賃貸の原状回復工事、必要性や負担割合をAIが判断?原状回復のDXとは

2022.06.08
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賃貸の原状回復工事、必要性や負担割合をAIが判断?原状回復のDXとは

原状回復のトラブルが増加中。国土交通省のガイドラインとは

原状回復とは賃貸した部屋を入居時の状態に戻すことで、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には以下のように記載されています。

原状回復とは 、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反※、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

※善管注意義務違反 とは部屋を借りた人(賃借人)が、善良なる管理者として注意を払う義務を指します。

建物の価値減少には①経年による劣化や損耗、②賃借人の「通常の使用」による損耗、③賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、「通常の使用を超えるような」使用による損耗があります。
原状回復のために補修・修繕を行う際にかかる費用は、③については賃借人が負担し、①②は業者が負担することとされています。

ただ、②の「「通常の使用」による損耗」と③の「「通常の使用を超えるような」使用による損耗」の線引きが難しく、「通常の使用」の範囲がどこまでを指すのかを巡り業者と賃借人の間でトラブルが起こる事例が近年増加中です。


相談件数
・2018年度 12500
・2019年度 11799
・2020年度 12061
・2021年度※ 8759
※2021年は年度途中のデータで前年同期より688件増加

【画像出典】独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」【URL】https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/chintai.html

現状では退去時に入居者・業者の双方で立ち会い、話し合った上で原状回復の費用を決定します。
損傷の程度によっては原状回復工事が必要な事例もあり、工事費用の負担割合も話し合いで決めることになります。

原状回復工事を実施するか否かの判断には専門知識が必要で、経過年数を超えた設備であっても(下図参照)、賃借人が工事費用を負担するケースがあります。


【画像出典】国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」12頁【URL】https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

「退去の立ち会いが負担」「原状回復工事の判断に困る」という方は多いのではないでしょうか。

2022年2月から、原状回復工事の必要性や負担割合をAIが判断するプロジェクトが進行中です。

原状回復工事の必要性をAIが判断? アプリで工程管理できるサービスも

原状回復×DXのプロジェクト・サービス2つをお伝えしていきます。

  1. 原状回復工事の必要性・負担割合をAIが判断
  2. 原状回復の全工程がオンラインで管理できる「原状回復DXwithBMクラウド」

1.原状回復工事の必要性・負担割合をAIが判断

不動産テック事業を展開する株式会社 LeTechは、2022年2月からIT企業の株式会社AVILENと連携し、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 高橋大志教授・研究室メンバーとの共同研究により原状回復に関する判断をAI機能で解決するサービスを開発しています。

株式会社 LeTechは原状回復工事の必要性や賃借人の負担割合の判断を適正に行うために、「業界ガイドライン準拠のAI機能(業界初)」を開発し、まずは自社の実施する原状回復工事に関する業務で活用する予定です。

試験段階を経て、運用の手順を確立した際には不動産業界向けクラウドサービスとして提供予定で、同社が運営する不動産オーナー向けプラットフォーム「YANUSY」上にAI機能を実装する取り組みも検討しています。

このプロジェクトは法令やガイドライン等に準拠した判断が可能となる「業界ガイドライン準拠のAI機能」を開発し、原状回復の費用負担の判断根拠を明確にし、将来的には現地での立ち合いを不要とする原状回復を目標としています。

例えば賃借人がスマートフォンからAI機能に現地の状況を入力することで、賃借人の負担割合を取得可能とするサービスを展開、事業者との確認対応業務など一連の流れをオンライン化することで、賃借人・事業者双方の負担軽減を目指します。

2022年4月時点ではまだ開発段階ですので、今後の動向を注視していきましょう。

2.原状回復の全工程がオンラインで管理できる「原状回復DXwithBMクラウド

不動産ソリューション企業の株式会社アセットコミュニケーションズが提供する「原状回復DXwithBMクラウド」は、建物管理クラウドとECシステムを連携させオンラインで原状回復における全工程の一元管理が可能です。

まずは契約した会社の専用サイトを起ち上げ、退去立ち合い・原状回復の発注をウェブ上で行い、原状回復工事をスケジュール化し、カレンダーに表示させます。

物件ごとに退去立ち合い~原状回復工事まで、作業・工事がどの段階にあるのか、ステータス一覧で確認できるシステムもあり、アプリで閲覧することも可能です。

サービスの利用にはアセットコミュニケーションズに原状回復工事を依頼する場合と、システムのみを利用するプランから選ぶ事が出来ます。

繁忙期には件数が多くなり、管理が負担になりがちな原状回復をオンラインで一元管理できる便利なシステムとなっています。

原状回復サービス導入のメリット・デメリット、今後のDX化は

上記の原状回復に関するサービスの導入は、作業を効率化できる、工程の管理の負担が軽減するなどのメリットがある一方でコストがかかるというデメリットがあります。

オンラインのサービスでは原状回復工事が終わった後、作業員が写真を撮影しアップする事で確認できますが、作業員が写真撮影に不慣れである場合や時間帯によっては実際の現場とイメージが異なる可能性があります。

またテキストで指示・説明することになりますので、工事の詳細を伝えることが難しいケースもあります。

ただ原状回復工事だけではなく、DX化には様々なメリット・デメリットが存在します。
自社での導入を考えている方はメリット・デメリットの双方を把握し、検討しましょう。

原状回復のDXは開発中のプロジェクトもあり、プロジェクトの動向や新サービスの開発が注目されています。

執筆者/田中あさみ
FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
- ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
- Twitter:https://twitter.com/writertanaka19

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