アフターコロナの不動産業界で求められる、リアルとオンラインの新しい関係

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アフターコロナの不動産業界で求められる、リアルとオンラインの新しい関係

はじめに 

6月15日から実施されてきた不動産テックウェビナー「The Retech Week 2020」が、6月27日に終了しました。主催は、一般社団法人不動産テック協会です。13日間にわたるウェビナーには、のべ67名がスピーカーとして登壇し、2,159名が参加(聴講)しました。今回の企画で取り上げるのは、全日程を取材して見えてきた、アフターコロナの不動産業界、New Normal(ニューノーマル)のありかたです。2週間のウェビナ―で、連日のように、複数のスピーカーが違う場所から同じ趣旨の発言をしていました。それらに共有していたテーマは、“リアルとオンラインの関係”です。

最初に取り上げるのは、619日に開催された一般社団法人日本賃貸仲介協会と不動産テック協会の連携コンテンツです。この日は、「アフターコロナの賃貸仲介とDX」というテーマで語られました。紹介したいスピーカーは次の3名です。

  • 田村穂氏(ハウスコム株式会社・代表取締役社長、執行役員)
  • 池田達矢氏(株式会社S-FIT・店舗事業部長)
  • 岡村雅信氏(ダイヤモンドメディア株式会社・代表取締役/不動産テック協会理事)

本企画では、スピーカーのニュアンスも伝えたいので、質疑応答を書き起こすかたちで、可能な限り編集せず、そのまま紹介します。ご覧ください。

オンラインは、リアルの代替ではない。1ゼロ議論からの脱却


田村:当社の4月5月は、オンラインを使っていこうよ。感覚的には、“使う”、“練習しよう”という感じです。もともと、対面コミュニケーションじゃないですか、私たちの世界は。「リアルで会うことが好ましい」と思っているので。そうはいっても、4月5月の時点では、“3密”を回避していかないといけないので、「オンラインを使っていこう」とやってました。ただ、ちょっと間違っちゃったなって思っているのは、オンラインとリアルを切り替える作業というか、(オンラインをリアルの)代替だと思って推進しちゃったかなって。それが間違ったかなと。

案内や面談のかわりに、オンラインやります

 

対面の重説じゃなくて、IT重説やりますよ


田村:「リアル内見のかわり、代替として、オンライン内見があるんだよ」という認識などもそう。(オンラインをリアルの)代替として使ってしまったのが面白くなかったなと。私たちの意図するところと違ったなと。あくまでも、代替じゃないと。遠いからオンライン、近いからリアルってことじゃなく。代替じゃなく、(オンラインの取り組みは)サービスの1つなんだよって位置づけで進めていくと、もっと違った話になるのかなって。この頃、思いはじめていますね。

参加者からの質問Q1:リアルより、オンラインで接客したときのほうが、契約率が下がると思います。下がらないように、どのような工夫がありうるのでしょうか。成功事例、失敗事例などをお伺いしたいです。


池田:いまの田村社長の話にもあったんですが、オンラインで全部を終わらせるかどうかの問題だと思っています。オンラインで、すべて完結しようとするのではなく、オンラインで、できるところまでやる。インサイドセールス的なことをして事前にヒアリングできるところをやるなどです。そうすることで、2時間のリアル接客を1時間に短縮する。ということで成約率を担保できるかなと思っています。なので、1かゼロかの話(オンラインかリアルのどちらか)ではなく、オンラインを活用しながら、プラスアルファで、お客様のためになることをやる。“はじめから最後までオンラインで”ということにこだわると成約率は下がるのかなと。そういう視点ではないのかなと思っています。


岡村:完全に切り替えるっていうより、リアルとオンラインを組み合わせて、お客様にとってベストなフローを提案してあげるって感じですよね。


池田:そうですね。4月5月はオンラインによる内見などをすごく訴求して。SUUMOHOME'Sのコメント欄にも全部、書きました。でも、エンドユーザーに、オンライン内見への認知が広がっていなくて。キャッチコピーに大々的に(オンライン内見できますなどを)書いても引きあいは、そんなになかった。でも、数十件あった引きあいのなかで、オンライン内見をして気に入ったら、「近所の電車の音が気になるから、実際に見に行きたいです」ってなりました。つまり、最終的には、「実際に見たい」という話に落ち着く。それとは別で、法人営業部では、地方へ転勤する人は、「オンライン内見をしますか」と聞くと、ほぼ100%に近い人がオンライン内見をして、成約になった。法人だったり上京する学生だったりして、実際には見に来られない、これまで未内見での成約を迫られていた人が、オンライン内見できるのは便利という側面もあります。


岡村:見られるのに見ないって人は、あんまりいないって話ですよね。


池田:そうです。


岡村:昼間や夜、音とかってことはわからないですもんね。

参加者からの質問Q2:池田さんに質問です。ユーザーの状況によって、オンラインやリアルを使い分けることに意味がある、今後はその傾向が強くなる。というお考えでしょうか?


