元祖「不動産テック」? 物件情報ポータルサイト・メディアの今むかし

- 物件情報ポータルサイトはインターネット黎明期から存在する「元祖」不動産テック
- 近年は様々なジャンルに特化した物件情報を取り扱うポータルサイトが増加
- ブログメディアや掲示板といった既存の媒体を使って新たな集客・流通の仕組みを構築する企業も現れており、大いに可能性を秘めた領域
はじめに
IT技術の力で不動産業界に新たな価値を生み出す「不動産テック」。中でも、物件や不動産関連の情報を取り扱うWebサイトは、その走りと言うことができます。
最近では、老舗の大手ポータルサイトやそれに習ったオーソドックスな物件検索サイト以外にも、さまざまな特色を持ったサイトが登場しています。今回は、最初期の不動産テックであり一般消費者にとっても身近な、物件情報や業界ニュース等を取り扱う不動産系のWebサイトについて見ていきましょう。
物件情報ポータルサイトは元祖「不動産テック」?
かつて、物件を探すにはまず、書店で紙の情報誌を手に入れてくる必要がありました。今では「SUUMO」などの賃貸・売買の住宅流通ポータルサイトや、ビッグデータを使った中古マンションの価格査定サイト等も登場し、誰もが手軽に、自分が欲しい情報をピンポイントで手に入れることができるようになってきています。インターネットの普及やこうした専門情報サイトの増加は、日本の不動産業界の課題の一つとされる「情報の透明性」の改善にも大いに貢献していると言えるでしょう。
不動産業界は他業界に比べて「デジタル化が進みづらい」と言われることもありますが、90年台には既に、現在一般的にもよく知られている巨大住宅流通ポータルサイトの原型が立ち上がっています。
具体的には、1996年には後に「SUUMO(スーモ)(以下、SUUMO)」となる「住宅情報On The Net」が。1997年3月には、現在の「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)(以下、LIFULL HOME'S)」の前身となる「HOME'S(ホームズ)」がそれぞれサービスを開始しています。
日本初の商用検索サイト「Yahoo! JAPAN」のサービスが開始されたのは1996年4月ですから、住宅流通ポータルサイト=元祖不動産テックは、国内のインターネット黎明期には既に登場していたことになります。
元々1976年より情報誌『住宅情報』を手掛けてきたリクルート(現:リクルート住まいカンパニー)が運営する「SUUMO」は、今や最も知名度の高い住宅流通ポータルサイトです。2017年10月2日に発表された「オリコン日本顧客満足度ランキング」の「賃貸情報サイト」において、総合1位の評価を獲得しています。
リクルートを退職して起業した井上高志社長の下で成長してきた「LIFULL HOME'S」も、国内の主要ポータルサイトの中では総掲載物件数第一位を誇る、国内最大規模の物件データベースです(2019年1月7日時点。産経広告社調べ)。
また、全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)が2011年3月に発表している「不動産情報の検索等に関する意識調査」を見ると、10代~60代以上の回答者5,025名のうち、51.4%が「不動産物件を探す場合の主な手段」に「インターネット」を挙げており、続く「チラシ」(15.2%)、「情報誌」(11.1%)との間に大きく水をあけています。
「不動産物件を探す場合の主な手段は何ですか(1つ選択)」に対する回答
【出典】「不動産情報の検索等に関する意識調査」より:【URL】https://www.zentaku.or.jp/wp-content/uploads/2016/08/2011fudosanishiki.pdf
さらに「インターネットや携帯サイトで不動産物件を探す場合の主な検索手段」は、「ヤフー、グーグル等の総合ポータルサイトから直接検索」が最も多く(50.4%)、次に「不動産情報専門のポータルサイトから検索」(18.1%)、「不動産業者ホームページ等からの検索」(18.0%)と続いています。この結果について全宅連は、「総合ポータルサイトから、不動産情報専門ポータルサイトや、不動産業者のホームページを同時に複数検索しながら条件にあった物件検索を行なっていると思われる」という見解を示しています。
