若者はスマホで借りる! 「お部屋さがし」アプリ徹底比較

- 物件を探す際、若者は店舗へ出向く前にポータルサイトやスマートフォンアプリで念入りに情報収集する傾向にある。
- 若者の認知率が高いスマートフォンアプリの差別化ポイントを解説。
- 若者が好むコミュニケーションや情報収集の仕方は常に変化している。若者への的確なアプローチ方法を検討することが、不動産業界・不動産テック業界におけるビジネスチャンスにつながるのかもしれない。
若者の部屋探し事情
例年、春の引越し需要は3月下旬から4月上旬頃にピークを迎えますが、今年は新型コロナウイルスの影響を受けて時期を延期、または早めた人々が多かったようです。
引っ越しのシェアリングサービス「Hi!MOVE(ハイ!ムーブ)」を運営するGLIDEが実施したアンケート調査(※1)によると、この春に引越し予定のあった(ある)全国の18~39歳の男女400名のうち、3人に1人以上(39.0%)が新型コロナウイルスによって引越しに影響があったと回答しています。具体的な影響の上位3位は、順に「引越し時期を延期した」(37.9%)、「物件の内見に行く件数を減らした(内見に行くのをやめた)」(33.1%)、「引越し時期を早めた」(21.0%)という結果に。今年はやむを得ず、店舗に出向いて話をしたり内見をしたりするのを諦めざるを得なかった人々が多いようですね。
「Q2.新型コロナウイルスの影響で引越しに関する具体的な影響をお答えください。(複数回答)」への回答結果(n=272)
【出典】株式会社GLIDEのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000040339.html
店舗に出向かずに物件の情報収集をするとなると、多くの人々が思い浮かべるのがポータルサイトやスマートフォンアプリを使う方法でしょう。こちらの記事でも触れていますが、特に若年層はその傾向が強いようです。
アットホームが全国の18~29歳の学生・社会人男女を対象に実施した調査(※2)によると、「現在の部屋を探した際に、利用した方法は何ですか?(複数回答)」という設問に対し、学生・社会人ともに70%以上が「スマートフォン(インターネット)で検索する」と回答。中でも社会人女性は89.7%がスマートフォンを使うと答えています。
また「現在の部屋を探した際に、利用したサイト・アプリは何ですか?(複数回答)」という問いについて、学生の60%以上、社会人の75%以上が「不動産ポータルサイト(アットホーム、SUUMOなど)」と回答。「不動産ポータルアプリ(アットホーム、SUUMOなど)」は学生の約20%、社会人の約30%に支持される結果に。学生はアプリの他に、不動産会社のホームページや検索サイトも利用する傾向にあるようです。
「現在の部屋を探した際に、メールや電話で問合せをした不動産会社数は何社ですか?(択一)」という設問については、学生の32.9%、社会人の35.0%が「1社」と回答。また、どちらも15%以上が「0社」と回答しているため、およそ半数は0~1社へ問い合わせをしていることになります。
続いて「現在の部屋を探した際に、訪問した不動産会社数は何社ですか?(択一)」という設問を見ると、学生の47.9%、社会人の49.2%が「1社」と回答しており、共に最多。若年層はインターネットでしっかりと事前調査を行い、候補を絞り込んだ上で、不動産会社へ問い合わせや訪問をする傾向にあるようです。つまり不動産で悩んでいる人のほとんどは事前にネットを通じて訪れる不動産会社などを決めているのです。
※1 出典:株式会社GLIDE「新型コロナウイルスによる引越しへの影響に関する調査」(2020年3月27日発表)
※2 出典:アットホーム株式会社「30歳未満の学生・社会人の部屋探しを徹底調査 2019年度版」(2019年11月7日発表)
念入りに情報収集をする若者が愛用するお部屋探しサービス・アプリ
では、若者は具体的にどのようなサービスやアプリを使い物件を探しているのでしょうか? ここで、若年層リサーチを得意とするテスティーが実施した「お部屋探し」に関する調査(※1)を見てみましょう。20~30代の男女2,183名を対象に行なわれたこの調査でも「お部屋探しで利用するもの」についての設問では、いずれの性年代においても「スマホ (web)」が1位。20代男性のみ次点が「PC」で、その他の性年代では「不動産屋」が2位となっています。
また、こちらの調査では具体的な「お部屋探しサービス」(不動産ポータルサイト)の認知率も発表されています。各性年代においてトップ3は変わらず、認知率の高い方から順に「SUUMO」、「アパマンショップ」、「いい部屋ネット」と続きます。特にSUUMOの認知率は20代女性で73.4%、30代女性で70.0%と、若い女性の約7割から認知されていることが判明しました。
そして、アプリについてもSUUMOの認知率が圧倒的に高く、いずれの性年代においても半数以上。2位もサービスと同様にアパマンショップとなっています。3位は性年代によって少し異なり、20代男性がアットホーム(16.3%)、20代女性でLIFULL HOME’S(20.6%)。30代は男女ともにCHINTAI(男性17.6%、女性22.5%)が挙げられています。
