DXが進まない! 相続のワンストップサービス施策が進行中。

- DX化が難しい相続分野でワンストップサービスの施策が進行中
- 死亡手続きの総合窓口「おくやみコーナー」を設置する自治体が急増、相続税の電子申告が可能に
- 相続登記をオンラインでできる民間のサービス利用者が急増
SUMAVEではEdTech 、HRTech 、Health Tech 、など、さまざまな課題をテクノロジーで解決する他業界の「X-Tech(クロステック)」をご紹介してきました。今回は、DX化が進まないと言われている相続分野の施策とDXについて解説します。
「相続した不動産を活用したい」「相続税対策に賃貸物件を購入したい」など不動産業界と相続は密接な関係にあります。
高齢化社会により相続の件数は毎年増加しており、2024年から相続登記(相続による所有権移転登記)が義務化されます。今後不動産業者も相続について尋ねられる機会は多くなるかもしれません。
相続手続きの現状の課題やDX化の状況について知る事で、顧客の立場を理解しより良い提案に繋げていけるのではないでしょうか。
相続のワンストップサービス推進施策が進行中
相続の手続きでは戸籍謄本・死亡診断書といった取り扱いが難しい必要書類が多く、DX化が進まない分野として課題となっています。
例えばAさんが亡くなってから7日以内にAさんの親族や関係者はAさんの亡くなった場所・本籍地又は届出人の所在地の役所に死亡診断書又は死体検案書と共に死亡届を提出 する必要があります。
上記以外にもAさんが介護保険を利用し介護サービスを利用していた場合は、自治体の福祉課にも死亡届を提出 、障害年金・遺族年金を受け取っていた際には最寄りの年金事務所 に死亡届を提出しなくてはいけません。
内閣官房IT総合戦略室では、2020年に3月に公表された「死亡・相続ワンストップサービス・これまでの取組と今後の方針」の資料で「下記の11の手続きを他の手続きで登録された情報が確認できた時は届出の省略を可能とする制度改正を行う予定」と記しています。
実現すると、該当する遺族の負担が軽減されます。
- 個人事業者の死亡届出書- 財務省
- 死亡の届出(医療特別手当 )- 厚生労働省
原子爆弾により治療を要する疾病やけがの状態にあるという認定を受けた被爆者で、疾病やけがの状態が続いている方 - 死亡の届出(介護手当)- 厚生労働省
原子爆弾により精神上・身体上の障害で、訪問介護を受けた時の手当 - 障害年金、遺族年金の受給者死亡の届出- 厚生労働省
- 児童扶養手当受給者死亡の届出- 厚生労働省
- 身体障害者手帳返還届- 厚生労働省
- 特別障害者手当(障害児福祉手当)受給者死亡の届出- 厚生労働省
- 特別児童扶養手当受給者死亡の届出- 厚生労働省
- 介護保険資格喪失の届出- 厚生労働省
- 公害による健康被害者の遺族補償費が支給されなくなる場合の届出- 環境省
- 公害による健康被害者 と認定された方の死亡の届出- 環境省
さらに2021年10月からマイナンバーカードと健康保険証としての運用が開始となりました。死亡届を受理すると自治体ではマイナンバーが分かる仕組みになっているため、今後公的な医療保険・年金の資格喪失の手続きを省略できる可能性があります。
ただ2021年10月時点でマイナンバーカードを健康保険証として利用するための「オンライン資格確認システム」を導入している医療機関・薬局は約8%とまだ利用できる環境が整っていないというのが現状です。
加えてマイナンバーカードの人口に対する交付枚数率は、2022年1月現在全国で41%に留まっています。
マイナンバーカードはマイナポイントの交付やCMなどにより政府が普及活動を行っていますが、セキュリティ面などを理由に反対する団体や「他に身分証明書を持っているから必要ない」という意見があり交付率が課題となっています。
今後のマイナンバーカードの交付率が、相続のワンストップサービス施策やDX化にも影響を及ぼすと推測されます。
おくやみコーナーを設置する自治体が急増
既に実施されているワンストップサービスの施策の1つとして、死亡手続きの総合窓口である「おくやみコーナー」の設置があります。
