アイデア次第でチャンスは無限大?“愛され”チャットボットで未来をつかむ

- チャットボットをはじめとする「対話型AIシステム」市場は、著しい成長が見込まれる最注目市場
- LINEのトーク機能を使ったものを中心に、多様な業界がチャットボットを導入している
- 現在不動産業界では主に、物件検索機能を持つチャットボットが用いられている
- チャットボットの特性を理解すれば、今抱えている課題を解決する一助になるのでは
はじめに
2018年8月20日、矢野経済研究所がチャットボットをはじめとする「対話型AIシステム」市場について興味深い調査結果を発表しました。それによると、国内の対話型AIシステムの市場規模は2017年時点で推計11憶円。これが2020年には87億円、2022年には132億円にまで拡大すると予測されています。
画像:矢野経済研究所のプレスリリースを参考に編集部で作成
急成長が予測される背景には、昨今の「AI」流行りに加えてLINEやFacebookなど、既存のSNSやメッセージツールを利用したチャットボットが提供されるようになったことが挙げられます。
最近では業務の効率化を図るためだけでなく、企業とユーザーをつなぐコミュニケーションツールとしても注目されるチャットボット。不動産業界にとっても活用の目がありそうです。制作サービスを利用すれば担当者にプログラミング知識がなくても運用を始められるといった、参入障壁の低さからも人気を集めています。そんな、今注目の「チャットボット」について、最新事例と共にご紹介していきます。
チャットボットとは
そもそも、チャットボットとは何でしょうか? 「対話(chat)」と「ロボット(robot)」を組み合わせてできた言葉で「自動会話プログラム」とも言われます。メッセージツールを介してユーザーのメッセージに対して自動的に反応することで対話を行ないます。その対話の中で話題や語彙を学習していくものもありますが、現在はあらかじめ設定された単語や文章に対して、即座に適切な返答を送ってくれるものが主流です。
例えば、企業のサポート窓口をチャットボットに任せておけば、24時間無人での対応が可能になります。不動産業界なら住宅の購入を検討している人に対し、適切な情報を適切なタイミングで提供することも可能になります。
住宅は高い買い物ですから、買い手にとっては事前の情報収集が肝となります。
しかし、電話やメールで何度も担当者に問い合わせるのは気が引けるという人も多いでしょう。その点、チャットボットなら誰に気兼ねすることなく、知りたいことを知りたいときに、昼夜問わず問い合わせることができます。上手く利用すれば、人件費を割くことなく、機会損失を防ぐことが可能になるのです。
一般的にチャットボットというと、主に次の3つに分けられます。自社サイトに設置して利用するタイプのものやLINEのトーク機能を用いたもの、そしてFacebook Messengerを用いたものの3種類です。
画像参照元:三井不動産レジデンシャルのプレスリリース
日本では、若い世代を中心に圧倒的な普及率を誇るLINEのプラットフォームが好まれる傾向にあるようです(本記事で紹介するチャットボットも、特に記載がなければLINE型のものを想定しています)。
Facebook Messengerを利用したチャットボットはLINEに比べると多くありませんが、Facebook広告と掛け合わせて運用できるというメリットがあります。細かなターゲティングができるFacebook広告との相乗効果が狙えるので、業界や目的によってはLINE型より有用かもしれません。
プラットフォームの違いにかかわらず、独自のキャラクター付けがなされていたり、一見自社のサービスや製品とは全く関係ないと思えるような単語に反応したりするチャットボットはユーザーの親近感を呼び、広く話題にされます。広告と掛け合わせれば、「一方通行」感を和らげる効果も期待できます。
まずはそうしたユニークなチャットボットの事例を見てみましょう。
話題になったユニークな事例
・日本テレビ「AIカホコ」
昨年日本テレビで放送されたテレビドラマ「過保護のカホコ」から生まれたチャットボットです。ドラマの主人公との雑談を楽しむことができるチャットボットですが、注目されたのは返答内容のユニークさだけではありません。ドラマの放送を重ねるごとにチャットボットの人格が「成長」し、返答内容が変化していく斬新さが大きな話題を呼びました(会話サービスの提供は2017年9月30日で終了しています)。
画像参照元:日本テレビ、NTTレゾナント、フォアキャスト・コミュニケーションズのプレスリリース
・小学館「安室透チャットボット」
