リスキリングにDXが必要不可欠な理由とは?国内の事例とともに解説

- リスキリングとは企業が人材戦略に基づき、従業員の能力・スキルを再開発すること
- 人材戦略にDXは必要不可欠であることから、リスキリングは「デジタル人材の育成」という意味合いでも使われる
- 国内で全社員にDX教育をする企業、社内に「情報技術大学」を設置する会社などの事例がある
リスキリングとは?DXとの関係やリカレント教育との違い
「リスキリング」とは、企業・団体などで従業員が今後の業務で必要となるスキル・知識を「再開発」することです。
世界経済フォーラムでは2018年から、3年連続で「リスキル革命」と銘打ったセッションが行われました。
中でも2020年に発表された「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」では「第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」ことが発表され話題になりました。
国内でも「リスキリング」という言葉は注目を集めています。
国土交通省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」第2回(2021年2月26日開催)では、リクルートワークス研究所の石原直子氏の「リスキリングとは DX時代の人材戦略と世界の潮流」をプレゼンテーションしました。
資料の中では、石原氏が「リスキリングとは デジタル時代の人材戦略」という提言書を発表したことやリスキリングの必要性とDXとの関係が述べられています。
【画像出典】国土交通省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」第2回資料2-2 石原委員プレゼンテーション資料」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf
2022年10月には岸田首相が臨時国会で所信表明演説を行い、個人のリスキリングの支援に「5年で1兆円を投じる」と表明しました。
2022年末には「リスキリング」が「2022ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされました。
リスキリングとリカレント教育の違い
リカレントとは「循環する」「再発する」という意味です。
リカレント教育は社会人となり学校から離れた後に「学び直す」ことで「学ぶ、働く、学ぶ」というサイクルを循環します。
一方でリスキリングは人材戦略に基づいて今後必要となるスキルを得ることを指します。
リカレント教育は社会人が主体となって再び学びの機会を設けるという意味合いが強いです。一方で、リスキリングは企業の人材戦略に基づき、従業員が将来に役立つスキルを習得するという違いがあります。
リスキリングとDX
2020年からコロナ禍が始まり、テレワーク・オンラインツールなどは急速にさまざまな企業に導入・普及しました。今後さらにデジタル技術などに対応できる新たな業務・職種の人材の確保が重要で、方法としては外部人材の登用と社内人材の育成の2つがあります。
2つのうち、社内人材の育成を担うものがリスキリングです。
今後エンジニア・データアナリストなどデジタル化により生まれる職業や、デジタルにより仕事の進め方が変わる職種が増えることが予測されています。
日本でも経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を起ち上げました。経済産業省のホームページで以下のように記されています。
第四次産業革命スキル習得講座認定制度はIT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ雇用創出に貢献する分野において、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度です。
経済産業省ホームページ「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」より
リスキリングでは、AI・データサイエンスなど最新技術を駆使するDX人材を中心とした戦略が必要不可欠です。
よって「デジタル人材の育成」という意味合いでも使われることがあります。
DX・リスキリングに必要なものは「環境整備」
独立行政法人情報処理推進機構の「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)」によると、事業戦略上必要となるIT人材は「量」「質」ともに不足したと回答した企業がおよそ9割存在することが分かりました。
【画像出典】独立行政法人情報処理推進機構の「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.ipa.go.jp/files/000097873.pdf
DX成果なしの企業では、IT人材のキャリア形成支援を「行っていない」割合が46.9に上り、IT人材個人にキャリア形成を任せている状態です。
【画像出典】独立行政法人情報処理推進機構の「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.ipa.go.jp/files/000097873.pdf
人材を確保しDXを推進するためにはまず「環境を整えること」が必要と言えます。
コスト面が課題となっている企業は、厚生労働省の教育訓練給付制度や東京都のDXリスキリング助成金など公的支援を検討してみましょう。
国内企業のリスキリング事例3つ
リスキリングは実際にどのように行われているのでしょうか?国内企業の事例3つを見ていきましょう。
- SOMPOホールディングスは「脱保険」を目指し全社員にDX教育を
- 三井不動産は全事業にDXを推進
- ダイキン工業株式会社は社内の大学でDX教育
1. SOMPOホールディングスは「脱保険」を目指し全社員にDX教育を
SOMPOホールディングスには国内損保・海外保険・生命保険・介護の4つの事業を柱としています。
主力の事業は国内損保事業の自動車保険ですが、CEOの櫻田氏は自動運転などの普及で先細りすることに危機感がありました 。
「脱保険」を 目指し、2016年4月にデジタル戦略部が発足しました。グループの社員全員約6万人をDX人材育成の対象としています。DX推進に必要な人材を役割とスキル別に3つに分類し研修制度を設けています。
2022年には優れたIT活用を表彰する「IT Japan Award 2022」でグランプリを獲得しました。
2021年6月には、2次元コードなどへのアクセスにより5分程度で加入できる実費型医療保険「入院パスポート」の販売を開始しました。スマートフォンで医療機関から発行される領収証などを撮影・送信し、最短30分・原則24時間以内に保険金を受け取ることができる商品です。
2.三井不動産は全事業にDXを推進
三井不動産株式会社では2017年にIT技術職掌を新設し、本部に所属する113名のうち59名がIT技術職になりました。
また、決裁システムと会計システムを統合してフルクラウド化を実現しました。
ペーパーレス化・モバイル化・脱ハンコを推し進め、受発注・会計業務の大幅な削減(35%、約58,000時間)にも成功しています。
スマートシティやスマートオフィスなど不動産テックにも積極的に取り組んでおり、自社のDXへの取り組み「DX白書」も公開しています。
3.ダイキン工業株式会社は社内の大学でDX教育
空調・化学事業などを展開するダイキン工業株式会社は、2017年12月にダイキン情報技術大学を設立しました。
ダイキン情報技術大学は、AI活用・AI技術開発・システム開発という3つの人材の計画的な育成を目的としています。社員向けの講座は新入社員向け教育・既存社員向け講座(AI、システム) ・基幹職層向AI講座など個人のレベルにあわせて受けることができます。
2023年までに約1,500人(全社員の約20%)AI人材の育成を目指しています。
大学の認知度が広がり就活生から人気が出る、経済産業省がDXに取り組む企業を選定する「DX銘柄2020」にも選ばれるなど企業価値が向上しています。
まとめ
リスキリングとは何か、DXとの関係・リカレント教育との違い、国内企業のリスキリング事例3つを解説しました。
今後の人材戦略にDXは必要不可欠で、リスキリングではデジタル人材の育成が重要です。この記事でリスキリングとDX、人材。略について知り今後の参考にしていきましょう。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
Twitter:https://twitter.com/writertanaka19