2024年にマンション法見直し・改正か? 見直しの内容と背景を解説
- 2024年1月に法務省の法制審議会がマンション(建物区分所有)法改正のたたき台(要綱案)を決定。今年中に改正?
- 要綱案には、建て替え決議などの要件緩和や区分所有建物の管理制度、海外にいる所有者のための代理人制度の創設が記載されている。背景にはマンションの老朽化、所有者の高齢化による管理組合の人手不足が
- 管理会社の業務効率化や人手不足には、DXという選択肢も
マンション(建物区分所有)法、改正のたたき台の内容とは
法務省の法制審議会では、2022年10月から区分所有法制の見直しについて会議を開催してきましたが、2024年1月16日に区分所有法制の改正に関する資料が要綱案(たたき台)として全会一致で決定されました。
2024年中にマンション(建物区分所有)法が改正されると、20年ぶりの改正となります。
要綱案の主なトピックスを見ていきましょう。
- 建て替え決議などの要件緩和
- 被災した区分所有建物の多数決要件の緩和
- 区分所有建物の管理制度を創設
- 海外にいる所有者のための代理人制度
1.建て替え決議などの要件緩和
マンション・アパートなどの区分所有建物をスムーズに再生するために、建て替え決議の多数決要件の緩和を行います。
基本的な多数決割合は、現行の区分所有法どおり区分所有者および議決権の各5分の4以上とするものの耐震性・火災に対する安全性・などの基準に適合していないとい認められる場合は多数決割合を4分の3以上にする予定です。
また、団地内建物の一括建て替え決議についても同様に、基本的な多数決割合は各5分の4で客観的な緩和事由が認められる場合には、区分所有者および議決権の各4分の3以上です。
加えて管理を円滑化するために、裁判所が区分所有者を知ることができない(または所在を知ることができない)場合は、所在等不明区分所有者およびその議決権を集会の決議から除外することができる旨の裁判が可能となります。
2.被災した区分所有建物の多数決要件の緩和
政令で定める災害により、団地内の全ての区分所有建物が大規模一部滅失をした場合には、一括建て替え決議・団地内建物敷地売却決議の要件を、現行の5分の4から3分の2の賛成に引き下げます。
2022年版国土交通白書においても、近年自然災害の頻発や激甚化が進んでいることが指摘されています。
【画像出典】国土交通省総合政策局「2022年版国土交通白書 概要」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001487181.pdf
将来的にも世界的な異常気象が増加する可能性が指摘されており、「気温上昇や雨の降り
方の変化により、熱中症や気象災害などのリスクが高まっていくことが懸念されている」という記載があります。
3.区分所有建物の管理制度を創設
以下の3つの管理制度が創設される予定です。
裁判所は以下のケースで必要があると認める際には、利害関係人の請求により、該当する部分を対象に管理人による管理を命ずる処分ができる
①所有者不明専有部分管理制度
区分所有者を知ることができない
(またはその所在を知ることができない)専有部分・専有部分の共有持分②管理不全専有部分管理制度
区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、又は侵害される恐れがある③管理不全共用部分管理制度
区分所有者による共用部分の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、又は侵害される恐れがある
4.海外にいる所有者のための代理人制度
区分所有者が国内に住所または居所(法人は本店や主たる事務所)を有しないまたは有しないことになる場合、専有部分・共用部分の管理に関する事務を行わせるため、管理人を選任できるようになります。
管理人は、以下5つの行為についての権限を持ちます。
① 保存行為
② 専有部分の性質を変えない範囲内で利用・改良を目的とする行為
③ 集会の招集の通知を受け取る
④ 集会における議決権の行使
⑤ 共用部分、建物の敷地もしくは共用部分以外の建物の附属の施設に関して他の区分所有者に対して負う債務、規約もしくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して負う債務の弁済
日本でマンションを購入した所有者が海外赴任する場合に、管理人を選任し管理について任せることができるようになります。また、海外投資家が日本のマンションを購入・運用する際にも管理人を選任できます。
近年、海外投資家が日本のマンションを購入する事例が増えているという実態を踏まえた施策と推測されます。
マンション法見直し・改正の背景とは
マンション法見直しの背景には、築年数が古いマンションが増えているという実態があります。
【画像出典】国土交通省「マンション政策の現状と課題」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001313642.pdf
2018年末時点で築40年超のマンションは81.4万戸で、10年後の2028年には197.8万戸になる見込みです。
築40年超のマンションでは、外壁などの剥落、鉄筋の露出・腐食、給排水管の老朽化などの問題を抱えるものが多いため今回の要綱案で集会・建て替え決議などの要件緩和が盛り込まれています。
加えて、高経年のマンションは区分所有者の高齢化が進んでいる傾向があり、所在不明者または連絡先不明者が発生する割合が高くなることが分かっています。
【画像出典】国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.mlit.go.jp/common/001180337.pdf
所在不明者が増えると、建て替えが必要な時期に決議ができないという事態に陥ってしまいます。
所有者の高齢化は、管理組合の担い手不足という課題も生じます。
マンション法が改正されると、どのような変化があるのでしょうか?
マンション法が改正されたらどうなる? 管理会社への影響
マンション法が要綱案の内容どおりに改正されると、マンションの管理や建て替え・大規模修繕についての合意形成が以前よりスムーズになることが予測されます。
特に高経年のマンションを多く取り扱っている管理会社にとっては、影響が大きいかもしれません。
一方で、事情があり建て替えに反対している所有者など少数の反対派の意見が反映されないというデメリットが生じる恐れがあります。
また、代理人制度の創設により海外の不動産投資家に管理を代理で依頼される可能性があります。
管理会社の人手不足にはDXという選択肢も
マンション法見直しの背景には、マンションの老朽化、所有者の高齢化や管理人(組合)の人手不足といった背景があります。
管理会社ではDXを推進することで、人手不足などの課題に対応できる可能性があります。
例えば入居者の問い合わせに対しては、AI(人工知能)を活用したチャットボットサービスを導入する、管理組合の集会にはビデオコミュニケーションツールやLINEのグループチャットなどを用いることで省人化・効率化が期待できます。
この記事を参考にマンション法の要綱案を知り、今後の参考にしていきましょう。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
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