漫画『名探偵コナン』の人気キャラクター「安室透」と会話できるチャットボットです。単行本の新刊発売に合わせたリアル書店との連動企画から生まれたボットですが、今や同アカウントの友だち登録者数は20万人を超えるそうです。元々キャラクターが持つ人気に加えて、凝った返答や主要ターゲット層である若い女性が喜ぶ返答を多数用意するなど、コンテンツを充実させることでファンの心を掴んでいます。
画像参照元:アイレットのプレスリリース
・横浜市「イーオのごみ分別案内」
ブラウザ型のチャットボットです。「横浜市資源循環局」サイトの右下にいるキャラクターをクリックすると利用できます。ごみの分別方法を教えてくれる、自治体らしい実用的なチャットボットですが、実は様々な対応語句に対応しています。特に「旦那」や「人生」の捨て方を聞いた際の哲学的な返答が大きな反響を呼びました。
・日本マイクロソフト「女子高生AIりんな」
こちらは知っている方も多いかもしれませんね。架空の女子高生「りんな」とのやり取りを楽しめるチャットボットで、2015年の夏から稼働しています。日本マイクロソフトの開発ということもあり、やり取りの自然さや機能の豊富さは他のチャットボットとは一線を画します。オセロや「人狼」といったゲームを一緒に遊べるほか、犬の写真を送ると犬種を判定してくれるユニークな機能も。雑談系では最も有名なチャットボットと言えるでしょう。
不動産業界×チャットボット
チャットボットはPR向けの話題性のあるものばかりではなく、実用性を重視したものも登場してきています。現在、不動産業界ではどのように用いられているのでしょうか?
・CHINTAI「チンタイガー」
賃貸物件検索サイト「CHINTAI」のマスコットキャラクター、「チンタイガー」のLINE公式アカウントです。チンタイガーに最寄り駅や間取り、賃料や位置情報等の条件を送ると、該当する賃貸物件を教えてくれます。また希望の条件を伝えておけば、合致した物件情報が届いた際に都度教えてくれる機能も。チンタイガーは「日本語を勉強中」というキャラクター設定とのことで、やや拙い、可愛らしい言葉遣いも魅力のチャットボットです。
・三菱地所レジデンスラウンジ
Facebook Messengerで利用できるチャットボットです。Facebook広告と連動させた「会話広告」の運用で話題になりました。Facebook広告をクリックすると自動でチャットボットに遷移。ボットが様々なサービスの説明を行なってくれる上に、来店予約もチャットの中で行なえる仕組みです。会話形式を用いることで、セミナー予約や来店予約のハードルを下げる狙いでリリースされました。
・三井不動産レジデンシャル「ハルミ」
「パークタワー晴海」公式LINEアカウント(※現在はサービス終了)。三井不動産レジデンシャルが蓄積してきた、不動産販売における知見や経験から想定する質問と回答例、同物件に関する情報をインプット。幼い女の子のキャラクター付けがされています。従来の電話対応に加えてチャットボットを活用することで、同分譲マンションの購入を検討しているカスタマーからの問い合わせに対し、24時間いつでも対応できるようにしていました。
画像参照元:三井不動産レジデンシャルのプレスリリース
・ハウスコム「AI PET」
こちらは少し変わり種。賃貸仲介専業のハウスコムが提供するバーチャルペットです。こちらの記事でもご紹介しましたが、アプリ型のチャットボットとなっています。自社が持つデータを活用して「成約後のお客様と継続的にコミュニケーションがとれる」何かを開発したい、という思いから生まれたサービスです。チャットを使って自分だけの「ペット」との会話を楽しむことができます。
今のところ、不動産業界では「物件検索」機能を中心としたチャットボットが多いようですね。キャラクター性を前面に押し出したものもあまり見られませんが、「AI PET」のようにユニークな事例も。また、「AI PET」が生まれた経緯や三井不動産レジデンシャルの「ハルミ」を見るに、「顧客とのコミュニケーションを取り続ける」ための仕組みとしても注目されていることが分かります。
多様な業界で利用され一般化が進むチャットボット
チャットボットは不動産業界以外にも様々な業界で活用されています。
・運送
ヤマト運輸、日本郵便「ぽすくま」
お問い合わせや配達状況の確認、再配達依頼や配達日時の変更等を行うことができます。
・保険、金融
ライフネット生命保険「ラネットくん」
LINE、Facebook Messengerに対応。保険診断や保険料見積りをしてもらえます。
ジャパンネット銀行サポート「モネ」
