アメリカの不動産テックをリードする「ZORC」とは?不動産版GAFAといわれる理由

- アメリカの不動産テック企業4社(Zillow、Opendoor、Redfin、Compass)は「ZORC」と呼ばれGAFA(Google、Apple、旧Facebook現Meta、Amazon)のような革新的なビジネスモデル・サービスが特徴
- Zillowは不動産情報ポータルサイトを運営し、エージェント(営業担当者)からの広告収入が収益の7割。RedfinはZillowよりもリアルタイムに情報を得られる
- 金利上昇によりアメリカの不動産業界は冷え込んでいる。AIの進歩も含めて、今後の動向に注目を
アメリカの不動産市場を支える不動産テック企業4社(Zillow、Opendoor、Redfin、Compass)は「ZORC」は、不動産版GAFAといわれています。
革新的なビジネスモデルと、プラットフォームとして必要不可欠という点が「不動産版GAFA」といわれる理由です。
今回はアメリカの不動産取引の仕組みと日本との違い、ZORCの特徴や問題点を解説していきます。
アメリカの不動産取引の仕組みと日本の違い
アメリカと日本の不動産取引は日本と大きく異なります。主な違いは以下の6点です。
- 物件の情報量が多く、透明性が高い
日本のレインズ(指定流通機構)にあたる「MLS(Multiple Listing Service:物件情報データベース)」がある。MLSにはエージェントやライセンスを持ったブローカーが加盟し、地域の不動産情報が集約されている。非公開物件は禁止で、原則全ての物件情報が公開されている。不動産事業者向けMLSと一般公開型MLSがあり、一般公開型でもレインズより情報量が圧倒的に多い。 - 不動産エージェントを介した取引が主流
不動産ブローカー(不動産会社)ではなく、不動産エージェント(営業担当者・日本では宅地建物取引士)を介して物件を契約する - 不動産取引の分業化
弁護士・エージェント・モーゲージブローカー(住宅ローンの提案)・エスクロー(第三者機関としての各種調整や決済・書類確認)など業界内で役割が分業化されている - 住宅を資産として捉え、住宅購入=投資という考えが強い
購入してからリフォーム・リノベーションをすることで、売却によるリターンを見込む - 買主責任主義
買主責任主義であり、不動産に関する売主の契約不適合責任に関する法律上の規定はない - 鑑定評価の考え方の違い
鑑定評価では、「実質的な経過年数」と「経済的残存耐用年数」を建物価格の判断要素としている。日本のように「築年数」は査定の考慮に入れていない。
日本とアメリカの中古住宅の取引の違いを見てみましょう。
【画像出典】国土交通省「中古住宅流通促進 中古住宅流通促進・活用に関する研究会(参考資料)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.mlit.go.jp/common/001002572.pdf
買主と売主が別の不動産に依頼するのが一般的で、買主はホームインスベクターや不動産鑑定士・エスクローといった専門家に住宅の性能評価や鑑定評価・決済などを依頼します。
さらに、日本とアメリカでは住宅投資額の累積と住宅ストックの資産額に大きな差があります。
【画像出典】国土交通省「中古住宅流通促進 中古住宅流通促進・活用に関する研究会(参考資料)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.mlit.go.jp/common/001002572.pdf
アメリカの不動産市場は、不動産市場の透明化や鑑定評価の違いなどにより資産価値が大きい点が特徴です。
アメリカの不動産市場を支える不動産テック企業4社(Zillow、Opendoor、Redfin、Compass)は「ZORC」といわれ、不動産版「GAFA(Google、Apple、旧Facebook現Meta、Amazon)」とも呼ばれています。
ZORCとは?
