられることや、「シェア疲れ」からくる「ひとり回帰」現象も起きています。心身の健康のためにインターネットやスマートフォンと適切な距離を維持しようという「デジタルウェルビーイング(Digital Wellbeing)」という言葉も生まれましたが、これも常時オンラインでいることや、シェアリングエコノミーの普及につれて真の「ひとり時間」を確保できないことが背景にあります。

さらに最近では、新型コロナウイルス拡大の影響により、リモートワーク(テレワーク)を取り入れる企業が増えています。通勤時間の削減など、多くのビジネスパーソンがリモートワークによるメリットを感じている一方で、「一緒に住んでいる家族が話しかけてきて仕事に集中できない」という声も挙がっており、自宅ではひとりで集中して仕事に取り組むことが困難な場合もあるという課題点も浮き彫りになってきました。

三谷産業の調査を見ると、テレワークにおける総合的な満足度は「非常に満足」および「やや満足」の合計が32%と「非常に不満」、「やや不満」の合計24%を上回っていますが、未就学児や小学生と同居している回答者は他と比べて自身の生産性評価が低くなっています。

テレワーク(在宅勤務)における同居家族の状況と自身の生産性に対する評価テレワーク(在宅勤務)における同居家族の状況と自身の生産性に対する評価【出典】三谷産業株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000032549.html

同じくストレス状況についての設問でも、未就学児と同居している回答者(回答者自身が世話をしている場合)は64%が「平常時よりストレスが大きい」と答えています。コロナ禍における働き方の変化によって、自宅内でもひとりで集中して作業が進められる、書斎のような空間や時間を確保したいというニーズが急激に高まっていることが分かります。

日本でも最近「HafH」のような職住一体型のコリビング(Co-Living)サービスが台頭してきていますが、「どうしたら生産性を落とさずに職住一体型のライフスタイルを実現させられるのか」という知見が求められている今、こうしたサービスの運営者や利用者に注目が集まりそうです。

※三谷産業株式会社「恒常的なテレワーク(在宅勤務)状況に関するアンケート」(2020年4月23日発表)

データが示す「ひとり」需要の高まり

「ひとり」需要の高まり要因はテクノロジーの発展だけではありません。単身世帯数の増加やライフスタイルの変化などもその原因とされています。そのため多くの業界で「ひとり」利用を対象としたサービスが増加傾向です。

矢野経済研究所の調査(※1)によると、近年いわゆる「お独りさま」(単身者)や「お一人さま」(一人で行動・消費することを好む層)が市場の担い手となっている産業も数多くあり、経済に与える影響も徐々に拡大しているそうです。

同調査によれば、2018年度は関連する13市場15分野のうち12分野が成長。2019年度は13分野で成長の見込みとのことです。特に金額規模の大きい分野として、2018年度はおひとりさま外食市場(1人来店客の利用金額ベース)が前年度比3.6%増の7兆9,133億円、おひとりさま中食市場(1人用購入客の利用金額ベース)の前年度比2.8%増の7兆4,000億円を記録しています。

そして2019年度は大手小売チェーンの大規模なリプレイス(更新・代替)需要の継続という背景から、セルフレジ市場が前年度比14.3%増(129億6,700万円)と2桁成長の見込みであることも発表されています。事実、5月7日にはローソンのセルフレジ運用店舗が、2月末から4月末の2カ月間で2.5倍の約4,500店舗に拡大したと報じられました。

また、英会話スクールを運営するGABAが全国の20~69歳の男女ビジネスパーソンを対象に実施した「ソロ活動」(あえてひとりで行動や体験をして楽しむこと)に関する調査(※2)によれば、90%が「ひとりの時間が好き」、94%が「ひとりの時間を大切にしたい」と回答。全体の86%がソロ活動を「ありだと思う(肯定派)」と答えており、実際の経験率も57%と半数以上。

普段の過ごし方について、大人数でいる時間が好きかという設問に対しても、「好き」と答えたのは回答者の半数以下(43.3%)で、「嫌い」(56.7%)がやや上回る結果に。反対に、ひとりでいる時間が好きかどうかについては、89.7%が「好き」と回答しており、ビジネスパーソンの大多数が職場の仲間や家族と過ごす時間とは別に、自分ひとりで過ごす時間を持ちたいと考えていることが分かります。

