資金調達のシリーズ・ラウンドとは?不動産テック・スタートアップ企業の事例とあわせて解説

- 「エンジェルラウンド」「シリーズ○ラウンド」とは、投資家から見た企業のフェーズを指す。ラウンドによって、企業の成長段階や資金調達の額が異なる
- 不動産テック業界は高い成長性が見込める分野だが、IT人材が不足していることもあり資金調達が重要となる
- スタートアップ企業のEXIT(出口戦略)は、IPO(株式の新規上場)・M&Aなどがある。M&Aで事業を拡大していく会社も
資金調達の1つに、ベンチャーキャピタルや個人投資家から出資を受けるという方法があります。金融機関で融資を受けることが難しいプロジェクト、多額の資金を集めたい場合などに利用される方法です。
出資を受けるためには「シリーズAラウンド」「エンジェルラウンド」など企業がどのフェーズにあるかを把握しておく必要があります。
「シリーズ」「ラウンド」とは具体的に何を指すのでしょうか?
今回は資金調達のシリーズ・ラウンドとは何か、不動産テック企業と資金調達、不動産テック・スタートアップ企業の資金調達事例を解説していきます。
スタートアップ企業のEXIT(出口戦略)の1つにM&Aがありますが、M&Aで成長を図る企業もあわせて見てみましょう。
資金調達のシリーズ・ラウンドって何?
資金調達には 、金融機関からの借り入れや補助金・助成金の活用などさまざまな方法があります。
投資として出資を受ける方法もあり、投資家にとって目安となる考え方に「シリーズ」や「ラウンド」があります。
※ピボットとは、事業の方向転換・路線変更を意味する
【画像出典】経済産業省 特許庁「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/document/zaisanken-seidomondai/2018_04_venture.pdf
以下5つのラウンドに分別されます。
- エンジェルラウンド
- シードラウンド
- シリーズAラウンド
- シリーズBラウンド
- シリーズCラウンド
1.エンジェルラウンド
エンジェルラウンドはプレシードラウンドとも呼ばれており、ベンチャー企業やスタートアップ企業などの起業前の状態です。
企業にとってはアイデアやビジョンがあるものの商品・サービスなど形になっていない状態です。資金調達額は数百万円~数千万円程度といわれています。
日本ではスタートアップへ投資を行った個人投資家に対して、税制上の優遇措置を行う「エンジェル税制」という制度があります。
この段階では大学発のベンチャー・スタートアップ企業の場合、国立研究開発法人科学技術振興機構の「大学発新産業創出拠点プロジェクトSTART」が公的な支援制度です。
2.シードラウンド
シードは英語で種という意味で、大枠のビジネスが定まる、開発をして製品・サービスの商用可能性を高めるなど起業準備の段階です。
市場調査や会社設立、創業メンバーを雇うための資金が必要となり、数千万円〜数億円程度の資金を調達する事例が多いです。
公的支援には中小企業基盤整備機構のファンド出資や国立研究開発法人科学技術振興機構の「出資型新事業創出支援プログラムSUCCESS」などがあります。
エンジェルラウンド・シードラウンドで出資を受ける際、相手は個人投資家が多いです。
3.シリーズAラウンド
シリーズAラウンドは、事業がスタートした直後のスタートアップの段階です。
商品・サービスがリリースされ、認知度を広げるために市場調査やマーケティングも行われます。
株式会社の場合シリーズAラウンド以降は、企業が「優先株」を発行し投資家が購入することで出資を受けられるようになります。優先株とは、企業が投資家にとって普通の株式より有利な 株式です。
人件費・設備投資費用・マーケティング費用など数億円〜十数億円程度のコストが必要です。
既に会社を設立しているため、国や地方自治体に補助金・助成金を申請できます。
シリーズAラウンドからは、ベンチャーキャピタル(未上場で将来性のある企業に投資を行う専門の会社・ファンド)やコーポレートベンチャーキャピタル(事業会社が自社の戦略目的のために行う)からの投資を受けられる可能性があります。
4.シリーズBラウンド
シリーズBラウンドは事業が軌道に乗り始め、収益が上がり今後の成長も見込める時期です。
企業を成長させていくために、設備投資や優秀な人材の確保・販売促進、製品・サービスの改良などの資金を必要とします。
資金調達額の目安は十数億円〜数十億円程度で、シリーズCに進まず株式を新規上場(IPO)する企業もあります。
5.シリーズCラウンド
市場での認知度が高まり、黒字経営で安定する時期がシリーズCラウンドです。
この段階で、IPO(株式の新規上場)やM&AなどEXIT(出口戦略)をとる企業もあります。
企業規模の拡大や経営基盤を安定させるために、数十億円程度の資金調達が必要となる事例が多いです。
金融機関からの融資やベンチャーキャピタル・コーポレートベンチャーキャピタルからの投資で資金調達を行います。
続いて、成長性の高い分野といわれる不動産テックと資金調達について解説していきます。
不動産テック企業と資金調達
政府がスマートシティやDXを推進しており、スタートアップへの支援に積極的であることから、不動産テックは今後成長が見込める分野といえます。
