入居後すぐに体感できる! 大手不動産会社が手掛ける「スマート賃貸」

- 賃貸でも「スマート物件」を売りにする動きが活発化。
- 大手不動産会社は賃貸物件にIoT機器を設置するだけでなく、独自規格やアプリケーションを用意することで対応。
- スマート物件への期待と認知の差異を埋めるための工夫を凝らすことが、他社との差別化やスマートホーム市場の拡大につながるのではないか。
法人主導で加速する物件のスマート化
2017年秋、日本でスマートスピーカーの発売が始まったことをきっかけに、「スマートホーム」や「IoT家電」といった言葉は幅広い層に知られるようになってきました。
例えば、集客施策の一つとして、物件オーナーがスマートスピーカーを備えた物件を用意することも珍しくなくなってきましたし、個人でもスマートロックやスマートスピーカーなどのインターネットに接続されたコネクテッドデバイスやスマートホームデバイスを購入し、自宅の「スマート化」を図る人も増えてきました。
また最近では住宅メーカーやマンションデベロッパー向けに、異なる複数社のIoT機器規格を連携可能にする統合プラットフォームを用意し、スマートホームの強みでもある相互接続性の強化をアピールする家電メーカーも現れはじめています。
スマートホームデバイスの世界市場は今後も成長が見込まれており、 IDC Japanが2019年7月24日に発表した世界全体のスマートホームデバイスの出荷台数予測に関するレポートにもそれが表れています。このレポートによれば、2019年1月~3月のスマートホームデバイスの出荷台数は世界全体で1億6,860万台に達し、前年比37.3%の増加となりました。さらに同社は2023年には14億6,000万台に達し、スマートホーム市場の年間平均成長率は14.9%になると予測しています。
さらに、欧米にくらべて住まいのスマート化が遅れがちといわれている日本国内においても、市場のさらなる成長が見込まれています。 IDC Japanが2019年4月16日に発表したレポートを見ると、2018年~2023年における国内のスマートホームデバイス市場の年間平均成長率は11.8%になり、2023年には約1,353万台のデバイスが出荷されると予測されています。同レポートでは国内市場の現状について「米国と異なり、一般消費者によるIT投資への波及および経済拡大への喚起は限定的である」と指摘されてはいるものの、同時に「一方、法人向けのIT需要及び経済への波及効果は非常に大きい。スマートアシスタント(音声)の業務での活用が進めば、家庭における需要も高まるであろう」との期待も記されています。
最近では民泊やスペースシェアリングのような物件の新たな使い道に注目が集まっていますが、その鍵を握るのはテクノロジーです。住まいのスマート化は決して一過性のブームではなく、国内でも現在進行形で起こっている「人々の価値観の変化」の一端であると考えられるのではないでしょうか。人々の間に「スマートな暮らし」のイメージが浸透しつつある今は、私たちと不動産との向き合い方の変化を示す重要な転換点であり、多くの不動産会社も対応を急いでいます。
IoT標準装備は賃貸物件の常識に
スマートスピーカーやスマートロックのようなIoT機器は多くの人にとって身近な存在になってきましたし、この流れはますます加速していくでしょう。しかし、個人で既存の物件にIoT機器を取り付けて各種設定を行い、スマートホームを実現するにはまだ知識や費用面でのハードルが存在することも確かです。
そこで各不動産会社は、扱う物件に単一のスマートホーム機器を取り付けるだけでなく、独自規格やアプリケーションを用意することで他社との差別化を図り、物件オーナーや入居者に前提知識がなくても、簡単にスマートホームを取り入れられる便利な仕組みを用意しています。今回は、主に賃貸物件を取り扱う大手不動産会社の取り組みを見ていきましょう。
シノケングループ
不動産セールス事業などを行う株式会社シノケングループの子会社である株式会社シノケンハーモニーは、2019年7月より受注する全物件を「インテリジェントアパート」仕様で販売することを発表(2019年6月17日)。初年度は新規物件3,000戸への導入を目指し、順次既存の約3万5,000戸の賃貸管理物件へも導入していくとのことです。さらに2019年12月17日には同仕様をマンションにも導入し、「インテリジェントマンション」を開発することを告知しています。
同社のインテリジェントアパートは、建物全体・全部屋にIoTセンサーを標準装備したアパートメント。入居者は外出先でのスマートフォンからの遠隔操作や、センシング技術による防犯・空調・照明モニタリングなどのスマートな暮らしを簡単に体感できる仕組みです。
シノケンのインテリジェントコンセプトが提供する3つのUX【出典】株式会社シノケングループのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000046438.html
もともとは、同社が新築アパートメント向けに1部屋単位で導入可能なIoTデバイス「Shinoken Smart Kit」の販売を開始したところ、物件の購入検討者やオーナーから多数の反響があったことを受け、全室ランニングコスト無しの標準装備が実現したとのことです。部屋のスマート化について、不動産投資家やオーナー、賃貸物件の経営者の多くは「入居率アップの施策として魅力的」と考えていることが伺えますね。
また、シノケングループは2020年1月8日に不動産テックに関わる新商品・サービスの企画・開発を専門に行う新会社「株式会社シノケンインテリジェントテクノロジー(Shinoken Intelligent Technology Co., Ltd.)」を設立しました。同社では、前述のインテリジェントアパートやインテリジェントマンションの企画・サービス開発に加え、AIやブロックチェーンをはじめとするITプラットフォームの積極的活用など、さまざまな取り組みを推進していくとしています。
レオパレス21
