建設業の2024年問題、建築費高騰が不動産業界へ及ぼす影響とは?

2024.02.29
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建設業の2024年問題、建築費高騰が不動産業界へ及ぼす影響とは?

建設業の2024年問題とは?建築費高騰の実態も

2024年4月から、働き方改革で改正された労働基準法により建設業(工作物の建設の事業)・自動車運転業務などにおける時間外労働の上限が原則月45時間、年360時間以内に規制されます。
ただし、災害時における復旧・復興事業は除外されます。

特別な事情があり、労使が合意している場合でも時間外労働は年720時間などの要件を守らなくてはいけません。


【画像出典】厚生労働省「建設業の時間外労働に関する上限規制わかりやすい解説」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.mhlw.go.jp/content/001116624.pdf

時間外労働の上限規制の対象となる建設業は「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業」です。
建設業が主な事業ではない企業においても、例えば大規模な機械・設備の据付工事などを行う場合はその工事が上記の事業に含まれます。

上限規制が適用されることで、人手不足に陥り工期が延びる、人件費が上がり建築費も高騰するといった可能性があります。

国土交通省が発表している「建築着工統計調査報告」によると、新設住宅着工戸数の総計は以下の通りです。

【画像出典】国土交通省「建築着工統計調査報告 時系列一覧」よりデータをダウンロード、抜粋・加工【URL】
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/jouhouka/sosei_jouhouka_tk4_000002.html

2018年に東京オリンピックの建設需要がピークをむかえ、2019年以降はやや減少傾向にあります。
長期的に見ると今後は国内の人口が減少していきますので、現在の傾向を維持しながら徐々に減少していくことが予測されます。

建築費高騰の実態とその影響とは

2022年12月の内閣府経済財政政策「今週の指標No.1293 建設資材価格の高騰と公共投資への影響について」によると、原材料費やエネルギーコストの世界的な上昇と円安の影響により「建設業界は資材価格の高騰に直面している」という記載があります。

国土交通省が公表している建設工事の「名目工事費額」を基準年度の「実質額」に変換する指標(建設工事費デフレーター)と一般財団法人建設物価調査会の「建設物価 建設資材物価指数」の推移を見てみましょう。

【画像出典】内閣府「経済財政政策 今週の指標 No.1293 建設資材価格の高騰と公共投資への影響について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2022/1212/1293.pdf

建築用資材価格は2020年4期を100とすると、2022年3期は126.3に上昇しています。
土木用資材価格は118.0、建設工事費デフレーター(建設工事の実質額)は107.7です。
なお直近のデータである2023年10月の建設工事費デフレーターは123.5(建設総合)に上昇しています。

一般社団法人日本建設業連合会が公表する建設資材物価は、2023年1月と比べ28%上昇している状況です。(一般社団法人日本建設業連合会 建設資材高騰・労務費の上昇等の現状(2023年12月版 )より)

建築コスト上昇に伴い、不動産価格も上昇しています。株式会社不動産経済研究所の「首都圏新築マンション市場動向(2023年上半期)」によると、首都圏の新築マンション平均価格は7,836万円でした。前年同月に比べ23.7%上昇しました。

中古マンション価格も、東京23区の70㎡換算価格は2020年の半ば(5,721万円)から上がり続け、2023年10月には7,034万円に上昇しています。
(株式会社東京カンテイの11月中古マンションプレスリリースより)

建設業の現状と問題点とは

国土交通省が2021年に発表した「最近の建設業を巡る状況について」では、建設業界では以前から長時間労働や働き手の高齢化、事業者の減少といった課題が取り上げられています。

  • 長時間労働の常態化
  • 建設業界の働き手の高齢化と若手離れ
  • 地方を中心に事業者が減少傾向にある

1.長時間労働の常態化

国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」によると、建設業界は年間の総実労働時間が全産業と比べて340時間以上(約2割)長いという実態があります。


【画像出典】国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf

年間出勤日数も、全産業が212日であるのに対して建設業は242日となっています。

建設工事全体では、技術者のおよそ4割が4週4休以下で就業している状況で休日数が少なく長時間労働が常態化しているという状況です。

2.建設業界の働き手の高齢化と若手離れ

建設業の就業者は、55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%と高齢化が進行しています。


【画像出典】国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf

また、技能者のうち60歳以上の者は全体の約4分の1(25.7%)を占めていますが、29歳以下の割合は全体の約12%程度です。
建設業は新規高校卒業就職者の就職後3年目までの離職率が全産業・製造業を上回っており、将来の働き手の確保が懸念されています。

ただし建設業の男性労働者の賃金は2012年から 2019年にかけて18.6%上昇しており、全産業男性労働者の5.9%を大きく上回っています。

3.地方を中心に事業者が減少傾向にある

2021年度末時点では、建設業許可業者数は約48万業者でピーク時の1999年度末から約21%減少しています。

特に地方部を中心に事業者が減少しているという実態があります。

建設DXで現場の負担が軽減できる?

国土交通省では2020年にインフラ分野のDX 推進本部を設置 し、インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション施策を実施しています。

2021年度には建設現場における作業員の身体負荷軽減などを図り、パワーアシストスーツを20程度の現場で試行しました。同時期に経験が浅いオペレータでも吹雪時に除雪機械の安全運転ができる運転支援技術も導入しました。

ロボットやAI・VR遠隔操作などの最新技術を活用し、施工の自動化・自律化や人の作業の支援・代替を行い、危険作業や苦渋作業を減少する取り組みも行っています。


【画像出典】国土交通省「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.mlit.go.jp/common/001385990.pdf

近年民間の建設業者においても施工管理でドローンを活用する企業 があり、ドローンを利用し定点写真撮影を行い施工管理の情報収集を行うソフトウェア も開発・提供されています。

ドローンを活用するソフトウェアは、徒歩で巡回する場合と比較し8割の時間短縮を実現し業務の効率化や従業員の負担軽減が期待できます。

まとめ

建設業は以前から働き手の高齢化や長時間労働の常態化などが課題となっていましたが、2024年に時間外労働の上限が規制されることで労働環境の改善が期待できます。

しかし、人手不足に陥り工期が伸びるなど私たちの生活に悪影響を及ぼす恐れがあります。
ロボットやAI・VR遠隔操作などの最新技術を活用することで、建設業界のDXが進み2024年問題、ひいては建設業界の課題解決の足がかりとなるかもしれません。

執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
X:https://twitter.com/writertanaka19

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