不動産業界がDXで求めるNo.1「業務効率化」推進の手法とは?

- 不動産業界のDX取り組み企業は約5割
- DXサービス導入の目的の8割が「業務効率化」
- 自社の業務を効率化するためにはDXサービスを導入すればいいわけではない
- 本質的な業務効率化のためにはBPRなどの考え方を用いて、手段を目的化しない仕組み作りが求められる
不動産業界のDX推進が行われている中で、LIFUL HOME’Sが実態調査を実施しました。同社が全国の不動産会社に勤める518人を対象とした「不動産会社のDX推進に対する実態調査」では、「DXに取り組んでいる(取り組む予定がある)」企業は51.3%。一方で約半数が「取り組む予定はない」と回答。DX導入(検討含む)の目的は「業務効率化」が約8割(85.6%)と非常に高い結果が出ました。
DXという手段を目的化しない方法論
DXがバズワードのようになっていた数年前は、DXのサービスを入れること自体を目的化していた企業も目立ちました。経営層が「DXを」という旗を振った結果、本質的な議論や検討を行わずに、サービスを導入してしまうケースです。これは目的と手段を取り違えています。DXはあくまで会社を持続的に成長させていくための考え方であり、その考え方に沿って必要なDXのサービスを導入するというのが正しい流れです。
不動産業界もデジタル技術の進化に伴い、アンケートにある通り「業務効率化」が求められているわけです。しかし、アンケート結果を見ると約半分はDX推進に消極的ともいえます。なぜでしょうか? 不動産業界は物件の取引、管理、仲介など多岐にわたる業務が含まれる複雑な業界です。そのため古くからの慣習や業務フローが色濃く残っており、新しい技術や方法論を取り入れるのが難しい場面があるのではないでしょうか。
物件情報や顧客情報も異なるシステムや媒体で管理されている場合が多く、個社だけで情報の一元管理や共有が難しい状況があります。情報の非統一性はその会社だけが原因ではないため「自社だけでやったところで」と考える経営層も多いかもしれません。
しかし、これらの壁を乗り越え、組織文化の変革をしていくことは企業としては求められ続けることでもあります。そこで今回は冒頭のアンケートでもニーズの高い「業務効率化」を不動産業界で推進する方法論についてご紹介したいと思います。
自社の業務効率化のために、まずは課題を抽出する
業務効率化にあたっては、まず自社でどこが効率化できていないかを探る必要があります。すでに見つかっているケースもあれば、気づかないところで多くの工数を割いてしまっているケースもあるでしょう。以下のようなステップやアプローチで課題の抽出をしていきます。
■業務プロセスのマッピング
企業の主要な業務プロセスを明確にし、それぞれのプロセスや手続きを視覚的にマッピングします。これにより、無駄や複雑さが一目でわかります。
■従業員からのフィードバックの収集
業務のフロントラインで働いている従業員からの意見やフィードバックは非常に価値があります。彼らからの直接的な意見を集め、業務のボトルネックや課題を抽出します。
■KPI (Key Performance Indicator) の分析
業務のパフォーマンスを定量的に評価するための指標を設定し、これを基に業務の効率性や成果を分析します。
■ワークショップやブレインストーミングの実施
チームや関連部門を集め、現状の業務フローの問題点や改善の提案を出し合うセッションを実施します。
■顧客からのフィードバックの収集
顧客の視点での業務の遅延や不満点を収集することで、外部からの客観的な課題を抽出します。
■競合他社のベンチマーキング
同業他社の業務プロセスや取り組みを分析し、自社との差異や劣位点を抽出します。
■技術の遅れや古いシステムの確認
使用している技術やシステムが最新のものでない場合、これが業務の非効率性の原因となることがあります。
■外部の専門家やコンサルタントの意見の取り入れ
業務効率化の専門家やコンサルタントに現状の業務プロセスを評価してもらい、課題を抽出してもらう方法もあります。
■データ分析
業務に関連するデータを収集し、分析することで、非効率な部分や課題を明らかにします。
■リソースの確認
人的リソースや時間、予算などの制約が業務の効率性に影響しているかを評価します。
これらのステップやアプローチを適切に組み合わせることで、企業の業務の課題を的確に抽出し、効率化の方向性を明確にできます。しかし、これだとその場その場の対処になってしまう懸念もあります。そこで、業務の効率化をしていくための一定の手法を使うこともあります。
業務プロセスの見直しを図る上で使える手法
先ほど書いた通り、より効果的に業務効率化・改善を目指すのであればある程度確立された手法を活用するのも手です。以下に主なものをご紹介していきます。
- BPR (Business Process Reengineering)
BPRは「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」とも呼ばれ、企業の業務プロセスを根本から見直し、効率的かつ革新的に再構築することです。アプローチは業務プロセスをゼロベースで見直し、最適化を目指します。情報技術の活用を前提としてプロセスの再設計を行い、ヒエラルキーの打破や部門の垣根を越えた組織の再編を目指します。 - Kaizen (改善)
