国土交通省の「まちづくりDX」とは?ビジョンや具体的な事例・スマートシティとの関係などを解説

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国土交通省の「まちづくりDX」とは?ビジョンや具体的な事例・スマートシティとの関係などを解説

2022年7月、国土交通省は「まちづくりのDX実現会議」を設置

2022年の4月に国土交通省は「まちづくりのDX実現会議」を設置しました。

同年4月から7月まで、4回に渡ってビジョンや重点的な取り組み・施策などについての会議が開催されています。

そもそもDXとは 、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、2004年にスウェーデンのウメオ大学 エリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」という概念です。

DXは単にIT化・デジタル化を推し進めるだけではありません。

経済産業省の「DXレポート ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」では、IT 専門調査会社のIDC Japan 株式会社のDXの定義が紹介されています。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンス(経験)の変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。

出典:経済産業省の「DXレポート ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」

DXは組織の風土や文化・従業員の意識を変革し、新しい製品・サービス、ビジネスモデルを開拓する事で、オンラインとオフラインでともに顧客の経験価値(C X)を向上させ企業として優位性の確立が可能となります。

これまで国土交通省では、3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を始めとしたDX施策を展開してきました。

まちづくりDX実現会議の「本会議の趣旨」によると、「これらの施策を中長期的な観点から統合して推進するための計画は存在せず、各施策間の連携や市場からみた政策展開の予見可能性に課題があった」と述べられています。

地方公共団体やまちづくり団体・民間企業・大学など幅広いプレイヤーと連携してまちづく
りDXを強力に推進していくためのビジョンを策定するため、各分野の有識者を中心メンバーとしたまちづくりDX会議が設置されました。

まちづくりDXの3つのビジョン・4つの重点取り組みテーマ・5つの原則とは

「まちづくりのDX実現会議」は、2022年4月~7月の間に4回に渡り開催され7月の会議では「まちづくりのDX実現ビジョン(概要版) 」や「まちづくりDXの施策紹介」について総合的な討議が行われました。

1回目の会議では「豊かな生活、多様な暮らし方・働き方を支える『人間中心のまちづくり』の実現のため、基盤となるデータ整備やデジタル技術の活用を進め、都市における新たな価値創出又は課題解決を図ること」がまちづくりDXの暫定的な定義とされています。

また基本的な方針として、3つのビジョン・4つの重点取り組みテーマ・5つの原則が示されています。

まちづくりDXの3つのビジョン

まちづくりDXの3つのビジョンは「持続可能な都市経営」「一人ひとりに寄り添うまち」「機動的で柔軟な都市設計」です。

「持続可能な都市経営」とは将来を見据えた都市計画・都市開発・まちづくり活動により長期安定的な都市経営を実現させるビジョンです。 具体的には「人流データを用いた将来の土地利用シミュレーションや空間設計シナリオごとの賑わいシミュレーションなど、データに基づく最適な空間再編を進める」事などが記されています。

2つ目の「一人ひとりに寄り添うまち」は住民ニーズを的確にとらえ、その変化にも敏感に適応するオンデマンド都市を実現するビジョンです。
「都市OSを介したデータのエリア循環の仕組みの構築」「これを活かした身近な都市サービスの提供を推進する事で、住民ひとり一人のニーズに合わせた最適な都市サービスの提供を実現」などの案があります。

都市OSは建物OSとも関連します。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

最後の「機動的で柔軟な都市設計」とは、社会情勢の変化や技術革新に柔軟に対応し、サービスを深化させ続ける都市を実現させる事を意味します。

高度な都市サービスに対応するためのインフラ再構築・都市や人々の変化を捉えるセンシングデータの取得および利用などが具体的な施策です。

3つのビジョンを見るとICTなどの新技術を活用しながら、都市や地域のマネジメント(計画、整備、管理・運営など)を高度化し、諸課題を解決する「スマートシティ」と似た考えである事が分かります。

【画像出典】内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省スマートシティ官民連携プラットフォーム「スマートシティガイドブック(概要版)」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/00_scguide_s.pdf

5つの原則

まちづくりDXには5つの原則があります。


【画像出典】国土交通省「まちづ くりのDX実現ビジョン 基本的方針(案)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/content/001478343.pdf

4回目の会議の記録によると、上記に「市民の役割・位置付け」が加えられる予定です。
そして市民にとって与えられるものであった都市計画がDXによって「自ら作り出すものになっていく、変革の可能性がある」という方向性をこのビジョンの中で共有する提案がありました。