賃貸事業や開発事業を中心とした不動産サービス業を営む株式会社レオパレス21は、自社の賃貸住宅向けにIoT住環境「Leo−LINK(レオリンク)」を提供しています。Leo-LINKを構成する主要要素は、外出先からでもスマートフォンで家電をコントロールできるスマートリモコンの「Leo Remocon(レオリモコン)」、リモコン操作で簡単に動画配信サービスやインターネットの利用を可能にする「Life Stick(ライフスティック)」、スマートロック「Leo Lock(レオロック)」、備え付けの端末にパスワードを入力し、画面に指でサインを書くだけで荷物が受け取れる宅配便ロッカー「PUDO(プドー)ステーション」。
スマートロックやスマートリモコンといった、スマートホームの基本要素を手間なく利用できるというのは、入居者にとって大きなメリットと考えられるでしょう。
Leo−LINK【出典】Leo−LINKサービス紹介ページより【URL】https://www.leopalace21.jp/land/apartment/brand/IoT.html
また、住まい選びの決め手の一つに挙げられることも多いインターネット環境について、同社は専用のブロードバンドサービス「LEONET(レオネット)」に力を入れて他社との差別化を図っています。前述のLife Stickをテレビにつなぐと、部屋のWi-Fi環境を整えられるだけでなく、テレビやスマートフォン、パソコンで動画サイトやゲームを楽しめるほか、資格や趣味の講座を動画学習できるサービスや、天気予報やごみ収集日などの地域情報、部屋の契約状況の確認といった幅広いコンテンツを利用できるようになります。
LEONET、Life Stickイメージ【出典】LEONET公式ホームページより【URL】http://www.leo-net.jp/
APAMANグループ
賃貸あっせん仲介や賃貸管理などの不動産事業を行うAPAMAN株式会社の子会社であるApaman Network株式会社は、AIソリューション提供やAlexaのスキル開発を行う株式会社インフォネットとともに、Amazonが提供するクラウドベースの音声サービスに対応する「アパマンショップ」のAlexa(アレクサ)スキルを開発。2019年4月1日から提供を開始しました。Alexaとは、Amazonのスマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズを中心に搭載されている音声アシスタントで、「スキル」とは、ユーザーが任意に追加できるAlexa端末用の拡張機能です。
Alexaスキル「アパマンショップ」はApaman Networkが展開している、スマートスピーカーやスマートリモコンが設置された賃貸物件「AI Smart Room」向けに開発されたもので、機能は4つ。期限を忘れてしまいがちな転入届や印鑑登録といった手続き関連をサポートする「入居後手続きチェックリスト」や、ごみの日をリマインドしてくれる「今日は何のゴミの日」、生活に役立つ情報を教えてくれる「生活お役立ち情報」に、水回りやガス、電気など暮らしの中で起こるトラブルについてサポートする「お困りごとサポート」です。
これらの機能はAlexaスキルストアで「アパマンショップ」を有効化し、Alexa搭載の画面付きデバイス(例:Amazon Echo Spot、Echo Show)に「アレクサ、アパマンショップを開いて」と話しかけることで利用可能。今後も定期的なスキルの拡充を行っていくとのことです。
Alexaスキル「アパマンショップ」【出典】株式会社インフォネットのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000034167.html
株式会社電通デジタルによる「スマートスピーカーの国内利用実態調査」(2019年2月18日発表)によれば、2018年12月時点でのスマートスピーカーの認知率は約76%と高いものの、普及率は約6%と限定的。さらに同調査では、スマートスピーカーを所有していない理由の第1位・第2位に「スマートスピーカー(AIスピーカー)を使ってまで利用したいことがないから(36.3%)」、「どんなことができるのかよく分からなく、自分が使うことをイメージできないから(33.5%)」という項目がランクインしており、スマートスピーカーの使用イメージが思い浮かばないため、手を出しづらいと感じている生活者が多いことが分かります。
物件にスマートスピーカーを設置するだけでなく、「アパマンショップ」スキルのように、入居者にとって使用イメージの湧きやすい専用スキルをつくる取り組みは、スマートスピーカーやスマートホームへの心理的ハードルを下げる効果もありそうですね。
入居者のニーズや期待を掴み、先回りで対応することで真に求められる「スマート物件」へ
前述した通り、日本のスマートホーム市場は海外に比べると緩やかな伸びとはいえ、確実に盛り上がる市場です。これまで見てきたように、各不動産会社も大きな変化にいち早く対応するため、さまざまな工夫を凝らしています。
また、全国のひとり暮らしをしている入社5年目までの社会人男女計600名を対象にレオパレス21が実施した「2018年「若手社会人のひとり暮らし」に関する意識・実態調査」(2018年5月24日発表)では、約半数(46.8%)が「IoT化された賃貸住宅に住みたい」と回答しています。若者のスマートホームへの興味・関心が高まっていること、そして物件のスマート化が持つ集客効果を裏付ける結果となっています。
今後ますます物件のスマート化は、賃貸住宅のトレンドとなっていくでしょう。その中で差異を生み出し、入居者やオーナーへ価値あるスマート物件を提供していくためには、「興味はあるものの何ができるか分からない」「したいことが分からない」といったニーズを丁寧に探り、心理的にも技術的にも手に取りやすい製品やサービスを開発。利用シーンや困った時の対応方法をイメージしやすい「スマートホーム」をつくりあげていく必要がありそうです。何よりそうした物件が増えていくことで、国内のスマートホーム市場はさらに盛り上がりを見せるのではないでしょうか。