世界中で進行中!「3Dプリンタ建築」の可能性

- 3Dプリンタの手法を用いた建築が世界中で始まっている
- 日本で実現するための課題は建築基準法
- 建築デザインの可能性を広げる3Dプリンタ建築
3D CAD(3次元コンピュータ支援設計)や3D CG(3次元コンピュータグラフィックス)からオブジェクトを生成する3Dプリンタ。建築の世界では、主に建築模型をつくるために使用されています。今ではそれにとどまらず、プレハブ工法の部材を作ったり、建物そのものを3Dプリンタで作ったりしてしまう例も見られるようになってきました。いま注目を浴びている「3Dプリンタにできること」「3D建築の可能性」を探っていきましょう。
すでに本格化している3Dプリンタ建築
中国では、2015年に3Dプリンタで5階建ての住宅が試験的に建てられており、同年12月にはフィリピンでアンドレー・ルーデンコ氏が100平方メートルの建物(ホテルの別館)を建てました。2016年5月には、アラブ首長国連邦のドバイに、3Dプリンタによって建設されたオフィスが完成し、大きな話題となりました。オフィスのサイズは高さ6メートル、奥行きは37メートルです。コンクリート製で、価格はおよそ14万ドル。特筆すべきは工期の短さで、内装工事を含め、約17日間で完成したと発表されています。
2017年3月には、モスクワにも3Dプリンター住宅が登場。Apis Cor社(アメリカ)が、24時間で約38平方メートルの1階建て住居を建てています。建築費は、約1万134ドルです。
3Dプリンタ建築は、工法の面で大きく2つに分けられます。ひとつは、工場であらかじめ建物のパーツとなるPC(プレキャスト・コンクリート)の部材を作り、それらを現場に運び込んで組み立てる工法。もうひとつは、現場に3Dプリンタを持ち込んで、その場でパーツを作って建てる工法です。前述の例でいうと、ドバイの建物は前者、中国とフィリピン、モスクワの建物は後者です。
いずれの工法でも、作業の中心となる機械は「3Dコンクリートプリンタ」とも呼ばれる、プログラムにしたがって動くコンクリートの吐出機です。現在の主流はクレーン型をしたタイプで、先端のノズルからコンクリートを吐出しながら動き、型枠なしで数センチずつ壁を作っていきます。ただし建てられる高さに限界があることから、現在は自走式の小型吐出機の開発も進んでいます。
3Dプリンタ建築のメリットは、コストと工期を大幅に削減できることですが、従来の建築工事のように廃材が出ないというメリットもあります。このことから、経済的な問題で家を持てなかった人でも手に入れられる比較的安価な住宅や、災害時の仮設住宅などへの利用が期待されています。
アメリカではすでに、この3Dコンクリートプリンタの市場が2015年に2,450万ドルあり、2021年には5,640万ドルに拡大すると予想されています。
日本で実現するためには建築基準法がネック
そこで気になるのは、この流れが日本にもやってくるのだろうか?ということです。
建築物の強度(耐風・耐火・耐震性など)は、『建築基準法』によって定められています。3Dプリンタ建築が日本で普及するには、これをクリアしなければなりません。地震の多い土地柄から、耐震基準については世界的に見てももっとも厳しいといわれています。
また日本の建築基準法では、建築物に使用する素材や工法も限定されています。性能を満たしているだけでは認められず、仕様に制限がかけられているのです。このことから、法律の改正が行なわれない以上、3Dプリンタ建築は実現しないということになります。
さらに建築の自動化が日進月歩であることも、日本で3Dプリンタ建築が浸透しない理由のひとつかもしれません。
木材は、入力されたCADデータにしたがって工場で自動的にカットしてくれるのが一般的ですし、一部ハウスメーカーでは溶接まで自動で行ない、プレハブ住宅の量産を可能にしています。さらに、大型建築物では自立型建設ロボットの導入が進められています。つまり、3Dプリンタ建築が発表される以前から、施工コストや期間を短縮する技術の開発が進んでいるのです。
新しいテクノロジーが建築の可能性を高める
それでもなお、3Dプリンタ技術には、建築に携わる人間から高い期待が寄せられています。
その期待には、まったく異なるふたつの方向性が見られます。ひとつは、施工コストや期間が大幅に短縮されることです。いかに進化した日本のプレハブ工法と施工自動化をもってしても、現状では3Dプリンタ建築におよびません。もうひとつの期待は、3Dプリンタがデザイン(意匠)の幅を広げてくれるということです。
多くの建築物は、直線の組み合わせで作られています。それは、柱にせよ壁にせよ、使用する素材が基本的に直線で構成されているからです。形が自由に作れるコンクリートでも、型枠が直線的な板であるかぎり、曲線を作り出すのは手間がかかり、複雑なカーブを描くことは難しいのが現実です。しかし、3Dプリンタ建築が実現すれば、あらゆる形状が作れるようになるのです。
3Dプリンタがさらに進化してコンクリート以外のさまざまな素材を吐出できるようになり、今では金属素材の吐出が可能なものも登場しています。テクノロジーの進化に合わせて技術も進化しているのは、建築設計の世界も同じです。設計を例にとれば、かつては手描きの平面図だったのがCADになり、ついで3D CADになりました。
現実的には、まず建築物自体の強度に影響しない内装品が3Dプリンタで作られるようになるでしょう。階段の手すりや作り付けの棚など、こと一般住宅においては、いずれも寸法が決まった既製品を使っているのが現状です。これらを自由なサイズ・デザインでつくれるようになるだけで、建築のデザインの可能性は大きく広がります。
※海外の3Dプリンター最新事例を知りたいかたは、コチラの記事もオススメです → 海外事例6選!「3Dプリンターの家」低価格で注目 この記事では、4つの3Dプリンター住宅事例と、3Dプリンター業界で注目のベンチャー企業2社を紹介しています。