同行のマスコットキャラクター「モネ」を起用。口座開設についての質問に答えてくれる他、雑談にも対応しています。
画像参照元:ジャパンネット銀行のプレスリリース
・医療
MEDLEY症状チェッカーbot
Facebook Messengerから利用できます。症状を入力すると病気を絞り込むための質問が返ってくるので、それに答えていくと可能性の高い病気を教えてくれます。
・小売・その他
アスクル(LOHACO)「マナミさん」
通販サイトLOHACOの問い合わせ対応をしているチャットボットです。当初はサイトからのみ利用可能でしたが、今はLINEからも利用できます。2016年5月時点で、全問い合わせの3分の1をマナミさんが対応。マナミさん導入により6.5人分の人件費を削減できたと発表し、注目を浴びました。
ドミノ・ピザ
会話形式でピザを注文できます。チャットボット経由での売り上げは、導入からわずか4ヵ月で1億円を突破したそうです。
さらに、テキストチャットだけでなくスマートスピーカーの登場等で今流行りの「音声対話」を併用できるサービスも登場。NTTドコモのスマートフォン向けAIアシスタント機能「しゃべってコンシェル」の会話技術を基にしたAI「FAQチャットボット」や、テキストや音声で自然な会話が可能となるIBMのプラットフォーム「IBM Watson」を採用したモビルスの「モビエージェント」などがあります。こうした製品やサービスが登場していることからも、「会話形式」のメリットに注目が集まっていると言えるのではないでしょうか。
成果を見せ始めている事例
まだまだ知見蓄積の途上にあるチャットボットのビジネス利用。先ほど紹介したライフネット生命保険の「ラネットくん」では見積もり件数が導入前の1.5倍になったとか。しかもその約8割は20〜30代とのこと。多くの保険会社と同様、これからの新規顧客となる若年層をターゲットにした施策として、「ラネットくん」は狙い通りの効果を得られていると言えます。保険会社が今後狙っていこうとする20〜30代の若年層にとってLINEは身近なツール。そのLINEを通じて気軽に相談できることが、見積もり件数の向上につながっていると考えられます。このように、すでに成果が出始めている事例もあるのです。
ほかにも、独自開発のチャットボットソリューションを提供している株式会社空色の「OK SKY chatbot」では、ファッションブランド「ナノ・ユニバース」での導入事例を紹介。2014年から”接客“の一環として人手によるチャットを導入していた同社は、2017年9月からチャットボットの導入による24時間稼動のカスタマーサポートを実現。人手のみを介していた状態からチャット発生数が約3倍にUP、チャットボットのみでの会話の完結率は約70%、チャットボットから人手への引き継ぎも約15%に抑えられた状態になったといいます。顧客対応担当者の工数を大幅に削減し、かつ顧客との接触機会を増大させるなど、チャットボットに期待される生産性向上を達成した事例といえます。こちらの事例では、キャラクターをファッションブランドの新入社員と設定したようで、そういったカスタマーに近しい設定が奏功したようです。
まとめ
企業によってチャットボットの使い方は多岐に渡りますが、効果的に使えば見込み顧客の獲得やブランド認知に役立てることができます。
話題を呼び親しまれつつあるチャットボットですが、機能としての便利さだけでなく、成功するためには下記2点の設計が重要なようです。
・作り込まれたキャラクター性とシナリオライティング
・現実(オフライン)との接続
他業界と比べてデジタル化が進みにくいと言われる不動産業界ですが、労働力人口が減りつつある今、まずは一部のサポート対応や物件検索などを任せてしまうのも良いでしょう。さらに、使い方によっては業界内だけでなく業界の外からも注目を浴び、多くの見込み顧客を獲得することができるかもしれません。
「AI」や「人工知能」と聞くと少し構えてしまうかもしれませんが、チャットボットなら専門知識がなくとも、先に紹介した「OK SKY chatbot」やプログラミング不要でエンジニアでなくとも作成できる「hachidori(ハチドリ)」、IBM Watsonを採用し大京でも採用実績のある「hitTO(ヒット)」、Q&Aサイトで蓄積したデータを基に適切な回答を提示できる「OKBIZ. for Chat & Bot」といった制作ツールやサービスを使うことで比較的簡単に導入できます。アイデア次第で、日々の業務や自社が抱えている課題を解決できるかもしれませんよ。まずは一度、今回取り上げたチャットボットとの「会話」を楽しんでみてはいかがでしょうか。