都市OS(データ連携基盤)とは?事例・導入自治体、総務省のスマートシティ推進事業を解説
- 都市のデータを集積し、流通や連携を可能とするデータ連携基盤を「都市OS」という。
- 国内で都市OSを導入する地方自治体は2022年時点で52カ所あり、福島県会津若松市、茨城県つくば市などが積極的に取り組んでいる
- 総務省のスマートシティ推進事業では、都市OSの経費の一部が補助される。都市OSやスマートシティに取り組む地方自治体が増える可能性も
SUMAVEではこれまで建物OSや国内のスマートシティのプロジェクトについてお伝えしてきました。
都市OS(データ連携基盤)とは、都市の医療・防災・物流・金融などのデータを集積・分析し、連携できるスマートシティの基盤となるシステムです。都市のスマートシティの実現に向けた課題を解決するという役割も担っています。
国内で都市OS(データ連携基盤)を導入する地方自治体は2022年時点で52カ所 です。
今回は都市OSとは何か、国内の導入自治体の事例と海外の事例、総務省のスマートシティ推進事業を解説していきます。
都市OSでスマートシティの課題解決-「つながる」「ながれる」「機能を広げられる」
都市OSとはスマートシティ実現のために、都市のデータ集積・連携・流通などの基本的機能を提供する「データ連携基盤」です。
「Society 5.0」に基づく日本のスマートシティの考え方や海外スマートシティアーキテクチャ事例を参考に設計されました。
日本のスマートシティを実現するにあたっての課題として、①サービスの再利用・横展開、②分野間データ利活用、③拡張性の低さという3つがあります。
上記の課題を解決するために、都市OSにはそれぞれ①相互運用(つながる)②データ流通(ながれる)、③拡張容易(機能を広げられる)という3つの特徴を設計しました。
【画像出典】内閣府「SIPサイバー/アーキテクチャ構築及び実証研究の成果公表 都市OS」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/a-whitepaper3_200331.pdf
「Society 5.0」「アーキテクチャ」など耳慣れない単語が出てきましたので、ここでいったん用語の意味を確認してみましょう。
<用語解説>
- Society 5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会※
- スマートシティ:IoTなどの新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行う。新たな価値を創出し続ける持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場※
- アーキテクチャ:情報システムの基本設計、共通仕様、設計思想
- スマートシティアーキテクチャ:スマートシティにおけるものごとの構造や関係性を表す設計図であり共通指針
※内閣府ホームページより引用
Society 5.0の具体的なイメージ図は以下の通りです。
【画像出典】内閣府「内閣府の施策 Society 5.0」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
「オペレーティングシステム(OS)」といえば、PCの基本ソフトウェア「Windows」や「Mac」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
OSはソフトウェアの1つで、コンピューターのシステムを管理・運用する基本的なソフトウェアを指します。
都市OSは「スマートシティの『Windows』や『Mac』」であり『「つながる」「ながれる」「機能を広げられる」を担うもの』とおさえておきましょう。
【画像出典】総務省「都市OSを活用したスマートシティ実装の更なる推進を目指して」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.mlit.go.jp/scpf/archives/docs/event_seminar230626_mic.pdf
総務省の公表資料によると、国内で都市OS(データ連携基盤)を導入する地方自治体は2022年時点で52カ所です。
具体的な事例を見ていきましょう。
国内の都市OS 事例
国内で都市OSを導入する地方自治体の事例を紹介していきます。
- 福島県会津若松市
- 茨城県つくば市
1.福島県会津若松市
福島県会津若松市は「スマートシティ会津若松」として、全国でもいち早くスマートシティや都市OSに取り組む地域です。
多くの地方自治体と同様に人口減少や少子高齢化などの課題を抱えていることに加え、東日本大震災の復興事業のシンボルとして、2011年からプロジェクト がスタートしました。
ITコンサルタント事業を展開するアクセンチュア株式会社とともにスマートシティ戦略の策定、都市OS基盤の提供、都市OS上の各種サービスの開発・運用などを実施しています。
2015年には都市OSとして「会津若松+(プラス)」というポータルサイトを整備しました。
【画像出典】会津若松市スマートシティ推進室「『スマートシティ会津若松』の取組とビジョン」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2013101500018/files/smart_city.pdf
