手放そう「代替」という思い込み。アフターコロナのマンション販売における、顧客との新しい関係をさぐる【後編】

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手放そう「代替」という思い込み。アフターコロナのマンション販売における、顧客との新しい関係をさぐる【後編】

はじめに

三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産、伊藤忠ハウジングの3社が集まった、不動産テックウェビナーのレポート3回目です。スピーカーの概要を掲載しているので、1回目をまだ読んでいない人は、そちらからお読みいただくことをオススメします。

2回目のレポート記事では、マンション販売の最前線で、オンライン施策やIT化に取り組む3社の事例を中心に紹介しました。そこに共通してあるのは、顧客の目線に立って、オンラインの強み・特徴・メリットを生かそうとする姿勢です。コロナ禍による接触を避ける風潮から、マンション販売の領域でも非接触・非対面のニーズが顕在化していきました。ユーザーから感謝の声を聞き、オンラインの必要性を実感したのは三菱地所レジデンス・夏井氏です。


夏井:「コロナで緊急事態宣言が出て、なかなか外出できなくなって」というところで、一番、エンドユーザーの声で心に響いたのは、ファミリーから感謝の声です。子供って、じっとしていられないし、マスクをずっとつけていられない。そういった事情にたいして、世のなか全体が過敏で、厳しい目線が向けられていたタイミングがありました。そのときに、すごい、つらい思いをされたご家族がいらっしゃいました。


間所:非常に窮屈な思いをされていた?


夏井:ええ。そんなとき、オンライン接客が息抜きのようになったそうです。「自宅でリラックスしながら、子供に、いつものおもちゃで遊ばせながら、落ち着いて(マンションの)話を聞くことができた」と。こうした声には、私たちも、心が通い合うような会話をオンラインですることができました。アンケートでも感謝の声をいただき、「やってよかったな」と、すごい実感しています。

オンラインの強みの1つは、“便利さを提供できること”です。このメリットを3社は提供しながら、同時に、違ったニーズに応えることの重要性も感じていました。それは、リアルな体験です。そのことを三菱地所レジデンス・石毛氏は次のように話しました。


石毛:当初は、「来場したくない」「契約までネットで完結したい」というお客様がオンライン接客に積極的でした。最近は、お客様は何がしかの理由で(モデルルームに)来場するし、したいのだということがわかりました。

オンラインとリアルのメリットを受け取りたいという明確なニーズが、マンション販売の領域に存在します。誤解を恐れずにいえば、顧客目線でのオンラインの強み=便利さです。では、顧客目線でのリアルなサービスの強みとは何か。それを本記事で明らかにします。シリーズ3回目となる今回の記事で取り上げるのは、「リアルなサービスの強み」と、その先にある、「顧客との新しい関係性」です。このテーマと向き合ってきた、マンション販売の最前線で苦悩する3社の声をお聞きください。

前回のつづき


間所:オンライン接客が、ファミリーからのウケがすごくよかったというのは、私が持っていたオンライン活用のイメージと違っていました。印象的な話でした。オンラインの施策を活用してきて見えたのは、最終的に、エンドユーザーや検討者さんの声が、一番の要素であるということ。担当者のかたの成功体験をいかに波及させるか。どうやって最初の成功体験を作るかということなんでしょうね。今日のウェビナーは、そろそろ終わりの時間が見えてきました。最後のテーマ、「今後どうなるか」をお聞きして、質疑応答に進みたいと思います。では、業界の今後について、マンション販売におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が果たしていく役割など、ご意見を聞かせてください。まずは、伊藤忠ハウジングの倉津さんお願いします。


