スマートオフィスとは?メリット・デメリットと3つの企業導入事例を解説!県庁がオフィスに?

- IoTデバイス(機器)、5G、AIなどの最新IT技術を取り入れた職場をスマートオフィスと呼ぶ
- 生産性向上が見込める・企業のブランディングになるなどのメリットがあるが、コストがかかるというデメリットも
- 日本では日本マイクロソフトがフリーアドレス制を導入。鳥取県の事業としてスマートファクトリーも
スマートオフィスとは
スマートオフィスとは、IoTデバイス(機器)、5G、AIなどの最新IT技術に加え環境問題にも配慮した最新型のオフィスを指します。
【用語解説】
- IoTデバイス: IoT(Internet of Things:モノのインターネット)
「モノ」として利用されるスマートフォンやタブレット端末、スマートホーム、スマート家電など - 5G(第5世代移動通信システム) :①超高速の回線、②超低遅延(低いタイムラグ)によるロボットなどの遠隔操作、③スマートフォン・PCなどあらゆるIoT機器を多数同時接続の特徴を持った次世代の通信規格(5代目)
- AI:人工知能。お掃除ロボットや音声・画像認識技術に活用されている。
オフィスだけではなく、コワーキングスペース・シェアオフィスをスマート化した場所を「スマートスペース」「コネクテッド・プレイス」 と呼び、個人向けに貸し出している業者 も存在します。
スマートオフィス 市場は2030年まで年平均成長率11%、スマートスペースは年平均成長率13.6%で成長すると予測されています。
日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、2020年の世界のスマートオフィス市場規模は313.5億米ドルとなっています。
スマートオフィスとはどのような職場なのでしょうか?
どんなことができるのか、具体例をご紹介します。
オフィスへの出入りはクラウド型の入退管理システム を用いてスマート化できます。
社員証や入館証をICカード・スマホアプリなどで代用することで、ゲストや社員は専用ゲートにカードやスマートフォンをかざすだけで入退館が可能となり、入退館のログをクラウドに保存・管理することもできます。
オフィスの受付業務や接触機会が削減され、入退館ログは社員の勤怠管理にも利用できます。
オフィス内はセンサーにより空調管理を行い一定の温度・湿度に保たれます。
オフィス全体に5Gの回線を引き、Web会議を行う際にはスピーカー音を最適な範囲にコントロールできるスマートテーブルを設置しスマートチェアを用います。
スマートチェアには、座っているときの荷重変化をAIが解析し腰痛を予防するもの、心拍数や呼吸などから心と体の状態を判定するものなどがあり社員の健康管理に役立ちます。
会議室の予約・管理はスマートキーを用いてスマート化、社員がどこで働いているのかをPCを通じてチームへ共有する事も可能です。
また、データのクラウド化により、オフィスソフトがインストールされていないタブレット端末やスマートフォンでも外出の際にデータ確認・入力などが可能となります。
テレワークを行っている社員とはクラウド上でデータを共有し、専用アプリで現在働いているスポットにチェックインすることで、場所や勤務状況をチームに共有できます。
さらに、オフィスの空調管理やペーパーレス、屋根には太陽光パネルを設置し環境にも優しい職場づくりを目指します。
2017年には総務省でスマートオフィスの実証実験が
総務省では5G普及施策の一環として、2017年に株式会社ITOKI、SHARP株式会社と共同で5Gによるオフィス環境の高度化の実証実験を行いました。
【画像出典】総務省go5g.go.jp「5G活用モデルの創出 スマートオフィス(動画)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://go5g.go.jp/carrier/
スマートテーブル・スマートチェア・電子ホワイトボードの開発に取り組み、オフィス環境が向上すること、スムーズに遠隔地との会議ができるという結果が出ました。
【画像出典】総務省go5g.go.jp「5G活用モデルの創出 スマートオフィス(動画)」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://go5g.go.jp/carrier/
今後は多数のセンサーで会議出席者の仕草(頷きなど)を取得、さらなるオフィス環境の高度化を図っていくことを公表しています。
スマートオフィスのメリット・デメリット
スマートオフィスのメリットは、職場環境の快適性が高くなり、社員の生産性向上が期待できる点です。
オフィスの入退館でも鍵や社員証を持ち歩く必要が無く、スマートフォンだけで移動が可能となります。空調管理による室内環境の向上やスマートチェアによる腰痛予防や健康管理、利便性の向上など社員にとってはメリットが多いです。
企業のブランディングとして会社を「ブランド化」することもできます。
回線の高速化や一部業務の削減で、人員コスト削減、効率性向上も見込むことができ、テレワークにも対応可能です。
デメリットは初期費用がかかる点です。スマートキーは比較的安価ですが、5G回線のコストやアプリ・クラウドサービスには一定の導入コストとランニングコスト(維持費用)がかかります。
「クラウド化によるセキュリティ面が心配」という声もあり、対策にはさらに費用を要します。また、機械に弱い社員にとっては快適なはずのスマートオフィスが逆にストレスになってしまう可能性があります。
