【不動産業界基礎用語】衝撃から6年。豊島区を変えた“消滅可能性都市”

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【不動産業界基礎用語】衝撃から6年。豊島区を変えた“消滅可能性都市”

「消滅可能性都市」とは

今回取り上げるのは「消滅可能性都市」。初出は2014年ですが、当時は言葉のインパクトからマスコミでも大きく報道され、現在も国や地方自治体の政策に影響を及ぼしている言葉です。最近では「消滅可能性都市を多く抱えるエリアは、コロナ禍による経済的ダメージを受けやすいのではないか」との見解を語る識者も現れており、地域の将来性を図る上でいまだ影響力のある概念であることが分かります。本記事でポイントを押さえておきましょう。

消滅可能性都市とは、少子化の影響による人口減少により、将来消滅する可能性が高い自治体のこと。具体的には、2010~2040年までの間に「20~39歳の女性人口」が5割以下に減少する自治体を指し、全自治体の49.8%にのぼる896自治体がこれにあたります。民間の有識者らによる政策提言機関「日本創生会議」(※)が、2014年5月8日に少子化対策の提言と共にリストを公開しました。日本創生会議は民間の研究機関ですが、元総務相の増田寛也氏が座長を務めていること等から、国や多くの地方自治体の政策に影響を与えました。

試算のもとになっている考え方は、出生率の95%を担う20~39歳の「若年女性人口」が減少し続ける限り、人口の「再生産力」は低下し続け、総人口は低下し続けるというもの。少々乱暴な考え方ともいえますが、多くの地方自治体にとって、経営や政策を見直すきっかけとなったのは確かです。

都道府県別にみていくと、消滅可能性都市が8割以上となるのが青森県、岩手県、秋田県、山形県、島根県の5県。5割以上となる地域に至っては、24道県にのぼるとされています。さらに、消滅可能性都市に挙げられた896自治体のうち、2040年時点で人口が1万人を切る市町村は523自治体で、全体の29.1%にもなります。

「消滅可能性都市」の推計結果(日本創生会議)円グラフ「消滅可能性都市」の推計結果(日本創生会議)※福島県については、2011年3月に発生した福島県第一原子力発電所事故の影響により見通しが困難なため、調査対象外となっている【出典】国土交通省 国土交通政策研究所ホームページより
【URL】https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/b_141105.html

消滅可能性都市に挙げられた自治体の多くは、兼ねてより過疎や人口流出の問題を抱えていた地域です。しかし、東京23区の中で唯一豊島区がリスト入りしており、これも「消滅可能性都市」がマスメディアに大きく取り上げられる一因となりました。

※ 参考:日本創生会議ホームページ

問題視される「東京のブラックホール化」

日本の総人口は、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じました。増加に転じる兆しはなく、不動産業界でも空き家問題など、少子高齢化によるさまざまな問題が深刻化しています。

「消滅可能性都市」というセンセーショナルな概念も、こうした危機感の中生まれたものです。その本質は、危機感の先にある「では、どうすれば人口の急減を回避し、各自治体が安定的な人口規模を得ることができるのか」にあります。

消滅可能性都市のリストともに発表された日本創生会議のレポートでは、以下の基本方針が提案されています。

①人口減少の深刻な状況について国民の基本認識の共通を図る。
②長期的かつ統合的な視点から、有効な政策を迅速に実施する。
③第一の基本目標を「国民の『希望出生率』の実現」に置き、国民の希望阻害要因の除去に取り組む。
④上記の実現のため、若者が結婚し、子どもを産み育てやすい環境づくりのため、全ての政策を集中する。企業の協力は重要な要素。
⑤女性だけでなく、男性の問題として取り組む。
⑥新たな費用は、「高齢者世代から次世代への支援」の方針の下、高齢者政策の見直し等によって対応する。
⑦第二の基本目標を「地方から大都市へ若者が流出する『人の流れ』を変えること」に置き、『東京一極集中』に歯止めをかける。
⑧「選択と集中」の考え方の下で、地域の多様な取組を支援する。
⑨生産年齢人口は減少するので、女性や高齢者、海外人材が活躍できる社会づくりに協力に取り組む。
⑩海外からの受け入れは、「高度人材」を中心に進める。