池田:私は、その傾向は強くなると思っています。なので、さきほども申し上げたように、1かゼロかの話ではなく、“使うべきところにオンラインを組み込んでいく話”になっていくので、だんだん、そのポイントが増えていく。ITを使ったものは増えていくと思っています。


岡村:そうですよね。便利でいいのに、使わないってことはないですもんね。


池田:不動産業界のDX化について感じていることをいうと、業務効率化にかんしては、いろんなポイントで、効率を上げることはできると思っています。反響対応、来店してから出す物件の量や質の部分の効率化などなど。不動産業界は、めちゃくちゃアナログで、“いぶし銀の観”、“あの店長しか知らない情報”、“ベテランの業”みたいなことに頼ることが、まだまだ多いです。これをデータや数値化して、具現化することが今後のポイントになるのかなと思っています。いままでは、本当に、ものすごい俗人化した仕事でした。そこを均一化し、いかに安定した提案力を実現するかが、私たちの課題なのかなと。


岡村:田村さんはどうお考えですか?


田村:うちの会社だけの話でいうと、冒頭にいいましたが、代替っていう感覚で(オンラインやIT化を)進めたのが、いけないと思います。メディアもそうだと思います。「リアルな案内がオンラインに変わるんだよ」ってメッセージに抵抗がある人は多いと思います。そういうなかで、「オンラインにしますか、リアルな案内にしますか」という問いを抱えているうちはだめ。「代わりだ」ってなると、こちらも、「代わりじゃ決められない」と。不動産テックにしても、推進していくときは、「サービスの1つである」ということでアピールできれば、お客様も気楽に利用できるんじゃ。社内的にも、「不動産テックは1つの駒だよ」と伝えることで抵抗感を減らすというか。「これで決めるんじゃないよ」と。お客様にも、「どっちにしますか」じゃなく、「こういうのもありますよ」「来るのが大変なら、オンライン内見もありますよ、でも、それで決める必要はないですよ」という方向でいかないと。1かゼロにすると、お客様はどんどん離れていくし、営業マンも、「コレで決めないとダメですか」ってなり、どんどんシビアになっていきます。

参加者からの質問Q3:不動産業界のDX、不動産テックの取り組みについてご意見を聞かせてください。


田村:私たちは、密な対面コミュニケーションから、商売をはじめるというビジネスでした。これからは、もっと疎開することを覚えていかないといけませんし、私たち自身が、そういう感覚を持つことが必要です。ユーザーからしたら、店舗で決めてもいいし、一定はオンラインで決めてもいいしという世界観になっていくのかなと思っています。自動運転なら、車の運転の一部はAIや機械に任せる。タクシードライバーは、その空間のなかで、よい接客をすることだと思うんです。最後は、そこの勝負になっていく。それ以外のものは、どんどん効率化していく。ユーザーから見たら、「何で決めてもいいじゃないですか」と。私たちは、もっとユーザー目線を取り入れることで、本来のDXが実現するんじゃないでしょうか。とくに仲介は。私たち業者間の話に終始せず、お客様目線を加えていくことが重要です。その先に、本来のDXができてくるんじゃないかなと思っています。

顧客視点と提供価値から、DXを考える

次は、623日に開催された日本賃貸住宅管理協会との連携コンテンツを取り上げます。この日は、「今後の賃貸不動産業界とデジタルトランスフォーメーション(DX)」というテーマで語られました。紹介したいスピーカーは次の3名です。

  • 石村裕樹氏WealthPark株式会社・Saas事業部営業部長)
  • 深澤成嘉氏(株式会社アミックス)
  • 佐瀬篤史氏(東急住宅リース株式会社・取締役、執行役員)