倉津:今後については、VR活用がさかんなので、その方向性があります。人気物件1つだけをモデルルームとして作る時代では、なくなってきているかなと。総合ギャラリーで1つのモデルルームを作り、それ以外の物件は、それぞれVRでご紹介、ご説明していく時代になってきたかなと思っています。ただ、茗荷谷のときにも感じましたが、モデルルームなしであっても、「完全に(オンライン)完結で」、ということをお客様が求めているかというと、そういうわけではありません。VRやデジタルコンテンツを用いて話を進めたり、契約の直前までもっていったりできる状況ですが、どんな部材なのか、どんな素材なのかといった物件のことをお客様は、「やっぱり見たい」という声に行き着きます。そんなときは、安心して購入していただくために、モデルルームにご案内するというカタチです。この現状から今後については、”実際を見ないで”という部分が、どこまで、いけるか。それが、この先の未来かなと思っています。不動産テック関連のイベントがビッグサイトで12月2日から4日まで開催されていましたそこで、とある部材メーカーさんが、「VRのあたらしい技術です」と出していたものに可能性を感じました。部材をアップで見ると、どんな素材なのかを確認できました。そんなVRを作っている会社さんもいて。将来的には、「もう、モデルルームなしで、VRだけで販売していけちゃう時代がくるかな」そんな期待値を持っています。


間所:同じく、伊藤忠ハウジングの丸林さんは、いかがでしょうか?


丸林:IT企画室というところにいる身なので、現場の人間ではないのですが、現場スタッフから聞く話を総合してお話しさせていただきます。いわゆる、外観パースなどをはじめとした、マンション販売の一部分でいうと、説明するためにはとても使いやすい不動産テックが出てきているなあというのが実感です。マンションギャラリーというものを総体的に見ると、事業主、広告代理店、当社のリーダーなどは、“ストーリーというものを持っているはずです。そのストーリーのなかから、「ここのパートで、これを説明して」そういう販売ストーリーです。物件ごとに、どういった説明をするかを決めていると思います。ストーリー全体が終わったときに、お客様に買う気になっていただく想定です。その全体的なストーリーを訴求するときにという話なら、これからもっと画期的なツールが出てくることで、本当に、ギャラリーをデジタルに移せるのかなと思っています。当社が展開している総合ギャラリーは2か所。新宿と有楽町です。それぞれのギャラリーで、複数の物件を見せています。お客様からするとWEB商談をしたら、3つ、6つといった数の物件の話を聞くことができる取り組みです。これはお客様にメリットを提供できるのかなと。いまの時代にあっていて、不動産テックの活用が進むことで、さらに、これからの時代にあったものをご提供できるのだろうと。いま、当社が取り組んでいることも、そうした世界観から逆算すると、すごく意味のある取り組みなんだろうなと思っています。


間所:ありがとうございます。三菱地所レジデンスの石毛さん、同じ質問なんですが、ちょっと先のこれからをどうお考えですか?


石毛:私たちの会社は、伊藤忠ハウジングさんとは違って、1つのモデルルームでいくつかの物件を売るという経験がありません。ですが、まさに、いま、そこにチャレンジいていこうとしています。ぜひ、伊藤忠ハウジングさんに、そのあたりのことをお聞きしたいんですが、お客様はモデルルームに何を求めているんですかね。自分が買うものとはまったく、、、ではないにしろ、かなり違うもの(モデルルーム)をわざわざを見に来られるというのは、何を求めに来ているのかなと。もし、感じているところがあれば、是非とも教えていただきたいのですが、いかがでしょうか?


倉津:まずですね、合同モデルルームとはいっても、個々のお客様は、「この物件が見たい」という目的があります。それ目的で来ていただいたあとで、その物件をご紹介しながら、ほかもご紹介するというスタイルです。お客様ご自身は、「この物件が見たい」という希望があって、ご来場されるのが現状です。


石毛:でも、合同モデルルームだと、実際に見せることができるモデルルームは、1つや2つとか、そういったかたちなんですよね?


倉津:はい。「実際のモデルルームは、(お客様がご希望の物件とは)まったく違う物件です」というのをもとに、ご紹介していくことになります。


間所:難しさみたいなものは?