2018年の「全国版空き家・空き地バンクの構築及び地域の空き家等の流通モデルの構築に関する調査検討業務 報告書」では、不動産テックサービス提供の概要や対象が検証されました。市場への効果をカテゴリ別で見ると以下の通りです。
【画像出典】国土交通省「全国版空き家・空き地バンクの構築及び地域の空き家等の流通モデルの構築に関する調査検討業務 報告書」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.mlit.go.jp/common/001252314.pdf
特に価格査定・相場情報提供は、活用業者・エンドユーザーともに市場への効果が多いことが分かります。
ただし、ITに強い人材を雇用しシステムを構築・サービスを提供するためにはコストがかかります。特にIT系の人材はマクロ推計によると2015年時点で既に約17万人のIT人材が不足しているといわれており、2030年には約59万人程度人材の不足規模が拡大するとの推計です。
特に、今後市場拡大が予想される「ビッグデータ」「IoT」「人工知能(AI)」を担う人材不足が拡大すると試算されています。
アメリカでは不動産テックが日本より普及していますが、国内で不動産テック企業のスタートアップを図るためには公的支援や融資だけではなく投資家からも資金調達が必要となるでしょう。
なお、2017年に不動産サービス大手のJLLが発表したデータによると世界における不動産テック投資の60%をアジア太平洋地域のスタートアップ企業が占めています。
不動産テック・スタートアップ企業の資金調達事例とは?逆にM&Aで成長する会社も
- 株式会社Facilo:シードラウンドで2億円の資金調達
- 貝殻找房 (KE ホールディングス):ソフトバンクグループから出資を受け米国でIPO
- ハウスコム株式会社:M&Aで事業を拡大
株式会社Facilo:シードラウンドで2億円の資金調達
株式会社Facilo は、アメリカの不動産テック企業Movotoで最高財務責任者(CFO)を務めた市川紘氏が2021年10月に起ち上げた企業です。MovotoはM&AによるEXITを達成し、市川氏はアメリカの「Top 100 Leaders in Real Estate and Construction」に選出されました。
2023年2月に、シードラウンドとしてCoral Capital・ DNX Venturesから2億円を調達したことと、不動産業界特化型コミュニケーションクラウド「Facilo(ファシロ)」のリリースを発表しました。
一般的にシードラウンドの段階では、個人投資家から出資を受ける事例が多いです。
ただし、市川氏のように既に経営者として実績がある場合はベンチャーキャピタルから投資されるケースもあります。
貝殻找房 (KEホールディングス):ソフトバンクグループから出資を受け、米国でIPO
貝殻找房 (KEホールディングス)とは中国の不動産テック企業で、中国最大の不動産取引プラットフォームを運営しています。
2018年にはオンラインプラットフォームでAIアルゴリズムを用いて買い手と売り手を結び付けるサービスをリリースしました。3D化した不動産物件をVR内見することも可能です。
2020年3月にはソフトバンクビジョンファンドなどからシリーズ D+ラウンドで、24億ドルを調達します。
2020年8月に同社はニューヨーク証券取引所に上場し、公開価格を87.2%上回る37.44ドルで取引されました。2020年11月には株価は3倍余りの水準に上昇し、創業者の左暉氏は資産が一時200憶ドルを超え、世界の資産家上位100人にランクインします。
2021年5月21日に、左氏は病気のため亡くなっています。
ハウスコム株式会社:M&Aで事業を拡大
ハウスコム株式会社は、1998年設立で全国に賃貸仲介店舗を198店舗、FC40店舗(2023年10月18日時点)を展開する不動産賃貸・仲介を柱とした企業です。
近年は「不動産DXのハウスコム」とも呼ばれ、接客・内見・契約・鍵渡しまでを全てオンラインで行う「オンラインお部屋さがし」の仕組みを構築しました。
2019年からM&A積極策を開始し、競争力の強化・事業領域の拡張を進めるためジューシィ出版株式会社など2社を子会社化。2020年3月にはM&A募集ポータルサイトを用いてスタートアップを含めた企業からの譲渡・出資依頼案件の募集開始を発表し、12月にはさらに1社を子会社化。2023年4月にも株式会社シーアールエヌの株式を取得し子会社化し事業を拡大中です。
ジューシィ出版株式会社の主な事業は広告代理店で、M&Aは不動産テック事業運営の効率化・発展が目的です。譲渡に伴いジューシィ出版株式会社の商号を2019年5月1日より「ハウスコムテクノロジーズ株式会社」に変更しています。
スタートアップ企業などを買収する企業にとって、M&Aは買収先の企業が構築したシステムやネットワーク・ノウハウなどを得る、自社との相乗効果で成長の速度を上げるなどの目的があります。
まとめ
資金調達で出資を受ける際には、自社がどのラウンドに該当するのか、出資を受けることで投資家にとってどのようなメリットがあるのかを検討することをおすすめします。
この記事で、出資を受ける際の基本的な用語やスタートアップ企業の資金調達事例を知り、今後に活かしていきましょう。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
X:https://twitter.com/writertanaka19