「ファミリーから感謝の声」マンション販売における“オンライン”の強みをしる【中編】

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「ファミリーから感謝の声」マンション販売における“オンライン”の強みをしる【中編】

はじめに 

三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産、伊藤忠ハウジングの3社が集まった、不動産テックウェビナーのレポート2回目です。スピーカーの概要を掲載しているので、1回目をまだ読んでいない人は、そちらを先にお読みいただくことをオススメします。

テクノロジー活用、IT・オンライン化を不動産実業者が語るウェビナーはまれです。さらに、今回はデジタルトランスフォーメーション(DX)に欠かせないエッセンスである、顧客体験を考える視点をいたるところに見ることができました。そのなかから、1回目の記事で掲げたメッセージは、不動産テックを「and」の方向性で考えたいというものでした。リアルの価値を正面から見つめ、考える不動産事業者を紹介しました。それを前提とし、「マンション販売におけるリアルオンラインの両方の強みを最大化させたい」その可能性を探ります。それぞれを最大化させるとき、それぞれの強みが何であるかを知ることが重要です。本企画2回目の記事では、まず、オンラインの強みに焦点を当てます。それを実感する三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産、伊藤忠ハウジングの声を中心に取り上げます。皆さんも一緒に、オンラインの強みが何であるかを考えながら、お読みいただけますと幸いです。

前回のつづき


間所:ギャラリーやモデルルーム以外の顧客接点をどうやって増やすか。オンラインで物件の説明が思うようにできないというのは、いままで使っていた紙、リアルな仕掛けが使えないから。そこで、デジタルプレゼンツールを活用して、マンション販売の説明全体のスピードを底上げしようという動きも見られます。ヒアリングの抜け漏れについては、顧客の閲覧行動、ネットのPVなどを可視化。MAツールを使うなどが有効なうち手となりました。新しい取り組みや人の動きが増えることで、浮かび上がってきた新たな課題が、販売チームのマネジメントです。その状況下で、デスクワークなどの自分の業務がリモート環境になっていきます。販売チームのマネジメントの難易度がけっこう高まるという問題点は、多くの会社さんで顕在化しました。そこで取り組んだのは、説明ツールを一元化したり、ロープレを事前にしっかり準備したりといった、細かいフォローです。ほかに、トップ営業マンの行動を可視化して、それを展開するなども。全体としては、2020年のマンション販売を振り返ると、そんな感じに整理できるかと思います。実際に今日、お越しいただいている3社さんは、どうだったか、みたいな話に移っていきたいと思います。まずは、長年、この業界にいらして、販売企画の立場から酸いも甘いも経験されている、三菱地所レジデンスさんの夏井さん、お願いいたします。ちょっと、この一年、半年間を振り返って、会社の方針、社員、お客様の意識の変化みたいなことを総括的に教えていただければと思います。


夏井:皆様、お忙しいところ、ご参加いただきましてありがとうございます。また、本日は、このような機会をお与えくださりありがとうございます。三菱地所レジデンスの夏井と申します。この半年、一年間というところなんですが、やっぱり、緊急事態宣言が出て、モデル(ルーム)にお客さんを呼べないというのは事業継続上の危機というか。それくらいの大きなインパクトがありました。もともと、コロナ以前より、オンライン接客の実証実験やVRコンテンツの運用を全店でトライしていた経緯はありました。

将来に向けて、いろいろトライアルしていこう


夏井:そう話していたものが急に2段階くらい緊急度が高まり、事業継続上の重要案件として求められる状況に。全店でやらないと。という話です。そのための対応にバタバタと追われていたのが、この半年、一年だったかなと思います。


間所:緊急事態措置が解除されたあとはいかがでしたか?


