売買も非対面で! 「IT重説」で何が変わる?

- 国土交通省が不動産売買時のIT重説を可能とする方針を明らかにした。IT重説とは何かを簡単に振り返る。
- IT重説は既に賃貸では認められているが、現状の制度ではメリットを活かしきれていない部分も。
- コロナ禍による社会情勢・ニーズの変化が、IT重説と共に業界のデジタル化を進める鍵と目される「重要事項説明書等の電磁的方法による交付」解禁の日を早めるのでは。
コロナ禍、そしてデジタル庁設立で注目高まるIT重説とは?
国土交通省が2020年10月12日、不動産売買時の重用事項説明について、テレビ電話など非対面でも可能とする方針を決めました。いわゆる「IT重説」ですね。年度内に社会実験の結果を取りまとめた上で、運用指針を改正すると報じられました。
同月23日に行われた赤羽一嘉大臣の会見でも、基本的な方向性について河野太郎大臣、平井卓也大臣と共に意見交換を行ったとコメントされています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受け、業界内外で非対面ニーズが高まっていることや、2020年9月16日の菅内閣発足以降、急ピッチで行われているデジタル庁設置の動きを鑑みても、納得のニュースといえます。今後ますます注目の集まるIT重説のポイントを押さえておきましょう。
IT重説(ITを活用した重要事項説明)とは、「宅地建物取引業法第35条に基づき宅地建物取引士が行う重要事項説明を、テレビ会議等のITを活用して行うこと」を指します(※)。パソコンやテレビなどの端末を利用して、対面時と同様に説明や質疑応答が行える双方向性のある環境が必要となります。
国土交通省が挙げているIT重説のメリットは大きく4つ。
・遠隔地の顧客の移動や費用等の負担軽減
・重説実施の日程調整の幅の拡大
・顧客がリラックスした環境下での重説実施
・来店困難な場合でも本人への説明が可能
例えば、地方から上京する大学生が入学前に部屋を探す場合など、契約のために日を改めて店舗に足を運ぶのは負担になりますよね。それまでは対面に限られていた契約前の手続きを遠隔で実施できるようになったことで、より柔軟な対応が可能になったわけです。ただし、今はまだ後述する条件により「完全なデジタル化」とはいえない状況にあります。詳しく見ていきましょう。
※ 参考:国土交通省「ITを活用した重要事項説明等に関する取組み」
賃貸ではすでにスタート、売買の方針も決定。現状賃貸も「未完全」の理由とは
SUMAVEでも以前取り上げましたが、賃貸借契約におけるIT重説は2017年10月1日から既に運用が始まっています。一方、売買取引におけるIT重説は社会実験の段階。社会実験は当初2020年9月30日までの予定とされていましたが、コロナ対策の一環として現在も継続実施されています(2020年11月現在)。
そして、現在行われているもう一つの社会実験が、2020年9月1日から翌年3月31日までの実施が予定されている「賃貸取引における重要事項説明書等の電磁的方法による交付に係る社会実験」。こちらは2019年10月1日~12月31日に実施された社会実験の結果を踏まえて改訂されたガイドラインをもとに、再び開始されることとなりました。
実はここにこそ、既にIT重説の本格運用が始まっている賃貸借取引のデジタル化も「不完全」と言わざるを得ないポイントがあります。
IT重説には実施にあたって遵守しなければならない条件がいくつかあります。例えば、使用するIT環境について「図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ、双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること」が必要、というもの。つまり、双方向で問題なくやり取りできる環境が整っていなければならないということで、これは当然ですよね。
しかし、現状IT重説の実施には「IT重説の実施に先立ち、取引士が記名押印した重要事項説明書及び説明に必要なその他の資料を相手方に事前送付することが必要」という条件があります。つまり、IT重説を実施する前に紙の書類を作成し、送付しておかなければならないのです。しかも「PDFファイル等による電子メール等の電磁的方法による交付は認められない」とされています。説明そのものはパソコンやスマートフォン越しに実施できても、以下の送付フローを省くことはできません。
①[宅建業者]重要事項説明書の作成
↓
②[宅建業者]重要事項説明書の内容確認、記名押印
↓
③[宅建業者]重要事項説明書を2部相手方(顧客)に送付
↓
④[顧客]重要事項説明書を受領
↓
⑤【重要事項説明を実施】(顧客は送付された重要事項説明書を見ながら説明を受ける)
↓
⑥[顧客]重要事項説明書の内容確認、記名押印等
↓
⑦[顧客]重要事項説明書を1部宅建業者に返送
こうして見ると、書類のやり取りを紙からデータに置き換えるだけで、かなりの手間やコストが削減できるであろうことが分かります。
セキュリティ面に配慮しさえすれば、IT重説の実施に際し利用する端末やOS、ソフトウェア等は特に定められていないのですが、この一点で「取引のデジタル化」は不完全といえます。売買のIT重説解禁に加えて、賃貸借・売買ともに「重要事項説明書等の電磁的方法による交付」の解禁が待たれるところです。
IT重説によるメリットは効率化
全国のコンビニエンスストアの数よりも事業所の数が多く、業界関係者も膨大な数に上る不動産業界。長らく「労働集約型」といわれてきた不動産業界のデジタル化は、他業界に比べるとゆっくりかもしれません。しかし、良くも悪くもコロナ禍がその速度を引き上げています。今回取り上げた契約の「完全」デジタル化のように、法改正が絡む大がかりな変化も、コロナ「前」よりは受け入れやすい土壌が育ってきているのではないでしょうか。
2020年11月13日、賃貸管理事業や不動産テックサービスを展開するAMBITIONが、「クラウドサイン」を提供する弁護士ドットコムとの業務提携を発表したことも、こうした流れの一つと言えるでしょう。
【出典】株式会社AMBITIONのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000007782.html
総合的な不動産事業を展開するAMBITIONと、国内トップシェアの電子契約システムを展開する弁護士ドットコムが不動産管理・仲介会社へ電子契約を普及させるためにどういった事業を展開していくのか、続報が楽しみです。
IT重説解禁をはじめとする「デジタル化」を実施するメリットは複数ありますが、その最たるものは効率化であるはずです。ますます高まる非対面・非接触ニーズや、今予定を前倒して進められているデジタル庁創設など、コロナ禍をきっかけに巻き起こっている大きな変化が、現状片手落ちとなってしまっている「賃貸借契約のデジタル化」の完遂の日を早めることを期待したいですね。