“Webの次”と言われる体験共有型メディア「VR・AR・MR」。不動産ビジネスにどう活かす?

2018.12.25
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“Webの次”と言われる体験共有型メディア「VR・AR・MR」。不動産ビジネスにどう活かす?

はじめに

「VR元年」といわれた2016年から、もうすぐ3年。文字や画像といった「情報」だけでなく、「体験」そのものを共有する技術として注目されるVRやAR、MRといったxR技術。不動産業界とも親和性が高く、VRを使った「バーチャル内覧会」を提供する会社も珍しくなくなってきました。

今回は様々な事例から、不動産業界にxR技術を取り入れることの可能性について探っていきましょう。

情報を共有する「Web」から体験を共有する「xR」へ

冒頭でも少し触れましたが、「xR(X-Reality)」はVR・AR・MRの総称です。どれも「体験を共有」できる技術として、2016年頃から少しずつ一般層にも認知を拡大しています。

IT関連メディア事業を展開するインプレスのシンクタンク部門、インプレス総合研究所が2018年1月24日に発表した「VRビジネス調査報告書2018[業務活用が進むVR/AR/MRの動向と将来展望]」に関するプレスリリースによると、同社が行ったVR体験率調査においてVRの認知度は87.6%、ARは34.0%、MRは20.3%。特にVRに関しては、全体の21.2%が「VR用ヘッドセット(ゴーグル)の現物を見たことがある」と回答しており、「画像や写真で見たことがある」と回答した人(61.3%)との合計82.5%が、VR用ヘッドセットがどんな物か知っていることになります。

VRに比べると、ARやMRはまだ少しマイナーな印象を受けるかもしれませんが、既に様々な業界でそれぞれの特性を活かしたコンテンツ制作の模索が始まっています。「最新のゲームや、企業のプロモーションに使われるもの」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、決してそれだけではありません。

そもそも、VRやAR、MRとはどのような技術なのでしょうか? それぞれの簡単な仕組みや特徴、最新事例をご紹介します。

完全閉鎖空間で現実世界を再現する「VR」

VRは「Virtual Reality(バーチャル・リアリティ)」の略であり、「仮想現実」と訳されます。専用の大きなゴーグル(ヘッドセット、ヘッドマウントディスプレイ)を頭に取り付けると、あたかもコンピューターで作られた仮想空間の中にいるかのような体験をすることができる技術です。

後述するARやMRと違い、VR用のヘッドセットを被ると完全に現実から遮断されます。閉鎖された空間の中に作られた世界を体験することになるため、没入感の高さは随一を誇ります。テレビゲームとの相性が良いとされるのも、このためです。

VRのヘッドセットをした女性

国内では、生身の人間の代わりにモーションキャプチャー技術を使った3Dキャラクターを動画に登場させる「VTuber(バーチャルYouTuber)」が流行したことも、VRの認知に一躍買いました。

cluster(クラスター)」のようなバーチャルイベントプラットフォームではVTuberによる「ライブ」も開催されており、仮想空間内で自分の分身となるキャラクター(アバター)を通したユーザー同士の交流が行われています。自宅にいながらにして、別世界にいるかのような体験ができるわけですね。

不動産業界でも、この「一瞬で別世界」を体験できるという特徴を活かした使われ方をしています。注目事例を見てみましょう。

・ナーブ×ギガプライズ:どこでもストア

VRコンテンツプラットフォーム大手のナーブと、集合住宅向けISPサービスを展開するギガプライズによる無人不動産接客店舗「どこでもストア」。VRと遠隔通話を活用することで、その場にいながら遠隔で物件や旅行先を見て回ることができます。さらに、ブース内に設置された端末を通じて専門スタッフからサービスの詳しい説明を受けることができる仕組みです。

どこでもストアの端末

【出典】ナーブのプレスリリースより:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000019146.html

2018年7月13日、福岡県のイオンモール福津では、同サービスを利用した「仮想住宅展示場」がオープンしました。約0.2坪という小さなスペースの中で常時32棟以上の物件が閲覧できるようになるとのことです。「どこでもストア」の使い方は以下の通り。