さらに、SMBCコンシューマーファイナンスが実施した20~40代の消費意識や実態についての調査(※3)によると、「一人で行動・消費すること」にお金をかけている人の割合は、20代が63.6%、30代が61.0%、40代で60.2%と、いずれの年代でも6割以上。一人での行動・消費にかけている1月あたりの平均金額は20代が6,490円、30代が7,610円、40代が10,349円と、年代が上がる=収入の増加と共に高くなっていることがうかがえます。

※1 出典:株式会社矢野経済研究所「おひとりさま関連市場の動向調査(2020年)」(2020年5月1日発表)
※2 出典:株式会社GABA「ソロ活に関する実態調査2019」(2019年11月7日発表)
※3 出典:SMBCコンシューマーファイナンス株式会社「20代・30代・40代の金銭感覚についての意識調査 2020」(2020年3月12日発表)

「ひとり」需要に応える空間づくり事例

増加する「ひとり」需要に対し、空間を提供する不動産業界はどのように応えていくのが良いでしょうか。ここでは「ひとり時間」の充実をコンセプトに据えた、特徴的な不動産活用事例を2点ご紹介します。

Think Lab(※)

株式会社Think Labが手掛ける「ひとりで深く考えるためのソロワーキングスペース」をコンセプトとしたコワーキングスペース。もとは眼鏡チェーン「JINS」を展開するジンズホールディングスにおけるプロジェクトの一つとしてスタートしました。

最近ではWeWorkに代表されるような、コミュニケーションを重視したコワーキングスペースや、JR東日本が駅構内に展開している「STATION WORK」のように、すきま時間を活用するためのカプセル型のシェアオフィスも注目されていますが、Think Labはこれらとは根幹が異なります。

同社は、コミュニケーション環境が進化するにつれて、オフィスやカフェを含め、ひとりで集中できる場所がないことへの問題が顕在化してきている点に着目。まばたきや視線移動の計測によって集中力を可視化する眼鏡型のデバイス「JINS MEME」を使った調査などを実施することで、実際に多くのビジネスパーソンが「オフィスで集中できていない」ことや、ひとりで集中するためにカフェを利用する場合であっても、「場所を見つけて作業に入る」まで平均して約10分30秒もかかっているということが判明したそうです。

Think Labはこうした調査や従来のコワーキングスペースが持つ課題点から、「コミュニケーションの質を上げるためにも事前にひとりで考える、ソロワーキングできる場所を確保しておく必要性」があるという考えのもとにつくられています。集中に必要な「五感へのアプローチ」、「集中に入りやすい構造」、「集中を予約する(アプリ)」というコンセプトをもとに、徹底して「ひとりで集中する」ための質の高い時間を確保するための空間作りが成されています。

Think Labは“イノベーションに求められるのは知の探索(Co-Working)と知の深化(Solo-Working)”という考えを掲げているThink Labは“イノベーションに求められるのは知の探索(Co-Working)と知の深化(Solo-Working)”という考えを掲げている【出典】株式会社Think Labのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000052074.html

2020年2月3日、個人利用者向けにオープンした汐留店では、価格帯なども含めてより利用しやすく、集中しやすい環境づくりが成されています。スペースの予約や施設への入室はスマートフォンアプリで行ないます。作業中はもちろん、スマートロックを用いることで、誰とも会わずに、一人でスムーズに入退室できる仕組みを実現しています。

最近では自社オフィス内にThink Labを導入する企業も増えているそうです。冒頭で、自宅勤務の際に「ひとりで業務に集中できる空間を確保することが難しい」という声が上がっていることや「シェア疲れ」について触れましたが、ビジネスにおいても複数人で意見や考えを「シェア」する前に、まずは各人がひとりで集中して考えを深めることのできる時間・空間を確保するべき、という考えが広がってきているのかもしれません。そう考えると、これもシェア文化の醸成によって浮き彫りになった新たな「ひとり」需要だと言えそうですね。

