スマートスピーカーで高齢者を見守り。マンション設備に見守りテックは必要?

- スマートスピーカーの世界における市場規模は、2023年から2028年の間に25.9%の成長率を示し、2028年までに275億米ドルに達すると予測されている。IoT機器も世界的な市場拡大の見込み
- スマートスピーカーによる高齢者の見守りは、離れて暮らす家族でも気軽に連絡ができる、万が一の場合にすぐ駆けつけられるなどのメリットがある
- 見守りサービス付きのマンションが人気。地方自治体と日本郵便では、スマートスピーカー・スマートメーターなどIoT機器と訪問を組み合せた高齢者見守り事業を全国で展開している
スマートスピーカーやスマートメーターなどのIoT機器を用いた自宅の「スマートホーム化」は、生活を便利にするだけではなく高齢者の見守り事業にも活用が可能です。
シニア向けの見守りサービス付きのマンションは人気があり、「家賃が相場より高いが『終の棲家』にする」という声もあります。
今回は、スマートスピーカーなどIoT機器の概要と、高齢者見守り事業の仕組み、メリット・デメリットや事例を解説していきます。
スマートスピーカーとは?IoT機器で高齢者を見守る仕組みとは
スマートスピーカーとは、インターネットに接続し利用者の音声をAIが認識し操作できるIoT機器の1つです。
「アレクサ」「ねぇGoogle」など、決まった言葉を話しかけることでスマートスピーカーでの音声操作が可能になり以下のようなことができます。
- 音楽やラジオを聴く
- ニュースや天気予報がチェックできる
- 質問に回答する
- 家電と連携し、操作する
- スマートフォン・タブレット端末と連携し、以下のことができる
- 検索
- 通話
- 動画再生
- 買い物
- メモ機能
代表的な商品としてAmazon のAI技術Alexa(アレクサ)を搭載する「Amazon Echo」などがあります。スマートスピーカーの世界における市場規模は、2022年で65億米ドルです。2023年から2028年の間に25.9%の成長率を示し、2028年までに275億米ドルに達すると予測されています。
世界のスマートスピーカーのシェア(中国本土を除く)は、Amazon Alexa が5割弱、Google Assistantが3割強 です。
【画像出典】内閣官房内閣広報室 デジタル市場競争会議「新たな顧客接点(ボイスアシスタント及びウェアラブル)に関する競争評価中間報告」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/dai6/siryou5.pdf
さらにAmazonは2023年9月21日に、Amazon Echoが生成AIを使った新機能にアクセスできるようにすることを予告しました。
生成AIとは、ChatGPTで話題となった技術でWeb上のテキストを学習し文章などが作成できるチャットボットです。生成AIを活用すると、アレクサと人間相手のような会話が可能になるといわれています。
スマートスピーカーのように操作が簡単なIoT機器は、高齢者の見守りサービスに活用されています。
スマートスピーカーで高齢者の見守りはできるのか
少子高齢化の影響で、一人暮らしの高齢者は年々増加しています。
【画像出典】内閣府 2021年版高齢社会白書「高齢化の状況」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/html/zenbun/s1_1_3.html
1980年には男性約19万人、女性約69万人で65歳以上人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%でしたが、2020年には男性約243万人、女性約459万人、65歳以上人口に占める割合は男性15.5%、女性22.4です。
今後さらなる増加が予測されています。
管理会社で管理業務をする方にとっては、単身向けのアパート・マンションに高齢者が入居を希望すると心配になってしまうケースは多いのではないでしょうか。
単身高齢者世帯の増加に伴い、多くの地方自治体が日本郵便と連携して取り組んでいる事業が「スマートスピーカーによる高齢者見守り」です。
例えば千葉県勝浦市では利用者の自宅にスマートスピーカーを設置し、利用者の生活リズムに合わせてスピーカーが「体調はいかがですか?」「お薬は飲みましたか?」など声かけを行い、体調・服薬・食事・睡眠などの状況を確認します。
【画像出典】千葉県勝浦市公式ホームページ「スマートスピーカーを活用した高齢者みまもりサービスの利用者募集」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.city.katsuura.lg.jp/info/1582
利用者の体調・服薬などの状況を市の職員や家族が管理画面やLINEを通して把握でき、利用者はスマートスピーカーを用いて家族と通話・ビデオ通話などが可能です。
さらに郵便局の職員が1カ月に1回30分程度の利用者の自宅を訪問し、生活状況などを確認した結果を家族に報告します。
地方自治体ではスマートスピーカーだけではなく、スマートメーターでの見守り事業も展開中です。
例えば福岡県福岡市では、2017年に対象の高齢者に電力量計(スマートメーター)を設置し電気使用量を検知し普段の使用状況と異なる場合に九州電力株式会社より高齢者を見守る方へメールで通知する社会実験を実施しました。
【画像出典】福岡市役所 保健福祉局政策推進課「スマートメーターを活用した見守りの社会実験について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/58209/1/syakaijikken.pdf
現状としてはスマートスピーカー・スマートメーターなどIoT機器だけで見守るのではなく、家庭訪問やメールで誰かに通知するといったリアルとオンラインを融合した仕組みです。