内閣府IT総合戦略室はおくやみコーナー設置する自治体を支援するため「おくやみコーナー設置ガイドライン」や、「おくやみコーナー設置自治体支援ナビ」の提供を行っています。
おくやみコーナーとは身近な人が亡くなられた後の役所での手続き案内、申請書作成のサポートや各種証明書の取得支援などを行っています。
【画像出典】「船橋市:おくやみコーナー窓口のご案内」よりキャプチャにて作成
https://www.city.funabashi.lg.jp/kurashi/koseki/001/p083468.html
2018年度におくやみコーナーを設置している自治体はわ ずか6ヶ所でしたが、2020年には169ヶ所と急増しています。
相続税の申告が「e-Tax」により電子化
2019年10月から、国税の電子申告システムである「e-Tax」で相続税の申告書が提出可能となりました。2019 年1月 1日以降に相続により財産を取得した人が申告対象です。
相続税は人が亡くなってから(相続開始)から10ヶ月以内に計算・申告・納付を行う義務があり、遺族や身近な方が必要書類を収集し申告書を作成、税務署に直接持参する又は郵送する必要がありました。
e-Taxでは「e-Taxソフト」という専用のソフトをインストールし、申告書の様式に従って必要事項を入力することで申告データを作成・送信できます。
相続税における一部の申告書はe-Taxに対応していませんが 、イメージデータ(PDF 形式)として、申告・申請データを送信することで他の添付書類とともに送信が可能です。
税理士に代行を依頼し、申告書を作成・送信することもでき、相続人が複数いる場合に は1回の送信につき最大9名分まで申告をまとめて行うことができます。
相続税の電子申告が可能になることで、遺族にとって税務署への郵送や窓口持参の負担が軽減されます。
相続登記がオンラインでできるサービスの利用者が急増
相続の中でも法務局での相続登記(所有権移転登記)は、相続人にとって手間や時間がかかる手続きと言われています。
相続人全員が話し合い決定する遺産分割協議による相続の場合 、遺産分割協議の内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、遺産分割協議書に押印された印鑑登録証明書すべて、申告者全員の住民票または戸籍の附票、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本全てなどの必要書類を集め法務局に申請する必要があります。
司法書士へ依頼すると不動産の評価額によっては10万円以上の費用がかかりますが、民間の業者では相続人自身がオンラインで相続登記が出来るサービスがあり利用者が急増しています。
・そうぞくドットコム:https://so-zo-ku.com/
・better相続登記:https://jp-better.com/lp/touki/
オンラインサービスでは、一定の料金を支払う事で戸籍謄本・住民票・固定資産評価証明書などの証明書の発行をWebで依頼、遺産分割協議書など相続人が作成する書類のサポートを受ける事ができ自身でスムーズな相続登記ができる可能性が高くなります。
不動産の相続登記は不動産登記法などの改正に伴い、2024年に義務化される予定で登記を行わなかった場合は10万円以下の過料 (制裁としてのお金)が科される予定です。
相続のDX化を知り顧客のサポートを
相続の手続きは、必要書類に故人の戸籍謄本や遺産の価額といったセンシティブな個人情報が多くオンラインでの取り扱いが難しいと言われていました。
しかし政府のワンストップサービス施策や相続税の電子申告、民間の相続登記オンラインサービスなどにより急速にDX化が進んでいます。
2024年に相続登記が義務化され、登記の手続きを行う人が増えることが予測されます。
不動産業者もおくやみコーナーを案内する、相続登記の知識を身に付けサポートを行う、民間の相続業者と提携しサービスを紹介するなどの必要性が高まっていくかもしれません。
執筆者/田中あさみ
FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
Twitter:https://twitter.com/writertanaka19