NYで民泊”事実上禁止”になった理由とは?

- ニューヨーク市が2023年9月から民泊の規制を強化、実質民泊禁止と言われている
- 民泊の急増が家賃を押し上げ、住宅不足を助長しているというのが背景
- 施行に家賃は若干、下落し今後の動きに注目が集まっている
ニューヨーク市、短期賃貸サービス(民泊)の規制を強化
米ニューヨーク市(NY)が2023年9月5日から、Airbnb、Vrbo、Booking.comなどが提供する短期賃貸サービス(民泊)の規制を強化した。市が管理するデータベースに貸し出す側(ホスト)の登録を義務づける新法を施行したのだ。新法の対象は30日未満の短期滞在用に家やアパートを貸し出すホストで、登録後、家を貸している間は家に留まらなければならず、一度に宿泊できるのは2人までに限られる。基本的には家族連れは禁止され、パーティーなどの週末の予約も禁止される。
ニューヨーク市によると施行すぐにホストとして登録したい人から3800件の申請があったが、9月5日の段階で承認されたのは300件弱だという。事実上の民泊禁止ともいえる出来事の背景には、民泊の急増が家賃を押し上げ、同市の住宅不足を助長しているからだという。
市当局は2023年3月時点で違法な短期賃貸であるAirbnbの掲載件数は約1万800件あると推定。彼らはこれらの家をニューヨーカーではなく観光客や訪問者に貸すことで、市の深刻な住宅不足を悪化させていると主張している。
ニューヨーク市マンハッタンでは2022年4月、3カ月連続で賃料の中央値が 過去最高を更新するなど家賃問題が深刻化している。これについて政権は2022年5月16日に住宅費負担軽減のための行動計画などを発表するなどしてきた。住居費上昇は中低所得者層への負担が相対的に重くなりやすいため、政権としても有権者にアピールしたいのが狙いだった。
2023年10月、ニューヨーク市の家賃はわずかに下落。家賃の中央値は2213ドル(33万円)
アパートリストによると、ニューヨーク市の2023年9月の家賃は前月比0.5%下落。新法施行を受けてか下がっている。2023年の9ヶ月間(1月〜9月)では、ニューヨーク市の家賃は9.2%と上昇はしているものの、昨対比で見ると成長率は鈍化しているという(2022年1月〜9月までの家賃は12.1%)。
家賃の中央値は2213ドル(日本円で約33万円)。全米全体の家賃の中央値は1364ドル(20万3000円)なので、その高さは際立つ。
今回の下落が新施行によってなのかどうかはまだ未知数だが、上がり続けたニューヨーク市の賃料が9月になり下落したのは興味深いデータといえる。パンデミック後から、都心部へ戻る人が増えてきている中で高騰を続けてきたともいわれているが、今後の値動きによってニューヨーク市が主張する「民泊需要」と「賃料の増減」に相関があるかどうかもはっきりしてきそうだ。
民泊規制はニューヨーク市だけではない
AirbnbやBooking.comは全世界が市場なので、ニューヨーク市はごく一部でしかない。ただ、今回の動きは自治体が住民サービスの向上(家賃上昇を抑える、オーバーツーリズムを避ける)を目指そうとすれば、サービスを停めることができることを示した。短期賃貸はパンデミック後、特に稼げる仕事として評価が高まっていたが、冷や水を浴びせられた格好だ。
自治体の動きはニューヨーク市に限らない。サンフランシスコのAirbnbホストは宿泊施設全体を年間最大90日間しか貸し出せないし、テネシー州メンフィスやカナダのケベック州などでは、短期賃貸のホストに免許の取得が義務づけられている。オランダのアムステルダムでは特別なライセンスがない限り年間で30泊しか貸せない。ドイツのベルリンでは2014年に民泊を完全に禁止した。これは2018年に覆されたものの、期間の制限は残っている。
日本国内でもオーバーツーリズムが叫ばれている中、民泊の需要は高まりを見せている。一方で、大量の観光客が町に押し寄せることで行政が支援すべき住民が不満を持つこともある。既存事業者のホテル・旅館業界の反発も大きい。
日本でも京都市が管理体制として民泊においては「家主が不在となる住宅は、現地対応管理者の駐在が原則必要」とし、使用人・現地対応管理者の駐在場所として「住宅、住宅が存する建築物の内部又は徒歩10分で到着できる場所(宿泊施設から道のりで、おおむね800m以内))」と定めているように、自治体による規制は多く存在する。
不動産会社がビジネスとして、民泊をしたい事業者に売ることで自治体による制限が行われたとすると、結果として自分たちが他で扱う賃貸物件の賃料相場が下がることも起きるかもしれない。デジタル化が進み、異業種参入も増加。不動産業界も多様なビジネスが組み込まれている現在では、何が起因となって市場に変化が起きるのか見えづらくなっている。不動産に関わる事業者は、これまでの事業領域に目を向けるだけでなく関連、そして飛び地の事業や業界にも目を向けてビジネスの設計をしていく必要が出てきている。
文/中村祐介
株式会社エヌプラス代表。デジタル領域のビジネス開発とクリエイティブ戦略が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・実施も行うほか、一般社団法人おにぎり協会の代表理事として、日本の食や観光に関する事業プランニングやディレクションも行う。建築×デジタルでイノベーションを起こす株式会社ブレンアーキテクトの取締役でもある。
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