「インターネットや携帯サイトで不動産物件を探す場合の主な検索手段は何ですか(1つ選択)」に対する回答【出典】「不動産情報の検索等に関する意識調査」より:【URL】https://www.zentaku.or.jp/wp-content/uploads/2016/08/2011fudosanishiki.pdf
まずは総合ポータルサイトで地名や沿線名を検索してみて、そこから結果に現れたポータルサイトや不動産会社の物件紹介ページを閲覧する、というパターンが多いのかも知れません。
このように、「不動産テック」という言葉が生まれるはるか以前から存在する物件情報ポータルサイトは、今や業界にとって無くてはならない存在になったことが分かります。
多様化するニーズに合わせた「ジャンル特化型」の情報ポータルサイト・Webメディアが増加
インターネット黎明期から発展してきた不動産情報ポータルサイト。最近では、前項でも取り上げた「SUUMO」や「LIFULL HOME'S」、あるいは「アットホーム」等に代表される、従来の物件情報ポータルサイトとは違った特徴を持つものも増えてきています。ここでは投資や民泊など、様々なジャンルに特化した情報ポータルサイトの事例をご紹介します。
楽待(ファーストロジック)
収益物件を中心に、不動産投資関連の情報が集約されたポータルサイト。
投資用物件だけでなく、管理会社や内装業者、収益物件の売買に強い不動産会社を検索できるマッチングシステムを利用することができます。また、不動産投資についての基礎知識や最新ニュースを学べるコラムコンテンツも豊富なので、不動産投資初心者から現役の大家さんまで、不動産投資に興味を持つ人々に幅広く閲覧されているサイトです。
なお運営しているファーストロジックは、今後の日本経済のけん引役として期待される中堅上場企業である「NEXT1000」を対象とした総資産の5年間の平均成長率ランキングで、第1位を獲得したことが、2019年2月5日の日本経済新聞で発表されています。
楽待サイト【出典】楽待サイトより:【URL】https://www.rakumachi.jp/
Vacation STAY(楽天LIFULL STAY)
国内で圧倒的な会員数を誇る楽天と、日本最大級の物件掲載数を有するLIFULLによる民泊予約サイト。日程やエリア、宿泊予定人数から、条件に当てはまる許認可審査済みの民泊物件を検索することができます。
国内の民泊予約のプラットフォームとしてはもちろん、楽天トラベルやBooking.comといったホテル・旅館の宿泊予約サイトや、世界各国の民泊予約サイトなどの提携サイトに加え、それ以外のサイトにも一括掲載および予約受付が可能になる予定です。
また、同社はオーナー向けに販売管理や顧客問い合わせ対応などの運用代行業務や、物件の内装デザインの監修、施工管理、アメニティの用意から現地スタッフの調達まで支援する「Rakuten STAY」や、ゲスト対応から予約管理、価格調整、集客、販売等をサポートする「民泊・宿泊運用代行」サービスも展開しています。
Vacation STAYサイト【出典】Vacation STAYサイトより:【URL】https://vacation-stay.jp/
SEKAI PROPERTY(BEYOND BORDERS)
日本のユーザーには海外の不動産を、海外のユーザーには日本国内の不動産を紹介する、日本最大級の海外不動産検索ポータルサイト。30カ国以上、合計約5,000物件を超える海外物件を日本語で掲載しており、日本にいながらも海外不動産を比較検討することが可能です。
日本語ができる不動産エージェントが問い合わせに対応しているため、外国語ができなくても、不動産の視察や内覧、購入をスムーズに行える仕組みとなっています。
さらに、コラムやメールマガジンで、国ごとに異なるリスクや税制等、海外で不動産投資をする場合に知っておくべき情報が発信されていて、海外不動産の中から自分に合った投資・居住用の物件を探す際に、便利なポータルサイトとなっています。
SEKAI PROPERTYサイト【出典】SEKAI PROPERTYサイトより:【URL】https://ja.sekaiproperty.com/
家いちば(エアリーフロー)
不動産を直接売りたい人のための掲示板サイトです。仲介会社や大手ポータルサイトを使わず、物件を売りたい人が直接、同サイトに物件情報を投稿。買いたい人はそれを見て、直接売り手に問い合わせる仕組みとなっています。