今後のAI技術やIoT機器の進化により今まで人間がフォローしてきた部分が代行され、よりスムーズな見守り事業に発展するかもしれません。
スマートスピーカー・スマートホームで高齢者の見守りをするメリット・デメリット
スマートスピーカーなどスマートホーム化による高齢者見守りのメリット・デメリットを見ていきましょう。
スマートスピーカー・スマートホームによる見守りのメリット
スマートスピーカーを利用することで、離れて暮らす家族にも高齢者の見守りができるようになります。
スマートスピーカーを用いなくても定期的に通話やビデオ通話をすることで、体調や生活状況などの確認は可能です。
しかし「忙しく通話ができない」「毎週電話するのは照れくさい」「向こうにとっても負担になるのではないか」などの理由で、定期的な通話が困難なケースは多いでしょう。
スマートスピーカーは、高齢者がAIと会話をすると食事や体調・服薬など細かな生活状況について確認できます。
万が一のことがあった場合に、いち早く対応できる点もメリットです。
スマートスピーカー・スマートホームによる見守りのデメリット
スマートスピーカーの導入にあたっては、光回線や無線Wi-Fiなどインターネットにアクセスできる環境が必須です。
ネット環境がない世帯の場合は、無線Wi-fiの契約や回線の開通などが必要になってしまいます。月額料金がかかるため、金銭的にも負担となってしまう恐れがあります。
「スマートスピーカーの使い方が分からない」という方には、日本郵便のオプションサービスを申し込むことで、利用者に一人ひとりへのフォローが可能です。
スマートメーターの見守りでも機器を購入しなければならない、月額利用料金を支払わなければならない事例があります。
加えて不測の事故ではなくても、「今日は外出で電気をつけていなかった」といったケースで安否確認されてしまうというデメリットもあるでしょう。
スマートスピーカー・スマートメーターの高齢者見守り事例
地方自治体と日本郵便の、IoT機器を用いた高齢者見守りの取り組み事例2つをお伝えしていきます。
- 大阪府河内長野市:スマートスピーカーを活用した高齢者の健康維持・介護予防の取り組み
- 福岡市・福岡安全センター株式会社:ICTを活用した単身高齢者あんしん見守り実証事業
大阪府河内長野市:スマートスピーカーを活用した高齢者の健康維持・介護予防の取り組み
大阪府河内長野市は2015年に日本郵便と高齢者などの見守りに関する協定を締結し、いち早く見守り事業を展開してきました。
2022年8月から「スマートスピーカーを活用した高齢者の健康維持・介護予防の取り組み」を実施中です。
市と日本郵便株式会社が連携し、対象者の自宅にインターネット接続されたスマートスピーカー(画面付き)を設置します。
対象者の日常生活の状況(健康維持)を把握しデータ集積で介護予防につなげるとともに、体操動画をスマートスピーカーで発信することで高齢者の健康維持・介護予防を図ります。
【画像出典】大阪府河内長野市 「スマートスピーカーを活用した高齢者の健康維持・介護予防の取り組みを実施」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.city.kawachinagano.lg.jp/uploaded/attachment/29241.pdf
上記の他にも「みまもりタグ」を利用した認知症の方の見守り、室内の温度・湿度を感知し緊急通報装置から熱中症警報を通知する「熱中症見守り」など高齢者等総合見守りシステムを有料で実施中です。
福岡市・福岡安全センター株式会社:ICTを活用した単身高齢者あんしん見守り実証事業
2019年8月~2020年9月に、福岡市と福岡安全センター株式会社ではセンサーを利用した高齢者の見守り実証事業を行いました。
福岡市の推計では、単身高齢者世帯が2025年には119,000世帯となりさらに増加していく見込みです。ICTを活用した見守りの普及などが必要となっている状況に対する提案を募集した結果、福岡安全センター株式会社から⾒守りから安否確認までを⼀体的に実施する事業が提案されました。
【画像出典】福岡市 福岡100「ICTを活用した単身高齢者あんしん見守り実証事業」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://100.city.fukuoka.lg.jp/wp-content/uploads/2021/10/02_%e3%81%84%e3%81%be%e3%82%a4%e3%83%ab%e3%83%a2.pdf
単身の高齢者世帯に温度・湿度等を感知するセンサーを自宅に設置し安全センターにセンサーのデータを送信します。温度・湿度・照度等があらかじめ設定した値を逸脱するとアラートが出され、アラートを感知した安全センターが、電話連絡や訪問により安否確認する仕組みです。
【画像出典】福岡市 福岡100「ICTを活用した単身高齢者あんしん見守り実証事業」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://100.city.fukuoka.lg.jp/wp-content/uploads/2021/10/02_%e3%81%84%e3%81%be%e3%82%a4%e3%83%ab%e3%83%a2.pdf
シニア向けマンションで人気の見守りテックで、他社との差別化を
IoT機器を用いた高齢者の見守りは、単身高齢者世帯の増加で今後ますます需要が高くなるでしょう。
民間事業で人気が高いのは見守りサービス付きのシニア向けテックマンションです。
家賃は相場より高く20万円前後ですが家族の勧めで入居したシニア層が多く、「終の棲家にする」という声もあります。
マンションの差別化や家賃アップのために、物件に「見守りテック」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
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