いよいよ始まる「IT重説」。重要事項説明をオンライン化する店舗メリットは?

- 賃貸借契約において、IT重説が2017年10月より運用開始
- 2年間の社会実験でトラブルや問題はなかったものの、見えてきた課題
- IT化する重説・VRを活用した内見・署名の電子化などオンライン完結に向かう不動産取引
2017年10月、いよいよ「IT重説」(ITを活用した重要事項説明)の本格運用が開始されます。
今回の運用開始対象となるのは賃貸借契約での借り主に対する重説のみですが、これまで対面での実施が義務づけられていたものが、TV電話やビデオチャットなどのオンラインシステムを通じて非対面で行えることとなります。賃貸借契約においては、大学入学や就職、転勤など、遠方への急な引っ越しに伴う契約も多く発生するため、IT重説が可能な不動産店舗への顧客ニーズが高まることも予見されます。
2018年始の繁忙期に向け、他社との差別化を図る・または競合に取り残されないためにも、IT重説に取り組んでいく宅地建物取引士が増えていくのではないでしょうか。
運用に「支障なし」と判断するまでの2年間
2015年8月31日~2017年1月31日まで1年5ケ月にわたり、国土交通省と一部の不動産業者(303社)の協力によってテレビ電話を使ったIT重説の社会実験が実施されました。
IT重説で行われた賃貸取引は1,069件、売買取引は2件。個人を借り主とした賃貸取引契約において目立ったトラブルや問題が発生しなかった他、十分な実証件数が確保できたとして、運用実施が決定されています。
売買契約や法人間契約に関しては、取引件数がわずか2件と十分な検証が行えていないことから、2017年8月1日から社会実験を再開しています。
ただし運用が開始される賃貸取引においても、社会実験中に実際にIT重説を行った企業・宅地建物取引士には大きな偏りが見られた他、一部の消費者からは「対面の方が分かりやすい」という声が挙がるなど、本格運用開始後にもさらなる改善の余地が残されています。
抑えておきたい、IT重説導入のメリット
運用開始と同時に導入を決めている企業側では、既に導入に向けた研修や機器の購入が進められているようですが、このような人的・金銭的コストを払ってでも、導入するメリットはあるのでしょうか。IT重説導入による、企業・店舗側のメリットは大きく以下の3点が考えられます。
- 来店不要で遠隔取引がカンタンに
冒頭でも触れたように、遠方取引においては大きな顧客メリットがあります。営業マンとしても遠方顧客に案内がしやすく、契約の流れが大きくスムーズになると考えられます。 - 音声記録化でき「言った言わない」トラブルを回避
契約後にありがちな「言った言わない」による水掛け論。録音設定を行えるシステムを活用すれば、どのような説明を行ったのかを明確に記録として残すことができ「そんな話は聞いていない」と言われるトラブルを回避する仕組みとしても機能します。 - 借り主の説明事項への理解が深まる可能性
これまでの重説では、来店と同時に初めて重要事項説明書を見る顧客も多かったのではないでしょうか。IT重説では対面ではないため、重要事項説明書の事前送付が必要です。社会実験で、事前送付された内容に目を通す顧客が多かったことから、旧来の方法よりも説明事項そのものへの理解が深まる可能性も期待できます。
これらのメリットの他、特に2018年の繁忙期においては「顧客メリットの高い新たな仕組みに積極的に取り組む企業・店舗」として、顧客からポジティブな印象を持ってもらえることも期待できるのではないでしょうか。
IT重説に必要な機材は?実際どんな流れで行うの?
IT重説の導入は、動画通話が可能なPCやスマートフォン、そしてインターネットさえあれば可能です。最近のノートパソコンには予めカメラ・マイク機能が内蔵されているものも多く、既存の設備でも実施できる企業も多いと考えられます。実施の流れは以下の通りです。
- 重要事項説明書を契約者に事前送付する
- IT重説に対する同意書に、契約者が同意する
- テレビ電話など、動画通話システムをつなぐ(以下オンライン)
- IT重説に関する注意点・確認事項を改めて説明
- 身分証明書を画面越しにお互いに提示
- 対面と同様に重要事項を実施
- 説明完了
- 契約者が重要事項説明に押印・返送する
重説そのものに関する注意点の説明や、宅地建物取引士の身分証明などはこれまでも義務付けられているなど、「オンラインで会話する」以外に大きな流れの変更があるわけではなく、手間などが増えることもありません。とはいえ、日頃からSkypeなどのビデオチャットやテレビ会議に慣れていないと、機器操作への苦手意識などの心理的なハードルも高く感じるのではないでしょうか。
そんな企業・店舗に向けて、現在「IT重説活用セミナー」などが全国各地で開催されているため、まずは話を聞いてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
「オンライン完結」の不動産取引に向けて
内見のオンライン化やVR・ARを活用した仮想内見、電子署名を活用したオンライン契約など、不動産取引の手続きの一部が少しずつオンライン化される流れは既に生まれています。
オンラインで始まりオンラインで完了する、「オンライン完結」の不動産取引に向けて最大の課題であった重説のオンライン化は、不動産のIT活用にいっそう大きな波を起こしてくれることでしょう。
いよいよ始まるIT重説、少しでもより早く・より多くの企業での導入が期待されます。