倉津:どう違うか、という点の説明です。これが、ものすごく難しい。


石毛:私も、そこがまさに、いま、ギャラリーの設計段階の物件を担当してまして、課題に感じている点です。たぶん、モデルルームを完全に再現する必要はもうないということは、みな、だんだんわかってきたのかなと。だったら、LD(リビングダイニング)の部分だけが再現されていればよいのかとか。お客様は何を求めに来ているのか。ということをお客様とも、ぜひ、しゃべりながら考えていきたいと私はいま、思っているところです。


間所:モデルルームの高揚感、非日常感がポイントですかね。やっぱり、リアルな接客のエモーショナルな部分は、しっかと、丁寧に提供ししつつ、あとは、情報共有や説明をできるだけオンラインによせて、スマートにいく。そういう取り組みが、いまの三菱地所レジデンスさんの方向性なのかなと理解しています。伊藤忠ハウジングさんからは、合同マンションギャラリーにテック要素をどんどんいれて、VR的なものを使うなどの姿勢を感じます。対面接客がメインだけど、そこに来てもらい、テックを生かす。そういう方向性なのかもしれません。日鉄興和不動産の冨田さんたちの話を聞いていると、思いっきりDXに振っていて。「オンラインならではの顧客体験の向上ってナンダ」みたいな。リアルとは、また違った体験ってナンダみたいなところを構築するために、いろいろな実証実験されているのが日鉄興和不動産さんなのかなと、お話を聞いていて思いました。最後、それらをふまえ、ちょっとこの先のことを日鉄興和不動産の和田さんにお聞きしてみたいと思います。


和田:理想論を語ると、DXとは何かを考えたとき、「デジタルですごいことをやるぞ」「非連続的なイノベーションをやるぞ」みたいなイメージを持たれている人がいるかと思いますが、私は地に足の着いた、連続的なことだと思っています。それは、お客様のほうを向いて、「昨日よりも今日に、どんな新しい価値を生むか」です。いまの時代は、そこにデジタルを使うことが避けられません。この現実をふまえたうえで、お客様に価値を生むし、私たち売り主にとっても少し利益を生むということが一番、大切なことなんじゃないかなと。何ができるのかということを考えると、改めて、1つは顕在化した非接触やリモートのニーズに応えていくことです。いまも皆さんは、「そういうお客様のご要望に一生懸命、応えています」というところだと思います。いまの時代は、私たちが情報の非対称を生かして顧客接点を持とうとしても、モデルルームが開いた当日に、即座に情報は、ネットで拡散する時代です。つまりは、――。

モデル(ルーム)に来ないと、実際がなかなか、わからない


和田:その価値観は時代遅れです。同業者で雑談をしていて面白いなと思っている点については、ネガティブな情報の取り扱いかたについて。思うところがあるのは、ネガティブな情報を重説(重要事項説明)で、初めてお客様が知るという現実も考えないといけないのかなと。そんなことも個人的には思っています。価格もしかり。不動産取引のプロセスはややこしいし。ある単身のお客様からは、こんなことをいわれた経験があります。

(マンションを)買うこと自体が怖い

 

どうやって買うか、わからない


和田:そういう声に一つひとつ向き合いながら、「マンションを買うことが楽しい」とか、「マンションがほしい」と思ってもらえるように、オンライン施策や不動産テックを有効に使いながらやっていく。
それは、私もそうですし、当社の冨田も同じ姿勢で取り組んでいます。質疑応答に集まっている質問を見ると、【Qモデル(ルーム)は今後、どうなりますか】という質問もありますね。フライング気味にその質問に個人的な考えをいうと、先日、同業者との雑談から浮かんだアイデアなんですが、有料のモデルルームというのも面白いなと思っています。お客様が、「お金を支払ってでも来場したい」と思えるようなモノも作りたいなと。千葉県にある有名なテーマパークのようなイメージです。それがゴールではありませんが、価値はある。お客様のマインドが変わっている現状とは、そういうことだと思うのです。