この日のウェビナーでは、石村氏のプレゼンと、質疑応答の2パートをご覧ください。まずは、石村氏のプレゼンです。


石村:DXで大事な3つの要素を挙げます。人、不動産、テクノロジーです。どんなによいツールがあったとしても、使いこなせないと価値がでない。かつ、これからは優秀な人が働きたいと感じる会社であったり、新しい働きかたや場所を提供できる組織である、という要素が重要です。不動産という視点では、顧客の価値観の変化に対応できるかがテーマです。今日は、オンライン×オフラインの話も触れますが、リアル×WEBの取り組みも大事です。これから、コロナの第2波に備える意味でも、テレワークに必要なIT化や不動産テックなどのテクノロジー活用も欠かせません。


石村:私たちは、いま、重要な岐路に立っているのかなと考えています。コロナが回復へ向かいながらも第2波の心配もあります。この現状で、コロナ前の日常に戻るのか。顧客の視点が変わっていくことへのアンテナも重要です。それらを踏まえて、積極的にテクノロジーを取り入れるかどうか。今日は、DXがテーマなのでそこへフォーカスします。私が、4月からの3か月間に実施してきたセミナーで、私なりに見えてきた業界のトレンドが5つあります。


石村:このなかで、スライドの下の2つですね、コンタクトレステック、DXが今日の本題です。私、いろんなセミナーを通じて、これから、たとえば、「売り上げ、どうなりますか」「仲介店舗のありかたってどうなっていきますか」など、いろんなディスカッションをしてきました。そこから、自分なりに、他の産業のありかたなども踏まえて、「今後は、こうなるだろう」と思うことがあります。


石村:いままでは、O2O(Online to Offline)といわれる、オンラインからオフラインへの流れですね。不動産業界でも、ポータルサイトとか、WEBサイトから集客して、リアルな内見をしてもらい、契約するモデルがO2Oと呼ばれています。それが、いまでは、SNSなどのオムニチャネルで広げていこうという流れです。これが、コロナを経験した今後は、OMO(Online Merges with Offline)というものの重要性が高くなると感じています。OMOとは、オンラインとオフラインの融合です。いままでは、オンラインがあって、オフラインへ。オンラインを活用すること、でしたが、今後はどちらも活用するという、オンラインとオフラインの融合が重要なテーマかと思います。具体的な賃貸仲介の流れだとこうです。


石村:来店、物件案内、内見、申込、契約。こうあったときに、これまでは、すべてがオフラインによるものでした。コロナによる非対面・非接触型の雰囲気が残るいまは、当たり前のようにオンライン接客やオンライン内見が実施されています。リアルな内見にしても、店舗を経由しない現地集合・現地解散が増えました。接触を減らしたいという顧客の要望に応えるものです。店舗でウィルス保護の透明なビニールシートを使ったり、IT重説を業務に取り入れたりする不動産会社様にも多く出会いました。これらは、オンとオフの混在がベースにあります。そのベースを作ることが、これからの不動産業界では重要です。なぜか。顧客の価値観が変わりつつあるからです。


石村:コロナによって、社会全体でのオンライン化が少し進んだ結果、多くのユーザーが、これまでよりも長い時間、オンラインにつながるようになりました。従来よりも、ユーザーがテクノロジーに慣れてきたのです。オンラインでの比較検討は、さらに身近な手段になり、お客様は、より、自分らしい物件を合理的な方法で探しています。ただし、合理的=オンラインではありません。オンラインで探すのか、オフラインで探すのか、これはお客様によって違います。


石村:重要なのはオンとオフの窓口を私たちが持っていることなのです。多様化したお客様を受け入れるために、顧客ニーズにあわせて、オンライン対応もオフライン対応もする。そのために何をするか。これまで足りなかったオンラインの窓口を増やしましょう。それが、DXをする理由なのだと思います。顧客ニーズが変わりつつあるいま、賃貸仲介店舗なら、まずは、オンライン商談をできる体制を作ることです。使うテクノロジーは、すべてが有料のものでなくていい。


石村:Googleフォームや、LINEの無料電話などで、予算を使うことなく、オンライン商談ができるようにすることも可能です。コンバージョン率をあげるためにWEBコンテンツを作るのもよいでしょう。YouTubeは無料の範囲でできることがあります。コロナの第2波、第3波に備えて、管理会社様も在宅勤務の体制を強化する。予算を考えず無料でできることから、まずは取り組むという姿勢が何よりも大事です。これらの根幹にあるのが、顧客視点といえます。繰り返しになりますが、重要なのは業界視点ではなく、顧客視点でテクノロジーを導入することです。それが大事なのかなと思います。すべて顧客を起点に考えると、テクノロジーをどう活用するかの考えは、とてもシンプルになります。各社の事業計画、ステップによって、いま、どんな不動産テックを使うかは異なりますが、立ち返るのは顧客視点です。

「まずは、できることからやってみる」「数値化できないメリットを理解する」

参加者からの質問Q4:どんな不動産テックから導入していくのがよいでしょうか?