①問い合わせを希望する内容を選択。
②一覧から物件を選ぶ。
③「通話する」ボタンを押すと、専門スタッフとの通話を開始。

どこでもストアの使い方手順の図解

【出典】ナーブのプレスリリースより:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000019146.html

イオンモールでショッピングのついでにブースに立ち寄れば、短時間で多くの物件を感覚的かつ直感的に見て回ることができます。
同社は不動産会社への導入実績として、現地での内見を削減する代わりにVR内見を活用することで、67%の業務を効率化できたと発表しています。

また、ナーブは2018年10月29日、11月下旬から野村不動産アーバンネットの一部店舗で仮想室内における移動に加えて「歩く」「立つ」「座る」といった動作を体験できる新たなVR内見サービス「VR内見プレミアムα版」の提供を開始すると発表しており、このシステムは不動産流通業界において初の試みとのことです。

同サービスの導入により、従来は定点視聴もしくはVR動画を活用して疑似的に歩行を再現するだけだったVR内見システムが、リビングからキッチンへの動線や距離を確認したり、しゃがんでキッチンカウンターの高さを確認したりといった、任意の様々な目線(高さ)から確認できるものになります。

クラウド3Dルームビュワー「ROOV」を展開するスタイルポートが2018年11月20日に発表した「VRを活用した住まい選びに関する消費者意識調査」の結果によれば、3年以内に新築マンションを購入または購入を検討し、実際にVR内見を体験した1,030人のうち、88.8%が「完成前の部屋をVRで内覧できるコンテンツがあれば役に立つ」と回答しています。

調査結果、非常に役に立つ43.2%、やや役に立つ45.6%の円グラフ

【出典】スタイルポートのプレスリリースより:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000031224.html

さらに49.8%が「VR内覧によって購入意欲は高まると思う」と回答しており、41.0%が「購入意欲には関係ないが、検討するにはVR内覧は必要だと思う」と回答しています。

アンケート結果の円グラフ。VR内覧によって購入意欲は高まると思う49.8%、購入意欲には関係ないが、検討するにはVR内覧は必要だと思う41.0%、合計90.8%

【出典】スタイルポートのプレスリリースより:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000031224.html

そして現状、部屋の質感を確認するのに最も役立つのはモデルルームだと評価されていますが、その他の項目に関してはVR内見とモデルルームとで大差ありません。

Q:購入するお部屋を選ぶ際に、最も役に立つと思われるコンテンツを1つお答えください。に対する回答一覧

【出典】スタイルポートのプレスリリースより:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000031224.html

Q:モデルルームでお部屋選びの際に参考になると思われるものはどれですか?に対する回答で、モデルルームに次ぐ評価となったVR内覧コンテンツ

【出典】スタイルポートのプレスリリースより:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000031224.html

先に挙げた福岡県の「仮想住宅展示場」では、今後賃貸物件も検索できるようになると発表されています。新築マンションに限らず、あらゆる物件の「内見はVRで」が当たり前になる日は近いかもしれませんね。

現実世界にレイヤーを重ね合わせる「AR」

ARは「Augumented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)」の略であり、「拡張現実」と訳されます。VRと違い、現実空間に仮想空間を重ね合わせることで現実を「拡張」する技術です。

大ヒットしたスマートフォン向けゲーム「Pokemon GO(ポケモン ゴー)」や、若い女性を中心に支持されるカメラアプリ「SNOW」などで手軽に体験できるため、体験者が最も多い技術かもしれません。どちらもスマートフォンのカメラを通すことで、前者は現実世界にキャラクターが現れたかのような体験ができますし、後者は人物の顔に動物の耳や鼻を重ねて表示することができます。現実空間に1枚、ごく薄いスクリーンを重ねて表示する感覚というと分かりやすいかもしれません。

・リビングスタイル:「RoomCo AR (ルムコエーアール)」

2018年10月25日、インテリア業界向けITサービスを展開するリビングスタイルは、同社のインテリア試着アプリ「RoomCo AR」で新たにニトリのインテリア商品を取り扱うことを発表して話題を呼びました。

