賃貸のクレーム、対応はどうすれば良い?騒音・退去費用…事例と最新の対処法を解説

2023.01.18
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賃貸のクレーム、対応はどうすれば良い?騒音・退去費用…事例と最新の対処法を解説

賃貸管理で「クレーム対応が困難」と感じる管理会社は多い

2019年に国土交通省は「賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査」において、賃貸住宅管理業者2947社に対してさまざまなアンケートを実施しました。

まずは管理会社がオーナーから受託している業務の内容を見てみましょう。

【画像出典】国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査(2019年)」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001320853.pdf

「苦情対応」が最も多く89.1%、次いで「敷金精算・原状回復」「契約更新」「空室管理」となっています。自身では対応できない、入居者のクレームを委託するオーナーが9割近くという結果となりました。

続いて管理会社に「受託管理している賃貸住宅で発生しているトラブルで対応が困難なもの」を尋ねたところ、「借主間、近隣住民との間の苦情対応」が5割超と最も多いです。

【画像出典】国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査(2019年)」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001320853.pdf

2位は「退去時の原状回復の箇所や費用負担に係る家主・借主との協議」となっています。

SUMAVEでは以前もマンションの騒音対策原状回復についてお伝えしてきました。
上記の記事では、騒音トラブルが発生した際の対応策として聞き取り調査・現地調査・書面や電話による注意喚起などをご紹介しました。

しかし、千葉県松戸市と一般財団法人地方自治研究機構が2022年に共同で行った「新しい生活様式下における生活騒音等への対応に向けた調査研究」の結果ではコロナ禍で迷惑と感じる音や気になる音が増えたというデータがあります。

【画像出典】千葉県松戸市・一般財団法人地方自治研究機構「新しい生活様式下における
生活騒音等への対応に向けた調査研究(2022年3月)」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001320853.pdf

「増加した」と答える人が8.3%から11.4%になりました。外出自粛やテレワークなどによる在宅時間の増加で「うるさい」と感じる機会が増えたと推測されます。

「騒音」「退去時の原状回復の費用負担」という管理会社を悩ませる2つのトラブルやクレームにはどのような事例があり、どのように対応すべきなのでしょうか?

賃貸物件のクレーム事例3つと対応策

  1. 騒音対応①:迷惑行為禁止特約
  2. 騒音対応②:場合によっては役所への相談を促す
  3. 退去時の原状回復:入居前にも確認を

騒音対応①:迷惑行為禁止特約

「隣(上下)の部屋の住民がうるさい。管理会社から注意してもらえないでしょうか?」という事例は、多いのではないでしょうか。

まずは騒音の発生する時間・頻度などを聞き取り、音の原因を突き止めることが重要です。
貸主は民法601条により契約した部屋を使用・収益させる義務が あるため、居住に適した環境を保つ必要があります。
注意しても騒音など迷惑行為を止めない入居者がいるケースもあるでしょう。

入居者と賃貸契約書を交わす際に「迷惑行為禁止特約」を付けておくことで、騒音を出す悪質な入居者の賃貸借契約を解除 できる可能性があります。

迷惑行為禁止特約では、入居者の禁止行為を具体的に定めることが可能です。
例えば騒音では以下のような文言を入れる事ができます。
<例>
・他の住人の迷惑となるような行為を禁止する
・本物件又は本物件の周辺において、著しく粗野・乱暴な言動・威勢を示すことにより付近又は通行人に不安を覚えさせることを禁止する
・ギター・ピアノなど楽器演奏不可
・22時以降は洗濯機・掃除機など音が出るものを使用しない
・大音量でテレビ・ステレオなどの操作をしない

特約を定めることは、公序良俗に反しない限り有効とされています。
迷惑行為禁止特約が有効である場合、貸主は当該特約違反を理由として賃貸借契約の解除が可能となります。
ただし「迷惑行為」「騒音」と一口に言っても人により受け止め方に個人差があり、騒音・迷惑行為の程度を考慮する必要があります。

