なぜDX?ゴルフ場の利用者数増加から分かるスマホ活用の効果。不動産会社も参入へ

- スポーツ業界ではフィットネスクラブなど屋内の施設が苦戦する中、ゴルフ場・練習場は利用者数・売上高共に増加
- アプリで予約が出来る、AIでプレー診断ができるスマートフォンを活用したDXが追い風に
- 不動産会社もゴルフDXに参入
DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と言う意味の言葉で2004年に提唱しました。
新型コロナ感染症で打撃を受けたスポーツ業界ですが、ゴルフ場・練習場は逆に利用者・売上高が増加しています。屋外で「密」を避けやすいというだけではなく、DXも追い風となっています。
ゴルフDX成功のポイントは「スマートフォンの活用」です。スマートフォンのアプリでゴルフ場・練習場の予約が可能となり、オンラインレッスン受講やプレーのAI解析もできるようになりました。
不動産業界では三菱地所株式会社がゴルフDXに参入しています。
新型コロナ感染症により、あらゆる業界が経済的打撃をうける一方でDXが進み飛躍する業種も存在します。不動産業界でもIT重説やオンライン内見などが普及しており、ゴルフ業界のようにDXが追い風となる可能性を秘めています。
なぜゴルフ業界はDXに成功したのか。
他業界の事例をヒントに、DXの参考にしていきましょう。
コロナ禍でフィットネスクラブは利用者が減少しゴルフは増加
新型コロナ感染症により、スポーツ業界は経済的な打撃を受けました。
特に最初の緊急事態宣言が出た2020年5月以降は、野球・サッカーなどのスポーツ観戦は観客の人数制限が行われる又は中止となりました。
スポーツ施設の利用者数にも影響を及ぼしています。
経済産業省が公表するサービス業の活況度を示す「第3次産業活動指数」によるスポーツ施設提供業における利用者数の変動を見てみましょう。
フィットネスクラブは2014年から上昇傾向にありましたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により大きく低下しています。
【画像出典】経済産業省「コロナ禍で苦戦するフィットネスクラブ」より画面キャプチャにて作成【URL】 https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20210813hitokoto.html
2020年5月には大きく減少した後に急速に回復しましたが、コロナ禍前の1月に比べ8割弱、2021年5月には6割程度にとどまっています。
ただフィットネスクラブやボウリング場など屋内のスポーツ施設に比べ、「密」を避けやすい屋外のゴルフ場・練習場は利用者数を伸ばしています。
さらにゴルフDXにより、ゴルフ場・練習場への予約がスマートフォン1つでできるようになりました。
ゴルフDXの事例3つ。ポイントは「スマホだけでできる」
ゴルフDXのポイントはゴルフ場・練習場の予約や道具のレンタル・レッスンなど「スマホだけでできる」という気軽さです。3つの事例を見ていきましょう。
- 楽天グループのゴルフ場予約アプリとスコア管理アプリ
- NTTドコモのゴルフスイング AI 診断アプリ「GOLFAI」
- 三菱地所株式会社の「PLATTO GOLF(ぷらごる)」
1.楽天グループのゴルフ場予約アプリとスコア管理アプリ
楽天グループ株式会社はゴルフ場予約アプリ「楽天GORA」を展開しています。
楽天GORAはゴルフ場の予約・検索ができ、GPS機能を利用したチェックインにより「ゴルフ場制覇マップ」を楽しむことができます。
【画像出典】楽天GORA「ゴルフ場制覇マップ」より画面キャプチャにて作成【URL】https://gora.golf.rakuten.co.jp/doc/guide/gora_app/domination_map/
チェックインを行うと、ゴルフ場制覇マップ上にあるゴルフ場のピンが、灰色から黄色に変わりゴルフ場を「制覇」したことになります。
楽天GORAは2017年11月にゴルフ場制覇マップのサービスをリリースしましたが、ユーザー数は開始からわずか3ヶ月で1.7倍、アクセス数は約2倍になりました。全体の20%(5人に1人)が通算100コース以上を制覇しています。
流行した「ポケモン GO」のように位置情報を活用しゲーム感覚で仲間と制覇数を競う、ランキング機能で他のユーザーの制覇件数を地域別にチェックするなどオンラインとオフラインの融合による新しい体験(OMO )が魅力です。
「楽天ゴルフスコア」アプリでは、スコアの管理ができます。
ゴルフのスコア入力では、ティーショットの方向や、OB、ペナルティー、バンカーなどの記録ができます。GPSコースマップ(航空写真表示)により距離測定もでき、ドローンで空撮した動画を見る事でコースのレイアウトを知ることも可能です。
【画像出典】「楽天ゴルフスコア管理アプリ」より画面キャプチャにて作成【URL】https://gora.golf.rakuten.co.jp/doc/guide/gora_app/score/#main
また「リーダーボード」機能により、リアルタイムで参加者のスコアを確認できます。当日イベントに参加しているメンバー同士とチャットができ、イベントIDを共有した相手をギャラリーとして招待することもできます。
