不動産テック カオスマップ最新版、新たに加わった「生成AI」のインパクト

- 不動産テック カオスマップの最新版が発表。
- 不動産クラウドファンディングが大幅増加し、別シートに。生成AIが新規追加。
- 生成AIは他のカテゴリーにも浸透し、やがて当たり前となる。
不動産テック協会の不動産テック カオスマップが更新されました。最新の2023年8月の第9版は昨年度の第8版(2022年8月)と比較し、33サービス増の463サービスが記載されました。大きな変化としては、「クラウドファンディングカテゴリーの外だし」と「生成AIカテゴリーの新設」です。
不動産テック カオスマップ最新版【出典】https://retechjapan.org/retech-map/
不動産クラウドファンディングが活況
不動産クラウドファンディングは活況で、カテゴリーに属する企業数が前年より35社増の69社。1枚に収まりきらなくなっている状態で、外だしとなりました。不動産クラウドファンディングが拡大を続ける1番の理由は不動産特定共同事業法の改正(2017年12月)です。この改正で事業者の参入与件が大幅に緩和され、参入企業が増加したのです。
不動産クラウドファンディングカオスマップ【出典】https://retechjapan.org/retech-map/
不動産投資に興味があっても、その額が大きいことで手を出しづらかった人たちにとって、不動産クラウドファンディングは少額で投資ができることが魅力として捉えられています。また少額の資金を複数のプロジェクトに分散させることができ、リスク分散にもつながります。
また、多くのクラウドファンディングのプラットフォームでは投資対象物件の詳細な情報をオンラインで提供しており、透明性の高さもウリです。投資家は情報を基に決定を下せます。
これまでの不動産投資と比べて、投資家が物件の管理やメンテナンスなどの面倒な作業もないので「やってみよう」という人も多く、サービスの増加にもつながっています。ただ、不動産クラウドファンディングは株式市場などに比べて流動性が低く、即座に資金を引き出すなどは難しいことも多々ありますので、自身の状況を考えた上でやってみるかを決めたほうがいいでしょう。
不動産業界に生成AIをビジネスとする企業が参入
今回、カオスマップに新たに追加されたのが生成AIです。不動産は地理、価格、物件の特性、市場動向など膨大な量のデータを扱います。AIによってこれらの複雑なデータを分析し、予測を行い、投資家や顧客に対してより正確で価値のある洞察を提供できることを期待し、今後も増えていくことが予想されます。
たとえば、Porty(ポルティ)は不動産投資家や中小の不動産事業者向けにAI賃料査定サービス「ポルティ賃料査定」を提供しています。ユーザーはWeb上で間取りや建物構造、方角や設備などを選ぶことで、査定結果をだしてくれます。レポート作成機能もあり、査定結果の内訳や相場情報、査定した物件の半径500メートル以内にある物件の査定結果をレポートしてくれます。
ポルティ賃料査定は最寄り駅や詳細な条件をつけることで賃料の平均を確認できます【出典】https://porty.co.jp/assess/
また、効率化とそれによるコスト削減といったメリットも生み出しやすいのが生成AIの特徴です。AIは物件検索プロセスの自動化や顧客対応の最適化、運用コストの削減など業務の効率化を支援します。これにより、人間が行っていた時間と労力のかかるタスクをAIが引き受けられます。
「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)を運営するLIFULL(ライフル)は2023年6月に業界初となるChatGPTプラグインの提供をスタート(2023年10月 現在は停止中)。物件の希望条件をChatGPTに入力すると、掲載物件から希望に合った物件を探せます。対話をしながら、希望する物件のイメージを具体化していく流れは、不動産会社に足を運び営業担当者と話すのと近しいものがあります。そのうえ、人間と違って知識にばらつきもありません。
LIFULLは2023年8月からはChatGPTを活用し、不動産会社向けに住宅弱者に関する基礎知識や住まい探しでの接客知識を提供するAIチャット「接客サポートAI by FRIENDLY DOOR BETA」も開始。住まい探しに困難を抱える住宅弱者と呼ばれる方々に関する基礎知識や、接客に必要な専門性の高いノウハウを対話形式で提供するというもの。第1弾として、高齢者と外国籍の方に関する知識を提供しています。
対話形式で住宅弱者に寄り添うための学びが得られる【出典】https://chat.homes-ai-support.lifull.net/
パレットクラウドが提供する賃貸管理会社向けの入居者管理システム「パレット管理」も、ChatGPTを利用した「AI回答作成サポート(β版)」を提供しています。これは入居者からきた問い合わせに対して、担当者が回答の要点をまとめてAI回答作成サポートボタンを押すとAIが回答の要点をくみ取り、人が書くような自然な言葉遣いで文章を作成してくれるというもの。これにより、管理会社は問い合わせ対応業務の工数削減と担当者の業務ストレス軽減が図れるといいます。
AI×ブロックチェーンによるスマートコントラクトの世界へ
不動産業界に生成AIのサービスが入り始めることで、スマートコントラクトが実現されることが期待されます。
スマートコントラクトは、条件が満たされた時に自動的に取引が実行されるもので、人間の介入を必要とせず、自動化されたプロセスです。人間がいないことで安全性の懸念が出てきますが、それを補うのがブロックチェーン。ブロックチェーンはデータを「ブロック」と呼ばれる小さな単位に分割し、それぞれを連鎖状にリンクさせて一つの「チェーン」を作る技術です。このチェーンは分散型ネットワークに保存され、すべての参加者がそのコピーを持つため、改ざんが非常に困難。データの安全性と透明性を高めてくれるのです。
簡単に言えば、ブロックチェーンは情報の「真実」を保持し、AIはその「真実」を利用して取引をよりスマートかつ効率的に行うための高度な分析や自動化を提供するわけです。これによって、手作業のプロセスを排除し、取引の高速化、取引コストの削減を可能とします。
こうなってくると、AIはさまざまなサービスと組み合わさっていくことが考えられます。例えば電子署名・契約サービスとの連携はもちろん、カオスマップの他のカテゴリーのサービスにも、いくらでも組み込み方はあるはずです。やがてカオスマップにある多くのサービスにAIが導入されていくことで、生成AIのカテゴリーが消えるかもしれません。
文/中村祐介
株式会社エヌプラス代表。デジタル領域のビジネス開発とクリエイティブ戦略が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・実施も行うほか、一般社団法人おにぎり協会の代表理事として、日本の食や観光に関する事業プランニングやディレクションも行う。建築×デジタルでイノベーションを起こす株式会社ブレンアーキテクトの取締役でもある。
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