3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー) 」に関しては、「ゲームやエンターテイメント分野の展開は、新たな分野開拓として必要」などの意見がありメタバースとして活用される可能性があります。

市民も参加できる都市計画や、多くの市民がプロジェクトに参画するためのメタバース活用など新たな施策が示唆されています。特にメタバース活用は若年層の興味を惹く施策として有効と言えるのではないでしょうか。

4つの重点取り組みテーマ

まちづくりDXにおける重点取り組みテーマは以下の4つです。

1. 都市空間DX:データを用いたシミュレーションや解析技術を取り入れた最適な空間再編、デジタル技術を用いて地域の魅力をさらに引き出す地方創生の推進 、高度なサービ ス提供をインフラサイドで支えるための空間整備 DXなどの「都市空間DX」を推進
2. エリマネDX:住民ニーズを的確に とらえたきめ細かい都市サービスを継続的に提供していくため、まちづくり団体などの民間主導のまちなかやネイバーフッド (身近なエリア)におけるまちづくり活動(エリアマネジメント)へのデジタル技術の導入によるエリマネ高度化を図る
3. まちづくりデータの高度化・オープンデータ化:まちづくりに関わる官民の主体が取得する多様なデータのオープンデータ化や高度化・データを扱うことが出来る人材育成や組織の強化などさまざまな分野におけるオープン・イノベーションを創出する
4. 3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化(Project PLATEAU):3D都市モデルがまちづくりDXのデジタル・インフラとしての役割を果たしていくため、地方自治体によるデータ整備と民間企業によるユースケース開発が相互に連携し、自律的に創造されていくエコシステムの構築を目指す

4つのテーマを中心とした具体的な施策のスケジュールも公開されています。

まちづくりDX・スマートシティ化への具体的な取り組み事例3つ

地方自治体の中には、既にDXやスマートシティ化に取り組み成果を出している市町村があります。

1.東京都豊島区はゴミ拾いSNSアプリでゴミ拾いを推進

東京都豊島区では、まちづくり・地域活性化に関する取り組みの一環として2021年9月に無料のゴミ拾いSNSアプリ「ピリカ」をリリースしました。

【画像出典】東京都豊島区「ごみ拾いを楽しむためのSNS『ピリカ』」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.city.toshima.lg.jp/152/documents/pirikatirasi.pdf

ピリカはスマートフォンにアプリをダウンロードし、ゴミ拾いの写真や成果・情報を投稿、「ありがとう」やコメントにより他のユーザーと交流できるアプリです。
ピリカは市民の環境保全意識を高められる、市民同士の交流の場となり地域活性化につながるなどの効果が期待されています。

2.加古川市のスマートシティの取り組み

兵庫県加古川市では2017年から2018年の間に小学校の通学路や学校周辺を中心に 1,475台の見守りカメラを設置した結果、約4年で犯罪件数が半減しました。
市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim(デシディム)」の導入などスマートシティ化に早くから取り組んでいます。BLE(Bluetooth Low Energy)タグを活用した見守りサービスも実施しています。


【画像出典】総務省「加古川市スマートシティプロジェクトについて」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.soumu.go.jp/main_content/000846628.pdf

2021年3月には加古川市スマートシティ構想を策定、総務省の情報通信月間には「ICTを活用した安全・安心に係るスマートシティの取組」が評価され、6月1日(電波の日)に2022年度「情報通信月間」総務大臣表彰を受賞 しました。

3.地域コミュニティアプリ「ピアッザ」

PIAZZA株式会社が運営する地域コミュニティアプリ「ピアッザ」は、東京都江東区・中央区・仙台市・奈良市・大阪市・岐阜市など多くの地方自治体 と提携しています。

地域で開催されるイベントの告知、不要な家具・家電・日用品などの譲渡・お店の質問などご近所ならではの情報や、物のシェアなどが気軽にできます。
これからの暮らし方や働き方、生き方などまちづくりの重要な要素である「人」に焦点を当てたメディア「PIAZZA LIFE」で情報発信もしています。

まとめ

まちづくりDXのビジョンや重点取り組みテーマ・原則と具体的な事例3つをお伝えしました。兵庫県加古川市などDXに積極的に取り組んでいる地方自治体もあり、スマートシティ化やまちづくりDXが近い未来に実現するかもしれません。

 

執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
Twitter:https://twitter.com/writertanaka19

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