深澤:私はもう、3年以上前からいい続けていますが、まず、1つ何かをやることです。たとえば、電子契約。郵送するかファイルでやるかの違いですが、やり取りのスピード感や、成果として感じる満足度が違うんです。借主、貸主もまきこめる。電子契約は、体感できるスピードが圧倒的でわかりやすい。業者間またぎでやると、「明後日入居したいけど無理。なぜなら、契約書が(明後日までに郵送で)届かない」みたいなことありますよね。電子契約なら、そういう業務フローが圧倒的なスピードでやれちゃう。3、4年前に、「電子契約をやろう」と私がいったときに、社員にものすごく抵抗されたけど、いまのその人たちにとって、電子契約は”なくてはならないモノ”になっている。1つやれば自信つくから。いまは、次々に私が提案しても、うちのスタッフは全然、動じないよ。1つ、なんでもよいから成功体験をスタッフが持てると、いくらでも、いかようにもできる。使ってみると、便利なものは便利で使う。アカンものはアカンと。


石村:私がオススメしているのは、先ほどもご紹介した、ゼロ円テックです。駅前の不動産会社様のお困りごとは、「そもそもテックってなに」という話だと思います。そんなときは、たとえば、退去受付はどうされていますかとお聞きします。返信ハガキですか、受付フォームをWEBにお持ちですかと。返信用ハガキなら、「Googleフォームで作ってみませんか」と。これは無料でできる、ゼロ円テックです。大事なのは、まず、すぐにできることからチャンレジするという姿勢です。それがあるかないかで、違ってくる。無料のものでも大幅に改善できるところは、まだまだあると思います。それをやってみて、有料のサービスを使うかどうかを考えます。Zoomなら、無料は40分以内です。「IT重説で45分以上かかるので、時間が足りないから有料にしようかな」ということになれば、有料版を使いましょうという次のステップかなと。


深澤:絶対やってみないとね。とりあえず、やれるところからやってみないと。よく、全体像をいわれる人がいるじゃないですか。

データベースとつながってないと


深澤:これ常套句で笑。実際は、つながってなくても、できることは山ほどあるのになってことを本音で思いますよね。


佐瀬:そこ、すごく大事ですよね。WEB申込のシステムを入れようとするときに、似たような話があります。WEB申込のよいところって、データがつながって基幹システムへの打ち込みがなくなるからって考えがちです。実際に基幹システムとWEB申込がつながっている管理会社はというと、実は数えるくらいで、数社ほど。でも、そうではないメリットがあるんですよね。導入して何がよいかっていうとFAXの文字がつぶれて見えないことがなくなるんです。手戻りが減る。もう一回聞き返すってことがなくなる。そこだけでも業務効率があがる。そういう、目に見えない、数値化しにくいメリットをちゃんと理解して、まず、やってみるってのが本当に大事ですよね。


深澤:つぶれている字を業者に電話して、業者がお客様に聞く。そういう非効率を辞めようやって話ですよね。


佐瀬:このテーマですが、「早く進めるために」を語る前に、実際、この業界は本当にDXが進んでないのかも含めて、顧客視点から話をしたいんです。スライドを作ってきたので共有させてください。


佐瀬:スライド上部、赤色でかこっているのが、賃貸入居者がもとめるバリューチェーンです。いまのお客様は、物件情報をポータサイトで取得して、自分で調べて絞り込みまでして、そこから内覧→申込→鍵渡しという流れが一般的だと思います。このバリューチェーンのどこに顧客価値があるかってことを改めて考えたいと思っているんです。いま、私たちがDXといっているところって、内覧→申込→契約→鍵渡しだと思います。ここをDXしようと。ですが、過去、一番、この業界で問題だったのは情報が非対称になっている点です。駅前の不動産会社に行かないとお客様は情報を得ることができなかった。それをポータルが変えてきました。そういう意味でいうと、そのバリューチェーンの一番の価値って、駅前の不動産会社に行かずとも、情報が取得できるとことです。つまり、情報の非対称性の解消です。だとすると、もう、実際には顧客に価値提供をするという観点からいうと、全体の78割くらいは達成されているんじゃないかと思っています。私たちが議論の的にしている、実際の申込、契約がデジタルであろうが紙であろうが、ポータルが提供している顧客価値からすると、さほど重要ではないのかもしれない。賃貸契約は、お客様からすると、一生のうちに何度もすることじゃないので、どちらかというと業界側の理論だけで語っているようなところも、あるかなと感じています。つまり、顧客視点からいうと、「この業界は、新規顧客への価値提供が遅れているか」と問われれば、一概に、「遅れている」ともいえないと思っているのです。