日本発祥の手法で、絶えず業務プロセスの微細な改善を継続的に行うことで、大きな成果を目指す考え方。小さな改善が積み重なることで大きな効果を生むとされています。 - QCストーリー・QC手法
QCストーリー・QC手法は品質管理における問題を解決するための進め方です。一般的には「テーマ」「現状把握」「目標設定」「活動計画」「原因解析」「対策立案」「対策実施」「効果確認」「歯止め」「反省と今後の方針」という流れで問題点を明らかにし、問題を解決したり課題を達成していきます。
特に業務効率化や生産性を向上させることに使われるのがBPRなので、次にBPRにおける具体的な手法について詳しく説明していきます。
BPRの一般的な流れについて
BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)は、企業の業務プロセスを根本的に再設計し、企業目標を達成することを目的とした取り組みです。改善というよりも改革に近いものになります。以下にBPRの取り組み方の基本的な手順を示します。
Step1. プロジェクトの開始
目的と範囲の定義: BPRの取り組みの目的や対象となる業務範囲を明確に定義します。
またBPRのプロジェクトチームを編成し、役割と責任を割り当てます。
Step2. 現状分析
対象となる業務プロセスを詳細にマッピングし、フローチャートなどを用いて可視化します。現状の業務の効率性、効果性、ボトルネックや無駄を特定します。
Step3. 新しいプロセスの設計
新しい業務プロセスのビジョンや目標を定義します。無駄を排除し、効率化や革新を図るための新しい業務プロセスを設計します。この際、情報技術の活用や組織の再編などの手段を考慮します。
Step4. 実装
従業員の抵抗や不安を軽減するための変更管理の戦略を立てます。そして再設計されたプロセスを実際の業務に導入します。導入にあたっては、従業員に新しいプロセスやツールの使用方法を教育します。
Step5. 評価と継続的な改善
新しいプロセスのパフォーマンスを定期的にモニタリングし、得られたデータやフィードバックを元に、プロセスの継続的な改善を図ります。
この手順は基本的なものであり、実際のBPRの取り組みでは組織の特性やニーズに応じてアプローチがカスタマイズされることがあります。BPRは根本的な変革を目指すため、十分な準備と経営層の強いリーダーシップ、従業員の協力が必要となります。
不動産業界でBPRをした結果、予測されるソリューション
不動産業界でBPRを通じて業務の抜本的な効率化をした先に、導入できそうなDXサービスはどのようなものがあるのでしょうか? 具体的に見ていきましょう。
契約手続きのデジタル化: 書類のオンライン化、電子署名の導入。紙の契約書の作成、保管、運送の手間を省くために、電子契約システムを導入。これにより、契約のスピードアップとリモートでの取引が可能となります。
情報の一元管理: CRMやERPシステムの導入。不動産業界に特化したCRMシステムや物件管理ソフトウェアを導入することで、顧客管理や物件情報の一元化が実現します。これにより、情報の二重入力や誤入力を減少させ、業務の迅速化が期待できます。
- RPA (Robotic Process Automation): 定型的な業務処理を自動化することで、業務の効率を向上させる。契約書の作成や物件情報の更新などの定型業務を自動化することで、労働時間の削減とミスの減少が期待できます。
AIと機械学習: 顧客のニーズ分析、物件の評価、価格設定などでの活用。AIや機械学習を利用して、物件の需要予測や適正価格の算出、顧客の嗜好分析を行うことで、より効率的な営業戦略や物件の取得が可能となります。
VR/AR: 物件の内見や設計段階での確認、顧客体験の向上。物件内見の際の移動時間やスケジューリングの手間を減少させるために、VR技術を利用したオンライン内見を提供。顧客はいつでも好きな場所から物件を確認でき、業務のスムーズな進行をサポートします。
- ブロックチェーン: 契約の透明性とセキュリティの確保。
クラウドコンピューティング: データの一元管理、リモートワークのサポート、柔軟なインフラの提供。
不動産業界における業務効率化はBPRのような手法を用いてシステム的にアプローチし、DXのソリューションを適切に取り入れることで実現できます。冒頭のアンケート結果では、今後DX化・デジタル化できると良い管理業務の1位は「手作業による書類管理と郵送業務」で52.3%。これはすでにサービスとしては多く存在していますから、自社にとってどのようなサービスが本当の意味で業務効率化につながるのかを深く検討し、いちはやく導入することで効果を感じやすい業務かもしれません。それをきっかけに、全体の業務効率化を見直す機運が高まれば、業界全体の競争力も高まっていくのではないでしょうか。もし、抜本的な業務改革をBPRで行えない場合は、こうした部分からの改善を積み上げて自社の成功体験を増やしていき改革に向かうのも一つの手です。