ハウスコム、丸井、スターバックス、メルカリからデジタルトランスフォーメーションを学ぶ

はじめに
今回から、読者のみなさんに共有したいデジタルトランスフォーメーション(DX)事例を取り上げる企画をスタートさせます。不動産業界に限らず、さまざまな産業や企業からDX事例をピックアップして発信する企画、「SUMAVE・DX通信」です。企業のニュースリリースを中心に取り上げ、その背景から、アフターコロナの不動産業界で求められるDXのエッセンスを紹介していきます。ぜひ、ご自身で、「DXのエッセンスは何か」を考えながらチェックしていただけますと幸いです。まず、紹介したいのはハウスコム株式会社です。
ハウスコム株式会社(不動産賃貸仲介)
ハウスコムは不動産業界のなかでも先進的な取り組みで知られる不動産会社です。社長の田村穂氏(画像上)は、オンラインやオフラインの境界がなくなる社会環境を業界のなかでもいち早く意識しています。その環境下で重視するのは顧客目線です。これに徹することをオンライン経営計画発表説明会で宣言しました。6月22日の出来事です。それから約20日後には、AI が顧客の住みたい町や、好きになれる町を診断してくれるサービス、「ハウスコム ライフスタイルサーチ」をローンチしました。
その診断をきっかけに、部屋の間取りや賃料などの情報提供や来店につなげていくオンライン施策です。リアルな仲介店舗が全国に186 店(7月15日時点)あるなかで、オンラインによる施策にも極めて積極的な姿勢で取り組んでいます。
画像出典元:https://retechcontest.jp/
7月16日には、不動産テック学生コンテストへの協賛も発表しました。完全オンライン開催のイベントです。ほかにも、2015年からオンライン内見に取り組むなど、ハウスコムはリアルとオンラインを融合させ、顧客視点でサービスを提供しています。
メルカリ(フリマアプリの企画・開発・運営)
画像出典元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002443.000003860.html
フリマアプリを提供しているメルカリがリアル店舗をオープンさせていることを以前、SUMAVEは記事にしました。メルカリ初の旗艦店舗、メルカリステーションです。2020年6月10日に、東京都新宿区の新宿マルイ本館にオープンしました。これは、顧客とのタッチポイントがオンラインだけだったメルカリが、リアルなタッチポイントを取りに行くための施策の1つです。オンライン完結型のサービスだったメルカリは、以前にもメルカリ教室というオフラインイベントを実施しています。
画像出典元:https://pj.mercari.com/mercari-spot/school.html
メルカリの使いかたをレクチャーしてもらえるリアルイベントです(現在はコロナにより未開催)。これは、「アプリの使いかたを対面で気軽に教わることができる」という、単純な取り組みではありません。顧客とのリアルなタッチポイントを増やすための施策であり、その体験をオンラインでのアプリ操作に還元するような施策です。メルカリステーションにも、それと似たような狙いが隠れています。オンライン型のサービスだったメルカリが、リアルでの顧客接点をとりにきている背景にあるのは、オンラインとリアルを融合させたサービスを顧客目線で提供することの重要性です。DX事例というと、アナログな企業がデジタル企業へシフトすることと考えられがちですが、それだけはありません。メルカリのようなオンライン型の企業が上手にオフラインを取り入れ、顧客目線でサービスを融合させていく姿にも、DXの本質があります。
中国、米国スターバックス(コーヒーチェーン店)
画像出典元:https://jp.reuters.com/article/starbucks-china-idJPKBN1KN07Q
画像出典元:https://forbesjapan.com/articles/detail/35150