夏井:6
月以降は、徐々に、集客が再開されました。これは、マンション販売にたずさわる皆さんも実感されていると思いますが、

思いのほか、お客さん、モデル(ルーム)にいらしている


夏井:どこも集客は順調でした。コロナの非常事態宣言下で集客を止めていた時期も、反響だけは絶好調で。そんな物件が私たちの場合は多かったです。ほかの会社さんも同じように好調だったと聞いています。実は、この夏秋から、非常に、お客様の住宅購入にたいする意欲の高さを実感しています。たくさんのお客様がいらしてくれて、来場予約は3か月先まで埋まる状況です。そんななかで、感染対策はしっかりやらないといけません。以前のように、ギュウギュウ詰めのギャラリーとはいかない。以前のHARUMI FLAGのように、いっきに集客するというのは難しい状況があります。となると、集客数を制限せざるを得えない。そのなかでテーマになるのが、集客せずに、どうやってお客様に商品を理解してもらい、納得してもらうかでした。そのために、どんどん情報開示を進めていかないと。わかりやすくするための仕組みにも次々、取り組む必要があります。動画コンテンツや、間所さんのところのVR活用にも、積極的な姿勢で取り組むようになりました。つまり、力を注いでいるのは、お客様の理解促進をサポートすることです。いまでは、ほぼほぼ、モデル(ルーム)にご来場いただかなくても、ある程度は物件の理解が進んだ状態に導くことができています。いま、各社が積極的な姿勢で取り組んでいるのは、いかにギャラリーに来てもらい、少ない接客時間で、効率よく、お客さんにご納得いただきながら、マンションを買ってもらうかという点だと思います。


間所:ありがとうございました。つづけて、日鉄興和不動産の和田さん。マンション以外にも、不動産ビジネス全般の視点で、この半年、一年を振り返ってもらえればと思います。


和田:この半年、一年の現場の変化については、当社の冨田から語ってもらおうかと思っています。私からは、いまの夏井さんがおっしゃった、「みんなモデル(ルーム)に来てます」というセリフで思い出したことを。今日のスピーカーにはいませんが、三井さんのパークタワー勝どきです。モデル(ルーム)オープンが緊急事態宣言で延期になって、事前にネットでパークタワー勝どきの価格表、パンフなどのすべてが公開されたんですよ。にもかかわらず、モデル(ルーム)が開いたとき、みんな、ワーッと殺到しました。見に行ったんです。タワー(マンション)だけに期待値が高いのかもしれませんが、モデル(ルーム)の価値みたいなことをお客さんはいろいろと考え、感じたのかもしれないし、いずれにせよ、私たちも考えないといけないなと、そう感じたことを思い出しました。


間所:同じく、日鉄興和不動産の冨田さん。2020年を振り返って、どんな感想をお持ちですか?


冨田:現場で起きていることとしては、さっきの夏井さんのお話がおっしゃる通りだなと。郊外でいうと、たとえば、「年収が下がりそう」「ボーナスが減りそう」「残業がなくなった」という不安要素から、予算を抑えた探しかたが印象に残っています。ボーナス払いを止めて、無理のない予算で(ローンを)組もうかなとか。これまでの都心・駅チカといった強力な“2トップ”が、コロナの影響以降、「広さ」という選択肢を求める声も聞くようになりました。お客様の住まいへの価値観が少し変化した、という肌感覚です。ただし、これまでの価値観がなくなった、ということではありません。選択肢が増えたというか、“広さ重視といった価値観を選ぶことができるようになった”認識です。「郊外の(広めの家の)テレワークペースで仕事すればよい」という選択肢を持つ人が増えたのは、大きな変化なのかなと。


間所:オンラインへの取り組みや、デジタルツールの活用という面については?


冨田:オンライン接客は違和感なく、お客様に受け入れられています。お客様ご自身が、仕事やプライベートでZoomを使ったり、Teamsを使ったりしていますから、「オンラインで話す」ことへの抵抗感は薄れています。


間所:伊藤忠ハウジングの倉津さん、いかがでしょうか。この半年、一年を振り返って変わったなという点を教えてください。


倉津:東京で、日本橋の案件を現場で指揮していた立場からいうと、コロナによる自粛生活などによって、新しい需要は生まれたなという実感を持っています。従来、都心のコンパクトな案件は、ターゲットの中心が女性でした。これが、自粛生活をへて、「もう、持ち家にしたい」という声を聞きます。自粛生活中に、家で楽しく料理をしながら暮らす友人のSNSを見ることで、「私も、そろそろ持ち家がほしいな」と。そこから急に動き出した、という人が増えた印象です。


間所:いつ頃からですか?


倉津:8月、9月、10月ころです。


間所:自社が不動産テックへ注力する温度感に、変化を感じますか?

倉津:それでいうと、当社では、クレヴィアという都市開発の物件を中心にやっています。その物件のVRや総合ギャラリーに、DXという意味では、コロナに関係なく取り組んできました。そうした取り組みをお客様に着目していただける機会が、コロナによって早まったような認識です。


間所:総合ギャラリーは、いつから?


