【用語解説】不動産会社も認定を取り始めている「DX認定制度」とは何か?

- 日本企業のITは既存システムが重しとなり適切な投資ができていなかった
- 既存システムを見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を日本企業が推進していく必要性が高まった
- 経済産業省は推進を加速させるためにDX認定制度を用意している
- DX認定制度のメリットはPRだけでなく税制面などで支援がある
「2025年の崖」とは。既存システムの肥大化で戦略的なIT投資ができていなかった日本
経済産業省は、以前から企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。社会的に広く認知されたのは同省が2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置し、同年9月に『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜』 を発表したことから始まります。
同レポートでは、今の日本における既存システムについて「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっている」と指摘し、「既存のシステムを見直していくことが不可欠」としました。
レポートの中では約8割の企業が老朽システムを抱えており、約7割の企業がそのことがDXの足かせになっていると感じているとも報告されています。それもそのはずで、この既存システムの運用・保守のためにお金も人材も使われており、戦略的なIT投資にお金と人材を割り振れていなかったのです。
同省ではこれらの問題を解決できないと、このあと解説するDXの実現はもちろん、2025年以降、日本は最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があるとしました。これを「2025年の崖」と表現し、話題を呼びました。
経済産業省が定義するDXとは?
経済産業省では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義は次のようにしています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風洞を改革し、競争上の優位性を確立すること。
よくDXをDigitization(デジタイゼーション:単なるデジタル化)や、Digitalization(デジタライゼーション:個別の業務のデジタル化)と同じに扱ってしまうケースもありますが、これはまったく違います。枠組みでいうと次のようなイメージです。
図にある通り、これまでのデジタイゼーションや、デジタライゼーションもすべてDXの範囲におさまりますが、本質的に目指しているのは経済産業省でも示されている通り「デジタル技術を使って、つながり方を変えて、本当にやりたかったことをやる」こと。そして、経営戦略とデジタル戦略を一体とし、ユーザー視点で新しい価値を提供することです。
国が定める「DX認定制度」とは何か?
日本の経済成長を高める上でDXが重要視されていることはわかってきたかと思います。企業のDXを推進するため、経済産業省ではDX認定制度を用意しています。国が策定した指針を踏まえ、優良な取り組みを行う事業者を申請に基づいて認定するものです。
●DX認定制度
<審査対象>全ての事業者(法人と個人事業者)
<審査期間>通年可能
申請をするとDX認定制度事務局が審査をし、経済産業省が認定します。
DX認定制度を受けるメリットは、自社がDXに積極的に取り組んでいることをPRできる点ですが、そのほか税制による支援措置や、中小企業者を対象とした金融による支援措置があります。
税制の支援措置は、DX投資促進税制と呼ばれ全社レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対して、税額控除(5%または3%)もしくは特別償却30%を措置するというもの。
また、中小企業対象の金融支援措置は日本政策金融公庫による融資と、中小企業信用保険法の特例があります。
日本政策金融公庫による融資は、DX認定を受けている場合、設備投資などに必要な資金について基準利率よりも低い利率で融資を受けられるというもの。
もう1つの中小企業信用保険法の特例は、情報処理システムを良好な状態に維持し、企業経営において戦略的に利用するために必要となる設備資金などについて、民間金融機関から融資を受ける際に適用されるもの。信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
不動産業界にもDX認定制度を受ける企業が増え始めている
不動産業界もDX認定制度を受ける企業が増え始めています。3月、不動産会社のハウスコムもDX認定を受けました。同社の取り組みは大きく2つあります。
(1)DXを推進することにより顧客に最適なタイミングで最適なサービス・体験を提供する
・オンライン内見・重説・契約を更に推進する
・スマートシステム※1・スマートレント※2を推進する
・データを活用し各タッチポイントで最適なサービス提供を行う
・新たなサービス・体験(ライフスタイルサーチ、オンラインお部屋探し等)を開発・進化させる(2)DXを推進し従業員体験を向上することにより顧客に最適なサービス・体験を提供する
・RPAシステム、ペーパーレス化等の施策により店舗業務を効率化し顧客体験向上を支援する
・CRM(SFA)による営業生産性の向上し顧客体験向上を支援する
・データ活用により店舗運営、スタッフ配属、育成をサポートし顧客体験向上を支援する
・データの収集、分析、ビジュアル化・可視化、意思決定・アクションの4つの柱を構築し、データドリブン経営を促進する
これらの推進をするために、同社では代表取締役社長が統括するDX推進会議を設置しました。
※1 スマートシステム…入居者には保証会社や24時間コールセンター等、オーナー向けには滞納保証や原状回復工事手配等のサービスをひと部屋単位で一括で提供するサービス。2020年7月に提供開始。
※2 スマートレント…ハウスコムが物件の借主となって初期費用などを一括払いし、入居希望者に転貸することで、入居者は初期費用と家賃の額を自由に設定できるようになるもの。2021年10月提供開始。
ハウスコムでは、すべてをデジタルに取り込み、すべてのデータを利活用できる「カスタマーデータプラットフォーム」を構築し、社内外の様々なデータをかけ合わせてAIで機械学習を行い、情報提供におけるマッチング精度の向上を進めていくといいます。
画像提供:ハウスコム株式会社(https://www.housecom.co.jp/dx/)
不動産業界のビジネスも、デジタル利用があたりまえになってきており、不動産テックと不動産が融合されていくのもそう遠くなさそうです。