<医療×DX>コロナ禍で企業の株価が3倍に! ツールの導入でDX化が進行

- 医療のDX化は厚生労働省が推進していたものの、課題が多く難航していた
- 医療系IT企業「エムスリー」のオンラインサービス・ツールがコロナ禍で躍進
- エムスリーの株価は一時期3倍以上に。大手商社・伊藤忠商事もサービスを提供
SUMAVEではEdTech 、HRTech 、RetailTechなど、さまざまな課題をテクノロジーで解決する他業界の「X-Tech(クロステック)」を取り上げてきました。今回は、テクノロジー(Technology)の活用で医療、介護、創薬といった健康(Health)の領域の課題解決を図る「Health Tech(ヘルステック)」についてご紹介します。
コロナ禍における顧客対応や関連業者との連携などに起きた変化は、不動産業界にとっても共通点や学びがあるのではないでしょうか。
医療のDX化とは~コロナ禍に企業主導で急速に進行~
厚生労働省では 新型コロナ感染症対策として、医療機関に対し電話・オンライン診療を推進しています。
厚生労働省はコロナ感染拡大前の2000年代から 医療のDX化を推進しており、電子カルテの普及、電子処方箋の運用ガイドラインを策定し政策を進めていました。
背景には欧米に比べ、日本の医療現場のDX化がなかなか進まないという実情がありました。
日本の医療現場では2017年時点で電子カルテ導入率が病院は46.7%、クリニックで41.6%となっていますが、アメリカでは病院は90%以上、クリニックでは80%以上であり、スウェーデン・イギリスでは90%以上の導入率 です。
医師の指示をパソコンに入力し関係部署と共有する「オーダリングシステム」においても日本は一般的な病院で55.6%の導入率ですが、海外では医療情報連携(EHR)システムの接続率がアメリカは75%、スウェーデン・イギリスは95%以上と高い数値となっています。(出典:厚生労働省 諸外国における医療情報の標準化動向調査)
2020年には新型コロナ感染症の患者数を保健所に連絡するために、FAXを使用していることも話題となりました。
しかし、コロナ禍でオンライン診療や医療従事者向けのプラットフォーム・LINEと提携した患者向けサービスなどが急速に普及しています。
医療従事者・患者向けのユニークなサービスで株価が3倍以上に
オンライン診療 は2020年4月の新型コロナ感染拡大以降増加傾向にあり、オンライン診療を導入する医療機関の数も着実に伸びています。
医療従事者向けのサービスでは、医療系IT企業「エムスリー」が運営する「m3.com」や「MR君」が会員数を伸ばし同社の株価は2020年~2021年で3倍以上となりました。
エムスリーの提供する代表的なサービスを3つ見ていきましょう。
- m3.com
- MR君
- LINEドクター
1. m3.com
m3.comは医療従事者向けのポータルサイトです。総登録数は90万人以上で、医師30万人以上薬剤師21万人以上が登録しています。医師の登録数30万人は日本の医師の9割を占めています。
医療ニュースや論文検索などの情報収集の他に、実名での医師・薬剤師のプラットフォームがあり医療関係者のコミュニティの場としても利用されています。
「エムスリーエージェント」「薬キャリ」という医師・薬剤師に特化した転職サイト、開業・経営に関するサイト「m3.com開業・経営」では医療機器や物件探し、先輩開業医へ質問も可能です。
医療従事者向けのトータルなサービスの展開により、m3.comは会員数を伸ばしています。
2. MR君
病院でスーツを着て診察室の近くに並んでいる男性・女性を見かけたことはありませんか?
彼らの多くは業者の営業で、製薬会社を始め、医療機器・医薬品卸の営業など仕事で医師と面会したい人達が多忙な医師と話をするために待っているのです。中には「5分話をするために3時間待つ」というケースも あります。
製薬会社の営業は「MR(Medical Representatives・医薬情報担当者) 」と呼ばれ、医薬品を適正に使用するために情報を提供する役割を担っています。
MR君は医薬を始め疾病・治療など医療に関する情報提供のツールで、m3.comの会員になった医療関係者が利用する事ができます。製薬企業がエムスリーに利用料を支払い 、医師は無料でサービスを受けられる仕組みです。
「my MR 君」というオンラインのプラットフォームでは、m3.com上で医師とMRが直接コミュニケーションを取ることができ、ファイザー 、武田薬品 工業などの大手製薬会社では営業販促ツールとして導入しています。
コロナ禍に病院での面会が禁止となる中、医師は「myMR君」でMRと対面、サイト上で医薬品の効能・効果、詳細情報の調査が出来ることから会員数が急増しました。
製薬会社・ファイザーの原田社長も
『my MR 君』を全 MR に導入する事により、幅広い医師にリーチし、かつ利便性の高いベストインクラスの顧客体験を提供する
と、MR君を高く評価しています。(出典:2021 年 6 月 24 日 エムスリー株式会社 プレスリリース)
3. LINEドクター
2020年12月には SNSアプリ「LINE」との合弁会社「LINEヘルスケア」によるオンライン診療サービス「LINEドクター」の提供が始まりました。
LINEドクターは 医療機関の検索・予約から、オンライン診療・支払い・処方箋の送付までを行う事ができ、患者側は利用料金が無料、医療機関 は月に一定額を支払うことで医療施設として情報を登録、オンライン診療が可能となります。
ただしサービスには課題があります。
2020年8月には一 般ユーザーの健康不安に医師が24時間チャットで対応する「オンライン健康医療相談」に登録している医師が、ユーザーに不適切なメッセージを送り、利用規約違反として処分されました。
公式ホームページで は「お客様のお心を傷つけ、多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。」と掲載されています。
24時間相談窓口は、経済産業省の補正遠隔健康相談体制強化事業として2020年5~6月の間国から委託されていたも のでもあり、今後改善されるべき課題となっています。
伊藤忠商事も医療DXに参戦
1858年創業の大手商社・伊藤忠商事株式会社も2020年2月に医療関係者向け医薬品情報提供サービス「ヤクジエン」を開設、運用を開始しました。
ヤクジエンは「MR君」と同様にオンラインでMRから情報提供を受ける事が可能で、検索機能を使うことによって効能・効果、注意点、薬価・添付文書などを閲覧できます。
無料で利用でき、同じ効能・効果の医薬品にチェックを入れ比較表を作成する事も可能です。
医薬品の情報検索は、「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」が提供する「医療用医薬品 添付文書等情報検索」で調べる事が出来ます。ただしヤクジエンは比較機能があり画面が大きく見やすい点がメリットとなります。
アフターコロナの動向がカギに
エムスリーは上記のオンラインサービスにより、コロナ禍に飛躍的に株価を伸ばしました。
2020年1月6日の株価の終値は3440円でしたが、2021年1月4日には終値10545円と約1年で3倍以上になりました。ただし2021年の9月頃から下降し、12月13日時点での終値は5523円となっています。
新型コロナ感染症が収束した後に、オンラインサービスがどの位一般ユーザーや医療関係者に浸透するかがポイントとなるでしょう。
不動産業界においても対面(オフライン)からオンラインの利用が進みました。海外に比べDXが遅れているなど共通点のある業界。今後も注目し、紹介してまいります。