倉津:2020
1月からです。場所は新宿です。9月には有楽町ギャラリーもスタートさせています。新宿ギャラリーの立ち上げを担当した当社の丸林を連れてきましたので、総合ギャラリーの取り組みを少しご紹介させてください。


間所:丸林さん、お願いします。

丸林:承知しました。新宿ギャラリーで扱っているのは、現状6物件です。6つの物件を同時に案内している状況でございます。その物件のなかで、モデルルームの取り扱いがあるのは、赤羽と若松河田の2つの物件です。仕様については、「赤羽か若松河田のいずれかにあわせる」という案内をしています。販売メンバーは現在10名ほどです。案内は当初、チーム制にしていました。2、3物件ごとで1つのチームにして、割り当てました。いまは、全メンバーで6物件をフラットに担当している状況です。


間所:全担当者が、どの物件も案内できる?


丸林:はい。知識の取り込みなどで難しい点もありましたが、なんとか、案内を軌道にのせることができました。


間所:合同(総合)ギャラリーは、各社さんも着手していましたが、ここ1、2年で一気に加速したイメージがあります。伊藤忠ハウジングさんは、その筆頭かもしれません。また、日鉄興和不動産さんは、マンション販売の領域で、もっともアグレッシブな姿勢でDXに取り組まれている企業だと思います。ぜひ、お聞きしたいんですが、今年の取り組み内容を振り返ってもらえますか? 

「リアルに何を求めるか」日鉄興和不動産の試行錯誤

画像出典元:https://nskre.jp/tokyo/buytap.html


冨田:現状は、「お客様にオンライン接客で何を説明していくか」「リアルで何を体感してもらうか」「リアルに何を求めているか」みたいなテーマを持って、いろいろ試みている状況です。実証実験段階ですが、たとえば、迎えに行くマンションサロンがあります。

画像出典元:https://www.nskre.co.jp/company/news/2020/10/20201027.pdf


冨田:マルチタスクビークルです。この車が駅まで迎えに来てくれて、お客様を乗せて、そのまま現地案内をしてくれます。車両のなかから、販売員さんにオンラインでつながることで、物件の説明を聞くこともできます。帰宅時間帯などの夜間、夜9時に車に乗り込んで、物件の説明を聞くというリアルな体験です。そんな体験の提供を直近で実証実験しています。


間所:実証実験の対象となる物件は?


冨田:浅草、入谷、箕輪の物件です。ほかに、スタイルポートさんのVR活用などもしています。


間所:話の流れで当社のサービスも、ありがとうございます笑。参考までに『ROOV』の課題点をお聞きできますか?


冨田:オンライン上で室内を見るとき、お客様がわかりにくいことの1つに、部屋の広さや高さがあります。空間的な認識がしにくい、みたいな点は課題に感じています。この課題意識から当社で試しているのが、プロジェクターで壁に映しながら、実際の空間を疑似的に感じてもらう取り組みです。


冨田:これは、当社の物件である、リビオレゾン松戸でやっている取り組みです。モデルルームなどの壁にプロジェクターで投影しながら、床に線を引きます。

この間取りだったら、このくらいの広さですよ

 

こういう部屋の見えかたになります

 


冨田:実際の寸法をVRで調整しながら、広さや高さリアルに感じてもらう試みです。


冨田:家具のレイアウトも、簡易な家具を置いて、広さや高さといった空間をイメージできるよう工夫しています。壁に窓の高さを描いて、「サッシの高さは、これくらいですね」などなど。実際にすべてのモデルルームを作ることはできないので、そこは、リアルで体感してもらえるような試みです。あとは、BuyTapのような、オンラインのみでマンション契約を完結して、マンションを売ることができるサービスも試しています。

画像出典元:https://nskre.jp/tokyo/online.html


冨田:東京・銀座トライアングルプロジェクトという名称なんですが、「いつでもどんな場所でも住まいが買える」というサービスです。スタートしたばかりで成果も見えませんが、「接客をへて、スマホでマンションを買いましょう」そんな取り組みです。ブランド名がない当社において、新しいことをやりながら、オンラインや不動産テックの可能性を見出しています。もともとの会社の気質もあるかもしれませんが、コロナ禍をきっかけにその傾向は色濃くなっているかもしれません。和田さん、補足ありますか?


和田:マルチタスク車両が迎えに行くサービスについて個人的に思っているのは、お客様のニーズとしてある、「見たいときに見たい」に応えられるのではないかという点です。ほかにも、「モデルルームに行く前に事前にオンライン接客してもらえるとラク」、というお声もあって。

モデルルームに行かなくても説明が聞けて、資料をもらえるとうれしい


和田:そうしたお客様は、パソコンやスマホの画面で情報を見ていると思いますが、その(通信などの)環境は、おそらく、あまりリッチじゃないのではないかと考えています。積極的にモデルルームへ行くお客様より、購買意欲的なところは、やや落ちるお客様かと思いますが、そうしたお客様の自宅近くまでマルチタスク車両が行くことで、私たちの社会で作った“リッチな体験”を味わっていただく機会を作ることができるのではないか。モデルルームまでの移動が面倒、といった抵抗を減らすことにもつながりますし、これをきっかけに私たちの販促活動がお客様にハマる可能性もあると思います。


間所:やはり、どれもアグレッシブですね。


冨田:まだ、実績はないですが笑。


間所:マルチタスクビークルでオンライン接客などを体験したユーザーの声は?


