【不動産業界基礎用語】まちづくり分野で活用、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)

- 官民連携の仕組みである「ソーシャル・インパクト・ボンド」導入の動きが活発化
- まちづくり分野で注目
- 群馬県前橋市が導入モデル団体に
「ソーシャル・インパクト・ボンド」(SIB)は官民連携の仕組みの一つです。行政サービスを民間企業やNPOに委託して、民間から資金を集め、事業を行い、事前に定めた成果を達成した場合にのみ行政から資金提供者に報酬が支払われる仕組みです。
行政コストを削減でき、成果がでれば事業を委託された企業やNPO、資金提供者にリターンが与えられます。リターンも成果によって変動し、良ければ大きくなっていくため、民間側のモチベーションも高まるように設計されています。
もともとは公費削減や業務見直しを迫られたイギリスで2010年に始まったもので、現在は世界中で利用されています。日本で最初に行われたのは2015年、日本財団と横須賀市による特別養子縁組推進のパイロット事業でした。
日本で生まれる? 「まちづくり分野×SIB」
ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)は、国や地方自治体などで導入検討が進んでいます。日本は少子化が進み、税収の増加が見込めず、高齢化によって社会保障費が増大、国や地方自治体の財政が逼迫している状況にあります。国や地方自治体はSIBを通じて、財政リスクを下げるのが狙いです。
2021年3月には、まちづくり分野におけるSIBの普及促進を目的に「『まちづくり×SIB』シンポジウム〜3つの価値を創出する新しいまちづくり〜」と題したオンラインシンポジウムが国土交通省主催で行われました。
【出展】社会変革推進財団(SIIF)専務理事青柳光昌氏の資料(2021年3月4日)から抜粋【URL】https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001391277.pdf
SIBにおける、まちづくり分野の活用で代表的なのが群馬県前橋市です。同市では2019年に「前橋市アーバンデザイン」を策定し、中心市街地にある遊休不動産のリノベーションなどを推進し、価値を高めようとしています。この実現手段としてSIBを検討、2020年に国土交通省のまちづくり分野におけるSIB導入のモデル団体に採択されました。
【出展】成果報告「モデル事業の概要説明」(有限責任監査法人トーマツ)の資料(2021年3月4日)から抜粋【URL】https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001391280.pdf
SIBは、民間企業側にとって報酬以上のメリットもあります。今は「儲かればいい」という経済価値の創出だけでなく、社会価値の創出や社会課題の解決を企業側が求められる時代です。ESGやSDGsが叫ばれていることは周知の通りです。SIBはまちづくり分野や医療、福祉の事業で多く活用されています。SIB事業は、経済価値に加えて、社会価値の創出にもつながる可能性が高いのです。企業はこれらを通じて既存事業にない社会価値の創出を行えば、社会や投資家たちからも評価されるメリットを享受できます。
まちづくり分野×SIBの取り組みは世界的にもまだ少ないといわれており、日本のスーパーシティ(スマートシティ)分野での活用が期待されています。
課題は目標が達成できるのかどうか
SIBの課題は、最終目標に達成できるかどうかです。たとえば2017年〜2019年に実施された神戸市のSIB事業「糖尿病性腎症等重症化予防事業」は2020年10月に最終評価が公表されましたが、成果指標として掲げた腎機能の低下抑制率が、目標の80%を下回る32.9%でした。
まちづくりにおけるSIB導入でも、前橋市の担当者は実施事業と効果測定の因果関係や、成果指標の設定などが課題としており、これまでとは異なる仕組みゆえの難しさを表しています。
課題はあるものの、SIBは少子高齢化社会の日本にとって活路となると見込まれ、その手法について模索が始まっている段階といえます。