費用に関しては、経済産業省のIT導入補助金ではITツール導入を行う中小企業・小規模事業者等が一定の要件を満たし、申請することで最大450万円が支給されます。
地方自治体の中にはスマートオフィスの支援を行い、補助金が出るところもあります。(例:東広島市)
IT企業を中心に国内外の企業でスマートオフィスが導入されています。事例を見ていきましょう。
スマートオフィスの導入事例3つ。地方自治体が展開するスマートファクトリーも
- IBMのIoTエクスペリエンス・センター
- 日本マイクロソフトのフリーアドレス制
- 山口県のスマートファクトリーモデルとテレワークオフィス
1.IBMのIoTエクスペリエンス・センター
アメリカに本社があるIBMは大手IT企業として知られています。
IBMはドイツ・ミュンヘンにあるIoTエクスペリエンス・センターは最新のスマートオフィスの実験場として200億ドルをかけて建設されました。
エレベーターは、従来のエレベーターのように中で行きたいフロアのボタンを押す仕組みではなく、エレベーターホールで行き先の階を登録します。登録した階に直通するエレベーターが指定され、誘導される仕組みです。
行き先のフロア別に人を集めて直通で向かうことで効率的な利用ができ、省エネに繋がる可能性があります。
IoTエクスペリエンス・センターにはビル専用のアプリがあり、アプリで部屋の照明や温度、ブラインドの開閉ができます。さらにビル内にあるカフェテリアの混み具合が9段階で表示されます。
【画像出典】日本IBM株式会社 IBMソリューションブログ「ミュンヘンのWatson IoTエクスペリエンス・センターに行ってきました」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】
https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/iot-munich/
建物内のCo2濃度を元に、ビル内部のエリアの人口密度が分かり、建物内の様々なセンサーから取得した情報をIoTセンター型のオブジェに写しています。
まさにエクスペリエンス(体験する)ビルと言えるでしょう。
2.日本マイクロソフトのフリーアドレス制
アメリカ発のソフトウェア開発・販売企業であるマイクロソフトの日本・品川にある本社では、社員の60%がフリーアドレスで業務を行っています。フリーアドレスとは社員1人ひとりが固定のデスクを持たず好きなエリアで働くことができる制度で、カフェテリアや個室など好きな場所で仕事をすることができます。
社内ではメッセンジャーツール「Microsoft Lync」を利用し、チャットや電話などでコミュニケーションを取ることができます。複数人での会議も可能です。
各フロアには「ハブ」と呼ばれるコミュニケーションスペースもあり、固定席とは違い今まで話す機会のなかった社員とのコミュニケーションが増加したそうです。
フリーアドレスは生産性を高めることを目的に導入され、Microsoft Wordをクラウドと連携し共同で作業ができる環境を整えるなどの取り組みが実施されています。
3.山口県のスマートファクトリーモデルとテレワークオフィス
山口県では、5GやAIなどの最先端技術を活用し、地域活性化や人口の創出を図る「やまぐちスマートファクトリーモデル構築事業」を展開しています。
2022年5月27日に は下関市菊川町田部のひびき精機で「やまぐちスマートファクトリーモデル」の工場見学会を開催しました。
山口新聞では工場での様子が以下のように掲載されています。
取り組みの一つがAIとIoTを活用した工作機械の異常検知と予知保全システムの構築。工具の劣化や摩耗状態から破損を予測して突発的な故障を防ぎ、経験の少ない若手主体の作業環境でも生産を止めない工場をイメージ。省人化につながり、実用に向けてデータの蓄積を続けている。
一方、NTT西日本とローカル5G活用によるリモート作業支援、監視などの共同実験も実施。場内に設置した高精細カメラの映像を通して本社、他工場から機械を遠隔操作したり、経験の少ない社員をベテランが離れた場所からサポートしたりと、検証を重ねた。
県は20、21年度、ひびき精機を含む県内5社でやまぐちスマートファクトリーモデル構築事業を実施。この日は製造業を中心に12社30人が参加し、同社の取り組みやローカル5Gなどのデモンストレーションを見学した。
オフィスだけではなく、工場でもスマート化が進められています。
なお山口県では、県庁内に「YY!SQUARE」というテレワークオフィスを設置し個人のデスク、数人で利用できるデスク・スペースなどを貸し出しています。
WEB会議等用防音ブースでは、防音設備がある空間でWEB会議ができ、音漏れによる情報漏洩の心配をすることなく利用できます。
【画像出典】山口県 やまぐち創生テレワークオフィスYY! SQUARE「施設・ご利用案内」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/#to-how
スマートオフィスの概要、メリット・デメリット、導入事例をお伝えしてきました。世界的に市場規模の拡大が見込まれるスマートオフィスやスマートスペースの需要は日本でも高まる可能性があり、不動産業界にとって大きなビジネスチャンスも期待できます。
スマートオフィス・スマートスペースの今後に注目していきましょう。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
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