冨田:それも、まだありません。(2020)11月からはじめた取り組みなので。


間所:これは、ぜひ、体験したユーザーがどうだったかという点を聞きたいところですね。ありがとうございます。オンライン接客については、三菱地所レジデンスさんは、かなり早い段階から着手されていて、かつ、一番、接客を粘り強く継続されています。オペレーションも細かく磨き上げている印象です。前線でリーダーとして仕切ってきた石毛さん。ぜひ、オンライン接客への取り組みについてお聞かせください。

現場には成功体験を。顧客には何を?


石毛:販売センターでお客様の近いところにいた身として、お話しさせていただきます。まず、オンライン接客については、当初、現場の混乱みたいな課題は、やはりありました。ただし、全社的に、「やる」と決めて進めていました。


間所:課題を乗り越えるための突破口みたいなものはあったのでしょうか?


石毛:最初は、リテラシーが高い若手が慣れていきました。そのあとに、年齢の高い営業派遣さんや、営業さんに伝えていくかたちです。個人的には、うまく、短い時間で浸透をはかれたんじゃないかなと感じています。


冨田:販売の現場では、対面接客で成果を残してきたかたが9割以上だと思いますし、オンラインで話すことに慣れていないかたが大多数です。

そんなのよりも、やっぱり対面で話したほうが伝わるよ

 

そのほうがいいよ


冨田:そうした声が一番の高いハードルかなとも思っています。でも、たとえば1件でも、オンライン接客などをきっかけにモデルルームに来てくれる事例があって、そこから成約したということになれば、メリットを感じてもらえるんじゃないかと、個人的にも思います。

オンラインがあったから、来てくれたんだな


冨田:みたいなことを販売員さんやチーフのかたが、少しのことでも、しっかりと、「不動産テックを使うメリット」として伝えることも大切ですよね。「オンラインもフツーに、武器だよ」と理解してもらう努力というか。押し付けるものじゃないし、デキる営業マンなら、オンラインをつかいこなすはずです。オンラインはオンラインで、それに応じた使いかた、ニーズがあって、お客さんが求めていることなのかもしれない。そこを柔軟にやるってことが一番大事かなとも思います。


間所:使いかた、ニーズみたいな話だと、この半年、一年で、石毛さんは変化を感じていますか?


石毛:感じています。使いかたみたいなところだと、緊急事態宣言明けの当初から、ちょっとずつ、変わってきているところがあるなあと思っていて。当初は、「来場したくない」「契約までネットで完結したい」というお客様がオンライン接客に積極的でした。最近は、お客様は何がしかの理由で来場するし、したいのだということがわかりました。そのあと、物件を絞っていく作業のところで、お客様と対面しないなかで、どれだけ情報を提供することができるか。あるいは、わかりやすい情報として受け取ってもらえるかが勝負です。当社でも、そこは、まさに力を入れて取り組んでいます。冨田さんの話を聞いて思い出しましたが、メリットを感じてもらうという成功体験の話は、その通りだなと思います。当社はコロナになる前から、実証実験ができていたので、そのときの成功体験が財産に。再来のアポが取れてない人が、オンラインだったらとれたという話があって、その理由は、「妊婦さんが外出したくない」ということでした。でも、オンラインなら話してくれた。そういった理由から再来のアポにつながった成功体験などが私たちにありました。契約にまで至ったって実例もあったので、それをもとに現場を説得していきました。


間所:同じく、三菱地所レジデンスの夏井さんは、いかがでしょうか。この半年、一年で感じたことなど。


夏井:「コロナで緊急事態宣言が出て、なかなか外出できなくなって」というところで、一番、エンドユーザーの声で心に響いたのは、ファミリーから感謝の声です。子供って、じっとしていられないし、マスクをずっとつけていられない。そういった事情にたいして、世のなか全体が過敏で、厳しい目線が向けられていたタイミングがありました。そのときに、すごい、つらい思いをされたご家族がいらっしゃいました。


間所:非常に窮屈な思いをされていた?


