【不動産業界基礎用語】“FM(ファシリティマネージメント)”って?

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【不動産業界基礎用語】“FM(ファシリティマネージメント)”って?

「ファシリティマネジメント(FM)」って何?

施設管理やビル管理にも関連する用語に、「ファシリティマネジメント(Facility Management、FM)」という言葉があります。もとはアメリカで生まれた経営手法なのですが、業界関係者の中には「言葉自体は度々耳にするのでなんとなくは知っているが、具体的にどういったことを指すのかは説明しづらい」という人もいるのではないでしょうか。本記事ではそんな方々に向けて、ファシリティマネジメントの基本を説明していきます。

国内でファシリティマネジメントの普及活動を行っている団体の1つ、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)によると、ファシリティマネジメントとは、「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」のことであると定義しています(※)

「facility(ファシリティ)」は施設や設備といった意味で、ここでは土地や建物、建築物、設備といった経営資源を指します。これらを経営にとって最適な状態、つまり「最小のコストで最大の効果を得られる」ように保有・賃借・使用・運営・維持するための総合的な経営活動を、ファシリティマネジメントというのです。ファシリティマネジメントは「人事、ICT、財務」と並び立つ、ビジネスを支える経営基盤の1つ。事業を進める上で、従来の「設備管理」以上に重要な位置づけがなされています。

※ 参考:公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会ホームページ

従来の「設備管理」との違いは? 今、FMが必要とされる理由

従来の施設管理やビル管理の考え方と、ファシリティマネジメントの違いは何でしょうか。それは、前者が目指しているのは施設の「維持、保全」である点であるのに対し、ファシリティマネジメントはそれに加えて「より良い在り方」を追求するものであるという点。長期的な戦略・計画を立てた上で業務管理レベルでの効率化、低コスト化を図り、次に実務レベルで日常の運営維持(清掃、保全、修繕、サービス等)への合理化、計画化、定量化を目指していく必要があるのです。

ファシリティマネジメントを行うメリットは多岐にわたりますが、大きなものが経営の効率化や省エネルギー化、そして「固定費の大幅削減」でしょう。

特に最近は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に伴う働き方の変化により、ビジネスパーソンが「オフィス」に求めるものも変化してきています。パーソルファシリティマネジメントの調査(※1)でも、在宅ワーク経験者の9割が「自社オフィスは今後も必要だと思う」と回答しているものの、よく見ると「但し条件付きで」という答えとなっています。同社はこれを、「現状のオフィスへも満足度が高いとは言い切れず、ワーカーがオフィスの変革に期待するところが大きい」ことが分かる、と分析しています。

「Q.オフィスは今後も必要。ただし、条件付きで」のアンケート結果Q:オフィスは今後も必要。ただし、条件付きで
【出典】パーソルファシリティマネジメント株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000383.000016451.html

さらに同調査では、自宅近くのターミナル駅に自社の「郊外型オフィス」があれば利用したいかという設問では、コロナを機に在宅ワークを始めた人の7割以上、コロナ以前から在宅ワークをしていた人の8割以上が「利用したい」と回答しています。

Q:自宅から近いターミナル駅に自社の「郊外型オフィス」ができた場合、利用したい?アンケート結果Q:自宅から近いターミナル駅に自社の「郊外型オフィス」ができた場合、利用したい?
【出典】パーソルファシリティマネジメント株式会社のプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000383.000016451.html

2020年7月6日、富士通が国内のオフィススペースを半減することを発表して話題を呼びました。ここまで極端なものは多くありませんが、コロナ禍によりオフィスの在り方を見直す動きは業界問わず広がっています。

在宅勤務をメインにして、リアルオフィスを廃する方に舵を取るのか、現在有するオフィス資源をいかにニューノーマル向けに最適化していくのか。最適な答えは一通りではないでしょうが、ファシリティマネジメントの考え方は、今まさに必要とされているものと言えそうですね。

取り組みの具体例は?不動産テックサービスも

ファシリティマネジメントの概念について説明してきましたが、具体的にはどのような取り組みがこの考え方に基づいて実行されているのでしょうか?

