【用語解説】大手不動産会社も資金調達で利用する「SLL」とは何か

- 大手不動産会社も続々と資金調達で用いる「SLL」とは?
- SLLはサステナビリティ・リンク・ローンのことで、ESG金融の1つ
- 環境的・社会的に持続可能な経済活動および経済成長を促進し、支援することを目指すもの
「サステナビリティ・リンク・ローン」(SLL)とは何か?
2022年10月に農林中央金庫が三菱地所とサシテナビリティ・リンク・ローンの契約締結を行い、新聞各紙で報道されました。SLLは借り手の経営戦略(ESG戦略含む)に基づくサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を設定し、貸付条件をSPTs達成状況に連動させることで、借り手に目標達成に向けた動機付けを促進し、環境・社会の面から持続可能な事業活動と成長を支援するものです。
調達資金の融資対象が特定のプロジェクトに限定されず、一般事業目的に使われることが多いのも特徴です。三菱地所も同様ですが、同社では再生可能エネルギー由来の電力導入の拡大や、二酸化炭素(CO2)の削減に寄与する取り組みに使う予定だといいます。
国際的な指針として「サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)」によりSLLのフレームワークが制定されており、SPTsの設定にあたっては自社独自のKPIを設置するか、外部機関の格付けなどを用いることが可能です。
「サステナビリティ・リンク・ローン原則」(SLLP)とは?
サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)は、以下の4つの核となる要素に基づき、すべての市場参加者がサスナテビリティ・リンク・ローンの特徴を明確に理解できるようにフレームワークとして規定したものです。ここでは環境省が仮訳しているサステナビリティ・リンク・ローン原則の内容を抜粋してご紹介します。
- 借り手の全体的な企業の社会的責任(CSR)戦略との関係
借り手はCSR戦略に規定されたサステナビリティ目標とその目標がどのようにSPTs案と連携するかを貸し手に伝える必要があります。借り手はこの情報をサステナビリティに関する包括的な目標などの中で位置づけることが推奨されています。 - 目標設定:借り手のサステナビリティの測定
借り手と貸し手はSTPsについて交渉し、設定する必要があります。その際、借り手は1社または複数の「サステナビリティ・コーディネーター」または「サステナビリティ・ストラクチャリング・エージェント」を選定し、サステナビリティ・リンク・ローン商品を組成します。SPTsは借り手のビジネスにとって野心的で有意義でなければなりません。事前に設定したSPTsの達成状況を測定し、改善していかなければいけません。 - レポーティング
借り手は可能であれば、SPTsに関する最新情報を常に容易に入手できるようにしておき1年に1回以上、こうした情報をローンに参加している機関に提供する必要があります。こうした情報は借り手の年次報告書またはCSR報告書に含まれることが多いです。 レビュー
外部機関によるレビューの必要性は取引ごとに借り手と貸し手との間で交渉され、合意されます。外部機関によるレビューが依頼されない場合、SPTsに対するパフォーマンスの算定を検証するために社内の専門知識を示す、または開発するよう強く推奨されています。
サステナビリティ・リンク・ローンによって、「社会への貢献」と「企業の成長」の両輪を推進
サステナビリティ・リンク・ローンは、環境的・社会的に持続可能な経済活動および経済成長を促進し、支援することを目指すものです。これまで一般的にあったローンの貸し手と借り手の間の「返済手数料」だけの関係ではなく、双方にとってお金を貸す、借りる以上の価値を生み出そうとしている仕組みです。
借り手側にとっては融資を受ける際に野心的なSPTsを設定することで、企業の変革促進につながります。またこうした取り組みそのものが、借り手にとってのESG評価向上にもつながり企業価値の向上へつながります。
貸し手にしても、ESG金融の1つとしての融資が可能になります。借り手のデフォルト等がない限り、安定的なキャッシュフローを得られます。双方で合意したSPTsを見ながら継続的に借り手とコミュニケーションが可能で、貸しっぱなしを防ぐことができ、多層的な関係構築・ビジネス機会の獲得につながります。また自身のサステナブル経営のアピールにもなるでしょう。
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