ZORCの概要と特徴、ビジネスモデルを解説していきます。
- Zillow
- Opendoor
- Redfin
- Compass
1.Zillow
Zillow(ジロー)は不動産業界最大手といわれるポータルサイトを運営しています。株式の時価総額は2023年8月時点で117億ドル (日本円でおよそ1.7兆円)です。
Zillowは2006年にMicrosoft出身者などがシアトルで創業しました。
Zillowの強みは価格査定データサービス「Zestimate」と、圧倒的な不動産の情報量の多さです。
2015年に地域の近隣情報を提供するTrulia社を買収し、Zillowの不動産データは1億を超えサイトの会員数が増加しました。
【画像出典】国土交通省「不動産仲介事業における不動産情報のあり方について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.crei.e.u-tokyo.ac.jp/wp-content/
Zillowには会員のエージェントに対して、Premier Agent(プレミアエージェント)という有料の広告システムがあります。
Premier Agentを申し込むと担当するエリアの物件に自身の公告を掲載でき、物件に問い合わせてきた見込み客の紹介も受けることが可能です。
同社の収益の7割程度は、エージェントからの広告費収入となっています。
【画像出典】国土交通省「不動産仲介事業における不動産情報のあり方について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.crei.e.u-tokyo.ac.jp/
Zillowはポータルサイト運営業者のため、MLSに加入できませんが各地域のMLSの会員ブローカー・エージェントなどから情報を得ています。
2.Opendoor
Opendoor(オープンドア)はオンライン買い取り・再販のプラットフォームを運営し、自社で不動産を買い取り・再販します。
同社の強みは「iBuyer(アイバイヤー)」という自社で不動産を買い取り、住宅を購入したい人に買い取った物件を販売するビジネスモデルです。売主がオンラインで査定の申し込みをすると、AIが買い取り金額を提示し売主の合意が得られた際には、最短2日程度で売買が成立します。
売却に時間と手間がかからないことから、利用者が急増しました。
さらにOpendoorを利用することで、査定・買い取り・決済などがオンラインで完結します。
3.Redfin
Redfinは不動産仲介会社(ブローカー)でありながら、Zillowと同様に不動産ポータルサイトを運営しています。2004年に設立されました。
物件情報は基本的にZillowと同じです。しかし、Zillowと異なりRedfinはブローカーですのでMLSに加盟できるという魅力があります。各地域のMLSに直接アクセスし、情報をリアルタイムに近い頻度で取得しポータルサイトに反映することが可能なのです。
加えて広告収入だけではなく、自社がブローカーとして物件を仕入れていますのでエージェントからの成約手数料も収益となります。
【画像出典】国土交通省「不動産仲介事業における不動産情報のあり方について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.crei.e.u-tokyo.ac.jp/wp-content/
4.Compass
アメリカのスタートアップ企業「Compass」は、2012年にゴールドマン・サックス証券株式会社の元COO (最高執行責任者)ロバート・リフキン氏と、Googleのエンジニアであるオリ・アロン氏が創業しました。
Compassは、不動産売買・賃貸に必要な情報を集約したプラットフォームの運営、顧客とエージェント・ブローカーをつなげる不動産仲介業を展開しています。
アメリカの不動産売買では、エージェント(営業担当者)の力が強い点が特徴です。
同社はエージェントの業務を効率化させるソフトウェアを開発し、所属するエージェント数を増加させました。
さらに、高級不動産を中心にエージェントに対して仲介会社に支払う手数料を0にするなどの優遇措置をとりエージェントの数を増やしていきます。
Compassの不動産ポータルサイトでは、高級不動産を中心に販売開始前の物件情報「Compass Exclusive」も公開しておりCompassのサイトだけで閲覧が可能です。さらに物件の売却サポート事業も展開しています。
エージェント数が多く、高級不動産に特化し独自の情報を得られる点がCompassの強みといえるでしょう。
Compassをさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もチェックしてみましょう。
ZORCの問題点とAI査定の進化
独自のビジネスモデルで業績を伸ばしてきたZORCですが、2022年3月以降株価が低迷しています。
ZORCにかかわらず、アメリカの不動産業界では金利上昇により住宅ローンの金利も上がる市場が冷え込んでいるという実態があります。
【画像出典】TradingViewよりスクリーンキャプチャにて作成【URL】 https://jp.tradingview.com/
青:Zillow、オレンジ:Opendoor、緑:Redfin、紫:Compass
2022年3月の金利上昇以来、4社全て株価は下落しました。
また、ZillowのAI査定サービス「Zestimate」は実際の売却価格と開きがあることが分かっています。
【画像出典】国土交通省「不動産仲介事業における不動産情報のあり方について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.crei.e.u-tokyo.ac.jp/wp-content/
不動産に詳しいエコノミスト、ジョン・ウェイク氏は、2018年に「住宅を売却しようとする者は、同じ住宅に対するさまざまなウェブサイトの見積もりを比較することで、オンラインの住宅価格の見積もりの不正確さを一目で知ることができる。Zillow、Realtor.com、Redfin、Truliaであなたの家の価値の見積もりを確認すれば、それらの違いに驚くであろう」と発言しました。
しかし2019年には「Zillow のZestimate が更新され、新しいテクノロジーを使用することで、住宅の推定精度が向上した。」という記事を書いています。
ZestimateのAI査定の精度が向上し、金利上昇が落ち着くことで再びアメリカの不動産テック業界が盛り上がるかもしれません。
まとめ
アメリカの不動産テック企業ZORCのように、日本にも多くの不動産テック企業が存在します。
ZestimateのようなAI査定サービスもあり、「IESHIL(イエシル)」は一都三県の中古マンションの参考相場価格を把握できます。
アメリカの不動産テックとともに、日本の不動産テック市場にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
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