設計・建設に改革を起こすVRサービス「SYMMETRY(シンメトリー)」

- 従来の建築物の設計は主に設計図やパースを用いていたが、関係者全員に同じ完成のイメージを共有することが難しかった。
- 「SYMMETRY」は内装や土木といった様々な業種で活用されており、全世界108カ国で導入されているVRサービス。
- 複数の人が同じVR空間に入れるため、完成のイメージを共有しやすく、設計図などでは見えなかった改善点を見つけることができる。
今までの設計・建設は完成イメージの共有が難しかった
従来、建築物の設計では主に設計図やパースを用いてクライアントと打ち合わせし、イメージを固めてきました。しかし、クライアントが完成した建築物をイメージしようにも、専門知識が必要な設計図からイメージを掴むことは非常に難しいもの。模型を用いることもありますが、制作時間が掛かるため、急な仕様変更には臨機応変に対応しづらいという課題がありました。
また、建設現場においても、現場の建設労働者と施工プロセスの具体的な共有を行うことができなかったりして、完成図をイメージしづらいという課題も。さらに、設計には設計士やデザイナーなど、さまざまな人が関わるため、設計図やパースだけでのコミュニケーションではイメージの行き違いが起こり修正回数がかさむなど、クライアントにとっても設計士やデザイナーにとっても大きな負担となっていました。
そんな中、SUMAVEでも紹介した「VR内見」や「3Dウォークスルー」などでも使われているVR技術を活用し、上記のような問題を改善させるサービスが、設計・建設の分野でも開発されています。株式会社イオグランツの「360°ビジュアルコミュニケーションツール EOPAN Cloud」や、NECソリューションイノベータ株式会社の「建設業向けVR・ARソリューション」などがありますが、今回はその中でも特に注目を集めているSymmetry Dimensions Inc. (シンメトリー・ディメンションズ・インク)の「SYMMETRY(シンメトリー)」をご紹介。SYMMETRYは内装、土木、製造業といった幅広い業種で活用され、全世界で108カ国、10,000を超えるユーザー数がいるとされており、日本でも多くの企業で導入しています。
VRだから実現できるソリューションや設計・建築のニーズに応えたSYMMETRYの特徴を見ていきましょう。
実寸大のVR空間で体験できる「SYMMETRY」
第5版不動産テックカオスマップからVR・AR分野に登場したSYMMETRYは、3D CADソフト「SketchUp」(3次元モデリング・ソフトウェア)のデータをVRに変換するソフトウェアツールで、専用の機器(ヘッドマウントディスプレイ)をつけるだけで、簡単に実寸大から100分の1のサイズまでさまざまな大きさのVR空間を体験することができます。
日照シミュレーションや距離の計測、ライトの確認など、図面やパースよりも臨場感あふれる形で感覚的にイメージを伝えることができるため、クライアントの理解度を向上させ、設計に説得力をもたせることができます。
SYMMETRY【出典】SYMMETRYニュースページより【URL】http://symmetryvr.com/jp/news/new-symmetry-release/
クライアントはVR内で自由に移動し、気になった部分にはフリーハンドや音声入力で修正指示を出せます。修正箇所は自動的にテキスト入力され議事録として保存されるため、デザイナーはその議事録をもとにSketchUpデータを修正。VR空間にもすぐ反映できます。
現在のSYMMETRYはこれらの修正工程が必要ですが、今後はAIを活用することで音声入力で指示した内容をその場で簡単に修正できるシステムの実用化を目指しており、より直感的に誰もが操作できるサービスとなるでしょう。
VR空間内で修正指示【出典】SYMMETRYプロダクトページより【URL】http://symmetryvr.com/jp/product/
建築物の規模の大きさによっては担当者が複数にまたがることも少なくないため、SYMMETRYでは複数人が同時に同じVR空間を体験できる機能が追加されました。
世界108カ国10,000を超えるユーザーを抱えるSYMMETRYには翻訳機能も備えられており、例えば東京の設計士やデザイナーと海外のクライアントが同時に同じVR空間を体験し、その場でデザインを確認できます。
さらに、同じVR空間の中にいながら別々の場所をそれぞれ確認できるため、確認工程の短縮化を実現。また、全員に確認してほしい場所があるときにそれぞれが異なる場所にいた場合でも、同じ場所に集合させる機能や特定の人がいる場所に移動する追従機能も備えます。細かい部分は担当ごとに確認しつつ、大事な部分は関わる人全員で確認するといった柔軟な対応が可能です。
それ以外にも、設計にあたりパブリックスペースやプライベートスペースといった空間をテーマ毎に分け、細かな仕様や材料、建具などの選定に至るまで全てSYMMETRY内で完結することができます。これらの機能のおかげで設計士やデザイナーは現場合わせを最小化できるのです。
SYMMETRYは、設計だけではなく、建設でも活用されています。3Dレーザースキャナやドローンで撮影された建設予定地の「点群データ(Point Cloud)」とSketchUpデータを一緒に読み込み、重ね合わせることで精度の高い建設シミュレーションを可能に。これにより設計図上では判別しにくい箇所でも、立体的に捉えることができ、実際の建設現場を想定しやすくなります。
建設前に施工プロセスを建設労働者とより具体的に共有することができるため、施工ミスの防止にもつながります。そのため、突然のトラブルを想定した重機のレンタル費などのコストを削減することができるとともに、建設労働者の負担を減らすことができます。
VR空間が設計と建設現場の橋渡しに
VR空間で設計し、実際の建設現場へとフィードバックできるSYMMETRY。設計と建設現場が分断され、円滑なコミュニケーションが図りづらかった従来型のプロセスにおいて、このようなソリューションは業務の効率化のみならず関係性の構築という面でも役立つかもしれません。テクノロジーの進化がめざましい時代、人の手による仕事とともに、テクノロジーが持つ力を合わせて有効活用していくことが、建設業界だけではなく不動産業界のさらなる発展につながるといえるでしょう。