間所:住宅を買うというのは特別な買い物なので、どうしてもワクワク感みたいなものは、やっぱり必要だと思うんですよね。そこに着目すると、オンライン接客だけで、そのワクワク感に取って代わることができるかというと、まだ、そこまではいかない。そのあたりは、やりながら組み立てていくことが大切なのかもしれません。6名の皆さん、ありがとうございました。では、20以上のご質問をいただいていますので、そのなかから参加者の関心度合いが高い質問に、皆さんで答えていきましょう。

質疑応答

間所:最初に取り上げるのは、「11いいね」をいただいた質問ですね。【Q問い合わせをしてくるお客様や来場者は、情報を事前に調べてからの問い合わせ/来場が増えていますか。ユーザーの情報チャッチレベルが上がっているのかなと感じていますが、現場感がどうかを知りたいです】という質問です。三菱地所レジデンスの石毛さん、どうですか?


石毛:私の肌感ですが、年々、情報を調べてからの問い合わせ、来場は増えています。お客様の変化という話だと、コロナ禍で情報提供をする会社が増えたからか、(モデルルームや店舗に)来場せずに、「写真を送ってくれ」というお客様からの要望も増えています。ここには、まさに、応えていきたいところだなと思っていて。同時に感じているのが、情報を提供しない不動産会社は、そのあたりの時代感、顧客のニーズ把握から遅れていってしまうのだろうなということです。


間所:私も昔、デベロッパーだったことがあります。当時は、顧客に何度もモデルルームに来てもらいたいので、あえて情報を“小出し”にしていました。来てくれた“ご褒美”に、少し情報を提供するというものです。モデルルームに何度も足を運んでもらうことで、「何度も来たんだから」という気持ちを持ってもらい、契約・申込をしてもらうと。そういう感じでやってました。しかし、和田さんがいったように、いまは、Twitterなどを見れば、あっというまに湾岸マンションのどこがどうだ、という詳細がわかる時代です。少しでもシンドイ間取りを作れば、「この間取りないよね」と広まってしまう。そういう意味では、デベロッパーさんは、昔に比べると商売しにくいんだろうなとも思っています。しかし、裏を返すと石毛さんがいうように、そういう時代やニーズに対応できる不動産会社は、顧客から、すごく支持をされるのかなと思います。次の質問です。【Qコロナによって販売接客が変わった部分と、それに対する顧客からの反応が知りたいです】これは、日鉄興和不動産の冨田さん、お願いできますか?


冨田:変わった部分だと、今日、話があったように、販売の手法のチャネルが増えたということなんだと思います。これまでのやりかたを止めたわけではない。ファミリーから感謝の声が届いたという夏井さんの話じゃないですが、お客様によっては、オンライン施策を喜んでもらえることがあります。お客様へ向かって私たちから押し付けるようなかたちのツールの使いかたではないというのが、コロナによって販売接客が変わった、いまの状況かなと。依然として、来場を希望なされるお客様には、来場してもらいます。あとは、物件動画ですかね。私もウェビナーみたいなことは、これからもいくつかやろうとしてますが、いま、広告媒体として、オンラインという入り口は反応もすごくよいなと思っています。


間所:ありがとうございます。できるだけ、たくさんの質問にお答えしたいと思います。【Qオンライン接客をするにともない、モデルルーム接客と、営業フローで大きな違いは生じましたか?】石毛さん、どうでしょうか?


石毛:違いでいうと、オンライン接客をすることで、“前説”といわれるような、物件概要だったり、簡単なヒアリングだったりといった部分をオンラインで済ませることができます。重要なのは、そのあとの段階です。そのあとに、お客様が何を求めているかは、お客様によって違う気がしています。「モデルルームなどの実際の部屋を数多く見たい」という人がいれば、具体的に1つの物件にしぼっていて、それだけを相談したいという人も。モデルルーム接客で、そうした個別ニーズにあわせた、柔軟な対応ができるようになるのがオンラインのよさであると、現場では感じていました。


間所:モデルルーム接客の
時間を従来よりも、有効に、濃く使えるというか?


