量子コンピューターで街作りは変わるのか?

- 量子コンピューターは今までのコンピューターと何が違うのか
- 三菱地所らは廃棄物収集ルートの最適化の検証を実施
- 不動産業界ではスマートシティやMaaSなどの分野で期待されている
政府が推進「量子コンピューターの世界」
日本政府は4月12日に量子技術に関する新たな戦略案を公表しました。その中で、国産初となる量子コンピューターを2022年度中に整備する目標を示しました。量子コンピューターは電子や光子(光の粒)などの総称である量子が持つ特性を利用して計算する、これまでとは全く異なるアプローチのコンピューターです。
量子コンピューターは今までのコンピューターと何が違うのか
今までのコンピューターと何が違うかを説明するために、まずは従来のコンピューターについて復習してみましょう。私たちが普段使っている従来型のコンピューターは数字や文字、画像などの情報を0と1というビットで表現します。このビットを一度に処理できる量が多ければ多いほど、大量の情報を表現できたり処理できます。いま、あなたの手元にあるスマートフォンやノートPC、そしてスーパーコンピューターも基本は同じアプローチで情報を処理しています。
従来型のコンピューターの処理能力は高く、チェスや将棋、そして碁で人間に勝つまでになりました。しかし、そんなコンピューターでも解きづらい問題があるのです。
たとえば宅配便のドライバーが複数の荷物をどのようなルートで届ければ最短で済むかを考えてみましょう。仮にドライバーが1日に回る場所が5カ所あると、すべてのルートの組合せは120通りになります。この中から最短距離のルートを導き出すために、従来のコンピューターのアプローチだと120通りを順番に処理して、全部結果を出した後、どれが一番最短だったかを比較して答えをだします。120通りならコンピューターは一瞬で答えをだせるでしょう。
では、ドライバーの周る場所が15カ所になったらどうなるでしょうか? その組合せは約1兆3000億通りを越えます。組合せがこのようにどんどん増えてくると従来のコンピューターでは、たとえそれがスーパーコンピューターであっても、そう簡単に計算が終わらなくなっていきます。
そこで「0」か「1」で判断する従来の考え方を見直し、まったく違うアプローチで生まれたのが量子コンピューターです。量子コンピューターは量子力学の現象をそのまま利用することで、一気に解にたどり着くことができます。自然が答えを導くという言い方もできます。地面に傾斜がある時に、どこが一番低地かを知るために雨水の動きを見たり、ボールを落として転がる様子を見たりするような形で答えを導き出すのです。
三菱地所らは廃棄物収集ルートの最適化の検証を実施
三菱地所とグルーヴノーツは、2020年に量子コンピューターを活用して東京・丸の内エリア26棟のビルで、廃棄物の収集ルートの最適化の検証を行っています。車両の積載可能量やビル・処分場の搬出入の形態・位置、収集作業時間などの制約条件を考慮して、廃棄物が発生するすべてのビルを経由して確実にごみを回収するとともに、車両台数が最も少なく、かつ移動距離が最短となるルートの組合せをシミュレーションしました。同検証の結果、丸の内エリアで最適化した場合CO2排出量は約57%削減が期待でき、車両台数は約59%削減できる試算となったといいます。
【出典】グルーヴノーツ【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000042403.html
スマートシティやMaaSなどで活躍が期待される
量子コンピューターは何パターンもある組合せの中で最適解を導き出すのに向いています。そのため、例えば無人ドローンの最適ルートを導き出したり、自動運転の自動車の最適ルートを導き出したりするのにも向いていると言えます。
また、組合せを社会課題まで大きくすると、気候変動の将来パターンの最適解や、都市開発の将来パターンの最適解も導き出せるかもしれません。例えば、人口が減っている中で関係人口をどのくらい入れていくと地域は維持できるのかなどです。
スマートシティや町作りがデジタル化していく中で、こうした組合せの最適解を導き出せる量子コンピューターが社会に与えるインパクトは非常に大きいと言えるでしょう。
文/中村祐介
株式会社エヌプラス代表。デジタル領域のビジネス開発とクリエイティブ戦略が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・実施も行うほか、一般社団法人おにぎり協会の代表理事として、日本の食や観光に関する事業プランニングやディレクションも行う。
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