現実に重ねて表示できるというARの特性を活かし、スマートフォンのカメラを通して画面に映し出された自分の部屋などの現実空間にソファやテーブル、カーテンやインテリア用品などの実物大の3Dデータを自由に配置することができるアプリです。そのまま商品ページに移動してアイテムを購入することも可能です。

同様のアプリはIKEA(IKEA Place)からも提供されています。大型家具は特に、購入前に自分の部屋に置いた際のサイズ感やコーディネートを確かめたいというニーズは大きいでしょう。

・コマツ×カヤック:Kom Eye AR

現実を「拡張」するAR技術は、建設現場での活躍も期待されています。建設大手のコマツはインターネット事業を行うカヤックと共同で新サービス「Kom Eye AR」のリリースを予定しています。同サービスは、建設機械の「目」といわれるステレオカメラで撮影した映像と連動するもので、主に下記の3つの機能によって建設現場の安全や生産性の向上に貢献するとしています。

① 3D設計面のAR表示機能
コマツの新型ICT油圧ショベル「PC200i-11」の運転席内に設置したタブレットに、ステレオカメラで撮影した映像と設計面3DモデルデータをリアルタイムでAR合成表示します。オペレーターは設計通りに施工が進んでいるかを直感的に確認しながら作業できます。

② 建機の状況表示機能
2DミニマップとHUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)表示により、オペレーターは施工図面上における建機の現在位置、向いている方向や姿勢などの状態を画面で確認できます。

③ データ連携機能
タブレットからSMARTCONSTRUCTION CLOUD(同社のアプリケーションプラットフォーム)に接続し、常に最新の3D設計図面やモデルデータをダウンロード・表示できます。

「KOM EYE AR」画面イメージ

【出典】コマツのプレスリリースより:https://home.komatsu/jp/press/2018/others/1199804_1599.html

家具の「試し置き」と施工進捗管理では対象も使われ方も大きく異なりますが、現実空間にデジタルデータを重ね合わせて表示することで、可能となることは多いでしょう。

仮想空間を現実世界に再現する「MR」

MRは「Mixed Reality(ミクスト・リアリティ)」の略で、「複合現実」と訳します。前2つに比べて発展途上の面が大きいため、概念も確立されきってない部分もありますが、イメージとしてはARやVRの発展形となり、現実世界と仮想空間を融合させる技術です。現実世界に重ね合わせて表示された仮想の物体に近づいたり、回り込んで眺めたりすることが可能となります。さらに、その現実と仮想が複合された風景や体験を他者と共有することもできます。

・Microsoft:Microsoft HoloLens

MRの代表例がこのHoloLens(ホロレンズ)です。Microsoftが開発したヘッドマウントディスプレイで、現実と仮想空間を融合させることで、実際のスケール感での確認や、実物では見えない情報を表示することを可能にします。また、地域や時間を問わず、ホロレンズを装着している複数人が同じホログラム(仮想物体)を取り囲み、確認しながら議論をすることもできます。その特性から、医療現場の研修や自動車の設計などに活用されています。

Microsoft HoloLensの紹介動画のキャプチャ

【出典】Microsoft HoloLens: Partner Spotlight with Volvo Cars(Microsoft HoloLensのYouTube):https://youtu.be/DilzwF90vec

不動産業界でも、こちらの記事で紹介したような外観模型の再現や、ホログラムで建物の構造を可視化し、適切な計画や検査を実施。画面を共有することで遠隔地の現場へサポートを行うことを可能にするなど、活用が進んでいます。

ホロレンズ自体が高価なデバイスのため、MRの概念が一般層に広がるにはもう少しかかるかもしれません。しかし、ビジネス活用の面では最も発展が期待される技術です。

まとめ

内見から建設現場まで、多くの可能性を秘めるxR技術。空間ごと提供したい場合はVR、あくまで現実を主としたサービスを提供したい場合はARやMRと、分けて捉えておきましょう。

特にMRはまだまだ発展途上の技術。視野角や解像度といった性能面が向上し、機器自体の価格が下がればさらに多くの企業による活用事例が生まれていくでしょう。ビジネスマンは今のうちにそれぞれの技術を一度自身で体験してみて、各技術の特性を把握しておく必要がありそうです。

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