石毛:はい。でも、そのぶん、こっちはお客様のニーズをしっかりとキャッチして、それにあわせた接客をしないといけませんから、ちょっと、求められるものが高まっていると思います。


間所:事前の準備はけっこう大変になると、ありがとうございます。次の質問も面白いですね。【Q今後、オンライン接客にシフトするとしてマンションギャラリーの縮小は、ありえますか?】 議論がわかれるところですね。三菱地所レジデンスの夏井さん、いかがでしょうか。


夏井:各社、どうしても、なかなか、利益を出すのが難しい環境になっているところがあります。どうしても経費は減らしていきたいですから、その方向性は今日、来ている3社ともに、どこもそうだと思います。業界全体としても、そうなってくると思います。ただ、置き換えがきかない体験価値がまだまだ根強くあって、日鉄興和不動産の和田さんがいわれたパークタワー勝どきの話のように、「見たい」「体験したい」というお客様のニーズはあります。そこのバランスを今後、どう整えていくのか。これをみんな悩みながら、取り組んでいくのだと思います。


間所:相変わらず強い、置き換えがきかない体験価値というものに、根強い需要があるものの、一方で少なくないコストが投下されていて。最終的には、販売価格に一部、跳ね返ります。この課題をどう克服するか。正解はなく、探るしかないのでしょうね。これで、ウェビナーのパネルディスカッションは終わらせていただきたいと思います。ちょっと、予想通り、話が面白すぎて笑。なんとなくこうなることを予測できてはいたのですが、予定時間を超過してしまいました。時間の都合で、すべての質問に答えることができず、本当にすいません。みなさん、ご視聴どうもありがとうございました。

総括/マンション販売の最前線から、リアルとデジタルの新しい関係をまなぶ

印象に残るセリフが多いウェビナーでした。

スタイルポート・間所氏がいうように、伊藤忠ハウジングは、総合ギャラリーのなかにデジタルやオンラインを取り入れようとしています。日鉄興和不動産を含めた、マンション販売にかかわる3社が向き合っていたのは顧客視点でした。そこから顧客体験を向上させ、お客さんに納得&満足してもらうために知恵を絞ろうとしている姿が、話の端々に見えました。その本質は、三菱地所レジデンス・夏井氏がいう、「置き換えがきかない体験価値」にあります。これを販売スタッフの視点から見ましょう。見えてくるのは、リアルな体験が持つ“強みです。モデルルームでの接客は、ユーザーと密にコミュニケーションができる貴重な接点となります。これは、リアルな顧客接点が生み出す強み・メリット・価値のなかでも、とりわけ力強く、オンラインの顧客接点が苦手とする部分です。リアルは、感動や誠実さなどの体験を作り出すことを得意にしています。裏を返すと、ユーザーは無意識に、あるいは意識していたとしても言語化できずに、その価値を体験しようと、モデルルームや店舗を訪れるのです。ここに、日鉄興和不動産は目をつけていました。ユーザーの自宅近くまで来てくれるマルチタスクビークルや、同社・和田氏がいう、「お金を支払ってでも来場したい」と思えるようなモノ(モデルルーム)もそう。これらは、リアルの強みである”感動をデジタルの強みである便利さにのせ、提供しようする試みといえます。伊藤忠ハウジング・丸林氏が感じていたのは、一人ひとりの販売スタッフが持つ、アナログでウェットな成約までの接客ストーリーを一部、不動産テックが担えるという手ごたえでした。つまり、伊藤忠ハウジングは、合同ギャラリーのなかにデジタルやオンラインを取り入れようとしています。ここにあるエッセンスは、“感動”を提供するためのストートリーのなかに、“便利さ”に強みを持つオンラインやデジタルを交えることで、時代のニーズにあった新しい“顧客体験”を生み出そうとする姿勢です。その難しさを同社・倉津氏が指摘しました。


倉津:まずですね、合同モデルルームとはいっても、個々のお客様は、「この物件が見たい」という目的があります。それ目的で来ていただいたあとで、その物件をご紹介しながら、ほかもご紹介するというスタイルです。お客様ご自身は、「この物件が見たい」という希望があって、ご来場されるのが現状です。


石毛:でも、合同モデルルームだと、実際に見せることができるモデルルームは、1つや2つとか、そういったかたちなんですよね?


