2020年は飛躍の年に? 資金の集まる国内不動産テック領域

- ・日本人創業のスタートアップAnyplaceが大規模な資金調達を実施。出資には国内の不動産テック企業や大手企業も参加したことが話題に。
- ・iBuyer事業やPropTech特化型ファンド等、先進的な不動産系スタートアップやそれを応援する仕組みに対し、大企業や個人投資家の資金が集中している。
- ・IT重説やコロナ禍によるデジタル化の流れも受けて、2020年は日本の不動産業界も大きく成長する年になるのではないか。
日本人創業のAnyplaceが日本企業や投資家から5.7億円調達
欧米の盛り上がりに比べると、「遅れをとっている」と言われることの多い日本の不動産テック。ですが最近、国内の大手企業や投資家たちが、こぞって不動産テック企業に投資を行っています。
例えば2020年5月12日、ホテルやコリビングスペースの賃貸サービスを展開する「Anyplace」が約5億3,000万円の資金調達を実施しました。今回の出資では、国内不動産テック企業の代表格として知られるGA technologiesがリード投資家を務め、サイバーエージェントや三井住友海上キャピタル等大手企業が参加。個人としてもサッカー選手の本田圭佑氏やメルカリの共同創業者の一人である富島寛氏、Uberの初期投資家として知られるJason Calacanis氏が参加したことが報じられ、注目を集めています。
Anyplaceは、日本人起業家の内藤聡氏が2015年にシリコンバレーで設立した不動産テック系スタートアップ。ホテルやサービス付き賃貸物件、コリビングスペースといった家具付きの部屋を月単位で貸し出すオンラインマーケットを運営しています。
Anyplace【出典】Anyplaceのトップページより【URL】https://www.anyplace.com/
このように、2020年に入ってから国内の大手企業や著名な投資家たちが不動産テック企業に出資したというニュースが続々と発表されています。今回は、こうした最新ニュースの中から、特に押さえておきたいものをいくつかピックアップしました。これを中心に、大きな盛り上がりを予感させる国内不動産テック領域について見ていきましょう。
iBuyer事業のすむたすが国内最大級のベンチャー支援企業から4億円調達
2020年2月4日、iBuyer事業を行う国内不動産テック企業すむたすが、日本大手企業連合の出資によるベンチャー支援企業WiLから、約4億円の資金調達を実施したことを発表しました。すむたすはこれまでに約1.5億円の資金調達を実施しているため、累計調達額は約6.5億円に達します。
左:すむたす代表取締役の角 高広氏、右:WiL Partner難波 俊充氏【出典】株式会社すむたすのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000038198.html
同社は、AIを活用して最短2日で中古マンションの買い取りを実現する、不動産直接買取サービス「すむたす買取」や、不動産仲介会社向けの無料SaaSサービス「すむたす買取エージェント」などを展開しています。
前者のようなiBuyer事業は、中古住宅の流通比率の大きいアメリカで急成長している事業モデル。2018年には、同事業の代表格である米Opendoorがソフトバンク・ビジョン・ファンドより約450億円の大型投資を受けたニュースが報じられ、日本でも大きな話題を呼びました。すむたすは国内初のiBuyer企業として、大きな期待が寄せられている企業です。
同社は、今回調達した資金を既存事業の拡大に加えて、士業向けに開発予定の新サービスに活用予定だと発表しています。日本ではまだ発展途上の不動産買取再販分野も、これから大きく盛り上がっていきそうですね。
日本初のPropTech特化型ファンドに愛媛銀行が出資
2020年4月20日、日本初のPropTech特化型ファンド「デジタルベースキャピタル1号投資事業有限責任組合」に愛媛銀行が出資を行うことが発表されました。初めて日本の金融機関が同ファンドに参画するということで、その動向が注目されています。
デジタルベースキャピタルは、2019年に設立されたPropTech(不動産テック、建設テック)特化型のベンチャーキャピタル(投資会社。VC)。同分野のイノベーションに取り組み、若いスタートアップを中心に国内外の企業へ投資を行っています。代表取締役の桜井駿氏は、不動産スタートアップエコシステムの構築・発展を目指すコミュニティ「PropTech JAPAN」を設立・運営していることでも知られています。
今回の出資について、愛媛銀行の頭取である西川義教氏は以下のようにコメント(※)しています。
(前略)PropTechサービス市場は今後の成長が見込まれるだけでなく、当行と一緒になって地域発の新サービス創出により地域を盛り上げていきたいという思いに共感し、出資を決定しました。人口減少や空家対策など、地方が抱える問題を解消する起爆剤となるよう期待しております
創業100周年を超える地域金融機関との連携によって、地域課題に根ざした新たな不動産テックサービスが生まれてくる兆しが感じられるニュースです。
※出典:株式会社デジタルベースキャピタルのプレスリリース(2020年4月20日発表)
活況の海外勢を猛追、コロナ禍で加速する日本における需要増
ほかにも、2020年1月22日には不動産仲介会社向けSaaS「プロポクラウド」や個人向けの中古マンション提案アプリ「カウル」で知られるHousmartが、日本郵政キャピタルとアコード・ベンチャーズから約3億円の資金調達を実施しています。
2020年5月28日には、ホテルや民泊・マンスリーマンション等の空室を住まいとして借りられるプラットフォーム「NOW ROOM」を展開するLiving Techが、ニッセイ・キャピタルや個人投資家、金融機関からの融資により2.1億円の資金調達を実施したことを発表。また同日、不動産営業支援ツール「オーナーズガーデンPro」を運営するリアンコネクションが個人投資家から総額6,000万円の資金調達を実施したことも発表されました。
NOW ROOM(https://nowroom.jp/)のサービス概要【出典】株式会社Living Techのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000047984.html
不動産系のスタートアップ企業を育成しようという動きも本格化してきましたし、大手不動産会社もこの動きを後押ししています。こうした動きや、今回見てきたような大手企業や著名な投資家による投資が報じられることによって、不動産テック領域への注目はますます高まっていくものと予想されます。
さらにもう一つ、現在進行形で国内不動産市場の盛り上がりを後押ししているのがIT重説へ向かう流れです。
国土交通省が推進するビデオ通話による重要事項説明(IT重説)の社会実験を実施していたGA technologiesの発表(※)によれば、実施後のアンケートで「(IT重説を)今後も利用したい」と答えた買主は60.8%であった一方で、「利用したくない」と答えた買主はわずか2.4%だったそうです。
今後の利用意向【出典】株式会社GA technologiesのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000111.000021066.html
この社会実験は2020年9月末まで実施され、その結果をもとに対面・書面交付を前提とした不動産売買契約の取引方法の見直しが図られる予定となっています。コロナ禍によって不動産業務のオンライン化が加速していることもあり、今年は不動産テックの価値や役割が大きく注目される年になるのではないでしょうか。
特に、「Withコロナ(コロナとの共存)」や「アフターコロナ(コロナ後)」の経済活動や暮らし方について議論されている今、AnyplaceやNOW ROOMのように新たな「住まい」を提案するサービスは投資家たちの関心を集めていくと考えられます。
2019年、米国の不動産テック企業に対する年間投資額は4,000億円を上回り、過去最多となるとの見込みが発表されていました。活況な欧米市場に対して発展途上とされてきた日本の不動産テック領域も、2020年はいよいよ大きく飛躍する年になりそうです。