特に、上記の⑦に挙げられている、地方から大都市圏への若者の流出や「東京一極集中」な状態は人口減少の大きな要因とされています。

国土交通政策研究所ホームページより人口減少のメカニズム人口減少のメカニズム【出典】国土交通省 国土交通政策研究所ホームページより
【URL】https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/b_141105.html

総務省が2020年10月27日に発表した住民基本台帳人口移動報告(※1)によると、コロナ禍により東京都は直近3カ月間、連続で転出超過となっていますが、神奈川、埼玉、千葉の3件を加えた「東京圏」で見ると「転入」超過。東京近郊に人口が集中する状況に、目立った変化は起きていないようです。

しかし、東京圏では全国平均に比べ晩婚化、晩産化が進んでおり、未婚率も高め。レポートでは、地方から大都市への若年層の流出が、地方の人口減少の最大要因であり、日本全体の少子化に拍車をかけていると指摘されています。さらに、東京圏では2010~40年までの間に15~64歳の生産年齢人口は6割に低下するという予測も示されています。

日本創生会議は、この状況に歯止めをかけるには、若者が家庭を持ちやすい環境づくりのための支援に取り組むほか、地域資源を生かした産業を創出し、生まれ育ったふるさとで家庭を持ち、生涯を過ごせる社会を実現していく必要があると主張しました。

※1 参考:統計局ホームページ「住民基本台帳人口移動報告 2020年(令和2年)9月結果」

「23区唯一」の消滅可能性都市、豊島区の取り組み

全国自治体を名指しでリストアップしたことで話題を呼んだ消滅可能性都市。中でも、レポート内で「人口が一極集中している」と指摘された東京都内に位置し、池袋や巣鴨があることでも知られる「豊島区」が挙げられたことは、メディアでも大きくクローズアップされました。最後に、「消滅可能性都市」という言葉とセットで語られることの多い、このエリアについて見ておきましょう。

豊島区はこの警鐘を重く受け止め、日本創生会議の発表後、直ちに「女性にやさしいまちづくり」「高齢化への対応」「様々な地域との共生」「日本の推進力」という4つの柱を打ち出し、持続発展都市を目指してさまざまな取り組みを行ってきました。

「女性にやさしいまちづくり」に関しては、当事者である若年女性の声を反映するため、「としま100人女子会」と名付けたキックオフイベントを経て、「としまF1(※1)会議」を実施。子育てからワーク・ライフ・バランス、都市ブランディング、広報等、幅広い提案を受けて、多くの事業を予算化(11事業8,800万円)。2016年には民間から課長を公募して担当課を新設。「わたしらしく、暮らせるまち。」を基本コンセプトとして、女性をはじめ、誰もが住みやすく、働きやすいまちづくりを進めてきました。

その成果は着実に積み上がり、2019年には区税収入として過去最高の300億円を見込むなど、消滅可能性都市から脱却し、「持続発展都市」へと変化する歩みを進めています。リクルート住まいカンパニーが発表している「SUUMO住みたい街ランキング2020 関東版」(※2)でも、長らく治安の不安定さが指摘されていた池袋が8位に。同「住みたい自治体ランキング2020 関東版」(※3)でも豊島区は17位にランクインしており、同自治体の取り組みが実を結んだと考えられます。

このように、2014年に生まれた「消滅可能性都市」という概念は結果として国や自治体の危機感を煽り、少子高齢化社会の到来、そして国や自治体の現状を見つめなおし、戦略的な取り組みを促すきっかけとなりました。リモートワークが普及し、人口流出に変化が起きている今、「コロナ禍以降」の社会の在り方を考える上でも、リストアップされた自治体の行方について、もう一度見直してみるべき時なのかもしれません。

※1 F1:20~34歳の女性を指す
※2 出典:SUUMO「SUUMO住みたい街ランキング2020 関東版
※3 出典:SUUMO「SUUMO住みたい自治体ランキング2020 関東版

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