佐瀬:ちなみに、この10年でポータルサイトが何を変えたかというと、真ん中の赤字のところの3つです。

  1. 情報の非対称性
  2. 内覧の数
  3. バリューチェーンの順序


佐瀬:1つ目は、いま申し上げた情報の非対称性の解消です。2つ目は、内覧数の減少が考えられます。これも、よくいわれることですが、お客様は自分が見たい物件を絞りこんで来店されます。以前は、不動産会社さんで10件のチラシを見て、5から10件の内覧をしていました。いま、1から3件くらいの数しか物件を見ないというアンケート結果も。場合によっては、一度も見ずに決めるという人が全体の7から8%ほどいる、というポータルサイトさんのデータもあります。3つ目が、もっとも重要な気がしていて。バリューチェーンの順序の変更です。以前は、お店に行って、お客様は情報を得て、そこからお客様がその物件がよいかどうかを調査していました。それが、いまではお店に行く前に絞り込みをしているのです。内見と調査の順序が逆転している点が非常に変わりました。この3つのポイントが、顧客価値に劇的なバリューチェーンの変化をもたらしました。これらに比べると、申込や鍵渡しのデジタル化は、価値が少ない。価値がないわけでは決してありませんが、実際に残っている価値は業界内の業務改善のコストダウンくらいかなと。お客様にとって、そこがデジタルになると得であることは確かですが、現在のバリューチェーンのなかでお客様に提供できる価値の変化としては、以前の変化よりも小さいのではないかと。小さいので、DXのスピード感が出ないのかなということを考えます。


佐瀬:もう1つ、付け加えたいのが、バリューチェーンにおいて、賃貸と仲介の不動産事業者はさまざまな関係者がかかわる、巨大なフリーミアムビジネスであるという点です。お客様は、ポータルサイトで物件情報を獲得してから申込をするまで、お金を払うことがありません。そこまで無料でできるのが現状です。そして、契約のときに仲介手数料を支払うというビジネスモデルは、わりと、ガッチリとできあがった、フリーミアムなビジネスモデルといえます。このビジネスモデルを崩すには、相当な価値を作る必要があるでしょう。その価値ができあがらないと、ゆっくりと、確実には進むでしょうが、急速なデジタル化は進まないなとも感じています。誤解のないようにいうと、ここまでポータルサイトをすごく持ち上げてきましたが、私はポータルサイトの回し者ではありません笑。念のため。申し上げたいのは、ポータルサイトが作り上げた価値を上回る何かを私たちが顧客へ提供できなければ、劇的には変わらないだろうということです。


石村:賃貸不動産業界がどうなっていくかを考えるとき、重要なのは、“どうしていかないといけないか”という視点で考えることだと思います。そこを考えずに、このままいくと20年先も同じ。佐瀬さんがおっしゃるように、新しい価値をちゃんと作っていくことが大事かなと。そこで重要なのが、お客様のニーズの変化です。これが事実。このニーズに対して、どのような価値を私たちは提供していくのかってことを考えないと、何も変わらないのかなと。New Normal(ニューノーマル)である、不動産業界の新常態に何を求めるか。ここで、何から新常態を考えるかというと、お客様から考えるべきなので、お客様が変わってきているのなら、それに対応できるように変わっていく必要があるのかなと思います。


佐瀬:このテーマも、私はスライドを用意しているので、それを共有してもよいでしょうか。さきほどと同様に、顧客価値からみた考察です。


佐瀬:これは、ビジネスモデルキャンパスといって、アメリカのビジネスモデルジェネレーションで有名になったフレームワークです。真ん中に価値提案があって、今回、不動産業界全体として、新規のお客様にどういう価値を提案しているのかってことを書いてみました。顧客セグメントとしては、一般賃貸とビジネスユースで多少、変わってくるかと思います。それを踏まえ、価値提案というところで仲介会社が直接的な接点になっていると考え、真ん中に仲介会社をすえています。ここで提供されている一般的な価値を1-1から1-4としてまとめています。