夏井:ええ。そんなとき、オンライン接客が息抜きのようになったそうです。

自宅でリラックスしながら、子供に、いつものおもちゃで遊ばせながら、落ち着いて(マンションの)話を聞くことができた


夏井:私たちも、心が通い合うような会話をオンラインですることができました。アンケートでも感謝の声をいただき、「やってよかったな」と、すごい実感しています。


間所:ファミリーからのウケがすごくよかったというのは、私が持っていたオンライン活用のイメージと違っていました。印象な話でしたね。オンラインの施策を活用してきて見えたのは、最終的に、エンドユーザーや検討者さんの声が、一番、要素であるということ。担当者のかたの成功体験をいかに波及させるか。どうやって最初の成功体験を作るかということなんでしょうね。今日のウェビナーは、そろそろ終わりの時間が見えてきました。最後のテーマ、「今後どうなるか」をお聞きして、質疑応答に進みたいと思います。 後編につづく。

オンラインの強みは便利さ。問われる、リアルの強み

マンション販売におけるオンラインの強みとして、日鉄興和不動産が顧客に提供していた“便利さ”があります。マルチタスクビークルでは、モデルルームまで行くことが面倒なユーザーに、「オンラインを使って、モデルルームを顧客の近くまで移動させる」というような逆転の発想がユニークでした。「ネットやスマホで契約を済ませたい」というユーザーには、BuyTapで、その便利さを提供しようと試みます。同社の冨田氏の言葉が心に残っています。


冨田:「オンラインもフツーに、武器だよ」と理解してもらう努力というか。押し付けるものじゃないし、デキる営業マンなら、オンラインをつかいこなすはずです

発想は、「or」ではなく、「and」です。添え物や付加価値として、オンライン施策をとらえていません。三菱地所レジデンスや伊藤忠ハウジングも同じ姿勢です。オンラインの便利さを「and」で発想するとは、リアルという武器を持ったまま、逆の手でオンライン(便利さ)という武器を持つことです。これを可能にするためのポイントは、2つあると考えています。1つ目は、リアルの価値から逃げないこと。オンラインで置きかえることが難しいユーザー体験というものが、リアルにはあります。IT化やデジタル活用の本質は、決して、「リアルという武器を捨てて、オンラインという道具“だけ”に持ち替える」ではありません。2つ目は、リアルにない強みがオンラインにあり、その強みが強力な武器になることを伝える・理解してもらう・体験してもらうことです。そうなるまで寄り添う、粘り強さが欠かせません。その2つのポイントを三菱地所レジデンス、日鉄興和不動産、伊藤忠ハウジングの3社は持っていました。もう1つ、彼らに共通してあるのは、オンラインの強み・特徴・メリットを生かそうとする姿勢です。試行錯誤のなかで彼らは、あるとき、オンラインのメリット以外に目を向けるユーザーの存在を目の当たりにします。代表例は、三菱地所レジデンス・石毛氏のセリフです。


石毛:当初は、「来場したくない」「契約までネットで完結したい」というお客様がオンライン接客に積極的でした。最近は、お客様は何がしかの理由で(モデルルームに)来場するし、したいのだということがわかりました。

オンラインのメリットを享受しながらも、それだけでは満足せず、モデルルームでのリアルな体験を望むユーザーの存在です。満足しない理由は、リアルの価値やメリットと、オンラインの価値やメリットが違うことにあります。これは、顧客が、「or」ではなく、「and」を求めているシグナルです。勝負はここからで、重要なのは、顧客がリアルとオンラインのどちら(両方)を求めているかにアンテナを張り、その状況にあわせたサービスを提供できるかどうかです。オンラインなら、石毛氏の言葉を借りるとこうです。


石毛:物件を絞っていく作業のところで、お客様と対面しないなかで、どれだけ情報を提供することができるか。あるいは、わかりやすい情報として受け取ってもらえるかが勝負です。当社でも、そこは、まさに力を入れて取り組んでいます。

その重要性は、日鉄興和不動産・冨田氏も指摘しました。


冨田:オンラインはオンラインで、それに応じた使いかた、ニーズがあって、お客さんが求めていることなのかもしれない。
そこを柔軟にやるってことが一番大事かなとも思います。

つまり、オンラインの接点で、いかに便利さを提供できるかが勝敗をわけるのです。その戦いは、すでにはじまっています。それだけはありません。便利さの提供という争いの裏で、彼らは、次なる課題に向き合っています。冨田氏のセリフでいえば、それは、エンドユーザーに、「リアルで何を体感してもらうか」です。エンドユーザーが、「リアルに何を求めているか」を3社は探っていました。答えの一端を三菱地所レジデンス・夏井氏が言葉にしていましたが、詳細は次週。※続きはコチラ

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