日本ファシリティマネジメント協会が実施している「日本ファシリティマネジメント大賞(以下、JFMA賞)」のうち、ファシリティマネジメントの手法を取り入れ、特に優れた成果を上げている活動について表彰する「優秀ファシリティマネジメント賞」を受賞した団体を見てみましょう。

2019年12月に入賞者が発表された第14回JFMA賞では、神奈川県住宅供給公社の「持続可能な社会構築のための広域FM 神奈川県在宅供給公社の事例」、東京都豊島区の「消滅可能性都市が掲げる持続可能な公園経営」、地方独立行政法人 岐阜県立下呂温泉病院の「全室個室病棟の県立下呂温泉病院におけるFM実践活動」が同賞に輝きました。順に概要を紹介します。

神奈川県住宅供給公社の取り組み

神奈川県住宅供給公社は、約7年間にわたりFMの視点による経営改革を推進することで、経営課題である既存公社住宅ストックの再編成・利活用に取り組んでいます。全施設の状況を的確に把握できるデータベースを構築し、ライフステージの変化に対応する賃貸住宅事業、「生涯自立」を掲げる高齢者住宅事業、SDGsへの取り組み、財務再編成など、山積する課題を幅広く、着実に解決して前進させ、成果をあげている点が高く評価されました。

豊島区の取り組み

こちらの記事でも取り上げた「東京都唯一の消滅可能性都市」豊島区からは、公立公園の活性化事例が選ばれています。地元と地元をよく知る民間企業、行政の三者協力による新しい公園経営のビジネスモデルを創造。カフェレストランの営業、イベントスペースの運営、ランドスケープデザインなど、心地よい公園のハードとソフトの両立によって、それまで住民が寄り付かなかった状況を大きく改善することに成功しています。地下に設けた変電設備の賃料やレストラン売り上げの一部などを原資にして、投資の回収、公園運営費の充当を行なっており、公園というファシリティをまちづくりに活用している好事例と評価されました。

地方独立行政法人 岐阜県立下呂温泉病院の取り組み

下呂温泉病院の事例は、2014年竣工の県立病院の計画と運営に関するファシリティマネジメント実践活動です。2009年より基本計画を開始し、プロポーザル方式での設計者選定、その後の設計期間を通して、公立病院としては画期的な差額ベッド代がかからない全室個室病棟の計画が立てられました。竣工後も、看護師の導線を考えた看護体制の見直しなど、PDCAを回す経営が継続されており、病棟水回りなどを工夫し、工費も抑えられています。トップのリーダーシップとスタッフの努力によって、全個室型病院の企画・計画・設計、竣工後の運営と改善が一貫して行われている点が高く評価されました。

いずれも、現状維持の「設備管理」ではなく、より良い成果を上げるために長期的な計画のもと、土地や建物という経営資源を最大限活用するための継続的な取り組みが評価されていることが分かりますね。


先に触れた通り、「アフターコロナ」時代、土地や建物、空間の意味は大きく変わりつつあります。ファシリティマネジメントの専門家を「ファシリティマネジャー」(※2)といいますが、彼らのニーズも今後ますます高まっていくと予測されます。

また、2020年11月25日にはAI技術を活用したファシリティマネジメント業務支援のクラウドサービス「builbo(ビルボ)」のβ版の提供が開始されましたが、不動産テックサービスの中にも今後、より広い意味での「設備管理」を念頭に置いたサービスが増えていくのかもしれません。

builbo(ビルボ)株式会社FACTORIUMのプレスリリースbuilbo(ビルボ)。不動産の収支管理業務を対象とし、特に手間がかかっているケースが多い、予算・実績情報の管理や、レポート作成の手間をデジタル化する。
【出典】株式会社FACTORIUMのプレスリリースより【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000043603.html

不動産業界用語であり、ビジネス用語でもある注目の概念として、今後も関連ニュースを追っていくことをお勧めします。

 

※ 1 公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会「ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)」
※ 2 日本では公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)、一般社団法人ニューオフィス推進協会(NOPA)、公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)の3団体が手掛ける「認定ファシリティマネジャー(CFMJ) 」資格制度があり、認定試験の受験者は年間1,000人以上に上る。

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