日本だけでない、世界の「空き家問題」はマッチングとリノベーションで救う

- 日本の空き家問題の背景と課題
- 日本の空き家問題解決に向けた取り組み
- 海外の空き家問題と解決へ向けた取り組み
- マッチング×リノベーション×政策の3重奏が求められる
日本は、人口減少と高齢化が進む中で、空き家問題が深刻化しています。一方、世界各国でも空き家問題に取り組む動きが見られ、インターネットやデジタル技術を活用した解決策が注目されています。今回は、日本と海外の事例を比較しながら、最新の空き家問題解決の取り組みを紹介し、今後について考えていきます。
日本の空き家問題の背景と課題
日本の空き家は、2018年調査で約849万戸と推定され、住宅総数の約13.6%を占めています。高齢化や若者の都市部への流出による人口減少が主な原因です。
空き家が増えることによる問題は多岐にわたります。例えば、地域社会の活性化の阻害、景観の悪化、放置された空き家による火災や犯罪の温床といった問題があります。また、相続や税金の問題もあり、所有者にとっても負担が大きくなっています。
一方で、空き家は需要と供給のバランスが崩れている現象でもあります。地方には空き家が増え続ける一方で、都市部では住宅不足が深刻化しています。こうした状況を解決するためにも、空き家の有効活用が求められています。
日本の空き家問題解決に向けた取り組み
この日本の空き家問題に対処するために、様々な取り組みが行われています。インターネットやデジタル技術を活用したものでは、以下が挙げられます。
・空き家バンク
空き家バンクは、空き家情報を一元化してインターネット上で提供するサービスです。自治体や不動産業者が参加し、利用者は気になる物件を検索し、情報を得ることができます。また、賃貸や売買に関する手続きや相談もオンラインで行えます。空き家バンクでは、各自治体が独自に運営しており、提供される物件情報やサポート内容が異なります。これにより、空き家問題が地域によって異なる課題を抱えていることに対応できる柔軟な制度となっています。
・リノベーションプラットフォーム
「空き家リノベラボ」(https://aki-labo.jp/)のようなリノベーションプラットフォームは、空き家を再生して新たな価値を創出するサービスです。インターネットを通じて、リノベーションを検討している人と空き家所有者を繋げ、物件の売買やリノベーションの相談が可能です。また、リノベーション事例やアイデアを共有するコミュニティも存在します。
・オンラインマッチングサービス
空き家を売りたい人と買いたい人を結びつけるインターネットサイトも存在感を増しています。空き家紹介サイトの「空き家ゲートウェイ」(https://akiya-gateway.com/)や家いちば(https://www.ieichiba.com/)などが人気を集めています。
空き家ゲートウェイ【出典】https://akiya-gateway.com/
海外の空き家問題と解決へ向けた取り組み
海外でも、空き家問題に対処するために様々な取り組みが行われており、以下のような事例があります。
・イタリアやフランスの1ユーロ住宅プロジェクト
イタリアやフランスでは、人口減少が進む地域で、空き家を1ユーロで販売するプロジェクトが行われています。インターネットを通じて、世界中の人々に物件情報が提供され、購入手続きもオンラインで行われます。購入者は一定期間内にリノベーションを行うことが条件となっています。格安で提供する代わりにメンテナンスと居住をお願いする仕組みです。町の減りゆく人口問題を解決するために、外国人を必要としており、世界中から購入者を募っています。
・イギリスの1ポンド住宅プロジェクト
イタリアやフランスのようにイギリスにも1ポンド住宅があります。長期間空き家になっている物件を市が買い上げて、買いたい人に1ポンドで払い下げます。1ポンドで買った人はリノベーションして住まなければなりません。このプロジェクトも、インターネットを活用して空き家情報を提供しています。
・イギリスやオーストラリアの「空き家税」
インターネットやデジタルとは異なりますが、イギリスやオーストラリアでは、都市部の空き家に対して「空き家税」を導入し、長期間使用されていない住宅に対して税金を課しています。これにより、空き家の有効活用が促され、住宅市場の需給バランスの改善が期待されています。日本でも京都が「空き家税」を2026年以降、全国の自治体で初めて導入することが2023年3月に報じられました。
・アメリカのリノベーション/廃墟芸術プロジェクト
アメリカでは、デトロイト市が過去の人口減少と産業の衰退により多くの空き家が発生しています。市当局は、空き家を廃墟化させずに活用するために、リノベーションプロジェクトや廃墟芸術プロジェクトを支援しています。その結果、アーティストや起業家が空き家を活用して、地域の文化と経済の活性化に寄与しています。
マッチング×リノベーション×政策の3重奏が求められる
各国の事例を見ていくと、インターネットやデジタル技術の活用によって、物件情報の提供や手続きの効率化が進んでいることがわかります。また、リノベーションを通じて新たな価値を創出し、地域の活性化を図る点でも共通しています。ただし、海外事例では住宅購入のインセンティブが強調されており、日本における取り組みで参考になる点がありそうです。
今後、日本の空き家問題に対する取り組みは、すでに存在するマッチングやリノベーションにおける次のような進化が見込まれます。
・人工知能(AI)を活用した空き家マッチング
AIを活用し、利用者のニーズに合った空き家情報を提案するサービスが登場することで、マッチング効率が向上するでしょう。
・デジタル技術を用いたリノベーション事例の共有
バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)を活用したリノベーション事例の共有が進むことで、新たなアイデアやコラボレーションが生まれるでしょう。
・オンラインプラットフォームの拡充
海外事例を参考に、インセンティブを用いた空き家取得プログラムや、低所得者向けの住宅提供など、より多様なサービスが展開されることが予想されます。
大切なのは、3つめにあげたオンラインプラットフォームにおいて、欧州のように政策によるインセンティブ(安く売る代わりにリノベーションして住んでもらう等)を盛り込むことの重要性でしょう。政府は3月に空き家の発生を抑えて活用を促すための関連法改正案を閣議決定しました。窓や壁の一部が壊れているような管理不全の空き家について税優遇の対象から外して「増税」する試みです。増税で空き家の抑止を行おうというものですが、すでに多数存在している空き家の利活用についても、欧州のように政策面でより積極的に支援していく必要がありそうです。
文/中村祐介
株式会社エヌプラス代表。デジタル領域のビジネス開発とクリエイティブ戦略が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・実施も行うほか、一般社団法人おにぎり協会の代表理事として、日本の食や観光に関する事業プランニングやディレクションも行う。
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