来店価値を顧客へ提供することに強いこだわりを持っているスターバックスは、中国や米国で、デリバリーをはじめています。方針を変更した陰には、コロナによる非対面・非接触を望む顧客の存在がありました。「デリバリーに注力するデジタル型の企業がシェアを伸ばしていることへの危機感である」とも受け取れますが、デジタル環境への対応に乗り出したDX事例の1つです。それは、リアル店舗での買い物とオンラインでの注文という、顧客体験の融合です。中国のDX事情に詳しい専門家によると、「中国では、宅配においても“スタバらしさ”を感じることができ、ブランドイメージを安売りする施策につながっていない。DX成功事例の1つといえる」とのことです。2020年7月16日時点の日本国内はというと、商品のデリバリーについては、一部の店舗でUber Eatsによる配送サービスが導入されています(2020年7月16日時点)。国内における動向は今後、どうなるか。
丸井(百貨店)
画像出典元:https://www.0101maruigroup.co.jp/
ファッションビルなどの商業施設を首都圏に持つ丸井グループは、前述のメルカリステーションの出店先です。丸井は、リアルとオンラインが融合した社会においての自社の役割を追求しています。その取り組みの1つがメルカリとの連携でした。
画像出典元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002443.000003860.html
重複しますが、これからは、リアルとオンラインが融合したサービスを提供できる企業が顧客から選ばれます。それを実現するためのDXです。そこから逆算すると、メルカリのような、デジタル完結型の企業が求めているのは、店舗などのリアルな顧客接点です。スターバックスのようにリアル完結型の企業には、オンラインデリバリーなどのデジタルな顧客接点を増やすことが求められます。
画像出典元:https://www.0101.co.jp/
丸井の場合は、デジタルな顧客接点を増やすことが重要、となるわけですが、ここにはもう1つ別なアイデアがあります。ネット完結型企業の受け皿になるというものです。顧客とのリアルな接点を提供するプラットフォーマーという役割です。その代表的な事例がメルカリとの連携といえます。リアルとオンラインが融合したサービスを顧客目線に立って提供できる企業が生き残ることを意識したうえでの、積極的な業態変革といえるでしょう。丸井の取り組みもまた、デジタル環境へのシフトを明確に意識したDX事例です。
おわりに ~そもそも不動産業界におけるDXとは~
画像出典元:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html
今回の記事で取り上げた4つのケースに共通したエッセンスとは、次の2つのキーワードです。
- リアルとオンラインの融合
- 顧客目線
総務省によるとDXとは、人々の生活のあらゆる面に情報通信技術(ICT)が浸透し、よりよい方向に変化させることです。その定義から考えると、たとえば、不動産会社が不動産テックサービスを導入することは、「DXの一部」、もしくは、「DXの入り口」になります。自社、サービス、業態をよりよい方向に変化させるための手段としてDXがあるわけです。テック企業がリアル接点を求めて、オフラインの施策に着手するという視点もあります。メルカリステーションが、その代表例です。
DXは誰のためか
総務省のページにも書かれていますが、改めて認識をすると、人々のためです。東急住宅リースの会長である北川氏の言葉が、しっくりきます。不動産業界において意識したいのは、部屋・物件・家を探す生活者、消費者、顧客です。その目線に立ったDXであるという意識を私たちが持つことが重要なのだといえます。
よりよい方向とは
総務省が示す図によれば、不動産テックの導入、IT化、オンライン化によって、現実世界(リアル)とサーバー空間(オンライン)をシームレスにつなげることが、よりよい方向です。つまり、リアルとオンラインの融合です。その結果、顧客が意識せず自由にリアルとオンラインを行き来できることが、“よりよい方向”としての1つの理想であると考えます。
3つの前提をまとめて、不動産業界に置きかえると
私たちが目指したいDXとは、部屋・物件・家を探す顧客のあらゆる面にICTや不動産テック、ITが浸透し、リアルとオンラインが融合した、シームレスなサービスを提供することであるといえます。これを明確に意識し、DXに取り組む国内の不動産会社は、まだ、少数派です。しかし、ほかの産業ではその潮流が目立つようになりました。デジタル環境が進むアメリカや中国だけでなく、本記事で取り上げた企業を筆頭に、国内でもその動きは活発です。今後もSUMAVEは、不動産会社が顧客から選ばれるDXに取り組めるよう、情報発信によってサポートしていきたいと思います。