騒音対応②:場合によっては役所への相談を促す

千葉県松戸市・一般財団法人地方自治研究機構の「新しい生活様式下における生活騒音等への対応に向けた調査研究」によると、近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の種類は「自動車やバイクの空ぶかし・アイドリングの音」が 36.1%で最も多い結果となりました。


【画像出典】千葉県松戸市・一般財団法人地方自治研究機構「新しい生活様式下における
生活騒音等への対応に向けた調査研究(2022年3月)」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001320853.pdf

近隣の自動車・バイクのアイドリング音などは、隣室からの騒音といった集合住宅内のできごとではないため管理会社が対応することは困難と言えます。
いつも同じ自動車やバイクが迷惑行為を行っているとは限りませんので、注意喚起にも限界を感じる担当者は多いのではないでしょうか。

騒音は管理会社だけではなく、地方自治体の役所でも相談を受け付けています。
管理会社が対応する義務はありますが、対応できない状況では役所に相談してもらう方法も選択肢の1つといえるでしょう。

多くの市町村の役場では騒音計の貸し出しを行っています。可能であれば騒音を訴える入居者に騒音計で音を測定してもらいましょう。

地域によって定められた基準値(45~60デシベル )を超える場合には民法における受忍限度(社会通念上我慢できる範囲)を超えることになります。
車やバイクの空ぶかし音・話し声・上下階からの足音や物音・ドアの開閉音など生活騒音は法令等による規制は困難です。騒音の発生主のモラルに依存することから解決が難しいという現状があります。

退去時の原状回復:入居前にも確認を

退去時の原状回復の費用負担で、入居者から「〇万円も払えない。ぼったくりではないか」「私が付けた傷ではない。元からあったのでは」などのクレームを経験したかたは多いのではないでしょうか。

2016年に、東京都都市整備局に寄せられた電話や 窓口における賃貸借契約の相談(計 16,926 件)で最も多いものは「退去時の敷金精算(38%)」でした。

退去時のトラブルを防ぐために、入居時にも入居者に同席してもらい室内を確認することでクレームを防げる事例があります。

東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」では、床・壁・天井・クロスなど細かな部分の費用負担について明記されています。

例えば使用後の手入れが悪くススや油が付着している台所の油汚れ、結露を放置したことにより拡大したカビ・シミなどは入居者の負担となります。
「入居者の負担ではない」というクレームがある場合には、ガイドラインを見せる、入居時のチェック表を見せて説明すると解決できる可能性があります。

クレーム対応×不動産テック

賃貸物件のクレーム対応には、AI分析ツール・クラウド管理システムなど不動産テックの力を借りることで負担を軽減できることがあります。

例えば「Salesforceクレーム対応管理」は、店舗・コールセンターなどで受け付けたクレームをクラウドで一元管理できます。クレームのリスクレベルに応じて、現場にリアルタイムで指示が届き進捗状況も共有が可能です。
クレームの傾向などを分析し予防や再発防止につなげていくこともできます。

株式会社図研はメーカーの品質保証部門向けに「Qualityforce」というクレーム情報活用ソリューションを提供しています。
Qualityforceは製品出荷後に顧客から届いた過去のクレームの「症状」と「原因」「対策」などのデータベース情報を利活用しクレーム対応を支援するツールです。自然言語領域のAI技術を有効活用し、蓄積された過去のクレーム情報から関係があるものをQualityforceがピックアップします。

コールセンターでAIを活用する事例もあります。
国内大手の損害保険会社 のコールセンターでは音声認識エンジン導入により、会話を高精度にテキスト化しています。AIエンジンは人間の感情を理解した上での会話が可能で、周囲の環境をリアルタイムで把握して制御しています。

まとめ

賃貸物件で数多い入居者同士のトラブルによるクレーム、退去時の原状回復費用負担の対応についてお伝えしてきました。

クレーム対応は感情が労働に不可欠な要素となる「感情労働」でありストレスを溜めてしまう担当者は多いです。AIやツールの力を借りた負担の軽減を検討してみてはいかがでしょうか。

 

執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
Twitter:https://twitter.com/writertanaka19

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