「Think Lab汐留」のイメージ「Think Lab汐留」のイメージ【出典】株式会社Think Labのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000052074.html

ひとりで深く集中するためのアプローチひとりで深く集中するためのアプローチ【出典】株式会社Think Labのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000052074.html

2020年7月30日には、スターバックスコーヒージャパンとコラボレーションした銀座店をオープン。コーヒーを片手に、オンラインミーティングに使えるブース席や組み合わせ自由なテーブル席から成る「Co-Work(コワーク)」スペースと、「Solo-Work(ソロワーク)」スペースを用途に応じて選択できる特徴的な店舗となっています。

同社は今後、在宅勤務用プロダクトの開発も予定中とのことです。昨今多くの企業が取り入れている在宅勤務ですが、チーム間で適切なコミュニケーションをとりつつ、各個人が集中して質の高いアウトプットを行うことが難しい面もあります。独自の視点から
同社への注目はますます高まっていくのではないでしょうか。

※2020年8月19日現在、飯田橋店は臨時休館中。

ナインアワーズ(※)

株式会社ナインアワーズが展開するカプセルホテル。宿泊客の基本行動である「シャワー」+「睡眠」+「身支度」(合計約9時間=“9hours”かかる)の本質を捉え、その機能性と品質を徹底追求したサービスが特徴。安さや利便性ばかりが注目されがちなカプセルホテルにおいて、「部屋という空間概念を捨て機能自体を提供する」というコンセプトを基にした各種サービスはもちろん、施設自体のデザイン性の高さなどからも注目を集め、店舗数を増やしています。

ナインアワーズはデザイン性だけでなく、アメニティや寝具の品質の高さにも定評があるのも特徴の一つ。明確なコンセプトのもとに無駄な機能を廃し、ひとりで静かに明日の準備に専念できるよう整えられたサービスや空間設計は「ひとり」需要、そして「体験」重視の現代に合致しています。

ナインアワーズ北新宿のイメージ写真ナインアワーズ北新宿のイメージ写真【出典】株式会社ナインアワーズのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000023703.html

Webサイトから24時間いつでも店舗の検索・予約を行なうことが可能で、シャワーのみの利用や昼寝のために1時間だけ、という柔軟な使い方ができることも、さまざまな目的を持った利用者に受け入れられているポイントです。

同社は2020年4月23日に新たな取り組みとして、宿泊再生事業の展開を拡大することを発表しています。これは昨今の新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大によるホテル業界への影響を鑑みて、業績不振に陥っている施設の事業再生を行なっていくもので、5月1日から第一号案件が始動しています。都心部への宿泊という「ひとり」体験の質にこだわってきた同社の知見が、どう活かされていくのか、注視していきたいですね。

※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、大手町店のみ2020年8月1日~10月31日まで臨時休業予定(2020年8月19日現在)

可能性が眠る「ひとり」市場

何でも「シェア」することにより生まれる価値や、その利便性が周知される一方で、浮き彫りになってきた「ひとりの時間や体験を大切にしたい」というニーズの高まり。単身世帯の増加により、それはますます顕著になっていくものと考えられます。

上で引用したSMBCコンシューマーファイナンスの調査では、「自分の趣味嗜好に合う『もの』や『こと』にお金をかけているか?」という設問に対し、20代が70.5%、30代の69.4%、40代の64.0%が「お金をかけている」と回答しています。1月にかける平均額は20代が7,497円、30代が8,401円、40代が10,399円と、額こそ年代が上になるにつれて上がっているものの、割合を見れば若い世代ほど自分の趣味やこだわりを軸に消費を行なう傾向にある、と分析できます。

これからは「ひとりの時間や空間をより充実したものにしたい」という観点からの製品やサービスがいっそう求められるようになっていくのではないでしょうか。不動産テック関連でいえば、IoT機器を備えて「スマート化」された物件はもちろん、スマート家電と置き配家事支援サービスなどとの連携も、若い世代から順に普及していくと期待できそうです。

「みんなでシェア」することの利点を強調するだけでなく、「ひとり時間・空間の充実」を売りにした空間やサービスに関するビジネスは、今後あらゆる分野で大きく成長していきそうですね。

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