前出のアットホームの調査によると、住まいをスマートフォンで検索すると答えた人の割合は、2017年に行われた同調査に比べ学生・社会人共に増加しているそうです。今回は、若者からの認知率の高いポータルサイトが個別に用意しているスマートフォンアプリの特徴を紹介します。
なお、各画面のスクリーンショット等はいずれも2020年4月時点のAndroid版のものを使用しています。
※1 出典:株式会社テスティー「お部屋探しに関する調査」(2019年2月7日発表)
SUUMO
まずはポータルサイト、アプリ共に認知度1位のSUUMOのメニュー画面、物件検索画面を見てみましょう。ポータルサイトと同じようにエリアやキーワードなど、望む条件に合致する物件を検索することができます。検索画面もシンプルにまとまっているため、使い方に迷うことはないでしょう。
SUUMO【出典】「SUUMO」スマートフォンアプリより
ユニークなのは「なぞって探す」機能と「おさんぽ検索」機能です。前者は、画面に表示された地図を指でなぞることで、より自由に物件の検索範囲を指定できる機能。「おさんぽ検索」では、スマートフォンの位置情報サービスを利用して、街を歩きながら近くの賃貸物件を見付けることが可能です。あらかじめ希望の賃料や間取りを指定できます。
おさんぽ検索【出典】「SUUMO」スマートフォンアプリより
アパマンショップ
こちらも基本的な検索の仕方はポータルサイトと同じ。エリアや家賃相場などの希望条件を追加して物件情報を絞り込みます。
アパマンショップ【出典】「アパマンショップ」スマートフォンアプリより
特徴的なのは、メニュー画面下部の「かんたんリクエスト」とアパマンショップ実店舗の検索機能です。前者では、条件や相談する店舗を指定することで、プロに物件情報を探してもらえます。
アパマンショップ【出典】「アパマンショップ」スマートフォンアプリより
細かい要望も入力できる上に、通常の検索では出てこない非公開物件も対象に入るため、自分で検索するのが苦手なものの、何度も店舗に足を運ぶ時間はない……というユーザーにはこちらが利用しやすいかもしれませんね。
アットホーム
アットホームは一般向けと若者向けで、対象別に2つのアプリを用意しています。今回は若年層向けの「学生・社会人ひとり暮らしのためのお部屋探し」アプリを見ていきましょう。
一般向けのものは起動後のメニューもオーソドックスな検索画面ですが、若者向けのアプリは起動後、次々に表示される予算やライフスタイルについての質問に答えていくことで、自分に合ったプランを自動で作成し、合致する物件情報を表示する仕組みになっています。
アットホーム「学生・社会人ひとり暮らしのためのお部屋探し」【出典】アットホームのスマートフォンアプリ「学生・社会人ひとり暮らしのためのお部屋探し」より
なお、作成されたプランの項目内容(家賃の上下限やエアコンの要不要など)は後から変更することも可能です。
CHINTAI
CHINTAIはオーソドックスな検索機能を持つ一般向けアプリのほかに、2人暮らし用の物件を探しているカップル向けのアプリ「ぺやさがし」を用意。こちらはそれぞれのスマートフォンに入っているアプリを連携させることで、お互いの希望条件に合致する部屋を検索したり、気に入った物件情報を相手にシェアしたりすることができる仕組みです。
CHINTAI「ぺやさがし」【出典】CHINTAIのスマートフォンアプリ「ぺやさがし」より
スマホ、キャッシュレス……変わる若者へのアプローチ
見てきたように、一口に物件検索アプリといっても、各社がさまざまな工夫を凝らして差別化を図り、シェアを獲得しようとしていることが分かります。
先に挙げたテスティーの調査によると、お部屋探しサービス・アプリの利用目的で最も多いのは当然「購入、借りるため(実用的) 」ですが、「物件を見るため(趣味や娯楽)」という理由を挙げている回答者も3割以上という結果に(3位は相場を知るため(情報収集))。
また「お部屋探しサービス・アプリの満足度」についての設問では全性年代の半数以上が「満足している」「やや満足している」と回答していますが、裏を返せば残りの半数近くは利用したポータルサイトやアプリに何か不満を感じているということです。特に、20代は男女共に6割以上が満足・やや満足と回答しているのに対し、30代の満足度は男性が56.6%、女性が52.1%。前掲したアットホームの調査では、現状学生に比べ社会人のアプリ利用率が高いという結果が出ていたことと併せて考えると、何か改善点やビジネスチャンスが埋まっている部分といえるかもしれません。
今、世界では急速にキャッシュレス化が進んでいますが、アットホームによれば、初期費用や家賃についてもクレジットカードで支払いたいというニーズが高い(学生50%以上、社会人75%以上)とのことです。また、若者はこちらやこちらの記事で取り上げたような、チャットを使ったテンポの良い「対話」型のコミュニケーションや「情報引き寄せ」行動を好むといった傾向が見られます。
次々にアップデートされていく若者の情報収集手法や今回取り上げたアンケート結果などを考えると、不動産業界におけるスマホを使った若者へのアプローチの仕方は、まだまだ可能性が眠る領域と考えられるのではないでしょうか。他業界の事例なども参考にしながら、「スマホ世代」に好まれる物件の見せ方や事業を考えていきたいですね。