倉津:はい。「実際のモデルルームは、(お客様がご希望の物件とは)まったく違う物件です」というのをもとに、ご紹介していくことになります。

合同ギャラリーで紹介できるモデルルームは1つか2つなので、それ以外の物件は、実際のモデルルームと違うことを前提に説明します。その違いを説明することが“合同ギャラリーの難しさ”です。「そこにチャレンジしたい」とアドバイスを求めた、三菱地所レジデンス・石毛氏の問いが、もっとも心に残ります。


石毛:お客様はモデルルームに何を求めているんですかね。

それは、感動や誠実さなどの“体験”です。「具体的なサービスとして、リアルで何を提供したらよいか」を限られた業務時間のなかで三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産、伊藤忠ハウジングのスピーカーたちは模索していました。これは、UXを磨く行為です。お客さんの状況や、自分たちが提供すべき新たなユーザー体験が何であるかを問う姿です。難易度の高い業務ですが、仮説を立て、一つひとつのアイデアを実践するほかありません。これを不動産テック(テクノロジー)がサポートするという方向性が、「and」です。

or」志向の終わり。時代は統合、調和、協調、融合の「and」へ

アメリカの大学で発表された論文がもととなった、「AIが人間の仕事を奪う」という表現は、世界的に広まりました。これは、人かAIかという、「or」志向です。この二項対立は近年、統合、調和、調協、融合という、「and」の認識に変わってきています。人とAIが協力して開発するという考えかたで、キーワードは、「Human in the Loop」です。人間参加型などと訳されることが多いですが、この方向性にも、「and」のエッセンスを感じます。ほかにも、総務省が掲げるデジタルトランスフォーメーション、Society5.0では、現実世界(リアル)とサイバー空間(オンライン)がシームレスにつながることを目指しています。これもエッセンスは、「and」です。

画像出典元:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html

2020年331日にまとめられた提言に、「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザイン」があります。デジタル・ガバメントとは、全体最適を妨げる行政機関の縦割りや、国と地方、官と民という枠を超え、官民協働を軸としたデジタル技術の徹底活用による行政サービスの見直しです。行政のありかたそのものを変革していくことであり、国民一人ひとりに寄り添った行政サービスを2030年に実現させようとする取り組みです。50ページにわたる提言書(PDF)に名を連ねた24名が、デジタル・ガバメント技術検討会議でディスカッションを重ねました。その第1章、最初のパラグラフには次のような言葉があります。

第1章 検討の経緯・背景
1997年以来、行政情報化推進基本計画からはじまり、数々のIT戦略、電子政府戦略が作られてきた。その間、2000 年初頭の「IT革命」から、スマートフォンの普及やクラウド化、データ活用など、デジタル技術が普及し、情報システムの提供方法も大幅に変わった現在においては、単なるIT化、電子化の延長に社会の未来はない。

単なるIT化、電子化の延長に社会の未来はない。これは、「AIが人間の仕事を奪う」に共通した、「二項対立」「代替」「or」などの刷り込みから、私たちが脱却することの重要性を訴えています。そこで求められる原則は3つ。

2019 年 5 月に成立したデジタル手続法では、これらのデジタル・ガバメントに係る方針や計画を実行する障壁をなくし、取組を加速するべく、デジタル技術を活用した行政の推進の基本原則として、以下の3原則を定めた。

1. デジタルフォースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する。
2. ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする。
3. コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する

この3原則に基づき、添付書類の省略をはじめ、本人確認や手数料納付のオンライン化等が推進されるとともに、その基盤となる情報システムの共用化、データの標準化等が推進されることとなった。

国民や民間企業、地方公共団体や地域コミュニティの状況を指摘し、提言案は、デジタル技術と海外政府の動向を第1章で整理しています。第2章に示されているのは、2030年の行政サービスのありかたです。ここでは、デジタル化へのマイナスイメージからの転換として、リアルとデジタルがインクルージョンされた社会像が提示されています。