  • 1-1、営業マンのアドバイスを受けることができる
  • 1-2、見たい部屋を内見できる
  • 1-3、申込、契約ができる
  • 1-4、ポータルサイトを通じて物件情報を得られる


佐瀬:この4つのなかで、ポータルサイトを通じての物件情報を提供しているというのも、仲介会社や管理会社が顧客へ提供している価値かなと思っています。業界全体としては、そこもお客様へ提供していると。2-1には、さっきいったように、フリーミアムなビジネスモデルである点も価値であるとして、書いています。最初から、物件検索にお金をかけるってことになると、それは活性化しません。そして、これからの不動産業界で私が重要だと思っているのは、3-13-2の価値です。

  • 3-1、部屋探しのワクワク感、トキメキ
  • 3-2、ゲーム性のある部屋探し
    ※申込済物件があることにより意図せず


佐瀬:3-1、3-2は、すごい価値があるなって思ってまして。お客様は、部屋探しのワクワク感やトキメキをすごく求めているところがあります。仲介店舗のカウンターで、隣に自分たちと同じようなお客様がいればワクワクしますし、内見して部屋を見てワクワクしてもらうと。こういうところが、本当はすごい価値になっていると。ゲーム性のある部屋探しについては、いま、意図せず、そういう状況になっている面があります。いま、ポータルサイトには、実際には、成約済みの部屋も空室として掲載されているじゃないですか。でも、そこから、自分のあった部屋を見つけていくってことが、1つのワクワク感になっているという面が皮肉なことに、「あるな」と思っています。DXで、申込や契約ができるという価値よりも、フリーミアムなビジネスモデルであるという価値よりも、そうしたワクワク感の部分が、本当はすごい価値としてあって、お客様へ提供することが大事なのかなと思っています。物件、部屋探しは、単純なセレクトに終わりません。パートナーと一緒に話しながら物件を探したり、契約が済んだら、その夜はご飯を食べに行ったりしますよね。そこまでが1セットで、アトラクション的な要素もあって、不動産の賃貸業って成り立っていると考えていくことが大事なのではないでしょうか。そういう顧客視点で提供価値を考えると、3-1や3-2の価値を今後、どうやって研ぎ澄まして、提供できるかが、この業界の大事なところかなと。当然、デジタル化により、あっさり済ませたいというような事務的なお客様もいますので、その両方をにらんでいくというか。


深澤:初めて一人暮らしをする人にとって、すべてが聞きたいことだらけで、それを私たちがアシストする。それが仲介サービス業。でも、引っ越しも2件目、3件目になると、ワクワク感よりも“わかっている感”になってくる。どれくらいの家賃を自分が払えて、こういう部屋に住めるとか。私は、自分の社宅を見ずに決めました。会社から近いところ、というだけ。法人の転勤はそういう感覚だけど、初めての一人暮らしは夢いっぱいですよね。そうなると、重要なのは、不動産会社に出会って町を紹介してもらうこと。町は大事だと思う。物件どうこうって前に、どの町に住んで人生をスタートするか。そこにこそ仲介の価値があると私は思っています。つまり、二極化。機能だけを求めている人は手数料ゼロでいいじゃんとか。ちゃんと手続きや町の紹介をやってほしい人は、一か月分の仲介手数料を払ってもいいでしょうし。だから、“1ゼロの話”は違いますよね。ワクワク感はすごい大事だし、すごい簡単に賃貸契約ができるってことも大事だなと思います。


佐瀬:手続きが楽になるってことも価値だと思います。そこは突き詰めていかないといけないと。そこは、投資対効果が出るか出ないか。それがスピード感にかかわってくるかなと。


深澤:両極端ですよね。どっちも極めないと。簡単もワクワク感も。中途半端がよくないですよね。


佐瀬:基本的な流れとしては、アフターデジタルの世界における、オンライン・マージ・オフライン(OMO)の思考法が進むと考えています。WealthParkの石村さんと話をあわせたわけじゃないんですが、OMOは不動産業界でも進むでしょう。ここは間違いない。どちらかというと、これからの考えで重要なことは、オンラインのなかのどこにオフラインを作るか。つまり、3-1、3-2のところが、そのオフラインの役割になってくるかなと思います。

Part2_総括編はコチラ。

 

 

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