弁護士がしめす2つの仮説。セキュリティトークンの専門家からIT重説&電磁的交付をまなぶ

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弁護士がしめす2つの仮説。セキュリティトークンの専門家からIT重説&電磁的交付をまなぶ

はじめに

2020年1月17日に、PropTech Japanが4回目となる少人数制のセミナー、「PropTech LAB」を開催しました。講師はTMI総合法律事務所のパートナー弁護士である成本治男氏(画像上)です。成本氏は不動産テック(PropTech)領域に精通しています。セキュリティトークン×法律のキーワードでは、第一人者といえる存在です。この日は、セキュリティトークンとIT重説について解説してくれました。本記事では、「ITを活用した重要事項説明等」というテーマで話された、2つの仮説をピックアップして紹介します。

オンライン取引は、「非対面の重説」「書面の電磁的交付」が鍵。IT重説のポイントまとめ

成本:トークンを使ったビジネス以外にも大きな流れとして、IT重説があります。これが、どんどんと全面解禁に向かっている状況です。そうなると、どんなことが起こり得るのか。不動産テック領域で目立つ2つのビジネスモデルを例に挙げて解説し、私のアイデアベースの可能性についてもお聞きいただければと思います。まずは全体像から。

成本:業界関係者のみなさんの多くは、ご存知かと思いますが、IT重説解禁の流れは平成27年(2015年)くらいからありました。検討会のなかで、基本的には、「重説(重要事項説明)をテレビ電話などで実施してもよい」ということにしようと。もう1つは、「重説の書面を電磁的に交付してもよいことにしましょう」という流れです。これらも業界関係者からのニーズがあるので、検討されてきましたが、重説の書面をデジタル化OKとするには法改正が必要です。ということで、最初の検討段階ではデジタル交付の実現化については留保されていました。整理するとこうです。

部屋を借りるお客さんに、不動産会社の人が重説をするとき、対面じゃなくてもよいですよ。テレビ電話など(WEBなどのオンライン上)でやってもよいですよ。ただし、重説の書面は”紙“で交付しなければいけませんよ

成本:非対面での重説と、書面の電磁的交付の2つが解禁されて、はじめて、IT重説がオンライン上で完結します。ですが、「2つが1セットでそろう前に、まずは、法改正が不要である(解釈運用の変更で足りる)非対面での重説についてIT化を進めよう」ということです。その実現に向け、社会実験が実施されました。

成本:はじまった社会実験は、ふたを開けてみると、そのほとんどが賃貸取引での実施にとどまりました。この結果、「賃貸取引では、非対面でIT重説を実施することはOKにしましょう」ということになり、平成29年(2017年)10月から運用がスタート。ただし、重説の書面を”紙”にして、お客さんに渡さなきゃいけないという運用は残っています。

成本:重複しますが、紙ではなく電磁的(デジタル)交付を実施するには法改正が必要で、現状は、まだ、その改正がなされていません。不動産会社のスタッフは、重説をオンライン上でお客さんへ実施するにしても、あらかじめ、紙の書面を作って手渡しするか郵送するかをしなければならないのです。

成本:そして、このたび、社会実験で実施件数の少なかった売買取引についても、「個人を含め、非対面での重説を認めるか検討する」という流れになりました。その議論が去年(2019年)再開し、法人個人を含む、売買取引での非対面での重説の社会実験もはじまりました。あわせて、「賃貸取引では重説の電磁的交付の社会実験もやってみましょう」という内容に。これが去年の10月から12月の3か月間で実施されました。2020年1月17日時点で、まだ、その後の具体的な方針は出ていません。おそらく、いままでの流れでいえば、解禁されることになるでしょう。そうなれば、いよいよ、賃貸取引において非対面での重説と書面の電磁的交付の2つが認められることになりますオンライン上で賃貸取引が完結する時代の到来です。

