日本人口の約3割が65歳以上、今こそシニア向け賃貸ビジネスへ
- 高齢者になると賃貸住宅を借りるのは難しいといわれてきた
- しかし今や人口の3割が高齢者の日本
- シニア向けの賃貸住宅を支援する動きが起きており、見守りサービスなどと連携し貸主(オーナー)への心理的負担を下げる実証も行われてきている
高齢者だと賃貸は難しい? 今はシニア向けの賃貸住宅がある
少子高齢化が進む日本では、賃貸住宅における入居者の高齢化も避けては通れなくなる。「高齢者の住宅確保」は高齢化に伴う課題の一つだ。通常、賃貸物件を借りる際には貸主(オーナー)の許諾が必要となる。これは若者も高齢者も同じだ。この時、オーナーは高齢者が申し込みをしてきた場合、事故や孤独死のリスク、金銭面での不安などを考えてしまい受け入れをためらうことがあると言われてきた。
しかし、このような状況を変えていくためにシニア向けの賃貸物件だけをまとめて紹介する取り組みも増えている。「老人ホームへ入居するまでもないが、高齢でも安心して暮らせる部屋を探したい」と考えている人や、家族や親戚の近くに住みたいと思っているような人には受け入れに積極的な物件はありがたい存在だろう。
シニア向けの賃貸物件には、エレベーターやスロープの設置、広くて段差が少ない設計などバリアフリー面が充実していることもある。また急に体調を崩したときに対応できるように医療機関が近くにあることをウリにする物件もある。
UR賃貸住宅でも、高齢者向け賃貸住宅を紹介している【出典】https://www.ur-net.go.jp/chintai/whats/system/eldery/
家族と離れていても安心できる「見守りサービス」の充実が進む
高齢者増加による取り組みは、物件だけにとどまらない。家賃の債務保証を手がけるニッポンインシュアは高齢者向けに家賃保証と見守りサービスをセットにした商品を仙台市で実証運用している。家賃保証に付加価値として紐付けているのはヤマト運輸の「クロネコ見守りサービスハローライト訪問プラン」だ。これは、トイレや廊下に通信機能を備えたLED電球を取り付けて24時間以上点灯または消灯状態が続くと登録している宛先に自動で通知が届く。
本実証運用では、ニッポンインシュアが家賃の滞納があった場合に管理会社や貸主(オーナー)に補塡(ほてん)する連帯保証人となり、身寄りのない高齢者の緊急連絡先として仙台市の一般社団法人あんしん・すまい・くらし支援機構が名義を貸す。
オーナー向けのサービスとして用意【出典】https://www.anshin-sumai-kurashi.or.jp/sumai/saimu_yachin_owner
高齢者の入居に消極的な貸主(オーナー)に対して、こうした保証をつけることで入居を促進させようというわけだ。そもそも空き室対策において、需要のあるシニアの受け入れは効果的だ。シニア向けの物件情報を提供するR65不動産では、シニアの入居者数の約7割が6年以上入居を続けるというデータを見せながら、入居の促進を目指している。
シニア向けの物件情報を提供するR65【出典】https://r65.info/
不動産会社のスタッフへ高齢者に対する理解を深める取り組みも
このように高齢者向けのサービスが増えている中で、不動産会社のスタッフへの啓発も進んでいる。LIFULL(ライフル)は昨年より不動産会社が高齢者に対する理解をより深め、適切な接客を行えることを目的とした無料のチェックリストを公開している。
『高齢者接客チェックリスト』【出典】https://forms.gle/xpW58ufrerCrg6rdA
チェックリストは行政の高齢者住宅支援や窓口についての知識を問う「基礎知識編」と、住まい探し時の注意点や接客方法を問う「問合せ~退去編」の二つで構成。それぞれ選択式で回答後に表示される解説を通して理解を深められる。
内閣府が公表した「令和5年版 高齢社会白書」(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/gaiyou/index.html)によれば、65歳以上人口は3,624万人。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29%。さらに令和52年には、約2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上になるとされ、ますます高齢化は進む。実に日本の人口の3割が65歳以上という現状であれば、受け入れに消極的であっては機会損失につながる。シニアに向けた賃貸ビジネスは、まさにいまが好機といえるのではないだろうか。
取材・文/中村祐介
株式会社エヌプラス代表。デジタル領域のビジネス開発とクリエイティブ戦略が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・実施も行うほか、一般社団法人おにぎり協会の代表理事として、日本の食や観光に関する事業プランニングやディレクションも行う。
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