【画像出典】「楽天ゴルフスコア管理アプリ」より画面キャプチャにて作成【URL】https://gora.golf.rakuten.co.jp/doc/guide/gora_app/score/#main
その他に、スコア分析・飛距離計測、ラウンド中の写真を好きな写真と組み合わせて画像作成できる「フォトスコアカード」機能もあります。
楽天GORAは予約が出来るという利便性に加え、「ゴルフ場制覇」機能、スコア管理アプリにより「皆で楽しむ」ことができる点が魅力です。
2.NTTドコモのゴルフスイング AI 診断アプリ「GOLFAI」
株式会社 NTT ドコモは、スマートフォンで撮影したゴルフスイングの動画をスポーツ映像解析 AIが診断するアプリ「GOLFAI(ゴルファイ)」を提供しています。
GOLFAIはスイングを撮影した動画をアップロードすることでAIが姿勢やクラブヘッド軌道を可視化し、スイングタイプ・弱点をユーザーにアドバイスするアプリです。プロのスイングと比較・プロとの類似度を分析することもできます。
【画像出典】「GOLFAI」より画面キャプチャにて作成【URL】https://golfai.jp/
さらに小祝さくら選手など24名のプロゴルファーから有料でレッスンを受ける事が出来ます。
30万件以上のスイングデータを基に、NTT グループのスポーツ映像解析 AI とツアープロコーチによるスイング理論によって解析されています。
3.三菱地所株式会社の「PLATTO GOLF(ぷらごる)」
「PLATTO GOLF(ぷらごる)」は三菱地所株式会社が「会社帰りや休日のスキマ時間等、行きたいときに"ぷらっ"とゴルフができる顧客体験 」を目的としたゴルフDX事業です。2021年7月1日にプレリリースされました。
【画像出典】三菱地所株式会社「新サービス“PLATTO GOLF(ぷらごる)”プレスリリースI」より画面キャプチャにて作成【URL】https://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec210628_plattogolf.pdf
ユーザーは「ぷらごる」に会員登録を行い、オンラインでゴルフ場やクラブの予約が出来ます。
事前にゴルフ練習場の打席を予約でき、待ち時間が短縮できます。
さらに、ゴルフクラブを持っていない時でもゴルフができるようにゴルフクラブのレンタルも行っています。
【画像出典】三菱地所株式会社「新サービス“PLATTO GOLF(ぷらごる)”プレスリリースI」より画面キャプチャにて作成【URL】https://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec210628_plattogolf.pdf
「一人で空いた時間にゴルフ練習場に行ける」というコンセプトのもと、ゴルフクラブのレンタルや練習場の打席予約等利便性を重視した点が、上記2社と異なります。ゴルフ好きユーザーの「住み分け」が期待できます。
三菱地所は「長期経営計画 2030」で、サービス・コンテンツの提供等を通じて、新たな顧客体験の創出を目指しています。ゴルフDXも経営計画2030の一環で、新事業提案制度にて提案・採択され実現されました。
三菱地所のプレスリリースには、「将来的には、インストラクター紹介システムやゴルフクラブの CtoC シェアリングシステムを整備し、ユーザーへのレッスン予約サービスや、希少性の高いゴルフクラブのレンタルサービスの展開も検討しています」と記載されています。
今後の新サービスの展開にも期待していきましょう。
ゴルフ場・練習場はDXとコロナ禍により利用者数が増加
DXとコロナ禍により、ゴルフ場・練習場はどの位利用者数・売上高が増えているのでしょか?
最後に経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」の結果データを見ていきましょう。
【画像出典】経済産業省 特定サービス産業動態統計調査「ゴルフ場」エクセルデータを編集・作成【URL】https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html
売上高も合計もコロナ前より伸びています。
【画像出典】経済産業省 特定サービス産業動態統計調査「ゴルフ場」エクセルデータを編集・作成【URL】https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html
ゴルフ練習場も以下の通り、売上高・利用者数ともに増加しています。
【画像出典】経済産業省 特定サービス産業動態統計調査「ゴルフ練習場」エクセルデータを編集・作成【URL】https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html
スマートフォンだけでゴルフ場・練習場の予約が出来る利便性、AIによるプレー解析という合理性、さらには仲間同士でアプリを通じてプレー内容が共有できる新しい体験などがゴルフDXの魅力です。
今回ご紹介したゴルフDXのように、ユーザーのニーズを汲んだサービス・ツール提供や、新たな顧客体験の創出を検討していくことが、業界の発展につながるのではないでしょうか。これからも他業界の動向も注目し、ご紹介していきます。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
Twitter:https://twitter.com/writertanaka19