リテラシー向上や人によるサポートのみならず、技術を用いることで人によるサービスと同等以上の使い易さを追求する視点が重要である。

エッセンスはHuman in the Loop/人間参加型であり、「and」です。このあとが、もっとも見逃せません。第3章「デジタル時代の行政を支える情報システム・データ整備の方向性」では、デジタル・ガバメントを進めるべき方向性として4つの柱があります。その最初に位置付けられているのが、ユーザー体験志向です。

3.1 ユーザー体験志向
(1) ペルソナ活用による UI/UX の多様化、使い易さ向上
これまでの行政の情報システムは、平均的な利用者を想定し、単一的な UI を提供する場合が殆どであった。また、UX においても意識されないため、利用者が戸惑うことなくサービスを利用するために導線を確保するなどの配慮がなされていないことも多い。その一方で、実際の利用者のモデルは多様でありその要望も多岐にわたっている。デジタル技術を前提とした社会に変革していく中で、行政のデジタル・サービスは、「使いたい人が使うもの」あるいは「使いにくくても使わせる」ではなく、「だれもが簡単・当たり前に使えるもの」に転換していくことが必要不可欠である。

着目したいのは、多様な人々のインサイトからUXを考えようとしている点です。体験価値を向上させるためには、窓口サービスもオンラインサービスもどちらも欠かせません。これも、「and」です。「使いたい人が使うもの」「使いにくくても使わせる」ではなく、「だれもが簡単・当たり前に使えるもの」に転換していくことが求められます。人が持つ強みもデジタルが持つ強みも発揮される社会です。ここに、リアルとデジタルを「二項対立」「代替」「or」で語る発想はありません。本企画でご紹介した3社のスピーカーと、司会を務めたスタイルポート・間所氏も同じでした。

アナログなのかデジタルなのか、リアルなのかオンラインなのかという二者択一の価値観や議論は過去のものです。「代替」「or」の方向性で不動産テック、デジタル、IT化、オンライン化を語ることが時代遅れになっていくでしょう。求められるのは、「and」志向です。これを研ぎ澄ました先に、リアルとオンラインが一体となった、新しい顧客体験があります。これまでとまったく違う、顧客との関係が生まれるのです。それを見出すための問いである、「お客様はモデルルームに何を求めているんですかね」に向き合う不動産実業者が、マンション販売の領域に存在します。彼らは必ず、見つけるでしょう。三菱地所レジデンスらしいモデルルームとは何か。同社・夏井氏は、「「見たい」「体験したい」というお客様のニーズはあります。そこのバランスを今後、どう整えていくのか」と話ました。これは、「and」のさらに先にある、リアルとオンラインを融合させた世界観のキーワードです。日鉄興和不動産が提供したいリアルな体験があるなら、それはブランドになっていくかもしれません。同社・和田氏が話した、お金を払ってでも行きたいモデルルームなどからは、そのエッセンスを感じることもできました。伊藤忠ハウジングを象徴する合同ギャラリーとは何か。クレヴィア=合同ギャラリーなのか。それらの体験にユーザーが共感、感動したとき、「この不動産会社が好きだから買う/借りる」という消費行動も生まれてきます。その変化は、すでに自動車業界で起きています。ユーザーインサイトから、どんな体験をリアルとオンラインで提供することが、自分たちにはできるのか。そうした新しい顧客体験を設計する不動産会社がマンション販売の領域で現れるかもしれないと、期待させるマインドを三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産、伊藤忠ハウジングの3社は持っていました。その方向性をSUMAVE2021年も、探っていきます。

最後に、「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザイン」第2章の締めの言葉を引用して、2020年のご挨拶とさせていただきます。

最後に、ここに書いた事は特別なことでは無い。世界の先進国では当たり前での取組である。これらに取り組まないと言う事は、我が国は世界の流れについていかないと言うことであり、取り残されることと同義である。そのぐらいの強い危機感を持って取り組んでいく必要がある。

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