入居者に提供する「体験価値」をNetflixからまなぶ

はじめに
アフターコロナの不動産業界に必要なDXのエッセンスを紹介する、SUMAVE・DX通信です。今回はNetflix(ネットフリックス)を取り上げます。
Netflixは、アメリカの定額制動画配信サービスです。2019年の調査では、アメリカのインターネットの通信量のなかで、Netflixがもっとも多いとされています(2位はYoutube)。そのトラフィック量はアメリカ全体の3割以上です。会員数は全世界で1億3,000万人以上(アメリカのみで6,000万人以上)。年間のコンテンツ予算は1兆4,000億円を超え、そのうち1兆2,000億円以上がオリジナルコンテンツの制作費にあてられています。この額は、日本の民放5社をあわせた制作費の約3倍です(※SUMAVE調べ)。Netflixは、コロナ禍の巣ごもり需要として会員数も伸ばしています。そのさなかともいえる、2020年5月21日に発表されたのが次のコメントです。
画像出典元:https://media.netflix.com/ja/company-blog/helping-members-who-havent-been-watching-cancel
ほかの業界で進むDX事例から参考にしたい共通点は、その体験(サービスや世界観全体)が顧客にとってよい体験であるということです。キャンセルをサポートするNetflixの対応は、顧客に寄り添った対応であるとして話題を集めました。コメント文章の一部を以下に抜粋します。
有料のサービスに申し込んだものの、長い間使っていないことに気づいてがっかりすることがありませんか? Netflixは、しばらくサービスをご利用いただいていないメンバーに、そのまま課金し続けることがないようにしたいと考えています。そこで、Netflixのメンバーになってから1年間ご利用のないすべてのお客様に、メンバーシップを継続するかどうかお尋ねすることにしました。また、2年以上ご利用のないメンバーの方々にも、同様の確認をします。今週、そういった状況にあるメンバーの皆さまには、確認のためのメールまたはアプリの通知が届く予定です。お客様がメンバーシップの継続を希望されない場合には、メンバーシップは自動的にキャンセルされることになります
Netflixの対応を不動産業界におきかえると
取材を重ねるなかで頭に浮かんだのは、賃貸借契約における火災保険でした。
多くの不動産業界関係者は周知のことかと思いますが、賃貸を解約するとき、火災保険も解約することで、その保険料が一部、戻ることがあります。退去の連絡をしたとき、保険の解約手続きを説明してくれる場合はありますが、それは不動産会社によってまちまち。一般に、火災保険は保険会社と入居者の契約です。その保険解約をサポートすることによるインセンティブが不動産会社(管理会社や仲介会社)にない、という構造が背景にあります。この構造を調整し、退去の連絡をしてきた入居者に、保険解約のアナウンスをすることができたら、それは入居者(顧客)にとってよい体験です。アフターコロナの不動産業界において、DXのポイントはその視点にあります。
火災保険の解約手続きをお忘れではありませんか? 私たち●●不動産は、退去されるお客様が、引っ越したあとのお部屋の火災保険料を支払い続けることがないようにしたいと考えています。そこで、●●不動産では、お部屋を借りていただいたお客様から、退去のご連絡をいただいたさいに、必ず、契約時の証券をご確認いただくようアナウンスしています
管理会社、仲介会社、保険会社など、かかわる人は多くなりますが、そこをシームレスにして、顧客によい体験を提供することができる点はテクノロジー活用の醍醐味。時代にそくしたDXを実現するために、不動産テックがもっとも力を発揮する領域であるともいえます。それが、顧客から選ばれる不動産会社になるということであり、アフターコロナの不動産業界で求められるDXのエッセンスです。
~そもそも、デジタルトランスフォーメーション(DX)とは~
画像出典元:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html
総務省によるとDXとは、人々の生活のあらゆる面に情報通信技術(ICT)が浸透し、よりよい方向に変化させることです。その定義から考えると、たとえば、不動産会社が不動産テックサービスを導入することは、「DXの一部」、もしくは、「DXの入り口」になります。自社、サービス、業態をよりよい方向に変化させるための手段としてDXがあるわけです。
よりよい方向とは
総務省が示す図によれば、不動産テックの導入、IT化、オンライン化によって、現実世界(リアル)とサーバー空間(オンライン)をシームレスにつなげることが、よりよい方向です。現在の不動産業界に置きかえると、リアルとオンラインの融合です。その結果、顧客が意識せず自由にリアルとオンラインを行き来できることが、“よりよい方向”としての1つの理想であると考えます。さらに踏み込んでいえば、「顧客にとって、サービスがリアルなのかデジタルなのかはどうでもよい。顧客は、自分らしく、そのときの状況にあったサービスを使いたいだけ」という視点が欠かせません。これを提供することができる不動産会社が、よりより方向へ進む社会で顧客から選ばれます。
なぜ、DXをするのか
つまり、顧客から選ばれるためにDXをするのです。総務省のページを参考にするなら、人々のためです。東急住宅リースの会長である北川氏の言葉が、しっくりきます。不動産業界において意識したいのは、部屋・物件・家を探す生活者、消費者、顧客です。その目線に立ったDXであるという意識を私たちが持つことが重要なのだといえます。前述の火災保険の例でいえば退去をする人、入居者ということになります。その人たちの体験をよりよいモノにするための手段の1つとして、不動産会社によるオンライン活用や不動産テックの導入があります。目的は、顧客から選ばれる不動産会社になることです。その手段としてDXという選択肢が存在します。
不動産業界におけるDXとは
私たちが目指したいDXとは、部屋・物件・家を探す顧客のあらゆる面にICTや不動産テック、ITが浸透し、リアルとオンラインが融合した、シームレスなサービスを提供することであるといえます。これを明確に意識し、DXに取り組む国内の不動産会社は、まだ、少数派です。しかし、大手の不動産会社は近頃、不動産テックの活用に積極的な姿勢で取り組んでいます。その動向は後日、まとめて記事にする予定です。
今後もSUMAVEは、不動産会社が顧客から選ばれるDXに取り組めるよう、情報発信によって業界をサポートしていきたいと思います。