特に掲載の条件はないため、古い・立地が良くない等の理由から、不動産会社が扱いたがらないような物件も掲載することができます。また、売主が直接物件についての正直な感想や愛着を書き込むことにより、仲介会社を利用するよりも成約に繋がりやすいケースも多いそうです。
マッチングや内見といった仲介業務を「利用者同士のDIY(セルフサービス)」(同サイトより)に任せることにより、手数料の削減を実現。掲載のみでは一切利用料金はかからず、取引が成立して引き渡しとなった場合にのみ、通常の仲介手数料の半額(売買代金の1.5%+3万円)を支払うシステムです。
家いちばサイト【出典】家いちばサイトより:【URL】https://www.ieichiba.com/
このように、従来の住宅流通ポータルサイトとは異なるアプローチのWebサイトが増えてきています。特に、需要が増加する「民泊」物件に特化したサイトは、今回取り上げた「Vacation STAY」以外にも、「MINCOLLE」や「部屋バル」等複数あり、今後も増加が予想されます。
まだまだ可能性が眠る「Webサイト」活用法
物件情報を中心に、不動産関係の情報を取り扱うWebサイトは古くから存在しますが、前述のように最近では不動産投資や民泊等、特定の需要に特化することで他サイトとは違った特色を出すポータルサイトも増えてきました。中にはWebサイトを使い、既存の住宅流通の仕組みに一石を投じるサービスも。
例えば「家いちば」は、深刻化する空き家問題を解決する一手としても注目されるサービスです。地方を中心に「0円でも良いからこの空き家を譲りたい」というニーズは今後も増えていくでしょう。売買の価格が仲介料の基準となる既存の住宅流通の仕組みでは、仲介する不動産会社も手を出しづらく、こうした値のつかない物件の買い手を見つけることは困難でした。こうした物件の需要と供給を結びつけ、成約に結び付ける「家いちば」のようなプラットフォームの需要は今後も高まっていくでしょう。
また、いわゆる"街の"不動産屋さんも、「暮らしっく不動産」のように自社サイトでの情報発信を通じて他社に差をつけることが可能です。同サイトは、不動産や暮らしに関する情報を伝えるブログメディア。業界が抱える課題や最新ニュースについても、専門家の視点から初心者にも分かりやすく解説しています。
「暮らしっく不動産」を運営するラインズマンは、2018年11月12日号の『全国賃貸住宅新聞』で「大手ポータルサイトを使わず、ブログで賃貸仲介事業の集客をしている」会社として取り上げられています。「暮らしっく不動産」に物件情報は掲載されていませんが、記事によるとラインズマンへの問い合わせのうち9割が同メディアから、残り1割は紹介によるもの。SEO対策費や広告料は一切かけていないにも関わらず、繁忙期には月間50万件のアクセスがあるそうです。
部屋探しに関しても、ニーズに合う物件をいかにより多く揃えているか、という従来の「物件情報ありき」の発信だけではなく、誠実な情報発信を通じて日頃から「この会社に任せたい」と思ってもらえるような信頼を積み重ねていくことも大切なのかもしれません。
暮らしっく不動産サイト【出典】暮らしっく不動産サイトより:【URL】https://www.kurachic.jp/
顧客の条件にぴったり合った物件を提示できるよう、より多くの物件情報を持っていることも大切ですが、一方で今後は「どの不動産会社に(物件選びを)手伝ってもらうか」という体験も重視されるようになっていくはずです。そう考えると、不動産業界においてインターネット黎明期から活用されてきた「Webサイトを利用した物件流通プラットフォーム」一つとってみても、まだまだ進化の可能性が残されているのではないでしょうか。
まとめ
AIやビッグデータを活用した「価格可視化・査定」サービスが登場し、社会的にも「オープンデータの利活用」への関心が高まる中、業界内では最新テクノロジーを使って情報の透明化を推進する動きが活発になってきています。
業界内では、そうしたテクノロジーを使って既存のポータルサイトの機能拡充を図るだけでなく、ブログメディアやインターネット掲示板というコンテンツ・媒体を通じて、新たな試みや他社との差別化を図る企業も登場しています。
最も歴史が古く、身近な不動産テックでもある「Webサイト」の活用法。テック系企業でなくとも、業界内のトレンドや自社の強みを掴めば、アイデア次第で既存の不動産業界にイノベーションを起こしたり、少ないコストで自社の集客率を大幅にアップさせることができるようになるかもしれません。