成本:VR内見を繰り返して実際に見に行く物件を絞り、スマートロックによってお客さんは一人で現地へ行き、気に入ったらIT重説へ。契約も電子契約で済ませ、完全に、一度も来店せず、不動産会社から個人が部屋を借りることができるようになります。人によっては、実際の内見をせず、現地にも行かないまま部屋を借りるかもしれません。おそらく、将来的には売買取引についても、賃貸取引と同じように、書面の電磁的交付も解禁されるでしょう。ただし、売買については本人確認をしないといけないので、KYC(本人確認の義務)のケアが必要です。

成本:多くの大家さんや地主さんは、いま、70歳、80歳の世代です。これが、一気に世代交代を迎えます。そうなると、次の世代は、これまでのように、「先代からの縁があるから」ということだけを理由に地場の不動産会社を選ばないかもしれません。合理的な判断でスマートに、自分の物件の新しい価値を生み出してくれる不動産会社を“取引相手”として選ぶかもしれません。ITリテラシーの高い世代がどんどん増え、お客さんはスマホを使いこなす世代になっていきます。彼らは、効率的で、スマートに取引ができる不動産会社を好んで使うようになっていくでしょう。この潮流は、おそらく、加速していきます。不動産業界は、そういう時流を迎えているという認識だと思うんです。

仮説1/第三者の管理物件をつかったサブスクリプション

成本:具体的な事例で私の仮説もご紹介します。たとえば、『OYO LIFE』です。代表の勝瀬さんが以前に話していましたが、お客さんの半分くらいは内見をせず、スマホだけで部屋を借りるそうです(※2020年1月24日時点)。『OYO LIFE』はそれができます。重説の書面を電磁的に交付することは、まだ、認められていません。この状況で、なぜ、スマホで契約が完結するのか。それは、『OYO LIFE』は、自分たちが貸主になっているからです。自分が貸主になって賃貸業をしても、宅建業法上の宅建業には該当しません。自分で不動産を売ることを業(ぎょう)としてやるには、宅建業の免許が必要です。しかし、自分が大家さんになって、または、借り上げて、賃貸人として他人に貸すことをしても宅建業にはあたらないのです。よって、重説をする義務も生まれません。重説がないので、部屋を借りるときの契約のすべてをスマホで完結させる、という世界観を『OYO LIFE』は作り出せました。ここからは私の仮説です。もし、書面の電磁的交付が解禁になると、管理会社は、第三者の管理物件を含めて、『OYO LIFE』のようなサブスクリプション賃貸サービスをすることもできるようになりますね。

仮説2/賃借権をトークン化し、二次流通マーケットを創造する

成本:もう1つの事例は『ADDress』です。多拠点コリビングで注目を浴びています。古民家などの全国のいろいろな拠点(住居)に定額4万円から住み放題をうたうサービスです。同じ個室を連続して借りることができる(泊まれる)期間は7日間まで、という制約があります。敷金、礼金、電気代が不要という点は『OYO LIFE』と同じサービス内容です。『ADDress』の場合は、法律や規制に詳しい人からすると、次のようなことが気になると思います。

宿泊業ではないのかな?

旅館業法には抵触しない?

「ある部屋を7日間以下の期間だけ住まわせる」なんていう貸しかたができるの?

成本:答えは、おそらく、「共同賃貸借契約」という法形態にあると思われます。つまり、『ADDress』会員さんが全員で、全部の物件を共同で借りているという状態なのではないかと推測しています。会員をすべての物件の賃借人とすることで、「会員は、どの物件に住もうがOK」という状況を『ADDress』は作り出しているのではないか。ここからは私のアイデアで、そういった賃借権の共有持ち分をトークン化して流通させたら面白いんじゃないかなと思います。賃借権を売買するわけです。ちなみに、「賃借権の売買」や「賃借権の売買の媒介」も宅建業には該当しません。したがって、賃借権の共有持ち分の売買やその媒介をする際に、重説は不要です。「二次流通のマーケットが生まれ、買う人が出てくるかもしれない」となると、さらに、利用者も増えるのではないか。というのが私の仮説です。

 

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