会津若松+では、会津若松市の都市OSの記事リストや情報当番医情報・夜間急病センターの情報・避難所の情報などのAPI(Application Programming Interface)を登録・公開中です。
APIとはソフトウェアやプログラムを連携させるものです。アプリケーション一部の機能を共有する、OSを呼び出すことで双方のデータ連携が可能となります。
APIを使ってデータを連携する(API連携)ことのメリットは、機能が拡張できる、開発を効率化する、他のシステムと連携したサービスを提供できることです。
例えば会津若松市の避難所情報をAPI連携し、防災アプリを作り提供することなどができます。
会津若松市は都市OSの整備だけではなく、500人規模の入居が可能なICTオフィスビル「スマートシティAiCT(アイクト)」を 2019年4月22日に開所しました。
スマートシティAiCTには首都圏のICT関連企業の移転、地域のICT関連企業の入居などで2021年8月には満室になっています。
一般社団法人AiCTコンソーシアムが主体となってスマートシティ事業を推し進めており、
2021年には、国のスマートシティガイドブックに事例が多数掲載され、スマートシティ国内事例10選に選定されました。
2022年6月には内閣府のデジタル田園都市国家構想推進交付金Type3事業に採択され、2023年3月時点 で合計22のスマートシティサービスと都市OSが連携しています。
2.茨城県つくば市
茨城県つくば市は「つくばスマートシティ協議会」が中心となり、スマートシティ実現を目指しています。2021年に都市OS(データ連携基盤)を整備しました。
つくばスマートシティ協議会の「移動スーパーの見える化による買物利便性の向上」事業は、2021年の国土交通省のスマートシティモデル事業先行モデルプロジェクトであり、2022年度には総務省の「地域課題解決のためのスマートシティ推進事業」に採択されました。
「移動スーパーの見える化による買物利便性の向上」事業とは、つくば市内を走行する移動スーパーの位置情報データを収集し、データ連携基盤を通して移動スーパーの現在地をつくば市のポータルアプリ「つくスマ」から閲覧できるようにするものです。
事業の背景には、つくば市では「高齢者など、交通手段に制約がある方の不利益が顕著である」という実態があります。
つくば市は交通機関の中で自動車を使う人の割合が高く、自動車の交通分担率が約6割です。高齢者は自家用車を運転し、医療機関の受診や日用品の買い物などをすることが常態化しています。今後ますます高齢化が進むと、運転ができなくなる高齢者が増え過疎化が進む恐れがあるのです。
上記の課題を解決するために、都市OSを通じて移動手段を提供するプロジェクトを実施することになりました。
【画像出典】総務省「2022年度地域課題解決のためのスマートシティ推進事業 事業概要」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.soumu.go.jp/main_content/000825176.pdf
つくばスマートシティアプリ「つくスマ」は2022年4月にリリースされ、上記の事業だけではなく図書館の本の貸し出し に対応し、ごみカレンダーが追加される など市民の利便性向上に寄与しています。
海外の都市OS事例:インド
インド政府は、国家プロジェクトとして「デジタル・インディア」をかかげ、都市OS「India Stack(インディア・スタック)」を整備し、さまざまなサービスを提供しています。
India StackはオープンAPIの集合体で、①確実な本人確認、②電子決済の推進、③データの管理・活用3つの目的別に構成されています。
2008年時点でインドでは金融口座を保有するのは人口の約17%で大きな社会問題となっていました。2009年にインドは固有識別番号庁を設立し、2010 年に全居住者を対象とする12桁の個人識別番号(Aadhaar)を付与します。
India Stack の普及により新規口座開設数は 3.4 億件、Aadhaar による本人確認は過去 3 年間で 1.5 億回に上りました。世界銀行の調査によると、2011 年から 2017 年にかけてインドでは成人の金融口座保有率が倍増し 80%です。
2015 年にはデジタル署名機能の「eSign」とAadhaarを連携させ電子書類の保管、参照、共有を可能にする「DigiLocker」の開発・運用を開始します。DigiLocker は日本のマイナポータルのようなシステムでUber の運転手の運転免許証や、居住者証明書など各種証明書が発行可能です。
総務省のスマートシティ推進事業では、都市OSに補助金が
総務省では「地域課題解決のためのスマートシティ推進事業」で、地域が抱える課題をデジタル技術やデータの活用によって解決し、地域活性化を図るために地方自治体が整備する都市OS、サービスなどの整備・改良にかかる経費の一部を補助しています。
茨城県つくば市はスマートシティ推進事業に採択され、国土交通省のスマートシティモデル事業先行モデルプロジェクトにも選ばれました。
このような施策により、今後都市OSを整備する地方自治体が増え最新のIT技術が積極的にまちづくりに取り入れられるかもしれません。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
X:https://twitter.com/writertanaka19